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112.リーユと二人で、洗濯物、そして彼女達の隠し事……

お待たせしました。


112話目、3日目最後ですね。


ではどうぞ。



「いいですか? あたし達の部屋には無防備な姿をさらけ出した透子さん一人かもしれませんが。絶対にお兄さん、行ってはいけませんよ? 繰り返しますが、あたし達が戻らないからって――」


「あ~はいはい。行かない、行かないから」



 謎な前振りを繰り返す水間さんを、若干呆れ混じりに追い払う。

 何だその露骨な“行くなよ? 絶対に行くなよ!?”は。

 

 言葉通り、普通に行かないって。



「くっ! そんな態度で、後で知りませんからね!? 明日の朝になってあたしに“昨夜はお楽しみでしたね?”って言われることが無かっても知りませんからねぇ~!」



 意味の分からない捨て台詞を吐いて、水間さんはその場をパタパタと後にしたのだった。



「あ~えっと……その、は、はうぅぅ~!」



 一人取り残されたリーユは、その場で目をグルグルとさせていた。

 何を言うべきか必死に考えているらしいのが、手に取るように伝わってくる。

 

 そして絞り出した言葉は――



「――あ、あの、(あるじ)さんっ! ……す、睡眠の質を上げるマッサージ、い、いかが、です!?」

 

 

 ……なるほど。 

 


 

「あ゛ぁ~気持ちいぃ。そこそこ。うわ~リーユ、天才だわ~」


  

 うつ伏せができる、未だ比較的無事なソファへと場所を移して。

 提案されたマッサージを、リーユから受けることになった。

 


「ふふっ。よかったです。……んしょっ、んしょっと――」



 腰付近にまたがり、体を揉みほぐすようにして指圧してくれる。



 単純に、物理的なマッサージとして気持ちいいのもあるが。


 やはりリーユが直接触れてくれる箇所から、温かいエネルギーのようなものがジワっと流れ込んでくるのを感じる。

 それが疲労感や体の痛みに直接働きかけてくれているようで、とても効果を実感できていた。


 ……本当、今日の疲れが全部溶けていくみたいで、最高だな。



「……リーユ、ありがとうな」


 

 ソファー上に敷いたバスタオル、その位置ずれを直しつつ。

 自然と湧いてきた感謝の言葉を口にしていた。



「え? ……いえ。主さんに、気持ちよくなって、貰えているのなら、私こそ、嬉しいです、から」



 背中へ当てる手、指の動きは止めずに。

 本心からそう思ってくれているかのように、リーユは声を弾ませた。



「ああ、いや。もちろんこのマッサージのこともだけどさ。もっと全体的なことと言うか……――うん。地球(こっち)に来てくれて」


「あっ――……その、はい」



 一瞬不意を突かれたというようにリーユの手が止まり、俺の背へピタリと置かれる。


 端的に告げたが。

 誤解されたり、意図を捉え違えられたというような雰囲気はなく。


 なので、そのまま思ったことを、伝えたい想いを口にしていく。

 


「リーユが来てくれたおかげで今日、3日目を無事に送ることが出来た。……【修羅属性】、あの、ボス戦の時に俺が使ったスキル、分かるか?」


「えっ? ――あっ、はい。……主さん、多分、そのせいで、凄く体、ボロボロになった、です」



 やはり、リーユはその点について思い至っていたらしい。


 リーユの沈んだ声を耳にして、かなり申し訳なく思う。

 しかしそれで無理に、その場しのぎの弁解をするようなことはしない。

     


「ははっ、だなぁ~。……リーユも何となく分かってると思うけど。多分あれがリーユの回復も阻害してたんだと思う」


「……はい」



【修羅属性】は、あらゆる属性の上位属性となる。

 つまり回復・治癒という属性相手にも、【修羅属性】は得意属性となってしまうのだ。

 

 だから俺の体を(むしば)んだ【修羅属性】による傷を治そうとしても、中々に治癒してくれない。

 真相はそういうことだろう。



「――でも、それは見方を変えれば。リーユの力だったからこそ、たとえ微弱でも効果を生めたんだ」



 10あるリーユの治癒力が、1に弱体化されていたようなものだからな。

 要するに、それより低い1~9ではどの治癒力でもダメだっただろう。


 弱体化後は多分0になって、そもそも効果が無かったはず。

 つまりリーユは例え弱点属性を相手にしても、効果を保持しうる程の高い治癒力をもっていたんだ。


 そうした趣旨を、リーユにも伝わるような言葉にした。



「――だから、リーユは凄いんだ。リーユが来てくれたから、俺は今日、今。こうしてぐでぇ~っとできてる。な?」


「主さん……うっ、うぅ……は、はい」 

      


 一瞬、リーユの涙声が聞こえてドキッとした。


 慰めようかと思って立ち上がろうとする……が。

 リーユ本人が腰に乗ったままで、それを許してくれない。

 

 

「え、えへへ。私、も。地球(こっち)に来ることが出来て、主さん達に出会えて。本当に良かった、です」



 顔を見ての様子は確認できないものの。

 聞こえる声には、喜びの色が強く表れているようだった。



 なら……大丈夫か。



「――主さん。明日からも、一緒に頑張りましょうね?」


「ああ、もちろんだ。よろしくな、リーユ」


 

 そうしてゆったりと(くつろ)がせてもらいつつも。

 リーユと、個別に信頼を深めるような時間を過ごせたのだった。


 

□◆□◆ ◇■◇■  ■◇■◇ ◆□◆□



「あっ、ご主人様!」


「滝深さん、お疲れ様です」



 リーユの個別マッサージで大いに癒された後。

 少しの眠気を感じつつ移動していると、洗濯物を干している姿を見かけた。


 俺に気づくと、二人とも魅力的な笑顔を向けてくれる。



「ソルアも来宮さんも、お疲れ様」



 近づくと、より二人の恰好が鮮明によくわかる。

 既にシャワーも終えたらしく、館内着を身に(まと)っていた。


 ソルアは昨日に引き続きだが、やはり新鮮に映る。

 来宮さんもずっと制服姿だったので、これはこれでとても可愛らしいと思った。



「はい! ご主人様、これ、凄いです! 回すだけでお洗濯が簡単に出来ちゃって!」



 興奮した様子のソルアが示したのは、これまた持ち帰った回収品。

 電力は不要で、手動で使えるポータブル洗濯機だった。



「ふふっ。滝深さん、聞いてくださいよ。ソルアちゃん、あまりに楽しいからって、私の分の洗濯も代わってやってくれたんですよ?」


「あっ――そ、その、だって、このレバー回すの、凄く面白かったので……」 


 

 来宮さんから話題にされ、ソルアはとても恥ずかしそうに体を縮める。

  


「ははっ。いや、恥ずかしがらなくても良いって。楽しくやれてるならそれに越したことはないから。……あっ、そうだ。俺も使っていい? 洗濯したくて」



 手に持つ自分の着ていた服、そして置かれていたポータブル洗濯機へ順に視線をやる。



「あっ、はい、それはもちろんです! 私達の洗濯物はちょうど干し終わって――」 

 

 

 気を取り直したように頷き、ソルアが向けた目線の先。

 洗濯用ロープの他、よくよく見ると蜘蛛の糸がかかっていた。

 


「あぁ~なるほど。女王蜘蛛(エスツー)の糸か」



 壊れた出入り口のドアを塞ぐようにして。

 エスツーが、糸を張り巡らせてくれたことを思い出す。


 ショッピングモールで出入り口の防壁替わりにされていた、あんな感じだ。

 それを突破されても、門番のようにして居座るフォンがいてくれる。

 

 俺達が眠っている間の、二段構えの防犯体制だ。



「はい。ロープだけじゃ干す範囲が足りないかもしれなかったので、頼んでかけてもらいました」


「凄いんですよあの糸! 下着(ショーツ)も穴を通さず、軽く引っかけておくだけで全然滑り落ちたりしなくて……――あっ」



 そこまで言ってようやく何かに気づいたというように、来宮さんはいきなり言葉を途切れさせた。

 そしてソルアも一瞬遅れてハッとし、この薄暗さでもわかる程に顔を赤らめる。



「あ~いや、うん。そりゃ洗濯物を干すわけだもんね……」



 それ以上は言葉にしないが。

 俺が察したということを、二人もわかったらしい。



 ――うん、ソルア達の下着もちゃ~んと干されてるんだよね、偉い偉い!



 既に視線は逸らしたが、それでもさっきの一瞬で視界に入ってしまっていた。

 その光景が、もう、脳裏には焼き付いてしまっている。          



 ソルアのニーハイソックスや、スカートの更に中の物はもちろん。

 来宮さんが“特別報酬”を得る前、つまり制服の下に元々身に着けていただろう肌着なんかも。

 

 全てちゃんとロープや糸にかかっていたのだ。



「あ、あぅ~……」


「は、恥ずかしい……」


「あ~えっと、俺は洗濯してるから、うん、大丈夫」

 


 何が大丈夫かは俺も分からないが、そう言っておく以外の選択肢を俺は知らない。

 


「わ~ソルアの言う通り、洗濯楽しい~!」



 急いでポータブル洗濯機に洗濯物を入れ、水や洗剤も投入。

 蓋を占め、外付けレバーをグルグル回すだけのロボットと化す。


 

「クルクル~グルグル~」 

 

 

 幼児化したように一定のワードだけを繰り返し繰り返し口にし続ける。



 ――というか、そうでもしてないと間が持たない!!



 そんな、どこか背中がむず(がゆ)くなるようなフワフワとした雰囲気の中。

 


「ソルアお姉さ~ん。アトリお姉さんから伝言を――って、お兄さん、どうしたんです? ……その、大丈夫ですか?」

 


 ソルアへの言伝を持って、水間さんがやってきたのだった。 

 ……後、真顔で俺の様子を心配してくれたのだった。


 気を使わせてごめんね。



□◆□◆ ◇■◇■  ■◇■◇ ◆□◆□



「えっ? アトリから、ですか? 何でしょう……」


「あれ? おかしいな……。アトリお姉さんからは“例の(アレ)が見られるようになったわ!”って言えば分かるって」


 

 水間さんが伝言を伝えた瞬間。

 ソルアの表情に衝撃が走った……ような気がした。

 

 ……そしてそこから一番最初にやったのは、俺の顔色を(うかが)うことだったのである。

 

 

「あ、あの……えっと、ご主人様? 何でも、何でもありませんから! お気になさらず、どうぞごゆっくりお過ごしください!」


「いや、別に何も聞いてないし。今も普通にごゆっくり過ごさせてもらってるけど……」



 しかしソルアは動揺したように目をキョロキョロとさせ、俺の言葉も殆ど耳に入っていないかのような反応だった。



「ハルカ様、ハルカ様!――」



 更にソルアは来宮さんへと耳打ちを始める。



 その際も、やはり気になって仕方がないというように。


 水間さんがやって来た方、つまりアトリのいる方と。

 そして俺を交互に見ていたのだった。



「――えっ、本当!? ならソルアちゃん、急がなきゃ!」



 どうやら来宮さんも当事者の一人らしい。 



「はい!! ……と、言う訳でして。あの、ご主人様、失礼しますね?」


「お、おう」


 

 どういう訳かは知らないが、深く追求はせず送り出す。

 そうしてソルアは来宮さんと共に、自分たちの部屋へと戻っていったのだった。



「……何だ、一体」


「え? ――あ~ポータブルのDVDプレイヤー、電源入って見れるようになったって話です、多分。あたしがアトリお姉さんに頼まれて電池入れとか、色々やってあげたんですけど」


 

 首を傾げていると、残った水間さんが何でもないようにサラッと告げた。

 回収品の一つに、そういえばあったような気がする。 

  


 ……だが、単に文明の利器が稼働するというだけで、あんな反応はしない。

 そもそも地球人である来宮さんも当事者らしいから、あの興奮の理由はその先にあるはず。


 そうして核心へと迫っていた、その時だった。



≪――うにゅぅ~ご主人、眠いよ~≫



 ファムから、唐突に声が届いたのだ。

 そしてそれは本人も言葉にするように、とても眠た気なものだった。


 

「……どうした、ファム? 今どこだ? 眠いんなら無理せず休んで良いんだぞ」


≪んにゅ~……今、ここ≫

  

  

 そう言われても全く分からず、仕方なしに感覚を共有。


 繋がった視界は、まるで磁器が砂嵐にでもあっているかのように見え辛い。

 薄暗さを差し引いても、普段とは比べ物にならないレベルだ。


 音も、時々ノイズや雑音が入ってしまう。


 ……あ~そっか。

 ファムの調子が悪かったりすると、こうなるんだっけか。



≪あ~ドアだ~……お姉しゃん達の声、聞こえるぅ~≫ 

 


 まるでさっきの酔った久代さんのように、ファムは話し方さえも安定しない。

 ……自力で見つけるしかないか?


 断片的な情報だったが、マンガ喫茶内にいることは確実に分かっている。

 そうして店内を探し回ろうかと思った時だった。


 共有していた視界、そして聴覚が一瞬正常に戻ったのだ。

 そして――



『わっ、あっ、きゃっ! あうぅ~……刺激が、刺激が凄いです』


『な、何このメイド!! ふ、服が、スカートが、ち、小さすぎて下着が……え、エッチすぎるわよ!』


『こ、これが……大人の人が見る映像なんだ……』



 ――ソルアとアトリ、来宮さんが3人で何か見てるぅぅぅ~!!



 ……そういえばソルアとアトリって昨日、レンタルビデオ店でDVDの品定めしてたな。

 それも大人な奴を、だ。



「……どうしましたお兄さん?」


「いや、何でもない」


 

 まさか水間さんに“ソルア達がメイド物のえっちぃ映像を見てるかもしれない”なんて言えるわけもなく。

 ……あっ、アトリが何か別のDVDを手に取ってる。


“サキュバス 童貞”的なワードが見えた瞬間。


 再びファムの視界に砂嵐が発生。

 音もノイズが入って、再度、情報は遮断されてしまった。

     


≪……うにゅ~もう、限界、かも――≫


 

 どうしたものかと頭を痛め始めた時。

 ファムが遂に限界を迎える。


 揺れる視界。

 左右に振り回されるようにして落ちていくのが分かる。

 

 ……これが本当の“寝落ち”ってやつかな。

 

 そしてパタリと着地したその先には、一瞬だけだが何かの画面が映った。



「あっ――」



 それは、ファムが稼働中のDVDプレイヤーへと落下したことを意味する。

 つまり―― 



『ふぁ、ファム!? え、どうしたんですか!? ――あっ、ファムがいるってことは、もしかしてこれ、ご主人様に!?』


『えっ、嘘っ!? ま、マスターにバレてるの!? 私達がエッチなやつ見てたの!』


『っ~~~~~~!!』



 …………。



「――水間さん。夜更かしはやめて、もう寝ようか。明日も一緒に頑張ろうね」


「えっ、なんですかいきなり、怖い。……まあ正論だからいいけど。――はい、おやすみなさい」



 こうして色んなことがありながらも。

 無事、俺達は3日目も生き残れたのだった。



ふぅぅ。

これで3日目が終わりですね。


前から申し上げていたように、次は特別話を挟んで。

それから4日目という予定になっています。


何とか3日目を書き終えることが出来て、本当にホッとしております。

ただ誤字脱字報告をいただいたばかりで、あまり呑気に構えすぎることもできない感じで。


やはり再開する前と後で記憶の断絶があったらしく、季節を間違えてたっぽいですね。

更新が止まる前は“春”を前提として書いていて、一方で再開後は完全に“秋”を頭の中で前提として書いていました。

一応見つけ次第、整合性がとれるよう修正はしておきますが、何かしら気づいたことがあればお教えくださると助かります。


4日目については、そうですね……。

ある程度ストーリーの進行順みたいなものは頭の中で描けてるので、特別話の後直ぐに開始することもできると思います。


ただもしかしたら何日かお休みをいただくかもしれません。

特別話を更新する時には決めておくので、その際にお伝えしますね。


ここまで読んでいただきありがとうございました。

再開後、ワールドクエスト、そして3日目自体を書ききることが出来たのは偏に読者の皆さんの応援があってこそだと思います。


私の努力だけでは足りず、確実に途中で止まっていたはずです。

日々頂けるいいねや感想が、そしてブックマークやご評価が。

書き続けるためのとても大きなモチベーションとなり、励みになっていました。

本当にありがとうございます。


今後とも当作品をよろしくお願いいたします。

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― 新着の感想 ―
[良い点] 「サキュバスと童貞」… ククク、良く分かってらっしゃる ここからはアトリのターン! [一言] 季節なんか忘れてましたわ… あー、確かに冬はヤバいですね。戦闘以外でも民間人に死人が出るかもし…
[気になる点] 主人公はどのタイミングでシャワーをあびてるのだろうか [一言] 3日目完了お疲れ様でした。 4日目以降のお話も楽しみです。 無理なく続けていただくのが最優先なので自分のペースで頑張って…
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