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27.閑話 わたくしの初めてのお友達

 わたくしはルナルティエ・トクソニオ・クロネセン・シエルクライン。第56代シエルクライン王を父に持つ、第2王女でございます。

 上には兄上と姉上がおりますので、余程のことがない限り、わたくしに王位が回ってくることはないでしょう。余程のことなど、無いに限ります。


 小さい頃からわたくしは王女として相応しい教育を受け、立ち居振る舞いを身に付けながら、同時に様々な貴族と関わりを持っていきます。

 その関わりの中で、貴族達のやり取りに策略や(はかりごと)、嘘や欺瞞が満ちていることに幼いながら徐々に気付いていきました。


 何故、彼らはこれほどまでに騙し合いをしているのでしょう? 相手を謀略で陥れ、それによって得た名声などになんの価値がございましょうか? 信用を落としてまで手に入れた富の味は、そんなに甘美なものなのでしょうか? わたくしには到底理解できません。貴族とは常に誠実であるべきです。


 わたくしは常々、嘘はいけないことだと思っていました。ですから、いつも神に祈っておりました。嘘のない世の中になりますように、と。


 そしてある日の貴族とのお茶会の時、わたくしは、この貴族も嘘を言ったりしているのでしょうか、嘘はついてほしくないな、と思いながら「嘘はつかないでくださいましね」と言葉を投げかけた瞬間、その貴族は嘘を言わなくなったではありませんか。

 この時からわたくしには、相手が嘘をつけない、という能力が発現致しました。

 わたくしの魔力は、魔術士級にほんの少し届かない魔法使い級です。研究者の間ではこの能力が異端魔法なのか、それとも別の能力なのか、いまだに答えが出ていません。ですが少なくとも、神がわたくしにもたらした能力なのは間違いありません。


 この能力を得てからのわたくしは外交、交渉の(かなめ)として、様々な話し合いに赴き、この能力を存分に発揮してきました。王族の一員として大いに国の役に立っている。わたくしは満足していましたが、しかし代償もございました。

 みな、わたくしに心の中を暴かれることを恐れ、わたくしと関係を持つ者は家族以外ほぼいなくなったのです。わたくしに仕える騎士も、侍女も、必要以上に関わろうと致しません。


 そんな孤独な日々を送っていた時、一つの情報がわたくしの耳に入りました。


 曰く、魔物討伐中に魔物へと神の怒りが落ちた――。


 場所はアプリコ村。そこは、ここ王都から馬車で3日という位置にありながら、王都直轄領ではなくイーナテルノ領に属する村でした。……確か、昔に開拓が失敗し放置していた場所で、その後イーナテルノの領主が何かしらの功績を上げた際、丁度良い厄介払いに報奨として領土を譲渡したという土地でしたね。

 イーナテルノの領都とアプリコ村までは馬車で片道10日ほどもかかるため、本来なら領都から派遣するべき国勢調査官を、特例として王都から派遣している、という特殊な村です。大した産業もなく、今まで話題にすら出たこともない村でした。


 神の怒りが落ちた、というだけでしたら別段珍しいことでもありません。しかしよくよく話を聞くと奇妙な状況だ、とその話を聞いた者は口にするのです。

 わたくしは詳しくありませんでしたが、雷が落とされる時というのは、天上の神がまず雷の触媒となる雲をもたらし、風の精霊がその雲を運び、そして雷が神の怒りとして地上に落とされるものなのだそうです。

 しかし件の魔物討伐では、触媒となる雲はもたらされておらず、空は晴れ渡っていたとのことです。そしてその現場に居たのは、パラデシアという貴族と、魔術士級の魔力を持つと思われる子ども。


 ……神の意志ではない雷がそのような状況で、そのような場に、その者達を守るように、偶然発生した? とても納得できるような話ではありません。何らかの介入があったのは明白です。


 パラデシアという名前であれば、上位貴族プルーメトリ家の三女で間違いないでしょう。彼女は優秀な魔術士です。魔物討伐の場にいるのは自然なことです。

 しかし異端魔法の使い手ではなかったはずです。


 ――しかし一緒に居た子どもは?


 国勢調査官の報告に、アプリコ村の子どもの一人が魔術士級の魔力を持っている可能性アリ、と記載されており、その国勢調査官に対してわたくしの能力を使って話を聞いてみましたが、その報告に偽りはありませんでした。


 他にアプリコ村の情報を集めていると、過去に開拓失敗したミジクの森へ、亜人集落の発見調査に赴いた部隊の報告書が見つかりました。

 調査結果は空振りに終わっているので、重要度の低い書類として埋もれていたのですが、その報告書にはアプリコ村に魔術士級と思しき子どもがいる旨の報告も記されています。


 部隊長を務めたバントロッケを呼び出し、国勢調査官と同じようにわたくしの能力で話を聞いてみたところ、彼は嘘をついて……いえ、完全に嘘をついているわけではありませんでしたね。意図的に報告していない事柄があった。が、正しいでしょう。

 彼の証言によると、その子どもには魔術士級ではなく魔導師級の魔力がある可能性があるとのことでした。


 この情報により、アプリコ村の話は一気に重要な案件となりました。

 魔導師級の発見は実に8年振りで、しかも雷の異端魔法を使える可能性があり、そしてそれがまだ幼い子どもだということ――。

 確定した情報ではありませんが、動く理由としては十分です。その子どもは我が国の魔導師として使える人材かどうか。もし国に仇なす存在であっても、幼い子供であれば対処するのは容易いと思われます。


 バントロッケによると、その子どもはとても教育が行き届いており、魔導師級の魔力を隠したがっていて、もしかしたら異端魔法も使えるかもしれず、しかし魔力感知ができないという話でした。

 はて? 魔術士級以上でありながら、魔力感知ができない者などいるのでしょうか? これはその子どもが魔導師級であることを隠すために、浅知恵を使って咄嗟に嘘をついたのではないでしょうか? バントロッケはどうやら真面目な性格をしているようですから、疑うことなく騙されたのでしょう。

 嘘をつくような者なら嘘をつけなくすればよいのです。どのみち貴重な魔導師を見定めるのは王族の務め。その子どもが女の子だということも考慮して、国王夫妻や忙しい兄上姉上よりも、わたくしが適任でしょう。


 最初はその子供と両親、教育者に対して召喚命令の手紙を送る予定でしたが、魔導師級であることを隠したがっているのに素直に応じるのか? という話が出てきました。

 王族からの召喚命令を無視するなど重罪に値するのですが、絶対に無いとは言い切れません。貴重な魔導師級に雲隠れされるなどという事態になれば、国の損失です。

 となれば、事前連絡無しにわたくしが直接赴くのが確実と考えました。

 最近は外交もスムーズに事が運んでいて、少しくらいわたくしが業務から離れていても問題ないはずです。


 アプリコ村には騎士6人と、旅の道中の世話をおこなう侍女二人、わたくしに昔から変わらず接してくれる数少ない者のうちの一人、わたくしの元教育係で魔導師のハーンライド、そしてアプリコ村での話し合いの際、発言や事実の齟齬を確認するための、謹慎中のバントロッケ。

 謹慎一ヶ月を言い渡したマナマトルという亜人も連れて行くべきか迷いましたが、一連の判断はバントロッケがおこなったという話でしたので、今回は不要と判断致しました。




 アプリコ村に入ると、どの町村にもある精霊院へと向かいます。精霊院は精霊信仰の場であると同時に、平民が貴族や王族を応対する施設でもあるので、わたくしの馬車が精霊院以外に向かうことはありません。

 馬車を降りると、三人の人物が跪いていました。一人はローブを纏っているのでこの精霊院の院長でしょう。隣は貴族の格好をした女性、この方はパラデシアですね。そして最後の一人、まだ幼い少女です。この少女が、件のアニスでしょうか?


 入り口での挨拶をそこそこに、侍女が先行してお茶を用意しに行きます。

 応接室に到着してわたくしがソファに座り、三人にも着座するよう促せば、調査の開始です。


 最初は順調でした。わたくしの調査目的を話し、能力を使用して発言を引き出していきます。

 引き出した発言によると、目の前にいる少女が雷を操って魔物を殺したとのこと。――この少女が魔導師級で、異端魔法使いであることが事実となりました。


 順調だった流れが変わったのは、ポートマスに質問をした時でした。わたくしの能力下では、わたくしが質問をした者のみが返答できるはずなのですが、アニスがそこに割って入ってきたのです。

 わたくしは混乱しました。今までこのようなことは起こったことがありません。

 騎士達も異変を察知したようで、アニスに対し警戒心を高めます。……この雰囲気は危険ですね。


 この状況を穏便に済ませるにはどうすればよいか? と考えていると、アニスが『私の望みは平穏だが、王女殿下の質問はその平穏を破壊してしまう』という発言を致しました。

 ……この少女は何を言っているのでしょう? 平民の言葉より、王族の言葉が重いのは必然。何故王族が、平民に配慮しなければいけないのでしょうか? と、言葉の意味を理解しかねていると、騎士が殺気立ってしまいました。

 いけません!! 少女は確かに無礼な発言をしていますが、この程度のことで貴重な魔導師級を失うわけにはいきません!!


 しかし次の瞬間、私の目は信じられないものを見ていました。少女の魔法で騎士達の剣が鎖に変わり、持ち主を拘束し始めたのです。少女を止めるため、咄嗟に魔法を唱えようとしたハーンライドも、杖の宝石を鎖に変化させられ、身体の拘束だけでなく口まで塞がれ、詠唱を止められてしまいました。

 ついでに鎖と化した宝石に魔力を込め、魔石にすることでハーンライドが迂闊に魔法を使えないようにしてしまいました。


 一体何をされたのでしょう? 魔法で金属を、さらには宝石の形状を作り変える? そのような魔法、見たことも聞いたこともありません。

 この少女を、見たままの少女だと侮っていたのが間違いでした。この少女はあきらかに、そしてあまりにも異質な存在です。


 こちらの護衛戦力が全員、この小さな少女一人によって無力化されてしまいました。わたくしに戦闘能力はありませんので、わたくしの身を守る手段が一瞬にして、何一つとして無くなってしまいました。


 その気になれば、この少女はわたくしを簡単に殺せるでしょう。

 わたくしの命は、この少女に握られているという事実。

 わたくしが対応を間違えれば、死ぬ。


 恐怖の感情が奥底から湧き上がりますが、わたくしにはまだ王族として生きる責務がございます。諦めるという選択は簡単にできません。


 そんな覚悟を決めていると、彼女はこう言いました。『身の危険がなければこんなことをするつもりではなかった』と。

 正当な防衛だと主張していますが、王族を脅すような真似をしておいて正当も何もありません。


 ――いえ、本当にそうでしょうか?


 貴族がわたくしに関わろうとしないのは何故か? 心を覗かれたくないからですね。

 平民であっても、心を覗かれたくないという気持ちは同じなのでしょうか? ……この状況を見る限り、同じなのでしょう。貴族も平民も、人間という点で同じなのですから。


 つまり、わたくしは同じ人間としてこの少女の逆鱗に触れてしまったのですね。彼女は自身の心と命を守るために、身分差を無視しなければならなかった。彼女がそうせざるを得ないほどに不用意な発言を、わたくしはしてしまったのだと。


 わたくしの騎士が斬りかかったことも状況を悪化させた一因です。

 身分という枠を取り払って考えた場合、彼女には理不尽な死が迫ったことになります。魔物に襲われるのと同じようなものですね。命を守る行動を取るのは必然です。

 そう考えると、正当な防衛、という主張は存外的を射ていることになります。


 ……この少女のことが少しわかった気がします。言葉や態度からは身分差を理解しているように振る舞っていますが、その根底ではすべての人間を対等だと考えているフシがありそうです。こと命に関しては特に。騎士達が一見して怪我をしていないのがその証拠の一つです。彼女を害そうとしたのですから、少しくらい報復を加えても良さそうなのに、それが一切ないのです。

 となると、魔石の脅しもハッタリかもしれません。わたくしに危害を加える気は今のところ無いとみえます。


 これらの情報を加味した上で、ひとまず彼女が欲するのは身の安全、命の保証。つまりはまだ交渉の余地あり。

 ……とはいえ、交渉の場では能力に頼り切っていたわたくしには、このような状況で咄嗟に良い案など浮かびません。助言が欲しいところです。この場で頼りになるのはハーンライドなので、可能であれば彼の縛めを解いてもらって……いえ、ダメですね。彼女にとって一番警戒すべきなのは、同じ魔導師のハーンライドなはずです。この選択は彼女の不興を買いかねません。そのせいで安全だったわたくしの命が危険になる、という可能性がある選択は避けるべきです。


 今のわたくしにチップとして賭けられる物はそう多くありません。この少女が安心を得られるほどの、わたくしがこの場に差し出せるチップは……やはり、わたくしの命ですね。今ならまだ戻ってくる可能性も高そうですし。

 魔石化した鎖は、注入する魔力の限界を超えると爆散すると言っていました。なら、これをわたくしに巻き付ければ、誰も迂闊に動けなくなるはずです。わたくしの騎士すらも。


 ……この際ですから、わたくしの騎士を総入れ替えする口実を作ってしまいましょう。わたくしを守れず拘束されただけでも失態ですのに、わたくしに対し最低限の関わりしか持とうとしないせいで、わたくしの意図をいつまでも推し測れないような騎士など不要です。

 もしこのあとの展開で、わたくしの交渉によって騎士達が解放されるも、騎士達が手出しできない状況が続くようであれば、無能のレッテルを貼るには十分でしょう。


 彼女と交渉するなら、身分という枠は邪魔です。人間として対等だと考えるべきでしょう。そして騎士達の解放を(建前上とはいえ)お願いしているわたくしの立場は、間違いなく下です。

 で、あるならば、今度はわたくしが跪く番です。

 わたくしが跪くことで騎士が喚いていますが、こちらも交渉の邪魔です。黙らせましょう。


 アニスは騎士を解放する条件を出してきました。1つ目はわたくしの能力の解除。

 当然の権利だと思い、了承して解除をおこなうと、パラデシアとアニスが少し言い争いをしました。それによると、このアニスという少女、知られてはならない秘密を色々と抱えていると言います。王族にも知られてはならない秘密、というのは気になりますが、今はまだそれを考える時ではありません。


 2つ目の条件を伺うと、右手を向けるように言われました。今までの言動から、この少女がわたくしに危害を加える可能性は低いので素直に応じましたが、周りはそのことをわかっていないようでした。……やはりわたくしの臣下としては少々思慮が足りないようですね。


 何をするのかと見守っていると、彼女が魔法を唱えた瞬間、わたくしはまたしても信じられないものを目にすることになります。

 宝石の鎖が虚空から出現したではありませんか!! しかもその鎖はアニスの左腕に巻き付き、わたくしの腕の鎖と繋がります。さらには器用に魔力操作をおこない、ハーンライドと繋がった鎖を断ち、わたくしとアニスだけが魔石の鎖で繋がった状態にしました。


 再び私は混乱します。魔法の異質さもそうなのですが、それよりも彼女の考えていることがわかりません。身の安全を欲していたのに、自ら危険に足を踏み入れたのです。ですが、彼女はこう言いました。『王女殿下に命を預け、共にいるのが一番安全』だと。

 なるほど、とわたくしは納得しました。この少女を害そうとすれば、同時にわたくしにも危害が及ぶ。

 アニスは、命の重さをわたくしと同じにしたのですね。身分ではなく、同じ人間という立場で、対等であるように。

 これではわたくしの臣下は絶対に手を出せません。確かにこれ以上に安全な状況はありませんね。


 アニスが提示した条件は満たされました。次はアニスが私のお願い、騎士の解放をする番ですが、アニスは少し逡巡していました。ここに来て約束を反故にする、などという愚かなことはしないと思いますが、何を迷っているのでしょう? 先ほどと同じように、鎖を操作して縛めを解いてしまえばよいのに。


 ですが彼女は別の方法を選択しました。今度は水属性の魔法で、金属を断ち切るという芸当を見せ付けました。彼女の魔法には驚かされ続けていますが、同時に何故鎖の操作をしなかったのか? という疑問が浮かびます。これも彼女が隠したがっている秘密に関係するのかもしれません。


 そして鎖を断ち切る際、やはり騎士達に怪我をさせないよう、神経を集中しているのに気付きます。


 ……あぁ、彼女は最初から最後まで、そもそも誰にも危害を加える気がないのですね。

 彼女には力があり、技術があり、知識も、教養も、そして高潔さまでをも持ち合わせている。


 幼い少女の見た目ながら、その言動は貴族を相手にするのと遜色なく、魔力は魔導師級で異端魔法を扱い、四属性ですらあまりに異質な使い方をし、少女とはとても思えないほどの発想と機転を利かせ、力の差を見せつつも一滴の血も流さず場を有利な状況に運び、わたくしを王族としてではなく対等な人間として交渉しようとしている。

 ……わたくし、夢か幻覚でも見せられているのでしょうか? 何も知らない者にこのような報告をしたとして、信じてくれる者はいるのでしょうか? 

 いえ、現実逃避はいけませんね。現にそのような状況が起こっているのですから。


 ――彼女の価値は計り知れません。手に入れなければ。確実に。わたくしの手で。


 騎士達が解放されると、彼女は交渉ではなく、お話し合いをしましょうと提案してきました。

 交渉などという堅苦しいものではなく、もう少し気軽にできるお話し合い。身分差を考えればその提案は不敬に当たりますが、彼女を欲するならばやはり身分という考えは邪魔になりそうです。同じ女の子同士でもありますもの。

 私はその提案を受け入れますが、かといってすぐに対等の立場で接することはしません。わたくしの今の立場は『下』なのです。


 彼女の気分を害さないよう、わたくしが全責任を持って王家直属の魔導師として迎え入れると提案を致しましたが、丁重に断られてしまいました。

 まさか断られるとは思わず混乱していたところ、騎士達がまたしても横槍を入れてきました。……本当に使えない騎士ですね。これ以上邪魔をされるのは我慢なりません。わたくしの身の安全はほぼ確実にあると見ていますし、騎士達はこの場にいりませんね。退出してもらいましょう。


 騎士達による話し合いの中断を謝罪し、改めて理由を聞くと、バントロッケも言っていた『魔力感知ができない』という秘密と、そのことによって起こり得る未来を聞かされました。


 確かに、様々な貴族が様々な思惑を交錯させる王宮で、彼女の身を確実に守るのは果てしなく難しいですね。魔力感知要員として魔術士を付けたとして、その人物がアニスを尊敬なりしてくれれば問題ありませんが、逆に嫉妬を膨らませてしまったら? そのほか、貴族に弱みを握られたり、金を握らされたり、嘘の情報を掴まされて、アニスを害する存在に変化しないとも限りません。

 ……ダメですね。信頼できる人物の心当たりがわたくしには少なすぎます。

 彼女の欲する、平穏と身の安全。王家直属になってもらった時の、それらの保証が今のわたくしにはできません。


 様々な考えを巡らせていると、アニスの視線がわたくしから外れ、ハーンライドのほうを見ていることに気付きました。釣られて見てみると、ハーンライドが何か言いたげに手を動かしていたため、アニスに縛めを解いてもらえないかとお願いして解いてもらいました。


 開口一番の懲罰の進言は流して、彼はアニスの魔法技術を素直に褒め称えました。……彼ならば信頼も信用もできますけど、魔導師を二人一組で運用するような人的余裕はありませんね。

 そしてわたくしとアニスの意見を改めて確認すると、ハーンライドはとても素晴らしい提案を出してきました。


 わたくしが昔から欲していた存在。

 わたくしを恐れない存在。

 わたくしの能力が効かない存在。

 わたくしと気兼ねなくお話してくれる存在。


 わたくしの、同性の、はじめてのお友達。


 わたくしとアニスは今からお友達です。これから親交を重ね、親睦を深め、そしていずれは親友となってくれるかもしれない存在。


 ――そうすれば、アニスもいつか秘密を話してくれるでしょう。一人でたくさんの秘密を抱えずに済むようになるはずです。


 お父様、お母様、兄上、姉上、申し訳ございません。新たに発見されたこの小さき魔導師は、私だけのものに致します。

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