63.再び王都へ
「基本はできていますけど、応用がなっていません!! アニス様を守りたいと思うのであれば、臨機応変に対応できる剣術を身に付ける必要があります!!」
「はい!! 師匠!!」
パラデシアとのタイマン授業中、外からそんな会話が聞こえてくる。アレセニエさんとモモテアちゃんだ。
アレセニエさんは騎士見習いで、この村の駐在兵さん達よりも腕が立つ。そしてアレセニエさんとモモテアちゃんには、私を守るという共通の目的があるため、それならモモテアちゃんはアレセニエさんに師事したほうが良いのでは? ということで、モモテアちゃんの剣術はアレセニエさんから習うこととなった。
「あっ、ところでパラデシア様。次の王都行きのメンバーってどうします?」
「唐突ですわね。しかし次のメンバーですか……。アニスの盾であるアレセニエは確定として、ポートマス院長がいない現状では、私かモモテアのどちらが行くことになりますね。精霊院の業務は院生に任せても別段問題ありませんが――」
そこでふと考え込むパラデシア。
「――とはいえ私が行くと実家に顔を出す必要がありますし、そうなると兄がアニスに会おうとする可能性がありますね……。アニス、今回はモモテアを連れて行きなさい。私は村にとどまっておきます」
でた!! パラデシアの兄!! いやホント、マジでどんな人なんだろう?
「パラデシア様がそれで良いなら良いんですけど……」
「褒美の知識を貰いに行くだけなのでしょう? 警戒の必要はありますけれど、前回のような危険に巻き込まれることは流石にないでしょう。前回とは違って守り手が二人もいるわけですし。モモテアの初護衛の手並みも拝見できますから、うってつけかと」
なるほど、そういう考え方もあるか。
「わかりました。じゃあそのメンバーで行ってきます」
――と、いうわけで前回から一ヶ月後。再び王都にやってきた。
今回の道中も特に何もなかった。まぁ強いて挙げるなら、モモテアちゃんは初めて村の外に出たため、テンションアゲアゲだったことくらいか。変化のない道のりだったから徐々に落ち着いていったけど。
「うわぁでっかいね!! お姉さま!!」
村とは違って2階建て、3階建ての建物が多いので、初めて見る王都の光景に大変はしゃぐモモテアちゃん。和む。
「人が多いからぶつからないようにね」
「大丈夫ですお姉さま!!」
そう言ったモモテアちゃんは、あっちこっち視線と身体を動かして、右へ左へ忙しなく移動する。たまに後ろ向きに動いたりして危ないと思うも、ぶつかりそうになったら後ろに目が付いているかのようにサラリと避ける。
「アレセニエさん、鈍くさい印象だったモモテアちゃんの動きが、なんだか凄く洗練されてるんだけど……」
「騎士が習得する気配察知の仕方を教えました。彼女は理論よりも感覚派のようなので、イメージさえ掴めれば習得は早かったですよ」
凄いな騎士。そりゃあ兵士10人と騎士3人で戦っても押し勝つわ。
「じゃあお父さんは先にリッチタイラーに行ってるから。アニス、あんまり遅くならないようにね」
「わかった、お父さん」
宿は前回泊まった高級宿、リッチタイラーになった。お父さんだけなら安宿でもいいけど、今回は女性が三人もいるのだ。ある程度のセキュリティは確保しておきたい。お金は前回稼いだ分があるから心配ないし、あと個人的にお風呂も入りたい。安宿にはお風呂なんて無いからね。
私達はお父さんの馬車を見送り、前回できなかった王都観光と洒落込む。保護者はアレセニエさん。王都に住んでいた彼女がいれば、迷う心配もない。
「アニス様、何処か行きたい所はありますか?」
「ん~、行きたい所というか会いたい人はいるんだけど、何処に住んでるかわからないから今はいいや。ひとまずブラブラしてみよう」
そんなわけで私達三人はリッチタイラーに向かいながら、面白そうな雑貨屋を覗き込んでみたり、市場の食料品の相場をアプリコ村と比べてみたり、喫茶店に入って甘味を味わったりして、王都を満喫する。
「王都って……王都って……何でもありますね!! お姉さま!!」
「モモテアちゃんが楽しんでるのなら良かったよ」
「お姉さま、連れてきてくれてありがとうございます!!」
満面の笑みを浮かべながら楽しそうにクルクルと廻るモモテアちゃん。道の真ん中でそんな事すると危ないと思うも、絶妙に衝突を回避するので心配するだけ損のようだ。
ふとその時、急にモモテアちゃんが真面目な顔付きになり、私を守るように前を陣取る。
「お姉さま、少し強めの魔法を感じました。こっちに向けられたものではないみたいですけど、一応警戒を」
うおっ!? モモテアちゃんの魔力感知か!!
周囲を見渡してみると、人通りの中で何人かが視線を一方に向けていることに気付いた。その全員が杖持ち、つまり魔術士だ。彼らの見ている方向は路地裏。これらのことから察するに、路地裏で魔術士級の魔法が使われた、ということなのだろう。
「おそらく学園生徒の喧嘩でしょう。王都ではしばしばあることですから、あまり気にしても仕方ありません。巻き込まれないうちに離れましょう」
「放っておいて大丈夫なの?」
「すぐに衛兵が来るはずです。対処は彼らに任せれば問題ありません」
アレセニエさんの言葉に従って、私達は再び歩き出す。路地裏の魔法を感知した他の魔術士達も、すぐに興味を失ったようで何事もなく歩き始めた。
そしてアレセニエさんが言った通り、しばらくして衛兵たちが路地裏に入っていく様子が遠目に見えた。
「もしかして、街なかで迂闊に魔法って使えない……?」
「魔法使い級の魔法であれば大丈夫ですよ。魔術士級の魔法でも、屋内や広い敷地で放つ分には問題ありません。要は通報されるような場所、状況でなければ良いのです」
ということはアレか? 目的もなくドライバーを持ち歩いていると捕まるけど、キチンと仕事道具として証明できれば問題ない、みたいな考えと同じようなものか?
それからもう少し観光を楽しんだあと、私達は夕方頃にリッチタイラーへと辿り着く。
四階建ての外観に、ほへ~と見上げるモモテアちゃんに和みながら、私達は中へと入る。
「お待ちしておりましたアニス様。お話はブルース様より伺っております。すぐにお部屋へご案内いたします」
受付で待機していたらしい支配人の歓迎を受け、すぐさま部屋へと案内される。案内された部屋は――前回のスイートルームだった。
「いや、今回はもう少しランクを下げてもらっても良いんですけど……」
「サービスでございます」
「お父さんもいないんですけど……」
「女性三人の中に男性一人はさすがに気まずい、とのことですので、ブルース様には二階の個人部屋をご提供させていただきました」
あ~、それは考えてなかった。家族だから一緒の部屋に泊まるものと勝手に思ってたけど、知り合いの娘と若い女性がいたらそりゃ居た堪れないわ。
お父さんはお父さんで村から持ってきた品物の売却と仕入れ、私は褒美の知識を貰いに行くから、基本的に別行動である。部屋が分かれてても支障はなさそうだ。
サービスならば受けなきゃ損、ということで私達はその好意に甘えることにした。
勝手知ったる部屋なので、二人に説明するため一通り案内する。モモテアちゃんは好奇心旺盛に色々と観察し、アレセニエさんは間取りや動線、窓枠の大きさや剣を振れる広さの確認など、警戒心バリバリに観察していた。
案内が終わったら夕食の時間まで寛ぎタイム。ふかふかのベッドに興奮しているモモテアちゃんに和みながら、私とアレセニエさんは明日のことについて話をする。
「――では明日は、サクシエル魔法学園に足を運ぶ、ということで良いのですね?」
「うん。学園の窓口で学園長に会いに来たって言えば、案内してもらえる手筈になってるって」
「明日はあのでっかい建物に行くんですか? お姉さま」
「そうだよ。もちろんモモテアちゃんも一緒だからね」
「わ~い!! 楽しみです!!」
明日サクシエル魔法学園に行けば、時空魔法と鼠人について教えてもらえる。
元の世界に帰る手がかりの一端でも掴めれば良いのだけれど、果たして――。
……とその前に、まずは夕食を食べなければ。




