閑話① 酔いが冷め、想いに気づき、そして闇は無情に
お待たせしました。
前々からお話していた通り特別話というか、閑話ですね。
全部第三者視点になります。
1:リーユ、久代さん、水間さんの部屋
2:ソルア、アトリ、来宮さんの部屋
でのお話で
3:別の地域でのボス戦
という風に1・2と3とで毛色が全く違う感じになってます。
ではどうぞ。
――― Another view① ―――
「あうぅ~やらかしたぁ~!」
場所はマンガ喫茶。
ワイドタイプ部屋の一室にて。
酔いがさめて来た透子は自分の行いを思い出し、盛大に頭を抱えていた。
「なんだ、『私は絶対に感謝し続けるから、キリッ!』って! うぅぅ~恥ずかしい、私、あんなキャラじゃないのにぃ~!」
自分でも制御できない程に感情が高ぶったとはいえ。
間接キスは流石にやりすぎた、とか。
いきなり名前呼びして、引かれたりしていないか、などなど。
感じたことのない程の羞恥心、自己嫌悪で、透子の頭は一杯になり。
顔は酔った時以上に真っ赤っかだった。
「……あの、カナデちゃん、どうしましょう?」
「しっ! ……リーユちゃん、私達は今いない設定です。お兄さんがこっそり訪ねてきても寝たフリ、いいですね?」
一方で同室のリーユ、奏。
二人はブランケットを被って横に寝転び、ヒソヒソと透子の様子を窺っていた。
「寝たフリ……私、上手くできるか不安、です」
「大丈夫ですよ。……あっ、でもただし。超レア、草食系お兄さんから迫られパターンの場合は注意が必要です。透子さんがエッチな声で“あっ、ダメ! 幸翔君、ダメ!”と言っても助けてはいけません。これはトラップの一種ですからね」
「おいコラッ」
恥じらいを含んだ、ジトッとした透子の視線が、即座に奏たちへと飛ぶ。
しかし青年へツッコむ時に比べ、やはりキレや迫力が足りない。
……本人も、奏が口にしたシチュエーションを無意識に想像してしまい、かなりの照れが入ったらしい。
「――というか、水間さん? 私のマネをして彼のこと“名前呼び”するってことは。……さっきの、見てたでしょう?」
透子の、殆ど確信をもっての追及。
恥ずかしい感情から目を背けたい気持ちも相まって、その視線はムッと強くなる。
それは同性のリーユ、奏からしても見惚れるような、とても美人らしさを引き立てる表情だった。
……だからと言って、観念するような相手ではないが。
「はて、さっきの? ――『好きっ、抱いて、揉んで! 子供はサッカーチーム作れるくらい頑張りましょう!』って所ですか?」
「一つも正しいセリフがないっ! サッカーチームって、あなたから見た私はどれだけ性欲強いのよ!?」
「カナデちゃん……似たようなこと、ハルカさんにも言ってたです」
未だに大きく照れを含んだような透子の声。
リーユから漏れた、ジトッとしたようなツッコミも珍しい。
一番の味方から見放され、流石に四面楚歌では厳しいと、奏も慌てたように取り繕う。
「えっ、えーっと……――そ、そう! こういう時って、男の人の性欲が暴走するイメージばっかりありますけど。性別に関係なく、皆、生存本能がバリバリになりますからね!」
どこかで聞きかじったような知識。
だがそれ自体はまともにも思える内容なので、透子も一時矛を収め――
「女性の透子さんがえちえちで、お兄さんしゅきしゅきの発情確変モードになっても全然おかしくないですから、ええ!」
「主さん“しゅきしゅきの発情確変モード”!? 何です、そのよくわからない概念は!?」
「あなたの前提全てがおかしいっ! 私はどんな性欲モンスターだ!!――もうっ、私イジりしてないでさっさと寝なさい!!」
……られなかった。
そうして騒がしくも愉快な夜を過ごし、3人は仲を深めたのだった。
――― Another view① end―――
――― Another view② ―――
「へぇ~意外。じゃあハルカって、まだ男性とお付き合いしたことってないのね?」
一方、もう一つの複数人部屋。
こちらも枕に頭を乗せつつ、3人は未だ来ない眠気の誘いにとお話に興じていた。
「ハルカ様、とっても綺麗で可愛らしいので。アトリの言うように意外です」
アトリ、そしてソルアから話を振られ。
遥は恥ずかし気に隠れたブランケットから、顔をピョコっと半分覗かせる。
「う、うん。その、告白とかはしてもらったこと何度かあるけど。でも、誰かを好きになるって気持ちが、まだちゃんと分かってなかったから全部お断りして……」
基本的には正直に話しているが、遥は一つだけ嘘をついていた。
と言っても可愛らしい程度のもので、“何度か”というよりは“何度も”といった方が正しい。
つまり遥は両手の指では足りない程の数、同年代の異性から告白を受けている。
それだけ男子から見て、遥は魅力的な存在なのだ。
だがそこは遥の謙虚さ・純粋さが、無意識に控えめな表現へと変換していた。
「その点、ソルアちゃん達は違うよね? えっと、お付き合いって意味じゃないけど。何ていうか、その……滝深さんのこと――」
今度はこちらが質問する番だと。
遥は気を使いながらも、しかし大胆に。
核心部分へ、そっと触れてみた。
「あっ――」
「っ~~!!」
その効果はてき面だったようで。
青年の名前が出た途端、二人はほの暗い室内でも一目で分かるほど、一瞬にして頬を赤く赤く染める。
「も、もちろん、その、ご主人様のことは、とてもお慕いしています……はい」
「……ま、まあ? マスターへの気持ちがどんなものか、私なりにちゃんと自覚はしてるつもり……うん」
ソルアも、そしてアトリも。
照れや恥じらいがありつつも、ちゃんとその感情を誇らしくも思っている。
正にそんな乙女の表情をしていた。
同性の遥でさえ見惚れてしまうような、とても魅力的な姿である。
話題となっている青年以外の異性が見ることは、絶対に叶わないようなものだった。
「……ふふっ」
日中、モンスター達を相手にとても頼もしい姿を見せていた二人の、こうした微笑ましい一面を目にし。
遥も、自然と優しい笑みをこぼしていた。
遥は人当たりが良かったこともあり、異性にモテるからと言って同性の同級生らから浮いていたということはない。
一方で、このような踏み入った恋愛話をするほどの、親しい友人がいたわけでもなかった。
なので。
世界が変わってしまってからも、こんな何気ない会話が出来ることを。
しかも自分ととても気が合い、人生を振り返っても一番親しくなれたといえる相手と交わせることを。
深く深く感謝したのだった。
「本当、滝深さんには感謝だなぁ……」
そしてその新たな日常を守ってくれている年上の、ちょっと気になる青年との出会いを。
心から有難く思うのだった。
□◆□◆ ◇■◇■ ■◇■◇ ◆□◆□
「あっ――」
だが次の瞬間。
遥の心を、異なる感情の波が支配した。
――ま、マズいマズいマズいっ!! また【読心術】が、発動しちゃってる~!?
【読心術】にはアクティブとパッシブ、両方の効果がある中。
今回は後者の方が、スキル所有者の意図とは関係なく自動的に発動していた。
「っ~~!!」
モンスター・人の区別なく。
一定範囲内にいる存在の、一定以上の強い感情を、オートで読み取ってしまう。
それは悪意や害意の形であれば、黒や赤などの色が攻撃するイメージとして勝手に取得され。
あるいはもっと明確な。
自分へ向けられる、性的なとてもおぞましい想像であれば、それに比例してより具体的な気持ち悪さを伴って遥の心を苛む。
つまり遥はゴブリンや建屋弟の前にいた時、自分の意思とは関係なしに【読心術】による副作用で苦しんでいたのだ。
「……ふふふ」
「……えへへ」
――うぅぅ~! ソルアちゃんもアトリさんも、滝深さんのことをどれだけ想ってるのぉ~!?
一方で今回のような。
誰かが誰かを、異性として強く慕う気持ちの場合。
くすぐったいような恥ずかしいような、そうしたピンクな気持ちの洪水に、遥はずっと晒され続けることになる。
そしてそれが感情の具体性や強さを帯びている場合、その分だけ遥が感じ取るものもハッキリと表れてしまう。
つまり遥は、ソルアやアトリが青年を想う気持ちを疑似的に、ずっと追体験することになるのだ。
「あっ――」
さらにタイミングがとても悪いことに。
二人が青年を非常に強く想像する状況が、さっきの件で整ってしまっていた。
それは遥自身も先ほど参加した、秘密の動画視聴会。
しかも青年にバレてしまったということが、青年をより強く意識させる方向へと働く。
要するに――
「っっ~~!!」
――あぅぅ~切ない、滝深さんの顔が見たい、声聞きたい、撫でて欲しい、添い寝したい、またギュッて抱きしめられたい、転移最高、滝深さん好き、あんな風にエッチなこともいつか……って違うのぉ~っ!! これは、これは私じゃなくってぇぇ!!
青年へと抱く桃色の気持ちが果たして自分の物なのか、それとも二人の物なのか。
本人すらも分からなくなっていた。
これが下劣な、嫌悪感しか生まない欲情・性的感情を向けられたのであれば、まだ区別のしようがあった。
そうした対象として見られることに、遥自身からは悪感情しか芽生えず、よって混同するわけがないからである。
「……滝深、さん」
だが遥が口からそっとこぼした相手は。
人としてだけでなく異性としても、信頼・尊敬できると思った初めての存在。
自覚なく。
二人と同じ、青年へ特別な感情を抱いてもおかしくない状況が、既にあったのだ。
そこへ、育ちに育った恋慕の情を先取り的に経験することになったのである。
遥はそれが錯覚なのかどうか、自信を持ってどちらと断言することができなかった。
「……ハルカ様?」
「ハルカ? もう、寝ちゃった?」
ピンク色をした感情の激流が、ようやく勢いを無くしてくれた。
遥は代わりに、自分へ向けられる緑色のような優しい感情を把握する。
ソルアやアトリが、遥のことを強く気遣う気持ちだ。
「ううん、大丈夫。起きてるよ」
二人からもらった優しい気持ちに触れ、改めて自分の心と向き合ってみる。
――これが、誰かを好きになるって気持ち、なのかな?
【読心術】、そのパッシブ発動の閾値を下回ったのか。
もうソルアやアトリの気持ちは流れてこない。
それでも、遥は自分の中で。
一つの大事な気持ちが残り、そして芽生えていたのを確かに自覚できていた。
――じゃあ、やっぱりさっきのは単に気づくきっかけで。私はもう、最初からそうだったのかな。
思い出すのは、遥が最初にソルアと対面した昨日のこと。
アクティブの方の使い方で、ソルアの心を具体的に見てしまった、あの時。
彼女の心には、ホブゴブリンの魔の手から守ろうと勇敢に戦ってくれている青年の姿が、鮮明に映っていた。
今思えば、ホブゴブリンの恐怖を追体験しても自分の心が壊れなかったのは。
あの雄姿を、とても格好いい青年の戦う様を、心で目にすることが出来たから。
「……うん」
――じゃあ、ソルアちゃんは一目惚れの手助けをしてくれただけじゃなくて。アトリさんと一緒に、気づかせてくれた恩人でもあるんだ。
ますます二人のことも好きになったと、遥はソルアやアトリへの気持ちも自覚する。
そして青年への想いを。
ゆっくりと、壊れ物にでも触れるかのように、優しく確かめていく。
――意識するとくすぐったくて、顔が熱くなってしまう、でもとても愛おしい。……ああ、うん、ちゃんと“私の”気持ちだ。
そうして、遥は自覚した想いを抱え。
明日、その相手とまた顔を合わせることに期待して胸を膨らませながら、眠りについたのだった。
――― Another view② end―――
――― Another view③ ―――
少しだけ時は遡り。
青年たちとは遠く離れた、別の県に位置する地域Sにて。
そこには、正に文字通りの地獄が訪れていた。
「WAOOOOOOOOON!!」
青白い火を纏ったゾンビウルフが、夜の街を駆け巡る。
この地域での【ワールドクエスト】の場所、ボスのテリトリーは“大きな霊園を中心とした一つの街”そのものだった。
「WASYA,WAGYAAAAAAAAA!!」
「WAOOOOAAAAAAAAAAAA!!」
モンスター達は肉体が腐り落ち、身体が脆くなろうとも変わらず脚は速く、そして鼻も効いた。
闇が落ち視覚が上手く働かなくなった街中は、正に彼らにとっては恰好の狩場だったのである。
「ヒィッ!? あっ――うわあぁぁぁぁぁ!?」
勇敢にも【ワールドクエスト】へと挑もうと集まった生存者が、また一人命を落とした。
視界の効かない暗闇の中。
無数にも思えるモンスター達が、“自分達は敵の位置が分かっている”という圧倒的なアドバンテージをもって襲い掛かってくるのだ。
更に生存者側も、午後6時を回ってようやく【ワールドクエスト】攻略に取り掛かり始めたという事情もある。
【ワールドクエスト】の制限時間それ自体は“本日終了まで”と、まだ多くの時間が残されていた。
しかし、青年たちが懸念し日没までに決着をつけたのとは異なり。
彼らは内輪揉めなどで時間を浪費し、正に、モンスター達のコンディションが最高となる“夜”になってから戦わざるを得なかったのである。
そのため、戦力差は無慈悲な程に開いてしまっていたのだ。
「BOOOOOOOOOOOOOOON!!」
「うわっ、こっちはスカルソードがっ!?」
「くっそ!! 何度も、何度も攻撃してるけど、全然死なねぇ!!」
そして、このエリアの一般モンスターはゾンビウルフの他。
全身が骨で出来ている、持久力抜群のスカルソードも存在した。
1対1の状況さえ作れれば、骨のモンスター1体1体の実力はそれほど大したことはない。
しかし“夜”というフィールド状況が、生存者たちの動きを鈍らせてしまう。
結果、1体を倒しきる前に敵の援軍に次々と囲まれてしまうという、最悪の循環へと陥ってしまっていた。
「おいっ、別動隊の奴らはまだなのかよ!? 早くしないと全滅だぞっ!?」
「逃げたんじゃねえのか!? クソッ、途中でビビッて、俺達を置いてっ!!」
既に全体での死者は50を優に超えていた。
ボス討伐を任された隊が果たして本当にちゃんと戦ってくれているのか、多くの者は疑心暗鬼になってしまっている。
ただでさえ殆どが互いに知らぬ者同士。
数も、寄せ集めで何とか確保したといったレベルだ。
青年たちのような少数精鋭、それもお互いを信頼し合えている集団とは異なり。
そんな急造のレイドチームで、互いが互いを信頼し合うというのは土台無理な話だった。
「ギャアァァァァ!?」
「わっ、やめっ、来るなっ、ヤダっ、死にたくない――うわぁぁぁぁ!!」
そして、そのボス達のいる地点では。
多くの者が逃げたという予想に反して。
――ただただ一方的な蹂躙が起きていた。
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差出人:【異世界ゲーム】運営
件名:ワールドクエストスタートのお知らせ
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●ワールドクエスト“ボスモンスターを討伐しよう!”
■クエスト詳細:
……地域S
クリア条件:ボス“デスソード&デスウルフ”を討伐
失敗条件:3日目終了時点でクリア条件を未達
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「GYAOOOOOOOOOOOOOON!!」
「……ZEAAAAAAAAAA!」
巨体を揺らして歩くは、死を纏う猛獣。
その上にまたがるは、これまた大きな骸骨剣士。
彼らの前に、もはや立っている生者はおらず。
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差出人:【異世界ゲーム】運営
件名:ワールドクエスト失敗のお知らせ
ただいま3日目の終了をもちまして、ワールドクエストの条件未達が確定されました。
失敗ペナルティとして、ただいまより①地域Sのボスモンスターが1ランク強化されます。
また②地域Sのモンスター数が倍となりました。
そのため、4日目以降は生存者の皆様の生き残りが、更に大変難しくなることが予想されます。
1秒でも長く皆様が生きながらえ、より厳しくなった【異世界ゲーム】を楽しまれることを願っております。
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「GYAOOOOOOOOOO!!」
「ZEA――」
そして、新たな世界での圧倒的強者らは更なる力を求め。
目の前に現れた、黄緑色をした膨大なエネルギーの発生源へと。
導かれ誘われるように、歩を進めたのだった。
――― Another view③ end―――
すいません、どういう風にするか考えてたり。
後は花粉という人類共通の天敵にかなり体調をやられてたりで、ここまでゆっくりお休みすることになりました。
どういう風な形にするかはかなり迷いまして、結果こうなりました。
久代さん達は比較的今までも視点を当ててたかなと思い、今回は来宮さん達により比重を置こうと判断しました。
ただワイワイガヤガヤだけでなく。
他の地域がどんな感じか、簡単にでも知りたいという方もいるかもしれないと考え、3つ目はこういう感じに。
久代さんの過去話とか、千種君達の動向みたいなのは、またタイミングがあればその時にすることにします。
で、今後、4日目以降のことですね。
一応、漠然とした流れみたいなのは頭の中にあるので、また書けたら更新する形にしようかとは思ってます。
ただ応募していた大賞が2次選考で落ちていたので、今後についてはちょっと考え中ですね。
カクヨムさんに今までのものを並行して投稿していく形が現実的かな、とか思ってます。
こちらが先行する形になりますし追いつかれない限りは、新たな執筆負担が増えるわけじゃないので。
まあこちらがどうこうなると言う訳ではないので、皆さんには4日目以降のお話をお待ちいただければ大丈夫かと思います。
お休みしている間も変わらず感想やいいねを沢山してただきありがとうございます。
ブックマークやご評価含め、執筆を継続するうえでとても大きなモチベーションとなっております。
今後とも当作品をよろしくお願いいたします。