113.4日目の始まり、何気ない時間を得る難しさ、そして今日も簡単にはいかないらしい
お待たせしました。
4日目、4章の開始ですね。
ではどうぞ。
「ん、んんっ……ん~っと――」
心地良い眠りからパッと目が覚める。
思考はクリアで、昨日の疲労感も殆ど残ってない。
「ふぅぅ~……マッサージしてくれたリーユに感謝だな」
ブランケットを取って起き上がり、ゆっくりと伸びをする。
体の調子を確かめながら部屋の外へ。
トイレを済ませ、水道の確認も含めて顔を洗う。
口をゆすぎ終わり、スッキリした気持ちでフロントロビーへ。
「おっ、フォンに女王蜘蛛か。おはよう」
一番無防備となる寝ている間、その用心棒を任せた二人を見つける。
二人は俺の姿を認めると、何か言いたそうに入口へと視線を向けた。
「あ~やっぱりモンスター、引っかかったか」
エスツーが吐いた糸でできた、格子状のバリケード。
そこに絡めとられたようにして、身動きできなくなっているモンスターがいたのだ。
「GLISYAAA?」
「ZYUUU?」
食べていいか、と言いたげな視線を向けてくる二人。
それに対し、何とか逃れようと必死にもがいているネズミ型のモンスター。
ちょうど目がこちらに向き、潤んだ瞳で俺に助命を訴えかけてくる。
「TYU,TYUTYU……!」
「…………」
そうだな、無益な殺生は良くないし――
「――うん、食べて良し!」
「TYUTYUーーーー!?」
“何でー!?”と言いたげな視線をサッと無視する。
いや、でっぷりと肥え太った良い体してんだらか。
二人の食糧として、ちゃんと有益な死に方だろう、うん。
「さてっと――」
カセットコンロに、水を入れた片手鍋をセット。
火にかける。
店内のコーヒーメーカーは動かないので、インスタントの粉をカップに注いだ。
お湯が沸くまでの間【異世界ガチャ】のイベント欄を確認することに。
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①~生存ボーナス 4日目~
リセマラチケット×30枚
※9時以降より受取り可能
※有効期限:当日限り
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②~イベント “復刻ガチャキャンペーン!!”~
3日目までに取得可能性のあった★4異世界奴隷(女)を、再度ピックアップ可能に!
3体の中から選んだ異世界奴隷(女)の排出率が、本日終了まで大幅上昇だ!
※このイベントは10連ガチャ限定
イベント:4日目の12時~5日目の0時
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「とうとう4日目か……」
この数字が日に日に“1ずつ”増えていくことに、とても感慨深い思いがこみ上げてくる。
それは、数の法則としては当たり前のことでも。
命を繋ぐという意味では“1”を積み重ねるのがどれほど大変なことか。
それを日々、思い知らされているからだ。
当たり前じゃねぇからな、この状況!!
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●リセマラチケット
アイテム。
ガチャを回した後に使用。
ガチャで獲得した結晶の“★の数”あるいは“種類”を固定して、もう一度引き直すことが可能となる。
<例①>
1度目→★★★★ スキル
↓
チケット使用:★の数を固定
↓
2度目→★★★★ アイテム
<例②>
1度目→★★★★ その他
↓
チケット使用:種類を固定
↓
2度目→★★★ その他
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「ほぉ~なるほど。色々と使い道がありそうなアイテムだな」
本日のログインボーナスを確認。
親切に例も載っていてイメージが湧きやすい。
それに“リセマラ”なんてワード、正にガチャ感があるしな。
「4日目のイベントは“復刻ガチャ”か……2日目のアトリのイベントが、一番近い感じかな?」
“初日 ダウンロード記念★5確定”で来てくれたソルア。
“3日目 絆欠片”を貯めて交換したリーユ。
それらとは違い、今回は直球勝負。
ガチャで真正面から当てる必要があるということだろう。
「――っとと!」
お湯が沸き出した。
つまみを捻ってコンロの火を止め、紙コップに注ぐ。
「ふ~っ、ふ~っ。ずずっ――」
香ばしい匂いが鼻を抜けていく。
舌に走る苦味がさらに脳をシャキッとさせてくれた。
インスタントだが、それがいつも飲んでる味って感じで落ち着くなぁ。
「――ふわぁ~っ……。良い匂いですね。お兄さん、おはようございます」
「主さん、おはようございます」
どうやら他の面々も目を覚まし始めたみたいだ。
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「おはよう二人とも。体は大丈夫そう?」
水間さんとリーユに挨拶を返す。
見たところ、二人とも体調は悪くなさそうだ。
「はい。リーユちゃん抱き枕のおかげで、グッスリでした」
「うぅ~。カナデちゃんが元気になったのなら良かった、です」
そうは言いつつ、リーユは恥ずかし気な表情。
やはり同性相手とはいえ、抱きしめられながら寝るというのは羞恥心を覚える行為らしい。
「それよりも! 聞いてくださいよ~お兄さぁん!」
「いや、そんな未来の猫型ロボットにすがる感じで来られても」
リーユとの距離感をそのまま持ってきてしまったみたいな水間さんを、手で軽くいなす。
「トウコサンが酷いんですぅ~!」
いや、だから“ジャイ〇ンが酷いんだよ~!”みたいな言い方しないの。
……後で久代さんがどうなっても、俺は知らないからね。
「凄く悩まし気でエロティック、セクシーな寝息を横でしてくるんです。あたしが女だからよかったものの、異性だったらあんなの“朝からお楽しみでしたね”不可避でしたよ~!」
「それを異性である俺に告げ口してくる意味よ」
ペシッと軽くチョップを入れて、水間さんとの話を打ち切る。
……これ以上続けると、俺も後で共犯にされかねないからね。
「……あの、えっと、主さん。私もこれ飲んでもいい、です?」
「おっ、リーユもコーヒー挑戦か。……ちょっと待っててくれ」
リーユも朝の一杯を、俺と同じにしたいらしい。
だがいきなりブラックを飲ませるのも考え物だ。
それで今後コーヒーNGになるのも寂しいので、ちょっと一工夫することに。
「ほれっ。これを入れるとより美味しくなるぞ」
インスタントの粉とお湯を注ぐまでは同じ手順。
そこに、未だ無事だったガムシロップを二つ入れる。
軽く揺らし混ぜてから頷き、OKサインを出した。
「いただきます。ずずっ……あっ、美味しい。えへへ、主さんと同じ、です」
リアクション可愛いなチクショウ!
こらっ、リーユさん。
俺と同じもの飲んだくらいで、そんなに嬉しそうな表情しないの!
そんなことしてたら同年代の男子なんて即勘違いして、君のこと好きになるよ?
無防備な庇護欲そそる笑顔ダメ、絶対!
気をつけようね!
「…………」
だがこうして朝から、何でもないことに思考を割ける余裕がある。
そのことが嬉しかった。
コーヒーを飲んで落ち着ける時間があるというのも、昨日までの努力が生んでくれたものだ。
今日もまた、こうした明日を迎えるために頑張ろう。
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28 差出人:【異世界ゲーム】運営
件名:昨日行われたワールドクエストの総合結果について
【異世界ゲーム】3日目に行われた【ワールドクエスト】に関する総合結果が出揃いましたので、生存者の皆様にご報告いたします。
100を超える区域が、残念ながらクエスト失敗に終わってしまいました。
当該区域では既にペナルティーが執行されています。
生き残っているボスが更に強化され、また生息モンスターの数も倍となってしまいました。
そんな全体としてとても厳しい状況にある中、ボスの討伐に成功されました区域が7つ存在します。
特にとある区域では、クエスト難易度が更に上昇する【真ワールドクエスト】の参加条件も満たし、そして攻略なさいました。
クエスト成功のご活躍を称えるべく、ここに各パーティーのリーダー名を記載いたします。
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①TOKI
②Night sword
③SEINA
④YO YOKAWA
⑤R・F
⑥Vanan
⑦Crow sword
※掲載順:攻略の先後、クエスト難度、クエストへの参加人数などを考慮した上でのランク順に基づいています。
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また、同数のマナスポットが獲得されました。
合計した報酬を生存者全員へと配布いたします。
今後の生存へご活用ください。
皆様の4日目以降の生き残りと更なるご活躍を、運営一同願っております。
報酬:
700Isekai
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寝ている間に来ていたメールを読み進めた。
「……おっ。ということは、ワールドクエストの成績は俺達が一番良かったってことか」
「どうやらそうらしいですね」
水間さんも同じ内容のメッセージを見ているらしい。
要するにクエスト達成できた区域は7つで。
その中でも条件を満たして、更なる高難易度のものを攻略したのは俺達だけということだ。
「全員が目にする形で、改めてこういう風に書いてもらえるのは嬉しいな」
それがこの状況を生んでいる元凶、運営からだとしてもだ。
昨日の戦いが、自分達以外にちゃんと評価してもらえたということだから。
頑張りが無駄ではなかったと、再度確認することが出来る。
それは自信につながり、また全力で足掻いてみるかという気持ちになれるのだ。
「700Isekaiも有難いな」
【解放者】の称号報酬も昨日もらったし、ガチャ分のIsekaiは十分貯まってる。
これで約13000Isekai。
千種から【修羅属性】を奪うために注ぎ込んだIsekai分もあっさり超えてしまった。
「今日も厳しい戦いになるだろうけど、蓄え・備えは十分に……ん?」
ポジティブな気持ちでメッセージを閉じ、上下に動かしていた指と目が、反射的にふと止まる。
そこで初めて、運営以外からメッセージが届いていることに気が付いたのだ。
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29 差出人:SEINA
件名:いきなりのメッセージ申し訳ございません。緊急でお願いしたいことがございます
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4日目も、やはり何も無しという訳にはいかないらしい。
お久しぶりです。
何とかまた投稿できました。
3月の間、花粉症が冗談にならないレベルで辛く、中々執筆することが出来ませんでした。
ようやく薬なしで日中も過ごせるようになり、ボチボチまた書いていきたいと思います。
執筆は変わらず不安定で遅いままではありますが、今後も楽しんでいただければ幸いです。