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115.秘密の共有者

「――すると貴女はアニスの身体に入っている別人格の異世界人で、我々が神と精霊と呼んでいる、精神……エネルギー生命体? とやらの影響でベンプレオに殺され、この世界に落とされた、と」


 あれから結局、皆には理解できないだろうと省いたのじゃロリ神との会話も説明する羽目になった。


 私も説明しながら、改めて時系列を整理する。

 事の始まりは、兄が考古学調査チームの一員としてアマゾンの遺跡へ行き、そこで考古学者の教授と共にこことは違う別の世界、仮称第三世界へと飛ばされ、ウィリアラントさんとマカデミルさんに出会ったことだ。

 私が今いるこの世界は、神とも精霊とも呼ばれ、そして魔法を扱う際の魔力でもある精神エネルギー生命体があらゆる物質と概念に宿っている。当然ウィリアラントさん達にも宿っているそれは、増殖して私の兄にも宿ることとなる。


 教授の犠牲を出しながらも第三世界から地球に戻ってきた兄だが、兄に宿った精神エネルギー生命体は地球を理解するために更に増殖し、身近にいた私、小野紫にも宿る。

 そして、この世界から地球へ逃げ込んでいた鼠人の魔将ベンプレオが、私に宿った精神エネルギー生命体――魔力に目を付け、殺害。ベンプレオはその際に魔法陣を用い、小野紫の人格をアニスへと移し、また、私の遺体を再利用して元のアニスの人格を移した。


 ……というのが現在判明している、私がアニスとなった経緯だ。


 私の最終目的は元の世界、地球に帰ることである。そのうえで元の私の身体に戻ることができれば最善だ。しかしその二つを成し得るためには、現状ベンプレオの力が必須。

 一度相対したにも関わらず逃げられたことで絶望してしまったが、皆の励まし? 説得? まぁ話し合いでもう一度探し出して捕まえればいいという結論に至り、希望が出てきたので私の気持ちも持ち直す。

 だが、ただ探すだけでは駄目だ。今回はベンプレオを追い詰めるだけの力を持ったエミリアさんがいたからこちらに大きな被害は無かったし、同時にエミリアさんがいたから逃げられた。次にベンプレオと会った場合、今の状態では返り討ちに遭うのは必然である。

 そこで、今回の話し合いで提案され、すでに許可されているという魔法陣だ。

 私が地球の知識を使って魔法陣や魔道具の作成をおこない、ベンプレオに対抗できる物を作り出すこと。少なくとも、時空魔法に対抗できる物を作る必要がある。


 ……とは言え、この辺りは実際にやってみないとなんとも言えない。


「アニス、ここに居る者以外で、他に貴女のその事情を知る者はいますか?」

「えっ!? えーと、ポートマス神殿長には最初に会った瞬間に別人格だと見抜かれましたので知っています。ただし死に際のことや、私が元の世界に戻ることが目的だといった細かい事情は話してません。あとは……学園地下にいる鼠人のパレトゥンさんにも別世界の人間だということを成り行きで話しました。事情が事情なので、教えたのはそのくらいです」

「アニス、一応マカもその中に入るぞ」

「あっ!! そうでしたマカデミルさんもいた!!」


 危ない危ない。他に漏れは無いよね? ……いや、ちょっと待て。


「話してはいませんが、私の両親は薄々勘付いているかもしれません。そしてその上で、私をアニスとして扱ってくれています」

「アプリコ村で接していたので分かりますが、貴女のご両親は人格者ですからね。大事になさい」


 私は両親を褒められて照れつつも、誇らしげに頷く。


「貴女の元の世界に戻るという目的、私含めここにいる者は事情を知ったからには、その手伝いをするのは吝かではありません。ですが、貴女がどのような形でこの世界から居なくなるか分からない以上、少なくともご両親にはいずれ正直に話す必要がありますわね」


 確かにそれを考えると非常に気が重い。しかし避けては通れない道だ。とはいえすぐに話す必要はないと思っている。とりあえず地球に戻れる算段なり目処なりが立つまでに、話す覚悟を決めておけばいい。


「ポートマス神殿長に対しては――貴女の目的はギリギリまで話さないほうが良いかもしれません」

「あっ、それは私も思ってます」


 彼は私の持つ知識をこの世のために役立てたいと考えているため、私が居なくなることに難色を示す可能性が高い。


「マカデミルさんはウィリアラントさんと同様の事情を話してるので気にする必要はないです。パレトゥンさんも、目的そのものは直接話してませんが、話の流れで大体察しているはずです」


 あと対応すべき相手は……王宮周りか? 不本意ながら色々と繋がりが出来てしまった以上、いきなり居なくなるのは不義理と思われ、私に関わっていた人達に影響が出かねない。


「王宮は貴女が目的を達成したあとの事後承諾で良いでしょう。私から話しておきます。でないと無垢姫が全力で邪魔をしてきますわよ」


 おわっ!! それは間違いない!! 無垢姫ことルナルティエ第二王女、彼女は私への執着心が凄まじい。私がこの世界から居なくなるということを絶対に認めないだろう。

 この件は確かに、パラデシアに事後処理を頼むしかない。


「そう言えば話変わりますけど、信徒として信じていた神と精霊が、その正体が精神エネルギー生命体と聞いて何か思うところとか無いんですか? みんな普通の態度してますけど」

「そもそも精神エネルギー生命体と言われても、我々の理解の及ばない崇高な上位存在であることに変わりはないのでしょう? それならば今までと同じではないですか」

「むしろ魔力として精神エネルギー生命体 = 神が己の身体に宿っておられるという事実は、アタシ達としては常に見守られ、そして力を授けてくださっているという事実に恐れ多い気もするわよ」

「俺としてはそのような存在を理解して神に招かれる、という偉業を成したアニス様が誇らしいです。もっとも神に近い存在と言っても過言ではありません」


 それは過言だから正直やめてほしい。

 とはいえ概ね三人とも、神を理解なんて出来ないし敬う存在として変わらない、という認識のようだ。


「――さて、その点も含めて、神殿に報告すべきことを今のうちにまとめましょう。部外者であるエミリアがもういなくなりましたからね」


 そうだ。本来ならば帰りの馬車の中で話し合う必要のあった諸々のこと、宗教の根幹に関わるレベルの話なので、エミリアさんが同行している状態では出来なかったのだ。

 話し合うなら王都に入る前の今しかない。


「まず神がこの地に御降臨なされた目的――我々に魔法という力を授け、その力への理解を深め続けることで、我々を神に近い存在へと昇華させること……でしたわね。しかし本来なら属性という枠組みは存在せず、私達が勝手に作って自ら制限を課しているのと同義であるため、現状では理解度が低い。……この辺りは神殿長と王宮には報告するにしても、一般に開示するかは議論が必要でしょうか」


 これだけでもだいぶ混乱が起きそうな話である。目的の突飛さもそうだが属性云々に関しても、異端魔法と言われていたものが異端でもなんでもないということになるので、異端魔法排斥派が多いらしいラルクシィナ神殿とかからの反発は大きそうだ。


「魔物を食べることで魔力を得られる、というのは広めるべきでしょう。どれだけ食べれば魔術士級、魔導師級になるかの検証は必要ですが、魔法を扱える者が増えることは我が国にとってメリットです」


 魔術士、魔導師の減少問題に解決の糸口が見付かった訳だから、順当に考えてこれは公表するべきだろう。


「アニスちゃん、一つ疑問なんだけど、アタシ達だけじゃなくて魔物も魔力を持って魔法を使うわよね? 精霊は万物に宿っているとは聞いたけれど、神様は魔物が魔法を行使することについて何も仰ってなかったの?」


 あちゃ~気付かれたか。真実を知れば絶対混乱が起こるので、聞かれなければスルーしようと思ってたんだけど。話の流れからその疑問がいずれ出てくるのは当然か。


「……私達と同じです。精神を宿している生物であれば、神様にとって目的を果たす条件は同じですから。人間だけを特別扱いする必然性は神様にはありません」

「なっ……!?」


 精神エネルギー生命体と同じ次元へと引き上げる対象は、何も人間だけとは言っていない。精神を宿し、魔法を行使できる生物であればそのすべてが対象なのだ。


「……その事実はこの場だけに留めておいたほうが良さそうですわね。神と精霊への信仰が根本から揺らぎかねません」


 私もそう思う。神を人間の尺度で理解しようなどと考えるべきではない、という良い例だ。


「あとは、神の精神世界に招かれる条件があるのでしたか? 最低でも魔導師級の魔力が必要になるのでしたね」

「いえ、招かれるだけなら魔力量はそこまで重要ではないかと。どちらかというと精神エネルギー生命体という存在を定義し、ある程度理解を深めることが重要です。それが同じ次元に近付くための第一歩になると思いますから。もちろん、神様と対話しようと思うなら魔力量も必要になってきますけど」

「なるほど、だからこそ異世界の知識というアドバンテージがある貴女が真っ先に招かれたわけですね。この件は神殿上層部だけに報告するのが良いでしょう」


 神様との対話に関する話はこの辺でまとまり、それから私の事情に関わる事柄、特にベンプレオと私の関係性を話さないよう口裏合わせをする。

 その他細かい部分を話し合ったあと、やっと王都へと戻ろうとなった。


「あっ、お姉様、ベンプレオが逃げたあとに探知の魔道具使ってませんよね? もしかしたら引っかかるかもしれないですし、念の為使ってみては?」

「まぁ望み薄だけど、確かに使って損はないね」


 というわけで、なるべく広範囲で使ってみる。……うん、やっぱり引っかからない。埋め込まれた宝石は一つも光らない。――えっ、いや、それおかしい!!


「……王都に居るはずのパレトゥンさんの反応が無いんだけど!!」

「アニス様、それはパレトゥンとやらが死亡しているということですか?」

「いや、この魔道具はパレトゥンさんの体毛を触媒にしてるから、鼠人のそれなりに大きな生体組織が存在すれば反応があるように機能する、つまり死体でも反応するようになってる。だけど反応がないってことは、王都から消えてるってことに……」


 このタイミングでパレトゥンさんが消失したってことは……王都で何かが起こってる!?

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