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3.父と魔法

 私は父がいる自宅の店舗スペースに向かう。父は開店作業を終え、カウンターの内側で簡単な内職作業をしていた。

 ちょっとくすんだ感じの金髪に、私と同じ翡翠色の眼。私の眼の色は父親譲りだ。雰囲気は温和というか頼りなさげだが、母アニー曰く、商人ゆえに交渉事や駆け引き等は上手いらしい。

 元々大商人の次男坊で、長男とどちらがお店を継ぐか競わされていたみたいだが、当時農家の娘であったお母さんに一目惚れして、ほぼ駆け落ちみたいな形で今の状況になっているらしい。凄い行動力だ。


 そんな父をしばらく眺めていると、集中していたのかやっとこちらに気付いて作業の手を止めた。


「お父さん。魔法のこと教えて」

「おや、アニスに前に教えた時には魔法の素養は無いみたいだったけど……まぁいいか。じゃあ復習しよう」


 父は長椅子にあった内職道具をカウンター上に置いて、私を隣に座らせる。


「まずは前にやったみたいに魔法を見せよう。いいかい、よく見ててね?」


 おもむろに人差し指を上に向け、意識を集中し「点火」と呟くと、人差し指の先に火が点った!! おぉ!! これぞまさに魔法!! 夢やファンタジーじゃなく、現実に魔法が存在する!!

 私がキラキラした眼で魔法を見つめていたせいか、父は誰が見ても明らかなドヤ顔になった。……まぁ可愛い一人娘から尊敬の眼差しを向けられたら、調子に乗ってしまうのも仕方がないだろう。

 心の中でちょっと呆れつつも火を眺めていたら、指先に灯った火は数秒で消え去る。意図して消したのか魔法の効果が切れたのかはわからない。


「魔法とは、自然界に存在する火・水・風・地の精霊の力を借りて発動するものなんだ。私達には精霊を見ることも感じることもできないけれど、確かに存在するから、魔法を使う時は意識したほうが良いよ。発動には魔力が必要になり、これは個人差があるけれど、アニスにはたぶん魔力が無いみたいだから、発動できないかもしれない。ここまでは良いかい?」


 ほほう、この世界には精霊が存在するのか。食前も精霊に祈りを捧げていたし、魔法のみならず人々の生活と密接に関係しているのは間違いないだろう。

 私は力強く頷き、先を促す。


「魔法を発動させる時は、その精霊の力を借りてどんなことをしたいか、というイメージが大切になってくるね。そのイメージがハッキリしていれば、それだけ強い魔法を発動することができるわけだ」


 そこまで聞いて私は少し考える。アニスに魔力が無いと言われている理由はこれではないだろうか? ようするにイメージ力が足りないのだ。もしそれが理由ならば、私が魔法を使える希望はまだまだある。なにせ様々なファンタジー作品を見てきたことで培った魔法のイメージが、今の私には存在するのだ。まだ魔力とやらの有無を調べる必要はあるが、それさえクリアできれば魔法を扱える可能性はほぼ確実にあるだろう。と私は確信する。

 私が真剣な表情で魔法講義を聴いているのに感心したのか、父はウンウンと頷いたあと話を続ける。


「魔法を発動するための言葉は特に決まってなくて、実は何でもいいんだ。無詠唱でも発動するけれど、発動する時にその魔法をイメージできる詠唱があったほうが効果が高くなるから、魔法が使える人は自分が使える魔法一つ一つに命名して、それを詠唱してるね」


 なんと!! つまり「ファイヤーストーム!!」と詠唱して氷の矢を放つ、みたいなちぐはぐなこともできるわけだ。いや、イメージが一致しないのでダメなのか? 下手すると威力が落ちたり発動しなかったりしそう。

 あれ? 私今、前世の記憶のせいで魔法と言えば攻撃魔法な感じで考えてたけど、父はどの程度効果のある魔法が扱えるのだろう? 先程の点火程度では攻撃に使えるとはとても思えない。


「お父さんはどれくらい魔法が使えるの?」

「お父さんの魔法は生活に使える程度だから、分類としては魔法使いだね。魔法で魔物に傷を付けたり、広い範囲や大勢に魔法の効果を与えられるようになると技術があるとして魔術士と呼ばれ、魔物の大群に立ち向かえたり、地形や天候を操れるレベルになると導ける者として魔導師と呼ばれるようになるよ。まぁ魔導師レベルの人になるともはや国のお抱えとかになるから、まずお目にかかれないだろうけどね」


 なるほど、魔法を扱うにしてもそれ相応の区分があるわけか。お父さんは商人にして大魔術士!! みたいなそんなファンタジー小説みたいな設定ではなかったか。


 その後、魔法に関して他に何があるか聞いてみたが、基本的なことはそれくらいでそれ以上のことは父も知らないとのことだった。まぁそもそも商人だしね。父レベルの魔法を使える人はそれなりに多いみたいだし。


「魔法を扱えるかここで試してみるかい?」


 私は首を横に振り、丘でやってみると言うと「アニスは丘が好きだね。もし魔法が使えたら教えておくれ」と、にこやかに私を送り出した。

 ――あれは可愛い娘を応援はするけど、魔法が使えないことを確信している表情だな。あわよくば使えずに落ち込んで帰ってくる娘を慰めようという魂胆も見え隠れする。7歳のアニスでは分からなかっただろうが、日本社会に揉まれて生きてきた私に、場の空気や顔色を読めないはずはない。


 当然そんな事を考えているとはおくびにも出さず、私は近くの丘とやってきた。ここなら周りに何もなく、万が一があっても大丈夫だろうという判断だ。

 この丘は登ると私が住んでいる村が一望できる。そう、ここは小さな村である。住民の多くは農家だが、酒場兼食事処やお医者様、鍛冶屋や仕立て屋といった各種お店、精霊院(教会のようなもの)、荒事や魔物対策で王都から派遣されている駐在兵もいる。私の自宅で両親が雑貨屋を営んでいるため、最低限の生活であればこの村だけでも行えるようになっている。


 周りに人や物が無いのを改めて確認し、とりあえずまずは父がやった魔法を真似ようと思い、人差し指を立てて意識を集中。周りに存在する精霊を意識すると言われてもよくわからないので、ひとまず心の中で「精霊さん力を貸して」とお願いしながら、指先に小さな火が出現するイメージ。その際、父がやったように指の先に火が出るのは熱そうだしちょっと怖いので、指先から少し離れた所に火が出るようにする。具体的なイメージがあったほうが良さそうだと考え、日本で売ってる引き金を引くと長いノズルの先から火が出て、安全に着火できるアレをイメージした。


「着火!!」


 呟きと共に、イメージ通りに魔法の火が付いた。やはり私には魔力があったのだ。この事実は嬉しい!!

 しかし喜んだのも束の間、父の魔法が消えた時と同じように、私が出した魔法の火は数秒で消えてしまった。どうやら火を点ける、というイメージだけでは効果が続かないようだ。ならば、次は効果が続くようにイメージして魔法を使ってみよう。


 えーと、普通の火が燃え続けるのは周りに酸素があるからだ。魔法でできた火は普通の火ではないからか、周りの酸素を取り込まないのだろう。ならば、魔法の火に酸素を供給するイメージをすればどうだろうか?

 指先に意識を集中して、イメージを練って再び「着火」と呟く。


 轟音とともに火柱が立ち上った。


 驚いて声にならない声を上げながら尻餅をつく。その際、指先を上に立てたままにした自分自身を褒めたい。うっかり指先を倒してしまい村を焼く、なんてことになったら確実にトラウマだ。

 ジリジリと全身で熱を感じながら、頭は真っ白になる。数秒経ってからどうにかしないとという考えがやっと浮かび、すぐに火柱を消すイメージを浮かべる。すると、イメージ通りに火柱は消えた。


 ……原因はたぶん、明確な供給量をイメージしていなかったからだろう。父から魔法講義を受けた時、イメージで魔法が放てるなら、事前に魔法の効果イメージを決めて一つ一つに命名、なんて面倒なことしなくても、その時その時でイメージして適当に詠唱すればいいんじゃない? とか思ってたけど、事前に明確なイメージを固めることによってある程度制御し、命名によって常時適切な効果を発揮できるようにしている、ということに気付いた。なまじイメージ力が高い私は、今後そのことをしっかり頭に入れてから魔法を使わないと危険だ。

 

 考えがまとまってさぁ立ち上がろう……と思ったけど立てない。腰が抜けたようだ。村を見るとザワザワと騒がしくなっており、みんなこちらを見ている。


 う~ん、やりすぎてしまった。

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