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113.提案される道筋

 パラデシアの平手が、モモテアちゃんの頬を叩いた。そのあまりにも小気味良い音と突然の状況にビックリして、私は伏せていた顔を思わず上げてしまう。

 頬をぶたれて放心しているモモテアちゃんにパラデシアは「――そもそも」と言葉を続ける。


「モモテア、貴女だってアニスに対して魔法が使えることをしばらく秘密にしていたではないですか。それは悪意によって騙していたことですか?」


 モモテアちゃんがその質問にハッと我に返り、勢いよく首を横に振る。

 私の事情とモモテアちゃんのとでは明らかに性質が違うが、悪意の有無という点ではどちらも皆無だ。口八丁な感じは否めないが、自身がおこなった身近な例を出されたら、子供であれば――というより子供だからこそ、納得しやすい。


「アニスはあまりにも特殊です。他にも知られてはいけない秘密の一つや二つあるかもしれません。ですがそれは必要だからそうしているのです。なのでそれを踏まえた上で、貴女はこれからもアニスを守りなさい。いいですね?」


 モモテアちゃんはしばらく無言だったが、意を決したかのように「はい!!」と快く返事をした。

 モモテアちゃんの中で納得のいく落とし所が得られたようである。私としては騙していたのは間違いないので罪悪感が相当あるのだが、納得しているモモテアちゃんに対して、私がその罪悪感を表に出すことは憚られる状態になってしまった。


 パラデシアはその返事に満足気に頷くと、今度はこちらを振り向く。そして私の頬をパラデシアは強引に両手で挟み、至近距離で睨んできた。


「ぶぇ!?」

「貴女の今までの行動や言動から、悪意を持って騙していたなどということは断じて無いのはわかっています。事の重要性から、秘密にする必要があったのも理解できます。ですが、私が貴女にこれまで散々便宜を図ってあげたにもかかわらず、今の今までこのような重大な秘密を教えられなかった程度に私の信用がない、というのは大変許しがたい事実です」


 パラデシアの目に映るのは明確な怒り、そして若干の哀しさ。

 確かにパラデシアには相当世話になっている。何故パラデシアに教えなかったと言われれば――ポートマス神殿長の判断としか言いようがない。パラデシアが村に来た当初は、パラデシアの派閥やら思想やらがまだ分からず、私の秘密を教えた場合どうなるか分からない、と判断されたからだ。……とはいえ今ではパラデシアは完全に味方であると分かっているわけだが、かといって「じゃあさっさと教えよう」と気軽に扱っていい秘密ではないのも事実。要は今まで教えるタイミングが無かったわけだ。


「――まぁそれは今は良いとして、アニスはこれからどうしたいのですか?」


 私の顔から両手が離れ、いつもの調子で問い質される。

 私は――どうすれば良いのだろう? 先ほど遭遇した魔将ベンプレオは、私が地球に帰れる唯一の手掛かりにして手段だった。若返っていたが私の身体も存在していた。しかし一度は確保した身体をベンプレオに取り返されてしまい、そしてそのまま逃げられてしまった。


 地球に帰る唯一の手段を失ってしまったのだ。


 その事実を思い出し、失意と諦観に苛まれた私は再び膝の中に顔を埋めようとしたその時、今度は張り手される勢いでパラデシアに頬を挟まれ、またしても強引に顔を固定されてしまった。


「諦めるのはまだ早いのではなくて?」


 えっ? と私は疑問符を浮かべる。言ってる意味がわからない。


「確かに、元の世界に帰るという目的を諦めるには少々早いな」


 ウィリアラントさんが賛同する。


「あ~、俺でもそれは分かる。要するに逃げたあの鼠野郎また見付ければ良いだけだろ?」


 その発想があったか!! と一瞬納得しかけたが、何処に逃げたかもわからないベンプレオ一人を探すなんて正直アテが無さすぎる。そもそも今回の遭遇は向こうから接触してきたも同然なのだし。


「ただ探すだけじゃ無理があるってのはお前も分かってるだろロニスン。アニス様には鼠人探知の魔道具がある。これをもっと広く探知できるように改良できれば、わざわざ無駄に動き回る必要もなくなる」


 確かにより広域かつ、そして詳細に探知できるようになれば、今回のような旅をせずにベンプレオを探し当てる、というのも現実味を帯びてくるかもしれない。……あれ? もしかしてホントに諦めるのは早い?


「となると、ハーンライド様に改良をお願いすることになるわね。……あら、そう言えばその魔道具は学園の地下にいる鼠人が作ったってアニスちゃん言ってたかしら?」


 魔道具の根幹技術である魔法陣の知識は秘匿されている。改良を加えるならば、サクシエル魔法学園の学園長であるハーンライドさんに許可を得て、地下で軟禁生活をしている鼠人パレトゥンさんにお願いする必要がある。


「あの……そのことで一つ思い付いたことがあるんですが……」


 そんな会話を繰り広げていると、アレセニエさんがおずおずと手を上げ割り込んできた。


「ちょっと話は逸れますけど、あのベンプレオという輩、小さい紙片に魔法陣を描いてそれを利用していましたが、奴はそれで時空魔法を操っていました。そのことから、ベンプレオには本来時空魔法の素質は無いと考えられます。しかし観察していた戦闘方法から察するに、奴は時空魔法の素質がないにもかかわらず、明らかに時空魔法を感知していたように見受けられました。となると、奴は何らかの方法で後天的に時空魔法を感知する能力を得たと思われます」


 言われてみれば確かに!! ……いや、ちょっと待て。そもそもその時空魔法の感知能力の付与という事象、実例がすでにあるじゃないか。


 私という実例が。


 ベンプレオは言っていた。「我が同胞達から抽出した魔力量とコピーした言語知識、分離させた魔力感知、代わりに植え付けた時空魔力感知――」と。

 私に時空魔法の魔力感知を植え付けたのなら、自身に植え付けることだって可能なはずだ。私に植え付けた方法とタイミングはおそらく、地球の私を殺した時の魔法陣だろう。


「奴を探し当てることを前提に考えた場合、再戦は必至と思われます。その時我々も時空魔法の感知能力を後天的に得られていれば、奴が使う時空魔法というアドバンテージは無くなります」

「理解はできるが、その方法は? 方法がわからなければ、夢物語と同じだ」


 ウィリアラントさんのもっともな反論。だがアレセニエさんも考え無しに発言している様子ではない。


「ベンプレオは魔法知識に長けた者と聞きました。ですがアニス様も、この世界には無い知識と発想をお持ちです。そしてここから話を戻しまして、そのアニス様の頭脳を活かし、探知魔道具の改良を含めた、魔法と魔法陣の開発をアニス様自身でおこなってみてはどうでしょう?」


 ……私が、魔法陣を作る? あの、国家機密として秘匿されている魔法陣を?


「なるほどな。嬢ちゃんがあの鼠野郎の使っていた魔法陣や感知能力を再現できれば、いくらヤツが現時点でバケモノでも、雑魚に成り下がるな」


 言うのは簡単だが、それをするにはとてつもない壁を突破しなければならない。

 その突破しなければならない壁、もう求めることはしないと誓った、魔法陣の知識を得る許可――秘匿の大元である王様からの許可という、あまりにも分厚く高い壁だ。

 しかもそのあとにも何枚も壁がそびえ立っていそうだが……とはいえ、肝心なその最初の壁が破れなければ意味がない。許可を得ようとすれば自ら立てた誓いを破ることになり、王様の怒りを買う可能性は十分にある。


 結論として、私は無理だと判断する。


「アニスと陛下のやり取りは聞き及んでいます。愚かにも褒美として魔法陣の知識を求めたと。まぁ、その件については教えていなかった私も悪いとは思っていますが。……アニスの懸念は、陛下に対して二度と魔法陣の知識を求めたりしないと誓ったことですわよね?」


「はい……」


 顔を固定されて頷くこともできないため、仕方なく返事を返す。


「ですがそれについては心配する必要はありません。アニスが魔法陣に関わる許可はすでに下りています」


 ……は? なんで!?

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