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42.意外な来訪者

 一気に緊張が走る。お父さんもベッド脇に立て掛けていた剣を手に取る。私も頭の中でエレクトロブレインの準備をして「誰ですか?」と尋ねる。


「久しいですね、アニス。いえ、まずは突然来訪したことの謝罪が先かしら? ごめんなさいね」


 えっ、この声は……第二王女か!? なんで!?


 緊張が混乱に早変わりだ。来訪理由も気になるが、そもそもどうやって私の居場所を知った!? いや、それよりもとりあえず先にドアを開け――王女をこんな部屋に招き入れていいの!? あっ、お父さんは相手が王女殿下だってこと知らない!! 王女様を部屋に入れる前に剣を降ろしてもらわなきゃ!!


 などとアワアワしていたら扉が開いた。おわぁっ!!


「……親子の仲が良いのは大変好ましいですけれど、人前で過度なスキンシップは控えたほうがよろしいのではないでしょうか?」


 相手が第二王女だということをお父さんに説明する暇もなかったので、とりあえず飛びかかってお父さんを押し倒してしまった。私が飛びかかれば、怪我をさせないようにお父さんは間違いなく剣を手放すはずで、実際に手放した。これによって「王女に剣を向ける」という不敬を働かせずに済ませたのだ。

 代償として王女にちょっと勘違いをさせてしまうことになったが、必要経費と割り切っておこう。


「いえ、まさか王女殿下が――」

「アニス」

「――はっ、はい!!」

「名前で呼んでください」

「し、失礼しました!!」


 やべ、無茶苦茶凄まれた。王女にとって私に名前で呼ばれることは重要なことのようだ。気を付けよう。

 後ろの騎士二人は――あ、笑ってる。前の騎士達とは少し雰囲気が違うな。


「では改めて……ルナルティエ様が来訪されるなんて思っていませんでしたので、ちょっと動揺してしまいました」

「それについてはわたくしも悪いと思っております。あなた達が潜伏している場に出向くことで、発見のリスクを高めてしまうこと、そして、わたくしの元騎士たちによってアニス達に多大な迷惑をこうむってしまったことも含めて、先に謝罪させていただきますね」


 そして王女はまたしても跪いた。王女が平民の私に対してそう何度も跪くなどあってはならないはずなのだが、これが王女のけじめなのだろう。

 ……それはまぁ向こうの問題なので私が考えることではない。私にとっての問題は、王女が私達の事情をどこで、どこまでのことを知っているか、だ。


「さて、本題に入りたいところですけど、まずは席に着きましょうか。アニスの父君も落ち着かないご様子ですし」


 お父さんのほうを見ると、押し倒された体勢のままガチガチに緊張していた。まぁこの国の最高位に位置する権力者と初めて対面しているのだ。そうなるのも仕方がない。


「お父さん、とりあえず座ろう。ほら、床の剣も拾って」

「あ……あ、あぁそうだね。し、失礼しました」


 私の言葉でとりあえず動くも、緊張は解けない。

 ぎこちない動作で剣を仕舞うお父さんを横目に、私と王女はテーブルの椅子に座る。


 あっ、お茶とか出したほうが良いのかな? でも今日は侍女さん連れてきてないみたいだし、私が淹れたお茶とか飲んでくれるの? 村に来たときは侍女さんが淹れて、侍女さんが毒味もしてたな。もしかしたら毒味のやり方とかあるかもしれないし、この場は出さないほうが良さそう。


 そんな事を考えていたらお父さんも着席した。私達が居住まいを正すと、王女が話を切り出した。


「それでは本題に入りましょうか。アニスにあれを渡してください」


 王女が騎士の一人にそう命令すると、騎士は私の前に一枚の羊皮紙を広げる。


 これは……お茶会の招待状?

 こんな状況でなければ別に招待を受けても構わないのだけれど……。いや、こちらの状況は向こうもわかっているはずだ。どうやって知ったかは知らないが。

 状況をわかった上で招待しているのならば、当然何かしらの意図がある、ということだ。


「ルナルティエ様、説明をお願いしてもよろしいでしょうか?」

「もちろんです。ですがまずは先に二人が考えている懸念を解消いたしましょうか。わたくしがアニスの居場所を知った理由です。――と言っても、そんなに難しいことではありませんよ。パラデシアに聞いただけですから」


 ガクッと来た。思っていた以上にストレートだった。そりゃ知ってる人間から聞けば一番手っ取り早いわ。


「――ですが、アニスが王都に来ているということを知ったのは、下から上がってきた事件の報告書ですよ。報告書では少女が賊に襲われた際、通りすがりの魔術士が剣を鎖に変化させて捕縛したらしい、といったことが書かれていましたけれど、わたくしにはその状況にとても心当たりがありましたから」


 うふふ、と微笑む王女様。

 あちゃ~、そこから勘付かれたか。しかしその文面で気付くのは村に来た王女様とその一行だけだ。あの一行には守秘義務があるって言ってたから、義務を怠らない限り他者に私の存在が知られることはないだろう。ひとまず安心していいと思う。

 しかし、市井の事件の報告書なんて王女の管轄外なのでは?


「貴族が関与している可能性があるものに関しては、目を通すこともあるのですよ。ただの一般市民のいざこざだと思っていたら、裏で貴族間の派閥争いが関係していた、ということが過去にもございましたし」


 さすがにそれは衛兵だけでは対応できない、ということで、貴族に関わりがありそうな事件や事故の報告書も目を通すようになったのだとか。

 王族も大変だなぁ。


「まぁ、その報告書をわたくしが読んだのは偶然でしたけれどね。そしてその報告書をしたためた衛兵隊の隊長を呼び出して事実確認をおこない、少女の容姿を聞いてアニスと断定したのです。そしてパラデシアも来ているのではないかと思って呼び出したところ、この宿から手紙を受け取ったあとだったため、こうしてわたくしはアニスに会いに来ることが出来た。ということなのです。事情もパラデシアから大体のことは伺っています」


 王女様、隊長さんに能力使ったな? あの、嘘をつけなくする能力は本当に厄介だ。もし敵対などしていたら、隠れたとしても今回のようにすぐにバレて逃げ惑うしか無かっただろう。味方で本当に良かった。……味方と見て良いんだよね?


「ルナルティエ様、一つお聞きしたいことがあるんですけど、あの元騎士たちは何か言っていましたか?」


 支配人によると黙秘を貫いているらしいのだが、王女様なら能力を使って聞き出すことができるはずだ。王女様がこちらの事情を知っているのなら、すでにやっていてもおかしくはない。


「それなのですが……彼らは今、少々まともに話せる状況ではないのです。話せるようになり次第、アニスには早急にご連絡いたしますね」


 何かあったのだろうか? 気にはなるけど、この件に関してはそれ以上踏み込める流れではなくなったので、とりあえず頭の片隅に投げ捨てた。


「ルナルティエ様がここを突き止めた理由は理解しました。それで、こちらの事情を知っていながら、お茶会の招待をするというのはどういう理由からでしょうか?」

「その理由ですけれど、お茶会は口実で、目的は別にあります。アニスも薄々気付いているとは思いますけれど、いくつかの派閥が貴女を利用しようと動いています」


 その可能性はパラデシアと院長からずっと聞かされている。しかし、村から出る機会の無かった二人の推測と、実際に貴族の動向を近くで見ている王女では、信憑性が段違いだ。可能性ではなく、確実な話となった。


「ですので、お茶会にそういった者達を招待して、牽制をおこないたいのです。とはいえ、アニスはあまり心配する必要はありませんよ。内々でおこなう小規模なお茶会で、アニスがわたくしの庇護下にあると知らしめる程度のものです。貴女は何もせず、お茶会のお菓子に舌鼓を打っていればそれで構いません」


 なるほどそういうことか。王女様の庇護下にあると宣言することで、他の貴族が手を出しにくくするという狙いか。

 貴族の細かい事情を知らないので少々判断に迷うが、少なくとも身の安全がより高まるのなら受けておいたほうが良いのだろう。庇護下宣言によって面倒事が今後おこらないとも限らないが。


「わかりました。お茶会の招待、お受けいたします」

「ありがとう。アニスなら受けてくれると思っていました。それではアニスの父君、今からアニスをお借りいたしますね。アニス、ドレスの準備をしてきてくださる?」

「は、はい。――えっ!?」


 ……えっ!? 今から!?

おかげさまで1万PVを越えることができました。

ありがとうございます。

今後ともよろしくお願いいたします。

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