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9.全治二ヶ月

 起きたら全身包帯だらけだった。顔だけは両腕で必死に守ったので大きな傷は無いが、それ以外は全身ズタボロである。

 特に酷いのが左足で、勢いの付いた状態でつま先を地面に接触させたせいで、かなり無理な力が加わった。おかげで折れてはいないが足の骨にヒビが入って腫れ上がっている。最初の勢いを付けた右足も相当な力で踏み込んだため、動かせないくらいには痛い。

 上半身は細かな裂傷や打撲がメインだが、両脚は筋肉の限界を越えた使い方をしたため、内出血で複数箇所パンパンに膨らんでいる。

 幸いにして靭帯断裂のようなひどい状態にはなってないが、肉離れ程度は余裕で起こしているので、左足は動かないように固定し、台に乗せて心臓より高い位置に。両足乗せると体勢が苦しいので右足は固定だけだ。


 何故あれほどまでに過剰な魔法になったかという原因は……まぁ大体予想がつく。

 火の魔法で火柱を立てた時と同じで、魔法効果の出力イメージを全くしていなかったからだ。

 火柱の時は酸素供給をすると考えただけで、その量をイメージしていなかった。今回は生体電流で筋肉強化を考えたが、どれだけ強化するのかというイメージがなかった。

 おそらく、私が一度に放出できる魔力の上限いっぱいまで使用したんじゃなかろうか?

 ……上限を知る必要はあるのだけれど、また今回のようなことが起こらないとも限らないので上限を調べるのは怖いなぁ。

 あとついでに言うなら、いまだに魔力というものがよくわからない。私自身、魔力という存在を認識できていないのだ。

 魔法という現象を起こせることで間接的に魔力を持っていることはわかるけれど、たとえば私の身体の中に魔力を感じるだとか、魔法を使うことで脱力感とか疲労感があるだとか、そういったものが今のところ何もない。

 そういえば魔法を使いすぎると魔力枯渇というものが起こるとか言ってたので、機会があれば安全を考慮した上でそのうち試してみよう。


 目が覚めた私に両親が気付いて、それはもうしこたま怒られた。今までのアニスの記憶にもないくらい凄く怒られた。でもその後に抱きしめられながら言われた、「無事で良かった」という心配と愛情の込もった言葉に、ごめんなさいごめんなさいと謝りながら激しく泣きじゃくってしまった。

 あとで思い返してとても恥ずかしい。姿は7歳だけど心は一応25歳だからね私。


 この村唯一の医者であるおじいちゃん先生の見立てで全治ニヶ月。両親からは治るまで魔法禁止令を出されてしまい、とにかくベッドで安静にする日々が続いた。

 いつも勉強会で顔を合わせる年上の子供達がお見舞いに来たり、私と同年代のモモテアちゃんと「治ったらまた遊ぼうね」という約束を交わしたり、おじいちゃん先生の定期検査、院長の出張授業、木工職人さんの好意で松葉杖っぽい物を作ってもらったり、ついでにこっそり魔法の練習をしたりしながら四週間ほど経った頃、ようやく松葉杖をつきながら出歩けるようになった。


 裂傷系は幸いなことに跡がほぼ残ることなく治ってくれた。右足も地面に付けても痛くないレベルまで回復したが、左足はもう少し時間がかかりそうである。

 ベッドから動けない期間はあまりにも暇すぎたので、松葉杖ありとはいえ動き回れるようになったのは素直に嬉しい。

 寝たきりで落ちてしまった筋肉のリハビリもしないといけないので、慣れない松葉杖と頼りない筋肉で、生まれたての子鹿のようにプルプルしながら散歩するのが日課になった。


 治療中に回復魔法みたいなのは無いかと水属性魔法辺りでいろいろ試してみたけど、それらしい効果のある魔法は発動しなかった。まぁあったら院長が使ってるだろうし、医者もいらなくなるよね。

 ならば人体の治癒能力を高められないか? と電気魔法で細胞の活性化を図ってみたけど、ゲームやアニメのように魔法エフェクトが出たりするわけではないので発動したかわからないし、もし発動してたとしても比較要素が無いので効果があったかはわからない。体感としてはあまりなさそうである。


 こっそり練習した魔法で他にわかったのは、無詠唱だとどんなにイメージを高めても魔法使い級程度の魔法しか発動しないこと。

 詠唱するにしても単に声を出せばいいというわけではなく、イメージする効果を出したければ最低でも人と話す程度の声量が必要のようである。

 そして声量の大きさによって魔法の効果範囲が比例するようで、声が大きければそれだけ魔法の届く範囲が広がるみたい。ただその確認をこっそりとやるには限界があったので、これは要検証だ。


 あと心の中で精霊にお願いする時、『火の精霊さん』とか『電気の精霊さん』などと具体的にしてたけど、単に『精霊さん』とお願いしても効果と安定度は同じように上がった。ちょっとふざけて『神様』にお願いしてみたら、同様の効果になったのはちょっとびっくりした。お願いするのは精霊でも神様でもいいらしい。

 逆にまったくお願いしなかったら効果と安定度が下がってしまった。


そして院長から衝撃の事実を一つ聞かされた。

 今回、電気魔法による筋力強化でスピードアップを図ったけれど、単にスピードアップするだけなら風の魔法で良いらしい。

 今回の怪我ははっきり言って無駄である。


 そういえばお父さんに王都の珍しい物が食べたいってお願いしてたけど、王都に向かう前に私がこんな事になっちゃったから、買ってきたのは怪我に効く珍しい薬草だとか、健康に良い珍しい食材とかになってしまった。その中にお米は無かった。残念。





 松葉杖の扱いに少し慣れてきた頃、今日は勉強会がある日なので久し振りに精霊院へと赴く。

 この世界――というか国では、16歳から成人扱いとなる。

 この村には16歳未満の子供が8人いて、一人は当然私、私と唯一の同年代であるモモテアちゃん6歳。あと6人は少し年が離れて10歳から14歳の男女三人づつ。


 教室に入ると皆が一斉に振り向いて驚いた顔をしたのち、安心の表情で私に声をかけてくれる。うん、素直に嬉しい。

 そのあと一応勉強会には参加するが、それが終わったあとは私一人残って院長と個人授業をすることになっている。

 皆には魔法の勉強(魔法禁止令のため座学のみ)と言ってある。もちろんそれもあるのだが、それよりもベッドから動けない間にやった院長の出張授業によって、皆の学習進度を余裕で追い越してしまったのだ。日本の現代教育の賜である。

 なので私だけもう少し先に進んだ勉強を行うことになったわけで。早めに私にこの世界の常識を教えたいという院長の考えもあるようだけれど。




「院長先生、この前時空魔法の説明の時に言ってた『バム』ってなんですか? 文脈からなんとなく時間の単位で、そんなに長い時間じゃないってのは察したんですけど」


 個人授業開始早々、そんな質問をしてみた。ずっと疑問に思ってたけど、家だと魔法に関係する話は両親が神経質になっていたのでできなかったのだ。


「あぁ、この村ではあまり細かい時間を使う機会がありませんからね。時計があるのは都市部が主ですし。――バムを説明する前にまずトロンの説明をしなければなりません」


 時計が存在してたのか!! この村にまったく普及してないということは、現時点では高価な物か貴重な物なのだろう。

 可能ならいつか手に入れたいとは思うが、その前にまずはこちらの時間の常識を知らなければ。


「一日を10分割した単位をトロンと言い、日の出を0トロン、日の入りを5トロンと定義されています。そしてバムは1トロンを100分割した単位ですね。経過時間などを表す場合はそのまま2トロン50バムなどと言いますが、時刻を表す場合はトロンを略して2ト50バムと言います」


 トロンは地球で言う「時」、バムは「分」相当の単位ということか。

 えーと、24時間を10で割ると2.4時間で分換算すると……144分くらい? それを100で割って1.4分――1バムは大体1分24秒くらいか。

 時空魔法の使い手が操れる時間が20バムって言ってたから、1バム約1分30秒として大体30分くらい? ……うーむ思ったより短いな。

 まぁでもこの計算、この世界の自転速度が地球と同じという前提だけれど。


「……あれ? そこまでしっかり時間の定義がされてるのに、日の出と日の入りを0トロンと5トロンに設定してたら、季節によって時間間隔が早くなったり遅くなったりしません?」


 夏だと日中は1バムが長く夜は短く、逆に冬は日中1バムが短く夜は長くなってしまう。江戸時代の時間感覚と似たようなものだ。

 正確に時を刻む時計という道具がすでにあるというのにそれはおかしい。いや、魔法という超常の力がある世界だから、もしかしてこの世界の時計はそういう季節に対応している可能性もある。


 ――などと考えていたら、予想外の返答が来た。


「キセツとはなんですか? それも前世にはあったものですか?」


 えっ!? 季節がわからない? いや、季節の存在、概念が無いのだろうか?


「季節というのはえーと……時期によって環境が変化していくことです。一年の内のある一定の時期は暑くなったり、その半年後は逆に寒くなったりすることです」


 まさか季節の説明をする日が来るとは思わなかった。季節がわからないというなら夏や冬という単語も通じないだろう。

 この世界で目覚めてしばらく経ってわかったことだけれど、私はこちらの世界の言葉をずっと喋っているつもりなのだが、こちらに無い単語は日本語として出てきてしまうようなのである。そして私にはその単語が、この世界の物なのか日本語なのかという判別がつかないのだ。なので迂闊に季節に関連する単語を出してしまうと余計混乱させてしまいかねない。


「時期によって環境が変化するとは、なんと恐ろしい……。ここが南の地域のように暑くなったり、北の地域のように寒くなったりするなど考えたくもありませんね。前世の人々は生活に相当苦労したのではないでしょうか?」

「いえ、前世はそれが当たり前の世界でしたから……」


 何故か同情されてしまった。

 どうやら季節の概念そのものが無いもよう。これは私もびっくりだ。

 環境について話を聞いてみると、どんな地域でも環境が変化することはないとのこと。常に一定なのだそうだ。

 自室のクローゼットに冬服や夏服に相当するものが無いなとずっと疑問に思っていたけど、そういうわけか。




 そんな感じで、私が疑問に思った些細な事柄を教えてもらったり、院長の用意した特別授業を受けたりしていたところ、突然外から鐘が鳴り響いた。

 この鐘の音は村の中央にある物見やぐらからだ。滅多に鳴ることがないこの鐘が鳴ったということは、基本的に村に何かしらの異変が起こった場合。私も院長も緊張が走り、鐘の回数をしっかり聞く。

 カーンカーン、間を空けて再びカーンカーン、と鐘の鳴り方は連続二回。これは確か、害獣が村に侵入した時の合図だっただろうか? 襲われるといけないので戦闘能力のない村人は自宅に閉じこもり、狩人やある程度武器が扱える人、駐在兵は害獣駆除に駆り出される。


 私は当然、非戦闘員側だ。このまま授業を続けましょうと院長に提案しようとしたところ――


「丁度良い機会です。今回の害獣を利用して、魔物を想定した戦闘訓練を行いましょう」


 えっ!? なんでそうなるの!?

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