108.転移にも配慮を、宿はどちらに? そして食料調達へ
お待たせしました。
108話目ですね。
ではどうぞ。
「……まあ、これは仕方ないですね。旗がここにあるということは【マナスポット】もここにあったということ。つまり【異世界ゲーム】運営のセクハラです」
未だに照れや恥じらいの残った表情をしつつも。
水間さんは、今回の件をそれだけで流してくれた。
「ああ。そう言ってもらえると助かる。――あっ、もちろん今から直ぐにでもモールの方に戻るつもりだ。ここで変なことする、なんて一切ないから。そこは安心してくれていい」
そう思うと今後は、一番最初に転移してもらうのはソルア達の方が良いかもしれない。
全員を運ぶことになると一番最初の人は、どうしても一時的に一人になってしまう。
残された時に仮にモンスターでも出ようものなら、自分だけで対処することになるし。
……となると、サポートのリーユを最初に運ぶのも避けた方がいいのか。
色々と考えることが多いな。
「うーん……それはそれでちょっと乙女心としては複雑ですが、まあいいです。お兄さんが紳士だと受け取っておきましょう」
水間さんの言葉に棘は感じなかった。
やはり水間さんはサッパリとした性格らしく、とても人として付き合いやすい。
これで本人が“友達いない・モテない”みたいに言っているのが謎に思えるくらいだ。
「……水間さんが学校であまり馴染めてなかったっぽいの、信じられないね。凄くいい子なのに。頭の回転も速いし、リーユとも直ぐに親しくなってくれたし。人気者になる要素持ち合わせまくりじゃん」
こちらもお返しにと、本心で思ったことを口にする。
現に死んじゃったけど、自称“クラスメイト君”だって水間さんを異性として見まくってただろうしね。
しかし水間さんはあまり褒められ慣れてないのか。
落ちていたケースをパッと拾い、慌てたように顔を隠してしまう。
……いや、“学校では見せられない私の秘密”的なタイトルのをピンポイントで拾わないで欲しい。
反応に困るからさ、うん。
「も、もう! あたしにそういうの良いですって! お兄さんLOVE勢の透子さんや遥さんに言ってあげてください! さ、さぁ、戻りましょう!」
「な、何だ“俺LOVE勢”って!? そんな怪しい勢力いつの間に出来たんだ!?」
だが挙がった名前からして、多分、水間さんの頭の中にしかない架空勢力だろう。
“俺KILL勢”なら、鎌を持ったとてもお美しい死神さんが真っ先に思い浮かんだけどね。
そうして急かされるように旗付近へと戻り。
再度、ショッピングモールへと転移したのだった。
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「あっ! お帰りなさいませご主人様、カナデ様!」
暗くなり始めたロビーで。
明かりを灯すように、ソルアが笑顔で出迎えてくれた。
「っす。ただいま」
「ふぃぃ~ただいまです」
水間さんを連れてとはいえ二度目の転移ということもあり、あまり大きな驚きやリアクションはなかった。
そして待つ間、今日の宿に関する話し合いを進めてくれていたらしい。
「えっと。その、もちろんご主人様やカナデ様のご意見も含めて、になりますが……」
ただその前置きが。
ソルアにしては珍しく、何故か余所余所しい。
目も真っすぐには見てくれず。
結論へと行きつくのを避けているかのように右往左往している。
……何?
「――その、私達の間では、“マンガ喫茶”で過ごすのが良いのかな、という話になりまして」
「へぇ~そうなの?」
強い驚きがあったわけではないが、意外な結論ではあった。
「あっ! いえ、その! ご主人様に転移のご負担をおかけするわけですし! ご主人様がお嫌でなければ、という話でして!!」
何故そこまで早口でアワアワしているのかが分からん。
クエストをはじめ、頼りになる姿ばかり見ている分、余計に腑に落ちない。
……まあこういうソルアもギャップがあって凄く可愛いというか、魅力的とは思うが。
「――ここは【ワールドクエスト】直後で、まだボスと戦った記憶も生々しいし。それにこのショッピングモール、凄く広かったでしょ? 流石にここで一晩過ごすってのはメンタル的にって話になったの」
そこで援護射撃するように、アトリから捕捉の説明が入った。
言わんとすることは理解できる。
……だがアトリもどこか建前的というか、巧妙に本音を避けているような雰囲気があった。
そして来宮さんもそこに加わってくる。
「ホームセンターもちょっとどうかなって感じで。……その、皆、沢山頑張って疲れちゃいましたから。他の生存者の人がいる所じゃなくて、私達だけでゆっくり休みたいかな~みたいな」
その言い分ももっともだろう。
むしろ信頼できない相手と同じ屋根の下で一夜明かすとなると、休めるものも休めないと思う。
……だがやはり、来宮さんでさえも、本当のことを上手く隠しているっぽいんだよなあ……。
しかしそれが俺への害意でないことだけは確実に分かるので、どうしたものかと困ってしまう。
「……で、最後の、その、ラブ、ホテルだけど」
久代さんも参戦するらしい。
……いや、“ラブホテル”って言い慣れてないんだったら、無理して言わなくていいっすよ?
照れて口に出しちゃってる感がむしろグッと来ちゃうんで、普通に“ホテル”って言ってくださいな。
「直接“ショッピングモールからラブホテルへ向かう”道のりと。転移して“レンタルビデオ店からマンガ喫茶へ向かう”道のり。モンスターの脅威度的には後者の方が楽だろうってことで、そっちに落ち着いたわ」
なるほど。
確かにあんなに激しいボス戦を終えた後だ。
少しでもモンスターとの戦闘は避けた方が良い。
そして駅を挟んでこちら側の方が、やはりモンスターが平均的に強い傾向にはある。
だから消去法的に。
モンスター戦があった場合、負担が楽だろうマンガ喫茶が選ばれた……というわけか。
「……うん、まあ皆がそれでいいなら俺も問題ないけど――ただ、転移する必要はあるから。そこだけは文句言わないでね?」
特に一時的とはいえ、俺と接触する必要あるからね?
“ボッチ菌移った!”とか“うげぇ~後でキレイキ〇イしないと!”とか言うの禁止だから、わかった?
「はぅ!?」
「うっ!!」
「あうぅ~!?」
――だがそこで、ギクッとしたような反応を示した者が何人も。
えっ、何、ソルアさん達に限らず、来宮さん達も?
……もしかして君ら、“転移”を体験したかったの!?
「あっ――なるほど」
そういえばソルアに至っては初日、【時間魔法】でもそういうやり取りあったなぁ……。
そっか。
異世界組でさえ【時間魔法】というのはとても希少で珍しく、自分で体験してみたいくらいの対象だったんだ。
【空間魔法】っぽい要素のある“転移”も、その対象となっておかしくはないってことなのかな?
「わかった。そういうことなら大丈夫。……何だ、よかった。おかげでスッキリしたよ」
皆が変に隠そうとしてたから一体何だと思った。
だから色々と理屈づけて“転移”を体験できる“マンガ喫茶”へと、皆で持っていったわけだ。
これで解決。
モヤモヤを残さず次のステップに進める。
「……お兄さん、微妙に勘違いしてそうですが――まあいいや」
いやいや、水間さん?
真実はいつもひとつだから。
スッキリ出来る真相にたどり着いてしまった以上、勘違いとか存在する余地ないから。
何故かジト目で見てくる水間さんを右から左へと受け流しつつ。
移動へ向けた準備を急ピッチで進めるのだった。
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「さっ、急ごうか。とりあえず今晩と明日くらいの食べる物を集めて行こう」
日が落ちてきて、モール内にも闇が訪れ始めた中。
二班に分かれた内の食料班として、4人で1階へと赴いていた。
「はい。……あっ、ハルカ様? 視界、大丈夫ですか? 【光核】、もっと大きくすることもできるので遠慮なくおっしゃってください」
宙を浮く、光源となる光球。
そのバランスボール程に大きなものを維持しつつ。
後ろを歩く来宮さんへ、ソルアは配慮を欠かさない。
「うん。すっごく明るいから大丈夫だよソルアちゃん! ……せっかくだから“ショッピングカート”を使えれば楽なんですけどね」
「“ショッピングカート”、です?」
今回は発音・イントネーション、ともに来宮さんのをマネできたからか。
リーユの言い方に不自然・違和感のある点はなかった。
「そう。うーんと……手押し車、みたいなニュアンスかな? 荷物を運ぶのが随分楽になるの。でも――」
そうしてソルアの【光核】が照らす床の内、未だに残っている“障害物”へ、来宮さんは視線を向ける。
「……人の死体だけじゃなくて、モンスターに荒らされて落ちちゃった物もあちこちにあるから。一々避けたりしないとだし、今回は買い物カゴだけで我慢、かな?」
「そう、ですか……」
“カート”を体験してみたかったのか、リーユは少し残念そうにしながら頷いている。
「……まあ、また機会があれば試せばいいさ。――あっ、缶詰があるな。これは貰っていこうか」
1階、久代さん達が“炭酸水回収”で訪れてくれた食料品売り場を散策する。
いわし、サバ、焼き鳥缶などなど。
やはり“缶”という商品の特性上か、床に落ちていても無事なものが圧倒的に多かった。
今日・明日食す予定なので、側面が凹んでいたり傷ついているようなものを優先的に回収する。
「……ご主人様。これ、どのようにして中身を取り出すのでしょう?」
「私も、それ気になった、です。主さん」
ソルアもリーユも。
手に取ったフルーツ缶を【光核】へと近づけ、興味深そうに目を凝らしていた。
「プルトップのある物は普通に指で行ける。他は“缶切り”っていう専用の道具があって。それは久代さんたちが、100均で取って来てくれるはずだから」
あっちは7階のアウトドアショップに寄った後、階を降りて100均へ向かうと言っていた。
“懐中電灯”も渡してあるし、アトリもいるから大丈夫だろう。
……まあ最悪、他の方法でも開けられると思うけど。
それから即席麵、無事そうなお菓子やパン、おにぎりなどを集めて回る。
「ふぅぅ~もう流石に一杯かな」
両手に持つカゴ二つ分が食料品だけで埋まった。
「他に何か欲しい物や忘れ物が無ければ、7階へ戻ろうと思うけど」
「えっと。1本くらいでいいんで、ジュースを、と。その、ソルアちゃん達にも、嗜好品というか、食事を楽しんで欲しくて」
来宮さんの控えめな提案を受け、なるほどと納得する。
それくらいなら追加しても全く問題ない。
むしろそんな気遣いをしてくれて嬉しいくらいだ。
お菓子とか食べ物については意識して、ソルア達にも美味しくいただけるだろう物を選んだが。
飲み物の点についてはそうした視点が足りなかったかもしれない。
「――ここが飲料コーナーです。……って言っても、私とソルアちゃんは2回目だけどね」
「はい。……えっと、ですがすいません、何を選べばいいか、わからなくて」
「あうぅ~。私も、です」
まあそりゃそうか。
「あっ、じゃあ私が適当に何本か選ぶね。アトリちゃんや奏ちゃんの分も……」
そうして来宮さんは素早くジュースを幾つか見繕い。
レジ袋を広げては、そこへ慎重な手つきで入れていく。
「――そういえば、滝深さんはどうします? 透子さんからは“アルコールは度数の低い奴があればそれを”って伝言貰ってますけど」
「あ~お酒ねぇ」
そういえば、俺と久代さんだけが成人なのかと改めて驚愕する。
ソルアやアトリ達も、異世界ではもしかしたらお酒を飲める年齢だったのかもしれない。
しかし地球で考えれば、まだ来宮さん達と殆ど変わらないはずだ。
「まあ、俺は良いや。お酒飲まないし」
年長者として、また明日からもしっかりしないとと思う反面。
同い年である久代さんも。
皆には言えず背負い込んでいる物もあるかもしれないと、少し心配になったのだった。
エチエチな恰好をした異世界出身の美少女たち、そして超ハイレベルな地球出身の美少女たちから、転移のためという大義名分を掲げてボディータッチしてもらいたい人生でした……(灰)
ようやく拠点回というか、生活的な面の話に入れましたね。
なので3日目もそろそろ終わりに近いと思います。
後はマンガ喫茶行って、食事や余暇を楽しんだりして3日目の疲れを存分に癒すのみですから。
……イチャイチャも、あったとしても流石にそう長引く物はないはずですし、多分。
で、特別話を挟んで4日目、という感じですね。
ここまで読んでいただきありがとうございます。
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