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50.閑話 権力を求めて

 俺の名前はティローゾ・ドゥーン・ガロジット。そう、ドゥーンだ。俺は平民から貴族になったのだ。

 元々は北部の寒村で暮らす、しがない農民の息子だった。土地柄あまり農作物は実らず、いつも食べる物に困り、たまに退治されて手に入る魔物の肉すら、忌み嫌うべき物と知りつつ俺にとってはごちそうになるほどだった。


 そんな貧しい暮らしの中、ある時俺に魔術士級の魔力があることがわかった。魔術士になれば、こんな貧しい暮らしからおさらばできる……!! とはいえ学園に通える金など捻出できるはずもないので、俺は神殿に入ることとなる。

 神殿に入ると、それまでの暮らしが一変した。神官としてやることは多いものの、食べ物に困ることはなく、清潔な部屋で毎日過ごすことができ、魔法で魔物退治をすれば称賛される――。


 なんだこれは? 俺が今まで苦労してきたのは一体何だったのだ?


 俺は神官業務の合間を縫って、考え、学び、調べた。

 そして行き着いた先は……全ては金だ。金なのだ。金さえあればあんな苦労もしなかったのだ。

 しかし金だけでは不十分。今まで苦労してきたのだから、金を手に入れるのにまた苦労するなど馬鹿げてる。楽して金を稼ぐ手段を得なければ。そのためには――権力だ。そして地位。これらがあれば、不自由とは無縁になるはずだ。


 神殿で地位を上げるならば、神殿長になるしかない。

 神殿長になるには……魔導師級になる必要がある。


 それから俺は、己の魔力を上げるためにあらゆる事をした。

 魔法を魔力が続く限界まで放ち続けたり、立ちはだかる魔物をことごとく殲滅しつくしたり、逆に魔石から、気分が悪くなるほどの限界まで魔力を吸収したり、立入禁止の部屋に保管されていた、ある書物に描かれた禁忌とされる魔力増加の魔法陣を試してみたり、魔物に殺された魔術士の、その肉を食らってみたり――。


 何が効果的だったかは今となってはわからないが、俺の魔力は望み通り魔導師級へと到達した。魔物を大量に殺したおかげで、貴族の称号も手に入れた。

 そして同じ時期に、別の能力も発現した。

 人の欲望や執着心を増幅させるというものだ。さらに、その欲望を刺激することで、俺の言うことを聞きやすくすることもできる。とても素晴らしい能力だ。

 デメリットはいくつかある。この能力で縛れる人数はそこまで多くないということと、能力下に置いた状態で欲望の内容を聞き出そうとすると、能力が解けてしまうことだ。

 前者はどうしようもないが、後者はやりようもある。能力を発動する前に欲望を知ることができればいい。もしくは推測できるような判断材料が揃えば問題ない。

 加えて、たとえ相手の欲望が分からなくても、能力下に置いておいた時間に比例して俺の言うことを聞きやすくなる。欲しい人材がいるがそいつの欲望がわからない、という場合でも、とりあえず時間さえかければ忠実な部下にできるのだ。


 それからは早かった。神殿長を言いなりにし、引退させて俺がその席に納まる。そして俺の周りを忠実な部下で固めれば、俺のやることに文句を言う奴はいなくなる。

 寒村で過ごしていたら絶対に知ることのなかった、金の力。権力の味。神殿では咎められる、酒。女。――こんな甘い蜜を知ったら、手放せるはずがない!!


 そしてふと思う。権力には――まだ上があるな?






 ある時、神の怒りを落とした子供がいる、という情報が入ってきた。

 神の怒りを落とした? それはつまり、神の力を扱うことができるということ。

 真偽は不明だが……まぁそんなものは関係ない。扱えなくとも「神の力を扱った」という情報さえあれば、そいつは神に選ばれた存在として祭り上げることができる。神殿の力を増す一助とできる。

 是非とも手に入れなければ!!


 子供がいるという場所はアプリコ村。確か……ポートマス元神官長が向かった村だ。俺が神殿長になった直後に、異動願いを出してきたのだったな。ポートマスにはそのうち能力を使おうと思っていたが、直接命令が下せない場所に行くとなると能力の枠が無駄になるので、使わずに異動願いを受理したことを思い出す。


 早速ポートマスに、件の子供を連れてくるように手紙を出した。

 そしてポートマスは……その子供を連れてこなかった。村から連れ出すには王女の許可がいるだとかの嘘の理由で。

 最初は信じてしまい、くそっ、俺の上に立つ忌々しい王族め!! などと思っていたが、すぐに子供は王都にいることがわかった。ポートマスめ、小賢しい真似を。


 俺が情報を知ったのは、俺の能力下に置いておいた元騎士が、子供の泊まる高級宿で騒ぎを起こしたからだ。あの子供への執着心を膨らませた者ならば、すぐに成果を出してくれると思っていたが、期待以上の働きだ!! 殺しかけたと聞いた時は少々焦ったが……。

 元騎士共が捕まるのは想定内で、俺に関することを決して口にしないよう命令しているのでそこは問題ないのだが、以降の子供の足取りが消えたのは予想外だった。

 人員をいくら割いても見つかる気配がないので、王都を出た可能性を考えねばならなくなった。くそっ、せっかくのチャンスを逃してしまったか。


 だがまぁいい。それならそれで、先に王族をその地位から蹴落とす計画を進めるだけだ。そのためにまず、ポートマスを俺の言いなりにさせる必要がある。

 こいつはその実績から慕っている者が多い。ポートマスを言いなりにすれば、ポートマスの言うことを聞くそいつらも、自動的に部下として手に入るという寸法だ。


 ポートマスの望みは、老い先短い余生を静かに過ごすこと。異動願いを聞いた10年前、確かにそう言っていた。年齢を鑑みて、この願いが変化することなどそうそうないだろう。俺の能力で操るのは容易いはずだ。


 あらゆる所にいるポートマスの子飼いがいれば、知られていない王族の不祥事を見付け出すこともできるだろう。


 ――そうして操り、ポートマスに王族の不祥事をリストアップさせる。そして見せられた不祥事リストは、王族の力を削ぐのに十分なものだった。これは使える!!


 そんな折、お茶会の招待状が届いた。主催者は同じ神と精霊の信徒である、上位貴族のパラデシアだが……。場所は王族の離宮となっている。となると、無垢姫が関わっているな?

 無垢姫といえば件の子供に会ってきたはずで、お茶会の目的は不明だが、子供に関する可能性は十分にある。無くても、不祥事リストを突きつけて王族の力を削ぐチャンスだ。

 今まで無垢姫と会うのは可能な限り避けていたが、今回は出席しよう。

 王族の、終わりの始まりなのだからな!!




 そしてお茶会に出席したのだが――何故だ!? 何故さっき廊下で会ったみすぼらしい子供が、このお茶会に出席している!? しかも、こいつがアニスだと!?

 ……いや落ち着け。ポートマスには「アニスを見たら教えろ」といった命令は何もしていない。誤魔化されたのは非常に納得いかないが、俺の能力下に置いてまだ日が浅いので、そういうこともあるだろう。……そういうことにしておかなければ、意味がわからない。


 庇護下宣言を出され、直接の質問すら許されない状況にされたが、こちらの目的は別にある。不祥事リストさえあれば、貴族内から不満が広がり、やがて王都全体に広がって、王族は引きずり降ろされるはず――だったのだが。


 ――何故、俺の裏取引の内容が読み上げられているんだ? 一体、何が起こっている? これでは王族ではなく、俺の地位が引き摺り下ろされるじゃないか。

 考えられる要因としてはポートマスだ。だが、俺の能力下に置いているにも関わらず、ここまで俺の意に反した行動を起こせるとはとても思えない。何なんだこれは?


 こうなってしまってはこの国にはいられない。せっかく手に入れた物を手放すのは癪だが、魔導師級である俺ならば、他国でもそれなりに重宝されるはず……いや、待てよ?

 他国に逃げるのならば、このアニスとやらも手土産にすれば高待遇で迎え入れてくれるのではないか?

 神の力とやらはまだわからないが、即席で杖や宝石の剣を作り、氷だらけの環境で火属性をいとも容易く放ったその能力は、あまりにも非常識だ。使いようによっては莫大な利益と功績を生む。


 だから命令したのだ。俺の言うことを聞けと。神の力で邪魔者を排除しろと。そうすれば、身の安全を保証してやると。


 アニスは魔法を唱える。俺は笑いが止まらない。アニスが命令に応えたということは、神の力を扱えるということにほかならない。俺の命令で、神の力を自由に使える!! これは、伝説の始まりと言っても過言ではない!!


 次の瞬間、視界が真っ白になった。そして、全身に激痛が走った。


「な……何……が……」


 ドサリと音がする。身体が動かない。

 霞む視界に映るのは、何の変化もない状況。誰も、攻撃魔法を食らった様子が無い。食らったのは――俺?

おかげさまで50話に到達しました。

ありがとうございます。

まだまだ続きますので、今後とも宜しくお願いいたします。

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