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111.秘密の暴露

「――それで、私としては細かい事情を知りたいわけですが……どうやら今は難しそうですわね」


 馬車の中。

 戦闘が終わって、魔将ベンプレオとエミリアさん、そして小野紫の身体に入った本物のアニスが消えたことにより、私は元の世界に帰るための全ての手掛かりを失い、絶望から膝を抱えてうずくまっていた。

 当然受け答えできるような精神状態ではなく、パラデシアの言葉も聞こえはするものの頭には入ってこない。


「ベンプレオって言ってたか? 何なんだアイツ? いや名前は聞いたことあるが、それにしたって限度ってもんがあるだろ!? いくら魔導師と言ったって、この人数を相手に一人で圧倒するなんてバケモンだぜありゃ。近接専門の俺じゃクソの役にも立てやしねぇ」

「意見が合うのは癪だがオレもロニスンと同意見だ。途中で魔法陣を利用してるってぇのは見抜きはしたが、だからと言ってそれに対処できる術があるわけでもねぇ。正直アニス様とエミリアがいなかったら全滅してたと思うぜ」


 ロニスンさんとラッティロがそうのたまう。

 その見立ては概ね正しいだろう。特にエミリアさんの活躍はこの場の誰よりも圧倒していた。時空魔法戦でこれほど頼もしい存在はいないと思うほどに。そして― ―。


「そのエミリアと契約していなかったのは本当に誤算でした。アニスが聞いた神託の通り、連れて行ったこと自体は間違ってはいませんでしたが、その結果がベンプレオとの遭遇と戦闘などとは、さすがに想定の範囲外です」

「エミリアちゃんの目的がラリオス滅亡戦争の立役者であるクランカイゾで、ベンプレオが彼の所在に関係してるなんて誰も予想できないわよ。だからその点に関してはパラデシア様が気に病むことじゃないわ。アタシ達はアニスちゃんの神託のエミリアちゃんを通り連れて行っただけなんだから、この結果も神の思し召し……なのだろうけれど」


 カレリニエさんが私の今の姿を一瞥しているのを感じる。神様を疑うわけではないが、この結果に不満を感じているのは明らかだ。


「……聞いている限りだと、皆本当に聞かされていないんだな。アニスの事情を」


 ウィリアラントさんの言葉に私の肩がビクリと震える。


「貴方はアニスの事情とやらを知っているのですか? アニスがこの状態ですから、可能な範囲で聞かせてください。ここまで来た以上、私達には知る権利があると思います」


 ウィリアラントさんは少しの間どうしたものかと逡巡したあと「どのみちベンプレオとの会話で皆には疑問が生じてしまっている。アニスには悪いが、俺の口から説明させてもらおう」と、私に問うことなく説明を始める。


「そうだな……端的に言うなら、アニスはこの世界の人間ではない」

「なっ!? それはやはり、アニス様は比喩でも何でもなく天の使いということなのか!?」


 ラッティロが食い気味に言い放つ。端的過ぎでは? と思わなくもないが、ウィリアラントさんは説明を続ける。


「ラッティロ達がどう思うかは勝手だが、アニスはそんな崇高な存在ではない。別の世界に住む俺達と同じような存在で、ベンプレオによってこの世界に人格だけ連れて来られた、立派な被害者だ」


 とうとう私の秘密がバラされてしまった。そしてその事実に皆が絶句する。

 しばらくして、パラデシアが納得の溜め息を零す。


「無垢姫がアプリコ村に来たあと、ポートマス神殿長が頑なに話さなかったアニスの秘密、というのはこういうことでしたか……。おかしな魔法の使い方、異常な学習力、年齢に見合わぬ精神性。全く異なる世界から来たというなら、どれもこれも一応の納得ができます」

「あ~、俺達が亜人調査隊として村に立ち寄った時、バントロッケが嬢ちゃんの異常な賢さを気にしてはいたな。なるほど、その疑問はここに繋がるってわけか……」

「バントロッケの観察眼は侮れないものねぇ。アニスちゃんが神殿入りした時に色々と波乱万丈な経緯を聞いたけど、事情を知ると厄介事に巻き込まれるべくして巻き込まれた、ということになるのかしら?」

「アニス様がどういう事情でここにいようと、天の使いであることに変わりはねぇ!!」

「アニス様は天から遣われたわけではなくただの被害者だと言っていただろう!! 話を聞いていなかったのかラッティロ!!」


 ラッティロの発言に激昂するアレセニエさん。

 三者三様、十人十色な感想が出てくるが、このままではなかなか話が進まない。


「続けるぞ。ベンプレオは別の世界に渡る術を持っている、というのはエミリアとの会話でも分かったと思う。別の世界に渡ったベンプレオは、今のアニスの人格を元々宿していた人間を殺して、このアニスの身体に移した。察するに、ベンプレオと一緒にいた黒髪の少女の身体が本来の身体で、本来のアニスの人格があちらにあるのではないのだろうか?」

「要するに身体と人格を入れ替えたってことか? なんのために?」

「入れ替えると同時に色々とアニスに施しているような言動もしていたから、おそらく知的好奇心か研究成果の確認か、そんなところだろう。今回の遭遇は偶発的なものではなく、待ち伏せしていたことから考えて明らかに故意の接触だ。向こうからすれば実験対象の経過観察をしに来た、という感じなのだろう」


 ベンプレオとの遭遇は必然だったわけだ――。そしてエミリアさんを連れて行くのも必然だったし、その結果逃げられることになるのも必然だったと?

 運命というか、あの神様に弄ばれている気がしてならない。


「アニスとベンプレオに並々ならぬ因縁があることは理解しました。ウィリアラントが何故それを知っているのかは今は置いておくとして、アニスがベンプレオを取り逃がしたことでここまで精神的に不安定になってしまったのは――つまりそういうことですか」

「いえそこは勿体ぶらないでくださいなパラデシア様」

「ベンプレオがアニスの身体と人格を入れ替え、別の世界とやらからこちらに引っ張ってきたというのなら、その逆も可能なはずです。アニスの目的が元の世界に戻る、ということであれば、是が非でもこの機会に捕らえたかった……違いますか?」


 反応が無い私の代わりに、ウィリアラントさんが「それで間違いない」と返答する。


「つまり、アニス様はあのネズミ野郎のせいで不本意に天の世界から引きずり降ろされてしまったため、戻るためにはアイツを捕らえる必要があるってことか」

「う~ん……まぁ解釈としては大体間違ってはいないな」


 どうしても私を天の使いとしたいラッティロの言動に、ウィリアラントさんが微妙に諦めの声色を混ぜる。


「お姉さまは――」


 ふと、今まで黙っていたモモテアちゃんが恐る恐ると声を上げる。


「――お姉さまは、それじゃあ今までアタシ達をずっと騙してたってこと?」


 その一言は、弱った私の心を更に深く、とても深く抉り取った。

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