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遥か雲上の大怪魚  作者: 風雷
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第四章「ハンタン・ドリーム」(5)

 ほうほうのていでリヨン達が州都に帰りついた頃には、既に日が暮れていた。生還したのはリヨンとローイの二人だけであった。


「傷の手当てを――」


 ローイは手際よくリヨンの頭に包帯を巻いたが、あまり傷が深くないことに驚いていた。


「頑丈ですね。丸焦げになったと思いましたよ」


 と、言われた時、リヨンは神妙な面持ちで考え込んでしまった。


「……私が何をされたのか、ローイさんにはわかるんですか?」

「マーウェルの蛮族は魔術を使うと巷で噂されております」


 夜になると、ハイシィが一人で山を下りてきた。さすがに彼は死んだだろうと思っていたリヨンが目を丸くすると、


「鍛えているからな」


 と、誇らしげに胸を張った。敗走したとは思えぬ陽気さである。


(部下が大勢死んだというのに――)


 リヨンはどこか、ハイシィを好きになれない自分に気づいた。

 ハイシィ率いる調査隊――もはや三人しかいないが――は、すぐさまタルタ総督府に召喚された。勿論、当事者であるリヨンもこれに加わる。


「よく生きていたな」


 タルタ総督ゴディクスの開口一番がこれであった。リヨンはどういう顔をすればいいのかわからなくなった。

 ハイシィはマーウェルのムゥ達に襲われた時の状況を事細かに報告した。最後に死者十二名、行方不明者十五名という数字でくくった。そして当然のようにパエは数えられていない。

 ゴディクスは数人の――恐らく地方元老院の議員達と議論を始めた。何故、敵があんな麓にまで下りてきていたのか、ハイシィは罰せられるべきか、対策はどうするのか――等々。


「あの!」


 耐え切れずにリヨンが議論を遮る。


「パエが攫われました」


 万座を見渡した時、リヨンはどうしようもない無力感に襲われた。彼らは、何故リヨンがそんなことを言い出したのかわからないのである。


「パエ? ああ、あのムゥか。それがどうかしたのか?」


 と、ゴディクス。


「助けないのですか?」

「この場合、財産の保障はどうか?」


 ゴディクスはリヨンの直接問いには答えず、議員の一人に訊いた。


「公務であれば、適用されます」

「ふむ、リヨン殿には新たなムゥを補充するとしよう」

(そういうことになるのか)


 わかっていたことだが、彼らにリヨンの気持ちを理解しろという方に無理があるだろう。

 報告が終わった後、リヨンはローイと共に宿に帰された。パエのことや次の調査の話を切り出すことは到底不可能だった。

 それに、先の戦闘におけるひとつの事実が、リヨンに強い衝撃を与えていた。

 リヨンは幸いにも無傷だったが、他の兵たちはほぼ即死であった。屈強な正規兵が――奇襲とはいえ――一太刀も浴びせることができずに斃れたのだ。何故か。

 宿に戻ったリヨンは懐から金属の塊を取り出した。これはモース王に見せたものと同一のものである。リヨンがこれを銃と呼んだ時、モース王はそれが意味するところを知らなかった。他の全てのモース人がそうであるはずだった。でなければ今頃革命が起こっているだろう。

 だが、その前提も覆された。リヨンはマーウェル山のムゥ達に銃撃されたのである。しかも、実弾ではなく、レーザー銃である。リヨンが手にしているのは二十年ほど前にバハムート3の外で流通していたものだが、ムゥが使ったものはそれと同型か、更に新しい可能性がある。

 これが何を意味するか。リヨンが千花都で初めて銃を見かけたときから、それは明らかだった。惑星外から何者かがバハムート3にやってきて、流通させたのである。

 誰がそんなことをやったのか。それはモース王が隠す気もなく答えてくれた。この惑星を訪れた監察官達のほとんどは、ここが特別保護惑星であることを知りつつ、それを行ったのだろうか。


(何のために?)


 胸の内にある不安が増大するのをリヨンは感じた。自分の予想が正しければ、大犯罪どころの話ではない。

 モース王は確かに特別監察官と取引を行っていた。しかし彼は銃の使い方を知らなかった。市井の露店にそれが置いてあるという光景は――燃料がなければ用をなさないにしても――モース王がその用途を知っていれば決して許すはずのないものだった。彼が受け取ったのはもっと別のものだろう。惑星外の些細な情報でさえも、モース文明にイノベーションをもたらしかねないのだから。

 では、銃の流通は何によって起こったのか。これはモース王とは無縁であろう――というのがリヨンの予想である。では何者の仕業か。その見当がすぐについてしまう情報は、ウェイフによってもたらされている。


(ブロッサム姉妹……)


 銀河をまたにかける犯罪者がこの星に目を付けたとすれば、もはやリヨンが単独で解決可能な問題ではない。


――皮と肉を、ほふらずして売った。


 襤褸を纏った占い師の言葉が、リヨンの脳裏にちらついた。


『ウェイフ! 聞こえるか、ウェイフ!』


 先ほどから再三ウェイフとの通信を試みているが、今夜は雲が厚いせいか、全くつながらない。

 突然、酷い頭痛に襲われた。


(傷は深くないはずだが――)


 リヨンはローイに付けてもらった包帯を撫でた。


(くそッ! 誰だよ、非武装でも任務遂行可能だとか抜かしやがったのは――!)


 毒づいても、バハムート3での武力の行使は極限とも言えるほどに制限されている。

 やがて酷い眠気に頭が痺れてきた。リヨンは頭をぐわんぐわんと緩やかに回しながら、しばらくの間半目のまま堪えていたが、ついには倒れるように寝台に突っ伏した。


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