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104 .エミリア・ラーディット

 体全体が心地良い重さに包まれている感覚がする。まるでベッドの中にいるような――いや、これベッドの中だわ。

 えっと確か……のじゃロリ神との内容をパラデシア達に話してて、カレリニエさんとラッティロが誰かを呼びに行ったところまでは覚えてるんだけど、たぶんそのあと眠気に耐えきれなかったのだろう。


 魔力は寝て回復したようで、身体のだるさはほぼ消えている。これなら普通に起きれそうだ。

 私は薄っすらと目を開ける――と、そこには見知らぬ顔が私の顔を覗き込んでいた。


「うわぁ!!」

「おぶっ!!」


 思わず布団をその顔に叩き付けると、素早くベッドから降りて距離を取った。


「いやぁごめんなさい。驚かせちゃったみたいですね」


 ズルリと落ちた布団の向こうから、見知らぬ人物が少々申し訳無さそうに笑う。栗色の髪をサイドテールにした少女がそこにいた。


「あっ、お姉さま。起きましたか」


 私が起きたことに気付いたモモテアちゃんはこの少女に驚くこともなく、さも当たり前のように食事を運んできた。ということはこの少女は、この神殿客室に招かれた存在ということになる。


「えっと貴女は……?」

「初めましてアニスさん。僕はエミリア。エミリア・ラーディットと言います。アニスさんの神託? というので僕の同行が必要みたいですど、僕自身も時空魔法が相殺できなかったアニスさんに興味がありますし、丁度カイエンデまで行くつもりでしたから、こちらとしても同行のお誘いは願ったり叶ったりです。短い間ですけど、よろしくお願いしますね」


 やはりそうか。彼女がパラデシア達が親しくなっているという、件のエミリアさんだったか。

 彼女はおもむろに片手を差し出してきたので、私も「アニス・アネスです。こちらこそよろしくお願いいたします」と、握手をした。


 ……ふと、空気が変わる。私も違和感を覚える。


「――へぇ。この国では握手の習慣は無いはずだけど、アニスさんは淀みなく握手を返しましたね?」


 うわぁしまった!! 確かにこの世界に来てから握手をした記憶はない!! うっかり日本人の感覚でやってしまった!!

 でも何故だ? 何故彼女は習慣が無いと知っていながら握手をしたのだ? いや、その前に「この国で握手の習慣は無い」と言ったということは、他国には握手の習慣があるということと同義だ。

 色々と疑問が湧き上がるが、まずは相手が納得する返答だ。灰色の脳細胞をフル回転させなければ!!


「それはその……し、神託です!! エミリアさんと会ったら、こうするのが良いと教えてもらいましたので!!」


 我ながら上手い言い訳を思い付いたと自画自賛する。今後何かあったら全部神託!! で解決できるかもしれない。


「なるほど!! それなら納得です!! 僕もうっかり習慣でやってしまっただけなのに、まさか応えられるとは思わなくてビックリしました」


 うっかりかい!! でもこれで確定した。彼女はここシエルクライン王国の人間ではない。


「そうです。僕はここから南西の方にある島国、西大陸側の出身です。こちらの大陸を旅してまだ半年ほどなので、言語や習慣に不慣れな部分はご容赦ください」


 そうは言うが、少女とは思えぬほどにしっかりとした印象がある。聞けば15歳だとか。マカデミルさんも14歳の頃にはすでに傭兵やってたし、この世界の女子は強いなぁ……いや、私も人のこと言えない気がする。不本意だけど。


 その後、他のメンバーは出払っていたので三人で朝食を摂りながら雑談に興じる。こっちの大陸に来て驚いたこととか、何処其処で食べた何々が美味しかったとかなどなど。

 そして食べ終わってモモテアちゃんが食器を片付け終えた頃、他のメンバーがぞろぞろと戻ってきた。


「アニス、起きていますね。では少々急ですけれど、出発しますわよ」

「本当に急ですね……。何かあったんですか?」

「貴女の巡礼の旅の要件を満たした、というのもありますけれど、これ以上ここにいても碌なことにならないからです」


 パラデシアはそう言うと、有無を言わさず準備を急かしてきた。そのただならぬ雰囲気に私は言われた通りに旅支度を済ませ、全員の支度が終わったのを確認して足早に客室をあとにする。


「お待ち下さいアニス様!!」


 通路を行く途中、数人の神官に呼び止められた。一応この神殿にはお世話になったわけだし、呼ばれたからには前に出ないと、と思ったのだがパラデシアの手に阻まれた。どうやら前に出るなということらしい。


「アニス様、貴女は神の世界にいざなわれ、そのお言葉を拝聴されたと聞き及んでおります。それはすなわち、アニス様はこの世で唯一の神の代弁者となれるお方!! となれば、アニス様が居るべき場所はカイエンデ神殿ではなく、神が最初に降り立った聖地が存在する、このラルクシィナ神殿以外にはありません!! 是非とも、ラルクシィナ神殿への転属を!!」


 碌なことにはならないってこういうことか!!

 こっちの神殿に転属……いや、どう考えても無いなぁ。王都で築いた人間関係を失くすのは有り得ないし、そもそも月イチで会えるお父さんと会えなくなるので、選択肢として上がることは絶対に無い。

 神の言葉を(正直もう聞きたくはないが)聞くという点でも、のじゃロリ神は神像に祈れば良いとだけ言っていたので、おそらく神と精霊の像がある所であればどこでも良いのだろう。なのでやはりここに転属する意味は無い。

 私はパラデシアの後ろから顔だけ出してこう言い放つ。


「メリットが無いのでお断りします」

「なっ!? も、もう少しご一考を……!!」

「しつこいですよ。アニスがこう言っている以上、議論の余地はありません。それにアニスはルナルティエ王女殿下の庇護下にあります。異端魔法排斥派もいるこちらの神殿で、王女殿下以上の庇護を与えられるのですか? もし本気でアニスの転属を望むのならば、アニスにこの神殿へ転属するメリットを提示し、王女殿下を説得した上で、正式な書類をカイエンデ神殿へ提出してください」


 うわっ!! それは無理だ!! あの王女が私の転属など絶対に許すはずがない。断言できる。改めて、私は超強力な権力に守られているのだと認識する。


 ……まぁそれはそれとして、異端魔法排斥派とかいるのか。そういえば前に神殿長から「他の地域では異端魔法は文字通り異端視している所もある」という話を聞いたな。

 ここは土地柄、多くの巡礼者が訪れるから表立って強引な排斥はしていないだろうが、神が最初に降り立った地というアドバンテージ――プライドと言ってもいいかもしれない――があるので、四属性への信仰が強い可能性は容易に考えられる。

 そうなると、異端魔法容認派だと思われる彼らは立場的に弱いのではないだろうか? ……あっ!! だから私を取り込んで、立場を強くしたいのか!!


 この場所にいても本当に碌なことにならないな!! 


 パラデシアが相手の要望をバッサリと切り捨てたというのに、それでも向こうは往生際悪く私の説得を試みようとする。

 さすがに面倒臭いと思うも、神官たちが通路を塞いでいるので無視して行くに行けない。するとパラデシアが「エミリア、先に進ませてください」と小声で指示を出す。

 もしかして力押しで進むつもり? それはそれでちょっと問題になるのでは……などと思っていたら、視界が一瞬真っ暗になった――と思った次の瞬間、目の前にいた神官たちがいなくなっていた。えっ? と思って何気なく周りを見て、最後に後ろを振り返ったら、さっきの神官たちがオロオロしている後ろ姿が見えた。


 もしかして私達、瞬間移動したの?

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