~視線の正体~
「着きましたね」
ガルシア公爵の屋敷は、謎に包まれているイメージだったけれど、意外と普通だった。
他と違い珍しいのは、周りに木がたくさんあることくらい。
「ヴァレンティーナちゃん、いらっしゃい」
ソフィ様はわざわざ出迎えてくれた。
「今日はよろしくお願いします」
「こちらこそ。私、堅苦しいのはあまり苦手だから、普段通りにしてね」
一昨日、帰る時に話したからか、ソフィ様はフレンドリーだ。
「ガルシア公爵家って、意外と普通って思ったでしょ」
「えっと…まあ」
否定しようか肯定しようか、迷い、曖昧な返事になってしまった。
「ごめんなさい、困らせちゃったかしら」
一言区切って言う。
「私も旦那様…ガルシア公爵も公爵領から、あまり出ないから、変な噂がたっちゃうのよね。変わってはいるけれど、言うほどクレイジーじゃないわよ」
変わっているのは、なんとなくわかる。
自覚しているから、おかしすぎる訳ではないけど。
「ここの階段を上がれば、開いていた窓があるわ」
階段を上がると、例の窓があった。
バルコニーへ続く窓とかじゃなくて、普通の小さな窓だった。
「ヴァレンティーナちゃん、お茶でもする?よかったらオリアナちゃんも」
「オリアナちゃんってなんだか私の妹に似ているの。お顔が似ているんじゃなくて、雰囲気がね」
「へえ、そうなんですか」
「ヴァレンティーナちゃんも可愛いけど、オリアナちゃんもまた違った可愛さで、二人とも仲良くしたいなって」
「オリアナって大人っぽくて可愛いからね~」
女子会と言えばやっぱり恋バナ!
勿論、その話になった。
「二人って好きな人っているの?」
ソフィ様の問いに考える。
「オリアナを好きな人なら…」
「ヴァレンティーナ様が好きな人なら…」
「「え?」」
驚いて、顔を見合わせる。
「え、私、好きな人ならいないよ」
「あれは、どう考えても好きですよ」
オリアナはモテるので、自分の話題にはたいして驚いていない。
一番好きだとしたら…
「いや、まさか」
ある人物が思い浮かぶが、まさかと思い、考えを振り払う。
「ヴァレンティーナちゃんが好きな人って…?」
「はい、そうです。でも本人は全然気づいてないんです」
ソフィ様がオリアナに囁いたが、小さくて聞き取れなかった。
「オリアナだって。あからさまにアピールされても、全然気づいてないじゃん」
「誰のことですか?この間告白してきたK君ですか?」
ちがーう!
お兄様のイニシャルはGだし、全然違う…。
「オリアナちゃんを好きな人って誰なの?」
ソフィ様が耳を近づけてくる。
「私のお兄様です。お兄様って奥手だから、告白なんてするはずがないし、したとしても、遠回しになので、オリアナが気付かないんです。せめて、鈍くなければ、気づいて貰えるのに…」
「あらまあ…」
ソフィ様も苦笑いしている。
「若いっていいわね」
「ソフィ様も若いですよ」
「ソフィ様の好きな人ってガルシア公爵ですか?」
「ええ、勿論。最初はそうでもなかったけれど、今ではね」
そう言ったソフィ様は、恋する乙女のよう。
ラブラブ夫婦なんだろうなー。
「あ、そろそろ帰らないと、暗くなっちゃうわね」
恋バナをするまで、結構話してたからか、もう4時になっていた。
「じゃあ、最後に恋占いさせてください」
「恋占い?」
「はい。誕生月を言って貰えれば、恋愛がどうなるか、わかるので」
「今月よ」
所詮占いだし、たいしたことない、
そう思っているふうでは、あったが、教えてくれた。
予想通り誕生日は近かった。
「誕生日が近いソフィ様には、何か良いことがありますよ!悩み事は原因を作った本人から、直接聞けるでしょう。今は、いつも通りにするべし、です!」
「へえ、占いありがとう」
ソフィ様は本気で受け取ってはいないだろうけど、一応当たってはいるはずだ。
こうして、私たちは、公爵邸をあとにした。
「ヴァレンティーナ様が考えたこと、なんとなく気づきました」
「恋っていいねー」
「何、年寄り臭いこと、言ってるんですか」
「鈍いオリアナには言われたくないよ」
「それを言うなら、ヴァレンティーナ様だって。王太子が好きなんでしょう」
「え、やっぱそう思ったの!?そうなのかな~」
「どうなんてすか」
「う~ん、多分そうだ」
恋を自覚した途端に顔が赤くなった。
忘れかけていたけれど、私は悪役令嬢。
カーティス様は攻略対象。
私の恋は結ばれる確率は低い。
…初恋がどうなってもいいから、今は、幸せに浸っていたい。
ソフィ・ガルシア
→ガルシア公爵夫人・銀髪・青い眼・ちょっと変わり者
ソフィ:こんにちは!ヴァレンティーナちゃん、
今回はありがとう
ティー:大したことないですよ
あと、旦那さん素敵ですね
ソフィ:まさか、視線の正体が旦那様だったと
は。誕生日プレゼントを何にすればいい
かわからなくて、使用人に私の趣味思考
を調べさせてただけなのよね
どうしてわかったの?
ティー:部外者の人が公爵邸の近くでソフィ様を
ずっと見ていたら、普通は、誰か気づ
くし、不審者になるでしょう?
それに、奥さんが変な視線がとか言った
ら、勘違いでも護衛を増やしたり一応す
るはずです。
そうではないし、ソフィ様の誕生日が近
いのだったら、この可能性が高いかなっ
て
ソフィ:へえ~
ヴァレンティーナちゃんは、王太子殿下
との恋!頑張ってね!
可愛いから大丈夫よ
ティー:ありがとうございます!
(大丈夫じゃないかも…)