表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
7/117

6.魔法の勉強

「――納得していただけたところで、私としてはそろそろ本日の本題に移りたいんですけど」


 私は正体を暴かれにここに来たわけではない。魔術士級である院長に魔法について教わりに来たのだ。

 ほんの一瞬だけキョトンとした表情をしたのを私は見逃さなかったが、本当に一瞬だったのであえて見逃す。


「そうでした、貴女は魔法をより深く教わりたいという話でしたね。ではまず、父君からどの程度のことを教えられていますか?」


 私はお父さんから教わったこと、そして私の考えたやり方をそのまま話す。すると、お父さんのやり方は独学らしく、正式な魔法の扱い方は少し違うらしい。


「事前に魔法のイメージをしておくのは間違いではありません。ですが、最初からすべてをイメージしておくというのは柔軟性に欠け、臨機応変に対応ができません。ですので例えば――点火」


 院長はお父さんと同じように指先に火を点した。しかし、お父さんの点火と違って数秒経っても消えずに燃え続けている。


「――このように点火したあと、燃え続けるイメージを持つのです。もう少し具体的な例として……魔術士級になると戦闘能力も持ちますので、炎の矢を周りに十本生み出したとします。父君のやり方のように事前にすべてイメージしておくと、炎の矢は事前に描いたイメージ通りに飛んでいくでしょう」


 ん? それのどこが悪いのだろうか? と思ったが、次の言葉で理解した。


「――ですがそれだと、予想外の動きをされたら炎の矢は簡単に避けられてしまうでしょう。なので正式な魔法の扱い方では、炎の矢を十本生み出すまでをイメージし、そしてそこからイメージで制御するのです。そうすれば十本の矢をバラバラに動く十の敵に当てることができます。もちろん、その制御ができるようになるまでに膨大な練習が必要になりますが」


 つまり、前者だとロボットを決められたプログラム通りに動かすようなもので、後者はロボットを脳波でリアルタイムに操る、みたいな感じか。

 じゃあそもそも、最初から敵に当たるイメージを描いて放てばどうだろうか? と疑問を口にしてみる。


「その場合も同じですよ。こちらのイメージを越えた動きをされたらやはり避けられてしまいますし、間に障害物や無関係の人物などが急に現れた場合、それらに当たってしまいます。もちろんそれらを避けるイメージを追加すれば良いですが、そんな状況予測までイメージしていたら際限が無くなりますし、イメージしている間に敵に行動されてしまいます。ですからまずは魔法を出現させて、こちらがすぐに攻撃できる意思を示す。そうすれば、敵の行動を牽制、ないし限定することもできますから」


 なるほど納得。昨夜寝る前に魔法のイメージを色々考えたが、これは一から考え直す必要がありそうだ。



 その後、先程教わった要領を踏まえて、私がどの属性に対して得手不得手かを調べようということになった。

 得意な属性ならば普通に扱えるが、不得意な属性だと威力が弱かったり、魔法を発動できなかったりするらしい。魔術士級なら、発動できないということはそうそう無いそうだが。

 ただ、誰もが不得意な属性があるというわけでもなく、全属性満遍なく扱えるという魔術士も当然ながらいる。

 私に関しては火と水は問題ない。風と地の属性はまだ扱ったことがないので、それを今から調べるのだ。


 まずは風。無風の応接室で風を起こせれば成功となる。しかし単に風を起こすだけでは芸がないので、さっき作ったハンカチ折り鶴を飛ばそう。

 まずはイメージ。ハンカチ折り鶴が浮く程度に程々の風で、形やバランスを崩さずにテーブルから離陸、壁際で旋回してテーブルに着陸する。

 次に風の精霊への呼び掛け。ひとまず心の中で『風の精霊さん、お願いします』と言っておく。

 そして魔法の詠唱。飛ばすといっても風を起こすだけなのでここはオーソドックスに――


「ウインド」


 室内にちょっと強い風が吹き、ハンカチ折り鶴が宙に舞う。そのままイメージした通りに動き、無事テーブルに着陸した。


「風は問題ないようですね。地属性の魔法に関してはここで発動すると汚れますので、一度外に出ましょう」


 



 精霊院の裏手に回り、魔法を使っても周りに影響の出ない広い裏庭へ出る。


「魔法の発動は周囲の環境に左右されます。風がまったくない地下深くや密閉空間では風の魔法を起こすことが難しく、陽の光が届かないような極寒の地域では火が、空の上では地が、灼熱の砂漠では水の魔法が使えない、といった感じです。魔法とは周囲にいる精霊様から力を借りるものですから、それらが周囲にまったく存在しなければ使うことができないのです」


 さきほど無風状態の部屋の中で風を起こしたが、窓は開いていたので周囲に風が存在する環境であり、問題なく風を起こせたわけか。


「ですので、こういう場所であれば地の魔法を使うには最適です。土壁を生成する、石礫を放つ、なんでも構いませんので、貴女の好きなように魔法を発動してみてください」


 精霊院の裏庭は片隅にちょっとした菜園はあるものの、大部分は特に整地もされておらず、地面がむき出し。多少規模の大きい魔法を放っても大丈夫ということのようである。

 地属性が使えるかどうかを確認するだけなので、院長の言った魔法でも問題はないのだが、せっかくなのでゲームの魔法とか再現してみたい。私が好きなゲームの魔法の一つに、尖ったダイヤが地面の中から複数飛び出し、クルクル周りながら一旦空中で静止したあと敵に突き刺さるというものがある。……とはいえ今は攻撃するような物も無いので、ここはひとまずダイヤの生成辺りをやってみよう。


 ダイヤは高温高圧下で出来た炭素の塊。それを念頭に置いて意識を集中し、手の平にダイヤモンドが作られるイメージを思い浮かべながら『地の精霊さん、お願いします』と心の中で祈る。

 詠唱は――わかりやすい名前にしておこう。


「ダイヤクリエイト」


 すると、手の上に小粒のダイヤモンドが現れた。魔法の行使は環境に左右される、という話なのでてっきり地面から飛び出してくるものと思ったが、まぁ成功したみたいだし気にしなくて良いだろう。


「出来ました!!」


 手の平のダイヤを院長に向けると、院長は驚愕の表情で腰を抜かしていた。あっ、これ魔法としてやっちゃいけなかったやつだ!!


「そ、素材も無しに魔法のみで錬金……!? いやそれよりも!! 前世では宝石の扱いはどのような物なのですか!?」


「ぜ、前世ではほぼ宝飾品として扱われて、ますね!! 基本的に価値が高いものですから、資産として持っておく人も多いです!!」


 院長のあまりの動揺の仕方に、私も動揺しながら答える。


「その辺りは同じですが……それだけですか? はぁ、貴女は知識だけでなく魔法の面でも非常識だとは……いえ、決してそれが悪いというわけではありませんが」


 非常識と言われてちょっと膨れっ面になってみせると、院長が弁明する。まぁ実際に常識がわかってないので本気で怒ってはいないのだが。

 院長は立ち上がって服の土を払いながら、


「あとから説明するつもりでしたが致し方ありません。魔法と宝石の関係について先に説明しておきましょう。私の右手に宝石の付いた指輪をはめているのは見えますね?」


 言う通り、院長の右手人差し指に大きめの緑の宝石をはめた指輪がある。漫画でよく見る成金が付けてるような物で、院長には悪いが似合わないし趣味悪いなぁと思っていた。


「魔法は宝石を触媒に発動することで、大きさ次第でその効果と安定性を引き上げる事ができます。私の指輪では気休め程度ですが、魔術士であれば手の平サイズの宝石を、手持ちの杖の先に付けるのが一般的ですね」


 ほほう、普通の魔術士は宝石の付いた杖を持ち歩くのか。魔法使い級であるお父さんは持っていないがその違いはなんだろう?


「魔法使い級では、宝石を触媒にしても目に見えて効果を引き上げることが出来ませんからね。魔力と宝石の大きさによって効果が比例しますので、魔法使いが魔術士級の魔法の効果を放とうとするならば、あまり現実的ではない大きさの宝石が必要になります」


 小さな村の商人が、魔法の効果を上げるためだけにそんな大きな宝石を所持するなんてのは確かにナンセンスだ。それを売ってお金を得たほうが遥かに現実的である。


「そして貴女は今、素材や魔法陣どころか何の準備も必要とせず、魔法のみでダイヤを生み出した。確かに鉱物ですから地属性かもしれませんが、宝石を魔法で作り出すなど前代未聞! これが何を意味するかわかりますか!?」


 手の平のダイヤは、着火の時の火のように勝手に消えたりすることなく、魔法のイメージが霧散したあともいまだ健在。つまり――売れる!


「これを売ればお金持ちになれますね!」

「違います! いえそれも違わないのですが、そういうことではありません!」


 せっかく興奮気味に答えたのに不正解だった。となると。


「魔法で作り出した宝石を使って別の魔法を増強できる、ということですよね?」

「そうです。さらに付け加えるならば、魔術士は宝石の付いた杖を持ち歩いてる、という先入観が覆ります。杖を持たないということは魔術士とは見られない。杖の先から放たれる魔法は弾道を読みやすいですが、魔法の宝石ならばその生成位置は自在。複数の宝石を作り出して魔法を伝導させれば、その威力は計り知れないものとなるでしょう」


 まだ院長以外に魔術士という存在を見たこと無いのでピンとこないが、院長の様子からして私の魔法の使い方はかなり問題がありそうだ。


「一般的な魔術士がどんなものか知りませんけど、ひとまず魔法で宝石生成できることは秘匿しておいたほうが良い、ということですね」


「当然です。それとさきほど言ったように、貴女が前世の記憶持ちということの秘匿も忘れずに。特にダイヤの生成については、権力を持つ者に知られれば間違いなく危険です。考えうるだけでも、金儲けに使われるか、経済を荒らす存在として消されるか、暗殺に利用されるか、暗殺に利用されることを恐れて逆に暗殺されるか……」


 げぇっ!? それは勘弁願いたい。私はなるべく平穏に過ごしたいのだ。


「……ところで、貴女は今ダイヤのみを生成しましたけれど、もしかして他の宝石も生成できたりするのですか?」


 院長の疑問に、私は再度魔法の詠唱を試みる。

 ルビーとサファイアはコランダムという鉱物だったはずだ。不純物によって色が付き、赤色だとルビー、それ以外の色がサファイアとなる。不純物が無ければ無色透明のサファイアだ。

 あとはクオーツまたは石英、水晶だ。無色透明のものをクリスタルと呼び、紫水晶はアメジストである。紫になるのは確か鉄分が加熱によって変化するから、だったはず。

 ガーネットはざくろ石……あとエメラルドとかオパールとかアレキサンドライトとかキャッツアイとか色々宝石名は出てくるけど、さすがにその辺の成分までは覚えてない。


 とりあえずそれらをババっと思い浮かべながら「ジュエルクリエイト」と詠唱すると、両手の平に小粒ながら色とりどりの宝石が出現した。

 あ、大まかにでも成分を知ってる宝石は出てきてるけど、成分を知らない宝石は生成できてないね。ただし琥珀とか真珠とか、成分は知らないけど何からできるかを知ってる、いわゆる生体由来の宝石は生成できてる。


「あ~、生成できない宝石もありますけど、概ね色々生成できますね」

「貴女は今後一切、お金の心配をする必要は無さそうですね……」


 非常識すぎて心底呆れ返る、という表情をあからさまにする院長。できたものは仕方がない。


 日本でフリーターなんてやってたら、そうそうお目にかかることもない手の平にある宝石群。ニヤニヤと頬を緩ませながら眺めていると、ふとあることを思い立った。ここまで(この世界において)非常識な魔法が使えるのならば、せっかくなので私は一つやってみたいことがある。


「まぁとりあえず四属性使えることもわかったことですし、その辺は追々考えるとして――院長先生、電気って何属性になりますかね?」

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ