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28.話し合いそのあと

 王女様からハイテンションなお友達宣言をされてしまった。

 そしてそのうち私と王宮でお茶会をやりたいとか、来れないなら暇を見つけて私に会いに来るとか、魔法学園への入学は王族が全額負担するとか色々提案されたけど、私は「友誼を結べるだけでも十分ですので」とそれらの提案を避けた。

 お茶会に誘われるくらいならまだしも、入学金全額負担などは取り込まれる口実に使われかねない。自分で稼ぐ術は持っているから、弱みになりそうな事柄は作るべきではない。


 王女のハイテンションが落ち着くと「……お見苦しいところを見せてしまい、失礼いたしました」と王女が自身の暴走を謝罪する。


「お友達ができたことは喜ばしいのですけれど、それはそれとして調査は終わらせておかなければいけませんので、もう少しお付き合いいただけますか?」


 私が王女の能力解いたせいで中断してたもんね。私は頷いて了承する。


「アプリコ村のアニス・アネスは、少女ながら魔導師級の魔力を持ち、類稀なる発想によって四属性を変幻自在に行使すると共に、独自に雷の異端魔法を扱うことも可能。貴族と対等に接することができる程度の教養をすでに習得しており、王家直属の魔導師となるに十分な素質と素養を持っている。ただし、己の意思で魔導師級の魔法を放ったことはなく、本能魔法による使用が一度のみであること、また、アニスの年齢を考慮し、すぐに王宮に招くのは魔力の制御、及び情操教育の面において得策とは言い難い。加えて、精霊院の院長であるポートマス・ライハネム、並びに上位貴族パラデシア・アガレット・プルーメトリ両名による教育が功を成しているため、引き続き同村での生活をさせるのが最善と思われる。――報告としてはこんなところでしょうか?」


 うおっ、むちゃくちゃ私に気を使ってくれてるな。とりあえず今の生活がもうしばらく続けられるのはありがたいけど、何か裏がありそうでちょっと怖い。


「えっと王女殿下、騎士様方の件はどう報告されるのでしょうか? 私は彼らに対してかなり攻撃的なことをしたわけですけれど……」

「アニス、わたくし達はもうお友達なのですから名前で呼んでくださいな」

「そ、それじゃあルナルティエ様」

「うふふ、嬉しい。本当は愛称で呼んで欲しいですけれど、それはもう少し交友を深めてからにしましょうか」


 鈴のように笑う王女。この可愛さは卑怯だなぁ。


「騎士達の件ですけれど、彼らははっきり言って無能である、と報告いたしますよ。私の意図を汲み取れず、貴重な魔導師へ勝手に攻撃し、逆に返り討ちに遭うという不甲斐なさ。そして、私の命令を何度も無視する忠誠心の無さ。……アニスがわたくしの護衛に付いてくれたほうが余程安心できますね」


 騎士の評価むっちゃ低いっ!! なんか「お前のせいで王女殿下の護衛を外されたっ!!」って騎士達に逆恨みされそうで怖いなぁ。とはいえ彼らの進退を決めるのは王女なので私が口出しすることではない。


「それと先程言っていた、魔力感知ができないというのは本当なのですか? 正直、魔術士級以上でそのような事例は聞いたこともありませんので、報告したバントロッケはその嘘を信じてしまったのだろう、と王宮では一笑に付しているのが現状です」

「嘘ではありませんよルナルティエ様。そのせいで色々と苦労が絶えなくて、以前には大怪我までしてしまいましたから」


 私の返答で王女は神妙な顔付きになり、考え込み始めた。


「……それが本当であれば、魔力感知の件は正直に報告するわけにはいきませんね。強力な魔導師でありながら簡単に害せる対象、と認識されてしまうような情報は秘匿しておきたいところです」


 王女はため息をついて「――わたくしも人のことを悪く言えませんね」と呟いた。


「報告の意図的な隠蔽……魔力感知の件を報告しないということは、わたくしはバントロッケと同じことをすることになりますね。そうなるとバントロッケはむしろ先見の明があったと言わざるを得ないのですけど、かといって一度決まった謹慎を解くにはそれなりの理由が必要です。しかしその理由を正直に報告するということは、魔力感知の件を報告することになってしまいます」


 おぉぅ、あちらを立てればこちらが立たずの、完全なジレンマというやつだ。

 王女はしばらく思案していたが、何か良い案が浮かんだのか、迷いの消えた表情で口を開いた。


「……良いことを思い付きました。バントロッケ、謹慎が終了次第、わたくしの騎士になりなさい」


 うおっ!? バントロッケさんの現在の所属は知らないけど、王族の騎士とか間違いなく大出世じゃないの!?

 当のバントロッケさんは「はっ……、えっ!? 私が、えっ、ルナルティエ様の騎士……ですか!?」と混乱し始めた。


「建前としては、わたくしの今の騎士は総入れ替えする予定のため、早急に人員の確保をしなければなりません。バントロッケはその真面目さ故に謹慎という処分を受けましたけれど、わたくしはその真面目さが騎士に相応しいものと感じました。処分を受けた直後で騎士として取り立てるのですから、誠実に務めを果たしてくれるでしょう」

「……本音のほうをお伺いしても?」

「アニスの秘密を知る者はなるべく手元に置いておいたほうが安心と考えました。それにバントロッケは本能魔法で飛行ができる魔術士です。わたくしに危険が迫った場合、わたくしを抱えて窮地を脱することができる、という手段が取れるのは魅力的ですね。バントロッケも、わたくしの騎士だったという実績があれば、いずれ亜人斥候部隊の隊長になるための箔付けとしては申し分ないと思いますけれど」


 ん? 前にパラデシアとの会話で、亜人部隊の中に魔物と同じような本能魔法が使える亜人がいる、みたいな話を聞いた記憶があるけど、もしかしてバントロッケさんのことだったのか!?


「お待ちくださいルナルティエ様!! 騎士と言われましても、私の剣術は新兵時代に教練を受けた程度で、騎士としては明らかに実力が不足しております。ご命令とあらばその任を謹んでお受けいたしますが、正直に申し上げるならばお考えを改めていただきたいと……」

「でしたら相応しい実力を身に付けなさい。それまでは専属の魔術士としてわたくしの側で仕えてもらいます。……いえ、むしろ騎士兼魔術士になってくれたほうが良いのかしら?」


 王族専属の騎士と魔術士の仕事内容は知らないけど、バントロッケさんの今後の仕事量が二人分になったというのはなんとなく察した。バントロッケさん頑張って!!


「必要な話はこんなところでしょうか? ハーンライド、他に話し合う必要がある事柄は何かあるかしら?」

「調査に必要なことは特に無いかと。お許しくださるなら、個人的にアニス殿へ尋ねたいことが山程ございますが」

「却下です。わたくしだってもっとお話をしたいのですけど、アニスのためにも早急な報告は必要です。帰還が早ければ早いほど根回しもしやすいですから、この辺で御暇いたしましょう」


 そう言いながら王女は立ち上がる。あっ、帰るなら私と王女に巻き付いている魔石の鎖を解かなきゃ。

 私は「それなら、鎖を壊しますね」と言って魔力を戻そうとしたところ、「アニス、待ってください」と制止された。


「せっかくお友達になれたんですもの。記念にこの魔石の鎖を頂いてよろしいかしら?」

「えっ!? それは構いませんけれど、こんな物どうするのですか?」


 すると王女は驚いた表情をした。


「……まさか、アニスにはこれの価値がわからないのですか?」


 王女はそんな疑問を口にしながらパラデシアを見る。パラデシアは呆れた表情で首を横に振った。

 やっべ!! これやらかし案件だ!!


「アニス。宝石に価値があるのはわかりますね? その宝石に魔力がこもった魔石になればさらに価値が上がります。その魔石が、色とりどりに、互い違いに、鎖状になっている物など、芸術品を軽く通り越して国宝級の代物と言っても過言ではありません。人間の手でこんな物を作るのは不可能です。神の遺物とでも喧伝すれば、おそらく誰もが信じるでしょう」


 パラデシアの説明で、むちゃくちゃヤバい物を作ったことを自覚した。いやしかし、あの時私の身の安全を確保するためには、あの方法しか思い浮かばなかったしなぁ。


「すみません、一応無闇に宝石生成をしないようには気を付けてたんですけど、今後はもっと気を付けます……」

「本当に気を付けてくださいね。この宝石生成? というのは利用価値が高すぎます。可能な限り知る人間を増やさないようお願いいたします。それに、わたくしが連れてきた者には守秘義務がございますが、絶対に漏れないという確証はございません。もちろん、守秘義務を怠った者は程度によってはその命を捧げてもらいますけれど」


 ひぇっ!! やっぱ王族怖い!!


 私はテーブルの横に移動して、自分の腕に巻いている魔石の鎖を解いて王女に渡す。渡すと同時に、王女は私に目線を合わせ、そして私の手を握りながらこう言った。


「お友達になった以上、わたくしはアニスの味方です。アニスに解決できないような、困ったことがあれば遠慮なく頼ってください」


 王女の顔には、初めての友達という関係の気恥ずかしさと共に、私を思ってくれている真剣さが表れていた。そんな顔をされたなら、こちらも応えざるを得ない。いや、応えるべきだ。


「ルナルティエ様も、私の力が必要な時は仰ってください。友達として、全力で協力いたします」


 お互いに軽く笑い、私達は手を離す。


「見送りは不要です。ハーンライド、帰路に就く準備を」


 こうして無垢姫は王都へと帰っていった。






 ――で、残された私達三人はグッタリと椅子に座っていた。

 そりゃ王族の応対なんて普通ならありえないことだし、途中緊迫した雰囲気にもなったのだ。精神的な疲労が半端ない。

 そんな状態の中、パラデシアが口を開いた。


「ポートマス院長、何故アニスを止めなかったのですか? 下手をすれば三人とも命が無かったかもしれないのですよ?」


 うっ!! 確かにそういう可能性もありえたのか。私が無礼を働いたのなら、その教育を施した二人にも責任がある、などと言われてしまえば反論できない。


「その可能性も否定はできませんが、しかし私はアニスなら何とかするだろう、という確信がありました。現に王女と友誼を結ぶという結果に持っていきましたし」

「それは結果論です。確信があったのなら、理論的に説明をお願いいたします」

「残念ながらそれは言えません。アニスの秘密に関わることですから」


 パラデシアはムッとした表情のあと、私のほうを見る。

 院長がそう言っているということは、私に前世の記憶があることをパラデシアに話すのはまだ早い、ということか。

 ならば、私はパラデシアに対して首を横に振るしかない。


 私も話す気がないとわかると、パラデシアは溜息をついて「わかりました。余計な詮索は今はしないでおきましょう」と引き下がってくれた。


 ……っていうか院長、私があの場を何とかすると確信してた――って、どんだけ私の行動理解してるの!? 本気で院長の手のひらで踊らされてる気がするんだけど!!

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