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31.水の攻撃

「――つまり、意識する時間を魔法で強引に遅く感じさせて、無詠唱魔法で自身の身体を強引に動かした結果、頭痛、意識の混濁、転倒時に頭を軽く打って、私を吹き飛ばす時に発生させた衝撃波で自身の肩を脱臼した、と。さすがにちょっと無茶が過ぎますわよ」


 毎度お馴染み精霊院の客室、そのベッドで上半身だけを起こしている私。そして傍らに説教するパラデシア。


 倒れた私を見たパラデシアは、すぐに院長に事情を説明してお医者さんを呼んでくれたらしい。今回はおじいちゃん先生ではなく、私のお肉トラウマ時にこの村にやってきた医者の卵三人が対応してくれて、私の肩をはめてくれたりパラデシアの治療をしてくれたそうだ。


「そうは言いますけど、パラデシア様がいきなり攻撃なんてしてくるからですよ。私は私で必死に応戦しただけです」

「……まぁ、そう言われるとこちらとしても反論の余地はありませんわね。私も軽率な行動は控えるようにしましょう」


 パラデシアが素直に反省する。今後似たようなことが起こらなければそれでいい。


 しかし一つ気になることがある。私の拳から衝撃波が出てパラデシアを吹き飛ばした(+私の肩が外れた)わけだが、無詠唱の魔法は魔法使い級の効力しか出ないはず。魔法使い級では殺傷能力は無い、というのが俗説のはずだが、思いっきり危ないことになった。

 これはどういうことだろう?


「……貴女、間違って覚えていますわね? とはいえ、ちょっとややこしいですし、私も説明不足だったかしら?」


 あれ? 何か違った?


「無詠唱で魔法を行使した場合、基本的には魔法使い級の効果しか発揮しない、というのは間違っていません。それは私達人間でも、魔物でも同じです」


 そこまでは私も理解している。私は頷いて先を促す。


「貴女が間違って覚えているのは、魔物が意識下、無意識下にかかわらず行使する、本能魔法による効果ですね。確かにこれの効果は魔法使い級ですし、直接的な殺傷能力を有する魔物はいまのところ確認されていません」


 うん、その話も確かに聞いた。森の魔物と対峙したあと、今とほぼ同じ状況で説明を聞いたのを覚えている。ということは――。


「私達が扱う、魔法使い級の魔法。これに殺傷能力が無い、というわけではないのですよ。魔法使い級の魔法であろうとも、相手の服に着火すれば相手を火達磨にすることもできますし、相手の顔面に魔法使い級の水を出し続ければ溺死させることもできます。要は使い方次第、ということですね」


 あ、そうか。正しい使い方であればライターは便利な道具だけれど、近くに可燃物があれば危険な道具に早変わりする。……そんな感じか?

 とりあえず、魔物の本能魔法と、魔術士の使う無詠唱魔法、どちらも効力は魔法使い級だけれど、殺傷能力を付与できるかどうかという明確な違いがある、ということだね。よし、覚えた!!


「となるとパラデシア様、本当に大丈夫ですか? かなり派手に吹っ飛んでいきましたけど……」

「あぁ、それですけれど、今はもう痛みが引いているのですよ。当てられた直後は凄い衝撃でしたが、本当にただ吹き飛ばすだけのもので、あまりダメージにはなってないのです。良くも悪くも魔法使い級の威力だったわけですね」


 えぇ!? 私は肩が外れたのに、パラデシアがその程度で済んでるの、なんかムチャクチャ損した気分なんだけど!!


「……それは貴女の身体が未熟だからですよ。大人の私が吹き飛ぶ衝撃を、子供の貴女が腕一本で受け切れるわけがないでしょう」


 うっ、そう言われると今度はこっちに反論の余地がない。ああいった技で相手と距離を取る方法はしばらく無理だな。別の方法を考えておかないといけない。――などと考えていたら。


「どこであれほどの無手格闘術の知識を得たのか知りませんけれど、貴女は何をしでかすかわかりませんから、しばらく近接戦闘術の授業はなしです。その時間は基礎鍛錬をやるようになさい」


 と、ものすごーく呆れた顔で言われてしまった。

 ……まぁ仕方ないか。正直戦闘なんてやりたくないし、これ以上知識の出所を追求されないのなら儲け物だ。ダイエット感覚で身体を鍛えることに専念しよう。

 あ、日本の兄に効率的な筋肉の鍛え方を教えてもらったのが役に立ちそうだ。その時はダイエット目的でやり始めるも、面倒臭くなって三日でやめてしまったけど。






 数日後、パラデシアの座学を受けていると、院長が現れた。


「パラデシア、準備ができました。アニス、ちょっと庭の方に来てください」


 準備? なんだろう? 近接戦闘術の続きでもやるのだろうか? まぁ呼ばれたのなら行くしかないので、二人に付いて裏庭に出る。

 裏庭に出ると「そこに立つように」と指示されたので立ち止まり、二人は少し離れた所に立った。


「さて、今から貴女に大量の水が襲い掛かってきます。見事防いでみてください」


 ……は? この前のパラデシアの杖術といい、唐突すぎない?

 しかしやると宣言されたからには、こちらも対処するしかないだろう。二人の魔法詠唱に身構えていると、不意に院長が右手を上げる。

 次の瞬間、どこからともなく「ざばーん!!」という可愛らしい声と共に、私の上空に大量の水が出現した。


 てっきり二人が魔法を放つと思っていたのに、予想もしない第三者の声に反応が一瞬遅れる。

 大量の水を防ぐ、と言われても瞬時にその方法が思い浮かばなかったので、とにかくまずは考える時間が必要、と私はすぐに判断。院長の説明の時からエレクトロブレインのイメージ準備をしていたおかげで、反応が一瞬遅れたとはいえ、時間的な余裕を持って魔法を詠唱することができた。


 ゆっくりと動く視界の中で、さぁどうしよう? と自問する。魔法を放った人物、というか声の主に心当たりはあるが、正直ちょっと信じられない。でも今はそれを考えている時ではないので、頭の片隅にポイッと投げておく。


 まずは、上空にある大量の水への対処が先決だ。手っ取り早いのは避けることだが、院長は防いでみせろと言った。となると、ここから動かずに対処したほうが良いのだろうか?

 避ける以外の対処となると、弾く、凍らせる、蒸発させる、辺りか?

 弾く場合は強力な風とかが必要になるけど、たぶん一番現実的な気がする。

 凍らせる場合は、ただ凍らせるだけだと私に氷塊が落ちてくることになるので、粉砕する工程を追加する必要があるか。魔法の二連射をおこなわなければならない。

 蒸発させるとなると……これだけ大量の水を、一瞬にして蒸発させる火力なんて出せば、私達が無事で済むはずがない。却下だ却下!!


 よし、弾こう。――いや、ちょっと待った。どうせなら様々な状況に対処できる魔法をイメージしたほうが良いのではないだろうか?

 魔物と戦った時も、殺されるという恐怖で何一つ対応策が思い浮かばなかったからあんな状況になったわけで、何かしら対処できる手段をすでに持っていたなら、また違った状況になったはずだ。

 今後も似たような状況に陥らないとも限らない。風で弾く案は保留にして、もう少し考える。


 水だけでなく、物理的な攻撃や炎、電撃などなど、とりあえず何にでも対処できるような物。

 ……あ、ファンタジーのゲーム作品では割とメジャーなやつがある。ギリシャ神話モチーフのあの盾。

 魔法のイメージを固めたあと、私はエレクトロブレインを解いて、すぐにこう唱える。


「イージスシールド!!」


 私の真上に出現したのは、あらゆる攻撃を防いでくれる半透明の無敵の盾。降り注ぐ大量の水は派手な音とともにその盾に弾かれ、私には水の一滴すら付着しない。無敵のイメージを浸透させてくれた創作物さまさまだね!!


 よし、これで問題なし!! 院長の言う通り見事防いだぞ!! と思った次の瞬間、私の横腹に衝撃と水の感触。思わず「ぐぇっ!!」と短いうめき声を上げてしまった。


 何っ!? 何が起こった!? いや、攻撃を食らったのか!! 脇腹がビチャビチャに濡れている。たぶん、水弾か何かが飛んできたのだろう。上の水だけじゃなかったの?

 ……院長はなんて言ってた? 確か、大量の水が『襲いかかってくる』って言ってたっけ? ――やられた!! 上空の水の対処だけすればいい、と思い込んでいた私のミスだ。まさか別方向から攻撃が来るなんて、全く考えていなかった。


 しばらくして上空の水が全部弾かれ、周囲に流れ落ちる水が無くなったことで視界が晴れる。水弾が飛んできた方向に視線を向けると、精霊院の建物の陰からヒョコっと薄緑のおかっぱ頭が飛び出ていた。


 ――可愛らしい声に、幼い容姿で、屈託のない笑顔を放つ少女。この村で唯一、私と同年代である彼女の名は……モモテアちゃん!!

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