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7.電気の魔法

「デンキ……とはなんですか?」


 そうか、まだこの世界には電気という概念が無いのか。はて、どう説明したものか?


「電気というのは……雷と同質の力を制御できるようにしたものですね。人為的に発生させその力をコントロールし、特定のエネルギーとして利用できるようにしたものを電気と言います」

「神の怒りを制御するなどなんと罰当たり……と言いたいところですが、前世では雷すらその原理が解明されている、ということですね? 先程の雨の原理と同じく」


 私は頷く。そう、私は電気を魔法として使えるようにしたいのだ。様々な作品で電気を使用した能力があるわけで。ほら、暗殺一家の息子だとか、コインを弾く女子中学生とか、ちびっこ探偵の脚力パワーアップ靴だとか、横スクロールアクションのいぶし銀な緑忍者とか。


 私としてはその汎用性の高さが魅力的なのである。もっと具体的に挙げるなら、電熱、電磁石、電磁波、生体電流、電子冷却等々……。電気だけ扱えてもダメなものもあるけど、そもそもイメージ次第で魔法が使える世界だ。たぶんどうとでもなる。……なるんじゃないかなぁ?


「――先程の質問、神の怒りと同質というデンキというのが何属性なのか? の返答ですが、魔法とは四属性が基本ですので、私はその質問の答えを持ち合わせておりません。しかし……」


 院長は一拍置いて、困った顔をしながら言葉を続ける。


「極稀に四属性とは根本的に違う、時空魔法というものを使える者が現れています。時間と空間を操れるという話で、条件さえ合えば死者を甦らせることができるとか」


 なにそれ凄い!! 死者を甦らせる、ということは時間を戻せる、ということだろう。操れるという話だから、止めたり進めたりも可能なのだろうか? それに加えて空間も操作できると来た。

 漫画やアニメでおなじみの能力だから、イメージはしやすい。是非とも使えるようになりたいところだが、まずは電気だ。時空魔法とやらはあとでやってみよう。


「時空魔法という例外がある以上、そのデンキという魔法も無いとは言い切れません。ましてや貴女は前世の記憶持ち。可能性は0ではないでしょう。……精霊の信徒である私としては、四属性以外の魔法をあまり認めたくはないのですけどね」


 院長は精霊院を預かる身として複雑な心境のご様子。

 アニスは精霊信仰の教えを生まれた時から身近に感じているが、完全な信徒というわけではない。そして今の私、日本人の感覚として宗教はあまり意識するものではない。初詣は神社に行き、結婚式を教会で挙げ、葬式をお寺に頼む日本人だ。そこに『宗教的に~』なんて考える一般人はそんなにいないだろう。


 ――つまり、私は院長の心情に配慮をするつもりはない。


「まぁとりあえずやるだけやってみますね」


 院長が微妙な顔をしているのを完全に無視して、まずはイメージ。いきなり雷とか起こすわけにもいかないので、向かい合わせた人差し指の間に電流を流すようにしよう。

 精霊への呼び掛けは……いるかどうかわからないが、とりあえず電気の精霊さんお願いしますと心の中で呟いておこう。

 魔法の詠唱は単純に。


「エレキ」


 ジジジッという音と共に青い光が指の間に現れる。うん、あっさりとできた。


「院長先生、できました!!」


 院長はものすごーく困った顔をして「そんな簡単に新しい属性を作らないでください」と頭を抱え始めた。そんな事言われてもできてしまったものは仕方がない。


「この調子なら時空魔法も使えるかもしれないので、ちょっと試してみますね」


 イメージは時止め。復活した吸血鬼が人型の精神エネルギーの能力で使うアレみたいな。ナイフ投げるメイドさんでも。

 呼び掛けは時空の精霊さんで良いのだろうか? まぁとりあえず他の魔法と同じようにお願いをしておく。

 そして詠唱はわかりやすくしておこう。


「ストップ!」


 ――静寂。視界に広がる中で動く物は……思いっきり鳥が空を飛んで、雲が流れ、風で木々が揺れ、そして隣から咳払いが聞こえた。


「時空魔法はかなりの使い手でも、コップ程度の物を20バム(約30分)程度の時間止められれば良い方です」


 バムってのがよくわからないけどそんなに万能じゃないみたい。っていうかそれを先に言って欲しかった! 意気揚々と詠唱した自分が恥ずかしい!


 ならば、と私は足元の石を拾い、上に軽く放り投げる。そして石が空中で停止するイメージで「ストップ!」と唱える。すると――ボトリ、と石は地面に転がった。


「時空魔法は使えないみたいですね……」

「私は貴女がこれ以上非常識な存在にならなくて安心しましたよ」


 非常識呼ばわりは失敬だが、この世界の常識が把握できていないので反論できない。


 まぁそれは置いといて、とりあえず本来の目的である電気の魔法が使えるのは非常に喜ばしい。せっかく広い場所にいるのだから、もう少しこの場所を活用した魔法を試したい。


「せっかく電気の魔法が使えることがわかったので、もう少し色々やってみますね」


 試すのは生体電流。正確には生体電位というらしい。脳の情報伝達も、筋肉の収縮も、細胞の働きは微小な電気によって動作している。

 ではこの電気の出力をあげれば、普段では出せない力が出る――というのが漫画とかで結構メジャーな使われ方をしているわけで。

 で、私はスピードは正義と考えている。

 ほら、ゲームとかで敵の攻撃を防御するより回避したほうがダメージもないし、スピードがあれば敵より早く攻撃できたりするし、そして何よりスピードキャラってカッコいい。

 速さこそ力!! 故に足の筋肉の生体電流を操作して、凄いスピードで走ってみたいと思った。


 イメージは電気刺激による全身の筋力強化。集中して、電気の精霊にお願いする。詠唱は……生体電流の英語訳なんて知らないよ!! 唱えやすいようにエレクトリックを適当に変化させて名前付けておこう。


「エレクトロボディ!」


 唱えた瞬間、全身の感覚が鋭くなったような、それでいてフワッとした感じになった。多分成功だろう。これならイケる!!

 私は右足に力を込めて、思いっきり地面を蹴った。

 次の瞬間、爆発音と共に私は前に進んだ。身体が宙に浮くと同時に、視界に映る地面がスローモーションで流れていく。

 えっ!? なんでスローになったの? さっきの時空魔法が時間差で発動した?

 ……あっ、違う。これヤバイ。今の私はバイク事故とかで吹き飛んだ人と同じ状況だ。死に直面して脳が意識する時間を圧縮した感じ。

 このまま行けば地面に激突するか、大根おろしみたいに地面ですりおろされる。


 待て待て待て。まずは冷静に。

 筋力強化してるから、そのまま足を付けて止まれないだろうか? もちろん一歩で止まれるスピードではないから、走りながら減速するようにして。

 あまりの勢いで前のめりの体勢になってしまったため、本来前に出すはずだった左足は現在真下より後方。筋力強化されたこの左足を前に出して減速の一歩目にすればよい。

 よし、それで行こう。

 スローで徐々に地面が近付いてくる中、宙に浮いている左足を前に持っていく。そして次の瞬間かかとを地面に――付ける前に、つま先が地面に触れた。それが意味することは、つまり躓いた!!

 滑空に近い状態だった私の身体は、躓いたことで急速に地面に叩き付けられようとしていた。顔面直撃コース!! 下手すると死ぬ!!

 私は全身全霊を賭して両腕を顔の前に持って行き、頭頂部をしっかり掴んでガードする。同時に身体をひねって、なるべく正面ではなく身体の側面から落ちるようにする。


 そして地面に激突。二転三転どころではないほど転がり、全身を打ち付け、長い体感時間を経てやっと止まる。打ち身、擦り傷、切り傷などなど、全身痛くてどれほど怪我したかわからないけれど、とにかく死ぬことだけは免れたようだ。

 そのことに安堵したのも束の間、今度は全身の内側から激痛が走る。

 私はのたうち回りながら思う。これは外傷による痛みではなく、筋肉の悲鳴……!! 未発達の身体で必要以上に筋肉を酷使した結果、猛烈な筋肉痛となって襲ってきたのだ。

 一歩間違えれば靭帯断裂など起こり得る事態だということに気付き、心の中で反省しながら、私はあまりの激痛に意識を手放し気絶した。

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