34.いざ王都へ
飽きた。
いや、王都まで片道三日間の道程なんだけど、基本的にずっと平原で、たまに木々があったり川の側を通ったりするくらいで、景色があまり変わらないのだ。
移動は日の出から日の入りまでの半日。軽く朝ごはんを食べて、移動して、途中でお昼ごはん食べて、移動して、日が落ちてきたら晩ごはん食べて寝る。……道中暇すぎる!!
魔物も滅多に出ないらしいし、動物も野うさぎ一匹出てきた程度である。パラデシアがそのうさぎを仕留めたため、初日の晩御飯のおかずが一品増えた。野うさぎを捌いている間はもちろん目を背けてた。
夜間はお父さんが浅い睡眠をしてて、何かあったらすぐに起きて対応できるようにしているらしい。いつも一人で王都に行ってるから特に問題ないとのこと。頼もしい。
そして二日目の晩ごはんの時、お父さんがこう口にした。
「パラデシア様。アニスと共にプルーメトリ家にお世話になる話ですが、お断りさせていただいてもよろしいでしょうか?」
私がプルーメトリ家に滞在するならお父さんも一緒に、という話になっていたのだが、お父さんが断りを入れ始めた。えっ!? じゃあどうするの?
「何か宛てがあるなら私は構いませんが、断る理由を聞いても?」
「パラデシア様には、アニスの教育等で返しきれない恩がございます。しかし、プルーメトリ家に匿ってもらうということは、パラデシア様だけでなくプルーメトリ家そのものに恩を作ってしまうことになり、アニスがプルーメトリ家に利用されるという懸念がございます。パラデシア様は信用できますし、おそらくそのようなことは考えていないでしょうけれど、プルーメトリ家がそうであるとは限りません」
うおっ!! そんなことまったく考えてなかった!!
確かにパラデシアには相当お世話になってるし信頼もしてるけど、その家族が信頼できるかと言われれば確かにノーである。
「貴族に対して隙を見せない――。貴方、貴族への対応を心得ているようですね。しかし、それではどこに滞在するつもりですか? 貴方が普段利用しているような安宿では、あまり安全ではないということは貴方もわかっていると思いますけど」
「パラデシア様へ更に恩を作ってしまうことになりますけれど、できればお金を貸していただけないでしょうか? そのお金で高級宿に宿泊したいと思っています」
おっと、お父さんは私が宝石生成できることを知らない。なるべく知られないようにと言われていたから、この魔法は両親にも秘密にしていたのだ。
お金を借りなくても、私がお金になる宝石を生成すれば済む話である。
院長に目配せすると、院長が軽く頷く。情報解禁の許可がでた。
「お父さん、お金なら心配しなくてもいいよ。私が宝石をいくらでも生成できるから、売って宿代にして」
私はジュエルクリエイトを唱え、手のひらにいくつもの輝きを生み出す。お父さんは驚きのあまり目を見開いてしまった。
「こ……これは……、こんな魔法があるなんて……。お二人は知っていたんですか!?」
「ええ。この魔法はあまりにも影響が大きいので、可能な限り秘密にしていたのです」
お父さんが恐る恐る宝石を手に取り、じっくりと観察。「これなら……確かに売れる」と呟いた。
「お金は解決するとしても、貴方の身元では高級宿には泊まれませんよ。どうするのですか?」
「あまり気は進みませんが、これを使おうと思います」
お父さんは懐に手をやると、一枚のコインを取り出した。お金かと思ったが、デザインが違う。特殊なコインのようだ。
「それは……アネス商会のコイン!? 貴方、アネス商会の関係者なのですか!! 経営方針がまるで違うので、てっきり名字が同じだけの他人かと……」
今度はパラデシアが驚く。なんか凄い効力のあるコインらしい。
お父さんは元々大商人の次男坊で、農家の娘だったお母さんに一目惚れしたため駆け落ちした、みたいな話は聞いたことがある。
このコインは、お父さんの実家であるアネス商会の、しかも特定の関係者しか持っていないコインということのようだ。つまり身元確認には十分な効果を発揮する。――でもこれ、お父さんが使って大丈夫なの?
「実家とは全然連絡取ってないし、もし会えば間違いなく殴り飛ばされるだろうけど、縁切りまではしてないと思うよ。だから使えるはず。ただ、一度でもこのコインを利用してしまうと、足跡を辿られる恐れがあるから使いたくなかったんだけど」
私のために今回は使わざるを得ない、ということか。なんだか申し訳ない。
「身なりはどうとでもなるとして、立ち居振る舞いは……アネス商会の子息なら、貴族の対応も叩き込まれていて当然ですわね。――はぁ、先に知っていたならこんなに思い悩む必要もなかったというのに」
プルーメトリ家に泊めることをだいぶ苦悩してたみたいだ。パラデシアのお兄さんと私を会わせないようにするにはどうすればいいか? とか、馬車の中でブツブツ呟いてたし。
「良かったですねパラデシア様。私を兄君に会わせなくて済みますよ」
「本当ですよもう。あとはアニスが王都に滞在していることを悟られなければ、大丈夫でしょう」
正直なところ、パラデシアのお兄さんがどんな人なのか凄く気になるのだけど、面倒事が起こる可能性が高いなら避けるべきだろう。それが処世術というやつだ。できてるかは知らんけど!!
「ところで宝石って何処で買い取ってもらえるんですか? というかそもそも王都にはどういう店があるんです?」
何せ今まで村の外に出たことがないので、その辺の知識はさっぱりだ。あっ、一応小さい頃に王都へ連れて行かれたことあるんだっけ? とはいえ記憶にはないので、やっぱり初めてと言っても過言ではない。
「装飾品の材料として売るなら宝飾店、杖の先端部品や魔道具の魔力源としてなら魔道具店だけれど、お父さんは商品として扱ったことがないから、どちらにもコネが無いなぁ……。パラデシア様にはございますか?」
「貴族の嗜みとして宝飾店にも、魔術士として魔道具店にも贔屓にしている店舗はあります。宛てがなければ魔法協会で買い取ってもらうという手もありますが、より高く買い取ってもらうなら、魔道具店が良いですわね。魔力を込めて魔道具用の魔石として買い取ってもらったほうが高くなりますから」
「どれくらい違うんですか?」
「小さい魔石なら同程度の宝石の1.2倍、大きい物なら1.5倍は違うかと。元々価値のある宝石に魔力という付加価値が付くので、再利用できるとはいえ、魔石は大変高級な消耗品なのですよ。そういう理由で、魔道具を使う者の大半は金持ちとなります。一部面倒臭がりな魔術士も魔道具を利用しますが、彼らは魔石を使わずとも自前の魔力で動かせますので、魔石を必要としません」
漠然と魔石は電池みたいな物と思ってたけど、どちらかというと高級なリチウムイオン電池みたいな感じか。それをいくらでも生成できる私マジヤバい。
「じゃあこの宝石を魔石にするとして……子供の私が直接売りに行くのは危ないですよね? パラデシア様お願いできます?」
「構いませんよ。せっかくですから、手間賃として何割かいただきましょうか」
貪欲!! この人なかなかに貪欲!! まぁいくらでも生成できるから良いんだけどね!! 前にも同じようなこと思ったけど!!
「どうやら話はまとまったみたいですので、今日はもう床に就きましょう。ブルース、王都にはいつ頃に着く予定ですか?」
「お昼過ぎには着く予定です、院長。今夜も僕は御者台で寝ますので、三人は馬車の中で安心して眠ってください」
焚き火の後始末をすると、お父さんは御者台の側面から板を引き出し、身体を横たえるのに十分な長さになった御者台で寝る。
私達三人は、ちょっと狭い幌馬車の中で、それぞれ毛布を掛けて眠りに就いた。
翌朝。前夜も無事何事もなく、みんなが起きたら軽めに朝ごはんを食べ、馬二頭に飼葉を与えると、王都に向け出発。
昼過ぎに着く予定とは言え、やっぱり道中は暇過ぎる。
馬車の後ろ側で、過ぎ行く道をボーっと眺めていたら、徐々に畑が増えてきた。
「こんな所に畑?」
「王都内で農作物を育てられるほどの土地は確保できませんから、王都や近隣町村の農家はこの辺りに畑を持っているのですよ」
ということは、王都に近くなってきているということか。
畑の他に牧場もある。食肉用の牛や豚と共に馬も見かけるが、あれは移動用だろうか?
そんなことを考えてしばらくすると、御者台から「アニス、来てごらん。見えてきたよ」と声を掛けられたため、ワクワクしながら御者台のほうに行く。
「……壁?」
左前方には海、右前方には山がそびえ、その中間には巨大な壁がそそり立っていた。
壁の向こう側に、お城の尖塔っぽいのがちょっと見える。
「あれが王都カイエンデ?」
「そう。二百年前に珍しい物好きな王が、西大陸の貿易品をいち早く手に入れるために、元々南にあった都をわざわざここに移した、現在のこの国の王都。海と山に囲まれ、強固な門を築いたことで、非常に堅牢な要塞都市でもある。まぁ、攻められたのは過去に一度だけ、しかも百年以上前らしいけどね」
町並みが見えるのかと思ったが、見えるのが壁だけなので味気ない。
しかし、海側には行き交う船が見えるので興味深い。しばらくそちらをボーっと見ていたら、いつの間にか壁に近付いていた。
正面に目を向けると、巨大な門が視界に入った。門は開かれており、入口付近に人がそこそこ集まっている。
「あれは何してるの?」
「入場審査をしてるんだ。お父さんみたいに商業許可証を持ってたり、院長みたいに王都内から出された手紙を持っていれば、問題なく入場できるよ。アニスはお父さんの娘だから、親族枠として入れるから大丈夫。パラデシア様はそもそも王都に住んでいるから、確認が取れればすぐに入れるよ」
「許可証とかを持ってない場合は?」
「別室で取り調べを受けるね。荷物検査とか目的とかを聞かれて、問題がなければ短期滞在許可証が発行されるよ。長期滞在する場合は役所で申請が必要だね。怪しかったり犯罪者だったら、追い出されたり捕まったりする。まぁ真っ当に生きていれば、気にすることも無いけどね」
犯罪者になる気なんてサラサラ無いけど、果たして私は真っ当な人生を歩めるのだろうか? ……いやいや、平穏な人生を諦めないぞ私は!!
列の最後尾に付き、馬車が人の流れに合わせて徐々に進むと、兵士っぽい格好の人が数人いた。この人達が入場審査をしているのだろう。
「あれ? ブルースさん、何日か前にここ発たれましたよね? 何か儲け話でもできたんですか?」
「いえいえ、今日は運び屋です。後ろの二人が王都に用事がありまして。ついでに私の娘を王都見学に連れてきました」
おぉ、兵士さんというか門番さん? とお父さんが気さくに話してる。完全に顔見知りだ。
私の話題が出たのなら、顔を出しておいたほうが良いだろう。横から顔を出して「こんにちは。いつもお父さんがお世話になってます」と社交辞令を言うと、「こ、この子がいつも自慢してる娘さんか……!! 任せとけ!! 君のお父さんが危険な目に合わないよう、全力で守ってあげるから安心しな!!」と、頼もしい返事をくれた。
「じゃあいつも通り許可証の提示を。後ろの二人も……って、お貴族様と信徒の方じゃないか!? これは運び屋をやらざるを得ませんね……」
門番さんの言いようから察するに、貴族や信徒を運ぶと金払いが良いのだろう。もしくは重要度が高いという意味だろうか?
門番さんは二人から手紙――丸まった羊皮紙を受け取り、封蝋に刻印された印璽と差出人、そして受取人の名前を確認。特に問題は無かったようで、手紙はすぐに返された。
「パラデシア・アガレット・プルーメトリ様、お帰りなさいませ。ポートマス・ライハネム院長とブルース・アネスさん、そしてアニス・アネスちゃん、ようこそ王都カイエンデへ。全員、入都を許可いたします」
許可が降りて、お父さんが操る馬車がゆっくりと進み、門をくぐる。
さぁ、初めての王都だ!!
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