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117.消えたパレトゥン

 王様が納得するような、私が上げられる功績……いや、そんな簡単に思い付くはずもない。

 まぁ魔法陣に関わりながらで構わないということだし、今考えるのはやめておこう。


 これで一応、報告すべきことは全部報告したはずだ。これらの報告をどう扱うかは神殿長に任せておけば問題ないだろう。


 ひとまず報告が終わったので私とパラデシアは退室しようとしたところ、一人の神官が部屋に入ってきて「アニス様にお客様がお見えになってます」と知らせてきた。おそらく、反応の消えたパレトゥンさんを確認しにサクシエル魔法学園へ行ってくれたウィリアラントさんだろう。

 私は退室せずに応接室にとどまり、ウィリアラントさんをこちらに案内するようにしてもらうと、程なくしてウィリアラントさんが入室してきた。


「結論から言おう。パレトゥンとやらは跡形もなく消えていた」


 そう報告を受けるが驚きはない。むしろやっぱりか、と思った程度だ。探知の魔道具に引っ掛からなかったということは、それ以外に考えられない。

 問題は何故、どうやって消えたかだ。


「死体も確認できないのですか?」


 パラデシアがそう問うてみるが、ウィリアラントさんは「ありません」と一言。

 探知の魔道具はパレトゥンさんの体毛を媒体にして近似の物=鼠人を探知できるので、たとえ死体であったとしても反応する。その反応が無いということは、少なくとも探知範囲に存在しないということだ。もう一つの可能性として死後何日も経っており生体組織が変質している、という場合もあるにはあるが、今回の場合は現実的ではないだろう。


 ウィリアラントさんは続けて「この件に関しては現場を見てもらったほうが早い」と言って、私に学園へ出向くように促す。


 帰ってきてゆっくりもできないとは……と思いつつ、パラデシアとは別れてモモテアちゃんとアレセニエさんを連れ、言われるがまま学園へ足を運んでまずはハーンライド学園長と対面する。


「おぉアニス殿。巫女への昇格を言祝ぎたいところですが……、まずはパレトゥン殿の件をお話し――いえ、お見せしましょう」


 その口ぶりから、ただ事ではないことを改めて察する。

 何度か通ったパレトゥンさんの軟禁場所である学園地下、学園長に案内されて鉄の扉を開けると、確かに異様な光景が広がっていた。


 まるでアイスディッシャーでアイスを掬い取った跡のように、部屋のいたる所が抉れていた。床ごと半分無くなった机は倒れ込み、中央が大きく球状に消滅しているベッドは、わずかに残った端部分では支えられず折れ、寝具は無惨に綿を吐き出している。棚も壁や天井ごと丸く抉られ、紙片や木片が抉れた地面に散乱していた。


「これ、明らかに時空魔法によるものですよね……」


 前の神殿長が暴れたお茶会の騒動の褒美で得た、時空魔法の講義でグラッジーア軍事長が箒の柄を削り取った時と同じ現象だ。規模は全然違うが。もしくはベンプレオとの戦闘開始直後に私の腕が消滅したのと同じとも言える。

 つまり、時空魔法の黒球で包みこんだ空間を消滅ないし転送させたわけだ。それにパレトゥンさんが巻き込まれたのなら、探知の魔道具で反応しないのは当たり前である。


 そしてそれをやったのはベンプレオ以外にいないだろう。しかしどうやってパレトゥンさんの居場所を特定したのだろうか? さらにこの状況を見るに、同族として迎えに行ったのか、不必要になって亡き者にしたのかは現時点では判断できそうもない。生死不明だ。


 こうなってくると、学園長にもベンプレオと遭遇、戦闘したことは今すぐ話すべきだろう。

 私達は五階の学園長室に案内してもらい、大事なことは伏せてベンプレオに関する出来事を話すことにした。






「――まさか長年姿を見せなかったベンプレオとこうもあっさり遭遇していたとは。探知の魔道具による部分も大きいでしょうけど、それ以外に何か遭遇するきっかけや、心当たりはないのですか?」


 心当たりどころかバリバリ因縁しかないわけだが、私の秘密に繋がることなのでさすがにそれを正直に話すわけにはいかない。


「いえ、特にそういった心当たりは……あっ、ちょっと待って下さい」


 考えてみれば、何故ベンプレオは私をピンポイントで待ち伏せ出来ていたのだろう?

 私という実験成果を確認するために意図的に接触してきたとはいうものの、私の居場所をいつから知っていたかという疑問が出てくる。

 転生直後から何らかの方法で最初から把握していた可能性もあるが、転生してからもう三年近く経っている。実験や研究の経過を確認すると言うならば、さすがに間が空き過ぎではないだろうか?

 そう考えると、学園長が言うように私の居場所を掴む何かしらのきっかけがあった可能性が高い。


 現実的に考えるならば、私の知名度が高くなったせいで知られた可能性。

 だが、鼠人という人種な上に指名手配犯であるベンプレオが町に入れるとは思えない。いくら私の知名度が高いとはいっても、町に入れなければ情報収集は無理だろう。

 ベンプレオと一緒に行動している、子供時代の私の身体に入っている本物のアニスならば町に入っての情報収集は可能か? ……いや、難しいだろう。まず身元の確認ができない以上、子ども一人で入ろうとすれば門番に怪しまれる。ポートマス神殿長によれば元のアニスはかなり落ち着きのない子どもだったという話と、私に対してかなり敵意を剥き出しにしていたことから、感情で行動するような子どもだと考えられる。となると、町に入れたとしても冷静に情報収集できるか少々怪しい。


 仮に私が神殿入りしたということを知っていたとしても、今日この時に巡礼の旅を終えて王都へ戻る、ということを知る手段はかなり限定される。そもそも旅程も当初の予定から一週間以上遅れていたし、ピンポイントで知る術はほぼ無いのだ。


 他に何か可能性はないだろうか? 魔将としての能力とか、鼠人の特性だとか……、魔将ベンプレオ……パレトゥンさん……、探知の魔道具……あっ!?


「ハーンライド学園長、探知の魔道具の魔法陣って見せてもらうことできますか?」

「それならこちらに写しが――えーと、ありました。これですな。ただしこれは陛下から魔法陣に関わる許可を得ているアニス殿のみ閲覧可能です。護衛のお二人は退室願いましょう」


 そういえばそうなるか。アレセニエさんとモモテアちゃんの退室を確認したあと、学園長はそこかしこに山積みされている書類の束から一枚の紙を抜き出した。

 私はそれを受け取り、何気なく目を通す。私としてはこれを見たところで何か理解できると思っていなかったのだが、ちょっと目を通しただけで私は頭を抱えた。


 ――魔法陣の内容が全部理解できてしまっている。


 何故? と一瞬考えたが、心当たりが一つ思い当たる。ベンプレオが言っていた「同胞達からコピーした言語知識」だ。アプリコ村でポートマス院長時代に外国語を習った際、一度習った所は完璧に覚えていたことがある。その際、今まで忘れていただけで覚え直したら思い出した、という感覚があったわけだが、つまりは魔法陣も転生時にコピーした言語知識の一つ、ということなのだろう。


 気味が悪い現象だとは思いつつも、今は役立たせてもらおう。ベンプレオからもたらされた能力というのが非常に腹立たしいが。


 さて本題だ。

 まずこの魔法陣という物、ぶっちゃけプログラムみたいなものである。if文とかfor文とか。

 そういうプログラム文を魔法陣の円状に記述して、特定の魔法現象を発生させることが可能となる。


 プログラムに関しては日本人の父がプログラマーであったため、ある時ゲームが作りたいと思って父に教えを請うたところ、休みの日までプログラムを見たくないと突っぱねられた……が、翌日ゲームプログラミング入門の教本をプレゼントしてくれた。おかげでテ◯リスとかブロック崩し、簡単なシューティングゲームなら作れるようになった。


 というわけで、私にはこの魔法陣が言語の観点からもプログラム的観点からもマルっと理解ができる。

 ――その前に、学園長に確認しなければならない点が一つ。


「ハーンライド学園長、この部分の記述、わかりますか?」

「そこは確か……パレトゥン殿からは入れた媒体の、近似値の幅を決めておく記述と伺っておりますな」

「残念ですがその記述は別の、この部分になります」


 やっぱり学園長はこの魔法陣の全容を理解できているわけではなかったか。

 私は一呼吸置いて、さっきまで私が抱いていた疑問の答えを口にする。


「――この記述は、使用した者の位置をベンプレオに知らせるための記述です」


 そう、パレトゥンさんは最初からベンプレオの為に動いていて、この魔道具を使った私は、まんまとその位置情報をベンプレオに送っていたのだ。

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