100.バー何キロ持てる? イジられないで久代さん、そして茜色に染まる外
お待たせしました。
とうとう100話目ですね。
ですが特に題名に意味はないですので、あまり気にしないでください。
ではどうぞ。
「――【操作魔法】っ!!」
3階に場所を移して、3度目のボス戦。
操るのは3階に入っていたテナント、ジムにあったダンベルたちだ。
5㎏や10㎏など様々な重さがあり、それらを浮かせては発射していく。
「ZIA,ZIAAAAA――」
硬直して動けない血蜘蛛の顔付近に、ゴツゴツッと鈍い音を立てて次々命中する。
3階に対応する眼球、左列の一番下は既に赤。
ソルア達が“赤い蜘蛛”を倒してくれたことによるこの好機を、逃す手はない。
「ふんぬっ――」
ベンチプレスなどに用いる、好きに重りをはめて重くしていくタイプのバー。
そのバー単体で20㎏あるため、これを操るだけでも立派な鈍器になりうる。
ドンドンド~ン ド〇キ~鈍器放って~。
……いや、このバーは放り投げないから、それはダメだな。
一般男性の平均身長よりも長いだろう棒を、【魔力値】頼りで操作する。
ガチャで当てた【魔力ポーション】も飲んで、能力値の底上げも怠らない。
「――ラーメン、つけ麺、俺ふつめぇーん!!」
それを、自分なりのタイミングを見極めつつ。
まるで竹刀でも振るうようにして、【操作魔法】という見えない手により叩きつける。
これの圧倒的利点は、自分の【筋力値】では満足に武器として扱えなくても。
【魔力値】と【操作魔法】のレベルにより、まるで自分の手で操るようにガンガン振るえること。
そして何より、腕の長さが関係ないのでリーチをあまり気にしなくていい。
「ZIAAAAAAAAAAAAA!?――」
“赤い光”による硬直から回復したボスが、咄嗟に脚の一本で防御してしまう。
振りかぶって勢いよく叩きつけた20㎏の棒は大きな音を立て、見事にその脚を反対方向へと折った。
血蜘蛛は、あまりの痛みに再び声を上げ、大きくのけ反っている。
――その間に~もう一発遊べるドン!
「MAXフルボッコだドン!!」
魔力ポーションによる後押しを感じつつ、筋トレ棒を更にボスへと全力で叩きつける。
7つの内、既に6つが真っ赤に染まった眼球付近。
ガコンッと派手な衝撃音が響き、目と目の間には大きく縦の凹み・痕が残った。
「チィッ――」
だが眼球そのものは、特に傷ついた様子はない。
むしろ皮膚や脚の素材以上に硬い。
あれもまたあからさまに弱点っぽく露出してあるから、もしかしたらと思ったが。
……そりゃ違うか。
そもそも仮に“眼”自体が弱点なら、“炭酸水”や“赤い蜘蛛”だけじゃなく【施設 情報屋】で言及があったはずだし。
「――マスター、無理しないで! 限界なら私も出るからっ!」
後衛にて様子見のアトリが、攻撃役の交代を申し出てくれる。
「お兄さんっ、兵蜘蛛は何とかなってるんで、遠慮はいりませんからね!」
「っ、です!」
手下を相手してくれている水間さんやリーユも、こちらの状況を気遣ってくれてる。
それがちゃんとこちらまで伝わって来た。
アトリは1階・2階と連戦で奮闘してくれたのだ、ずっと出続けはしんどいだろう。
だが一方でアトリの休憩中は、リーユ・水間さん・俺の誰かが火力を出さないといけない。
前者二人はサポートが主な仕事だから、消去法的に俺が頑張らないと、となる。
「大丈夫、まだ行ける! “炭酸水”の準備だけしておいてくれ!」
遠距離からの砲撃だけじゃない、【操作魔法】の使い方。
“物理で殴る”に手応えこそ感じているが、やはりボス相手なので油断はならない。
しかも【魔力ポーション】によるブーストが消えると、今の能力値ではバーを振り下ろす勢いがかなり落ちてしまう。
それは即、ボスへのダメージ激減へと直結するのだ。
俺も【修羅属性】を使えば能力値2倍になるから、それなら普通に自分の力でも扱えると思うんだけどね。
……やはり【魔力値】・【操作魔法】による使用は邪道。
自分の体で、【筋力値】で振ってこそ筋トレ棒も輝くということか。
脳内の久代さんからは『滝深君もまだまだね。もっと【筋力値】を上げて出直して来たら? ……私は遥か高みで待ってるわ』との有難いお言葉が。
更に妄想内にだけ存在する透子の姐さんは、20㎏もするバーを片手でブンブン素振りしている。
「――流石ですぜぃ、透子の姐さん!! あっしも、ついていきやすっ!」
「ZIAAAAAAAAAAAAAA!?」
謎の三下ムーブが、最後の一撃を振るうタイミングにバッチリはまってくれた。
さっき凹ませた部分、そこを注意深く狙って追い打ちしたのである。
ボスは絶叫を上げ、味方であるはずの兵蜘蛛を食し始めたのだった。
□◆□◆ ◇■◇■ ■◇■◇ ◆□◆□
3階での戦闘を勝利で飾り。
合流を経た上で、中盤となる4階へと足を踏み入れる直前。
「――あっ、そうだ。透子さんのこと、お兄さんがイジってましたよ。“流石ですぜぃ、透子の姐さんっ、ヒャッハー!”って。ねっ、アトリお姉さん?」
「えっ? ……そうね」
「……滝深君? ちょっと二人でお話しよっか?」
俺は、死の危険に直面していた。
水間さん、アトリ!
この、何チクってんだ!
うぅ……。
久代さんほどの美人から誘われて、こんなに嬉しくない“二人でお話”はかつてなかっただろう。
本当、殺気混じりだから余計、ね。
「いや本当、イジってない、マジだからうん」
【操作魔法】、つまり自分の手で扱うわけじゃない分、タイミングの取り方が非常に難しいのだ。
そのため、自分なりにリズムや感覚が合うことをただ口にしただけで、意味はないと必死に弁明する。
「――あっ、そうだ! 話変わるけど、この筋トレ棒もさ。3階にあった“フィットネスジム”で見つけたんだ! 久代さんも後で自分だけのステキな一品を見つけたらどうかな?」
「それのどこが“話変わった”!? ずっと私イジり続いてる! こんな健気な乙女に勧めるなら目の前の! 4階の、フードコートとかオシャレな店とか、あるでしょ!」
流石は久代さん、キレキレだなぁ……。
一度プンスカと不満をぶちまけてくれたからか、もう既に怒りは収まり。
そうしてプイッと横を向いて大人しくなっている。
「……私だって。好きになった男の子とカフェデートしたいとか、普通に思うのに」
……そして不意打ちでこんなギャップある可愛いこと呟くの、本当ズルいと思います。
久代さんに夢中になる男共は。
やはり容姿だけじゃなく、こうした一面にも心撃ち抜かれるんだろうなぁ。
「いや、あの……透子さんがあんな素の一面見せる異性なんて滝深さんだけ、だと思いますけど?」
ん?
何を言ってるんだい来宮さん。
独り言?
……いや、そこじゃなくて。
なんか今、ツッコんだ方がいい部分があったような――
「うふふっ……」
あっ、こら、ソルアさん。
何を微笑ましい光景を目にしたと言わんばかりな表情してるの!
全く、主人が三途の川を拝むかどうかの分かれ道だったっていうのに……。
裏切りのアトリさんといい、傍観のソルアさんと言い、最近は主人イジメが流行ってるらしい。
いいもんっ、だったらリーユさんに癒してもらうから!
「あ、あの……主さん? 色々と大丈夫、です?」
グサッ!
……鋭利のリーユさん、伏兵だったか。
□◆□◆ ◇■◇■ ■◇■◇ ◆□◆□
「透子さんには申し訳ないですが、4階のフードコートはどこもかしこもメチャクチャですねぇ~」
水間さんが率直に口にした通り。
4階、そのおよそ1/4を占めるフードコート・エリアは、モンスターによって破壊し尽くされていた。
幅広いスペースに、ゆとりをもって置かれていたはずの円形テーブルや椅子の数々も。
脚の部分が根元から折れていたり、あるいは糸によって宙に吊られていたりと散々な有様だ。
「私に申し訳なさ感じなくていいから。……でもここに“血蜘蛛”がいないってことは、かなり場所を絞れるわよね?」
久代さんももう切り替えており、思考も現実的な内容となっている。
「そうね……。――マスター、どうかしら?」
「ん~っと、ちょっと待ってくれ――」
ファムと繋いでいる視界と聴覚。
そこから、ちょうど目的の相手を確認できた。
「――これは“北”、だな。“キッズスペース”と携帯ショップが集まってるスペースの、ちょうど間くらいか」
4階は家族連れを意識してか。
フードコートの他にも、子供が遊べる簡単な室内アスレチックスペースが設けられている。
また家族が歩き回ることが多いという点から、大手キャリアがまとめてショップを展開しているのもこの階層だ。
「なるほど……一気に行きますか? “この階”からは“赤い蜘蛛”討伐が必要ありませんし」
そう。
この段階で二手に分かれず、ソルア達が行動を共にしている通り。
ボスの眼、右列の3つは既に赤色に染まり切っている。
ショッピングモールの外、俺達やおそらく千種らが倒している分だ。
そして事前の推測が当たった通り、この階層に“赤い蜘蛛”は見当たらない。
つまり“右3つ”と“4~6階”が対応していたことになる。
だからその分、4~6階は全戦力で最初からぶつかれるのだ。
「――ああ、各自、問題がないようなら直ぐに行こう。……どうやら、あまりモタモタしてる暇もないらしいし」
さっきの移動途中、窓辺から漏れ入ってくる光の色は、既に茜色へと近づいていた。
【ワールドクエスト】の制限時間、“日付が変わるまで”としてはまだ十分に余裕がある。
……しかし、現実的にそこまで戦闘を継続できるかと言えば、そうではない。
「そっか。季節は秋だし、日が暮れるのも早まってますもんね。……えっと、ソルアちゃん。日本は今――」
来宮さんは、俺の言いたいことを的確に察し。
そうして前提知識に言及しつつ、異世界組へと伝えてくれる。
「……俺は【夜目】っていうスキルを覚えることもできるけど、皆は夜、暗い中だとモンスター相手には不利だろう。その前に決着を付けたい」
さらに言うなら、俺はまだそのスキルを結晶から具現化させてない。
【修羅属性】を奪った時、一気に容量を逼迫した関係で、できればまだ習得したくないのだ。
そうした複合的な要素が相まって。
4階~6階は更にスピード勝負で挑むのだった。
何とか100話に到達することが出来ましたね。
ボス戦も何とか後半戦に突入できましたし、3日目の終わりが見えてきました。
節目でもありますし、何かしら特別話でも入れたい気持ちもありますが、どうなんでしょう?
今の個人的な感じでは、ですが。
とりあえず3日目の終わりまでは書ききってからの方がいいのかな、という考えが強いです。
その方がスッキリして読んでいただけるでしょうし。
……そもそも特別話の内容もまだ別に思いついてるわけでもありませんしね。
なので3日目の終わりまで、内容を考える時間という感じにしたいと思います。
何か要望があればそれまでに感想等でおっしゃっていただけると助かります。
100話という一つの節目まで書き続けることができたのは、もちろん私も努力した点はあります。
ただそれだけでは絶対にここまで続きません。
現に、一度止まって、再開するという過程を経ています。
皆さんの応援なくしては到達できなかったのは間違いないです。
いいねや感想をいただけることが。
ブックマークやご評価によって数字上の増加を感じれることが。
そして日々読んでいただけていることそのものが。
継続するための非常に大きなモチベーションとなっています。
本当にありがとうございます。
今後とも当作品をよろしくお願いいたします。




