貴方は異能力を信じますか?
第1章-壊れ、再構築
朝、目覚ましの音で目が覚める。
5月半ばのこと。そろそろ蒸し暑くなってきたなと感じながらも県立桐山高等学校の冬の制服に着替え、朝食を済ませ家を出る。そろそろ衣替えの時期かと思いながら階段を降りる。
いつも通りの朝に、うんざりしながらも普通の高校生を演じなければならない。
真面目なフリをして授業を受け、昼食は決まった友達と済ませ。また、午後は真面目なフリをして授業を受ける。そして部活が始まる。何も代わり映えしない毎日を送る。
基本的にこの桐山高校は生徒全員、入学1ヶ月後に部活動強制入部させられる。しかも、部活動は自分達で選ぶ事ができず、学校側から指定されるのである。大概の生徒は不満を持ちながら部活動をするが、卒業する頃には立派な成績を残し、満足な顔をして卒業していく。
そして、俺、無取 和也も部活動にはいっている。
この桐山高校の特色としては、皆がよく知るであろう運動部や文化部の他に生徒部という部活動が存在する。
生徒会も例に漏れず、生徒部という部活動に入る。その部活動に無取 和也は属している。立場は書記として、会長、副会長や風紀委員、その他の委員会の報告書をまとめ、保管するといった活動をしている。
そして今日も、生徒会の活動報告書を作成してた時に教室の扉の外から鼻歌交じりにはしゃぐ少女の声が聞こえ出した。
扉を開けて入ってきたのは、生徒会顧問の優夏 春、28歳、三十路に近い割に見た目は童顔で身長も小柄、スーツでなかったら、誰が見ても中学生か、高校生といった見た目をしている。そして一応補足としては、この桐山高校の卒業生、いわゆるOGである。
彼女が顧問になった理由としては三つある。一つは彼女がこの生徒部の四代前の会長だったこと。二つはそもそもこの生徒部というもの、かなり特殊な部活動で経験者じゃないとまず、顧問になれないという事。三つ目はまた後に話すとしよう。
そんな彼女が生徒部の部室に入ってきてまず一言
「君達〜そろそろ始まるかもしれないから気楽にね〜」
と、何が始まるのかは俺はまだ何も聞かされていないが、他の先輩方の反応を見た限りでは、そろそろ説明があるのかもしれないと思い何も質問はせずに落ち着いた返事だけする。
今この部室には俺の他に、二年の生徒部の会計を務めている珠金 葵といった人物。髪の長さは肩よりも下で、シンプルな白い額の眼鏡、いつも黄色いカチューシャをしている見た目は大人しそうな女の子だ。見た目はだが。俺はあまり関わらないようにしている。話した事はまだ片手で数えられるくらいしかない。そのくらい関わりたくない。
そして三年生生徒副部長の林上 夢。背はとても小柄で見たところ145センチ位だろうか、とても綺麗な黒髪で髪はそんなに長くなく肩にかからないくらいの長さ。ただ、制服をキチッと着るのが苦手なのか少し、というよりもかなり着崩れている。滅多に口を開くことは無く、俺が見た限りでは話している所は生徒部長と話している時くらいだ。
最後に三年生生徒部長の森 淘汰。彼はとても真面目。という事はなく、ピアスも両耳に三つずつしており髪は金髪に染め上げている。ただこの桐山高校の制服はかなり気に入っているのか、他の生徒の模範にもなるくらいキチッと着ており様になっている。
以上が俺も含め五名が今この部室にいる。
「はいよ〜」
と森生徒部長の返事に続いて
「また始まるんですか?ていうか去年よりも早い気がするんですけど。」
と会計珠金が少し苛立ったように顧問の優夏先生に質問する。生徒副部長林上は以前黙ったままだ。
「そうだね〜。先生レーダーはもうすぐだよ〜っていってるから多分もうすぐたと思うよ。」
優夏先生は明るく、ただ明るいだけじゃなく生徒に言い聞かせる様に話した。そして、声のトーンが急に下がり真面目な声で
「ただ、そうだね。去年より早い理由は無取君の能力が予想よりも高かったからだね。」
と、俺にとっては何のことか全くわからない状況で話が進んでいっている。ただ能力という言葉が聞こえたのが、俺は少し嬉しいと感じた。書記としての能力が高いと評価されたのだろうと思ったからだ。だが、次の一言でそういう理由じゃないという事を知る。
「今年の能力は去年と同じだよ。誰もランダムにシャッフルされていない。」
この一言で、俺は書記としての能力では無いことを確信する。少しずつ頭の回転が遅くなっていく。書記としての能力でないとするならば、なんの能力だ?ランダム?シャッフル?何のことを言っているのか全く分らない。何を喋っているんだ?そんな疑問がどんどん出てきている所に他の先輩達の顔がどんどん驚愕の色に変わっていくのは分かった。そして冷静にただ深呼吸をして、落ち着いて、一言だけ話した。
「すみません。俺、何のことか全然分からないので誰か説明して下さい。お願いします。」
最後のお願いします。はいらなかったと思うが、スルッと口から出てきてしまった。
「あー、わりわり。確かに話してなかったわ。すまんすまん。能力ってのは、異能力って事だ。」
この桐山高校の受験は少し変わっていた。
というよりも何故、俺はこの変な高校を受験しようと思ったのは、ただ大学に行くにしろ就職をするにしろ、この高校は進学率百パーセント就職率九十七パーセントと非常に高くまた、普通に履修科目だけしっかり勉強していれば進学出来るという強みから、この高校を受験した。この桐山高校の受験としてはまず一週間かけて試験や面接、アンケートを解いていく。試験は二日かけて行われた。一日目が国数社理英の五科目、二日目が生物、倫理、道徳の試験だった。俺は二日目の試験は知識として分かる所だけ記入したが、それ以外のところは全くわからなかったので空欄で提出した。面接は一日だけ。これは普通の集団面接だった。当たり障りの無いことを質問され、それに答えていっただけ。そして俺はとても不思議に感じていたのがアンケートとだった、残りの四日もこのアンケートに使うのだ。内容もよく分からず、アンケートの例としてはこの世界に不満はあるかとか、君は夢の中で不思議な力があった事はあるかとか、ほとんど覚えてないがそんな事が書いてあった気がする。
そして、生徒部長の説明で納得する。
「そのアンケートと二日目の試験で適性があるか、能力を発動する可能性のあるか無いかを確認するって感じ。
そして、その能力はランダム性があるが、見た事のある夢の内容である程度固定されるって感じかな?」
その説明なら俺の能力はそういう事になるが、そうとなると全くもって何をもって能力が高いと判断されるかがわからない。
「まあそうとなったら、各自お前らの能力の把握が大事っしょ。まあ、新入部員は無取、お前だけだからアンケートに書いた夢の内容を教えて欲しいんだが」
そう言われても俺もとても困る。細かく夢の内容を教えないといけないのなら非常に困る展開になる。墓場まで持っていくつもりだったのだから。
「あの、夢の内容は細かく教えないといけないどだしょうか?」
噛んだ、盛大に噛んだが内容は伝わったらしく生徒部長が話そうとした時、珠金が横から
「細かくじゃなくていいわよ。こういう能力だろうって感じだけで良いの。細かく教えなくていいわ。部長に弱味を握られるだけだから」
何を話したのか気になる所ではあるがそれは置いといて、夢の内容としては簡単に説明すると、クラスには省かれて一人孤立して、ひたすらここに居たくない、消えたいと思っていたら、本当に消えたって夢だから。
「多分、存在が消せるんだと思います。透明人間みたいな感じだと思います。」
「なるほど、お前は自分が消えたいって夢を見たってことか!内気なやつだなぁ〜」
ほっとけ、とかそんな事を言ったら仮にも先輩であるのでというよりも先輩であるがゆえに俺は何も言わず一言
「そんな感じです。」
と、ただ一言だけ呟いた。
「よし、残りの二人も自分の能力の説明しとけ部内で把握してないとこれから大変なんだからな!ちなみに、俺の能力は能力が効かない!以上だ!」
なんとも強い能力だと思ったが多分違うだろう。というよりも説明になっていない、ただ無条件で効かないわけがないだろう。
「先輩、それは説明不足です。効かないというよりも、相手から干渉されないだけで、物理については効くじゃないですか。」
ほれみろ、しっかり違うじゃないか。ていうか、普通に弱くないか?干渉されないだけって。
「ちなみに付け加えると、相手の能力の理解、把握をしないと効かないようにならない。だな!」
なおのこと何とも強いのか弱いのかが全く分からん。掴み所のない能力だな。ただ理解、把握さえすれば能力の干渉がされないというのは、普通に使えそうだな。
「ちなみに私の能力はパワーが上がるわ。一応物理的に。先輩もぶん殴れるからね。ただ体調や気分の上下で上がり幅が変わるわ。んーと3〜15倍かしら。」
よし決めた。この先輩の機嫌は損ねないようにしないと、確実に殺される。ただでさえ力が強いのにそれが最低でも3倍とか、確実に死ぬ。ていうか死ぬ。
「最後、眠らせる。夢食べる。夢与える。」
全く分からん。なにこれ、眠らせる?夢食べる?与える?文字通りに捉えたら良いのか?てか、林上先輩の声初めてちゃんと聞いたけど、可愛い大人しい声してるな。つい惚れちゃいそうだよ。
「はい!という訳で、流石に説明不足なんで、俺が説明すると、相手を眠らせる事が出来る、そして夢を食べる事も与えることも出来るって所かな、ただ与える夢は食べた夢じゃないと与えられないってのが付け加えられるってかんじ?」
この生徒部長の説明に頷く林上先輩、小声で
「ありがとう」
って完全にこのおちゃらけた生徒部長に惚れてるな。ここで一つ疑問が残った。先生はなぜ始まると分かったのだ?
そして、なぜ俺の能力が高いと言ったのだろうか、この疑問が残ったまま、学校の完全下校のチャイムがなり今日の部活動は終わった。
そして終わり間際に生徒部長が
「ちなみに、能力ってのは学校外じゃ使えないからな?校舎内だけだぞ!」
と一言だけ残して颯爽と帰って行った。
下校ちゅう生徒部の部室から出て階段を降りていると、風紀部で同級生の確か、名前は竹下 勇気だったか?が現れた。もう見た目はどこにでもいるような高校一年生で短髪黒髪の普通の高校せいだ。気にせずに隣を通り過ぎ階段を降りようとしてると、後から声をかけられた。
「お前能力はなんだ。教えろ。」
とまあ傲岸不遜な態度で聞いてきたが、俺はシカトして階段を降りようとすると、ふと思った。
「なんで能力の事を知っている?」
これは、俺の確認不足だったのだろうが、帰り際に部長やら副部長やら会計やらが教えてくれても良かったのではないだろうか。しかし、よく考えてみれば皆同じアンケートを受けているんだ。確かにこの部活だけ能力が現れるといったこともおかしな話だろう。他の部活動生も能力が現れても不思議じゃないが、なぜ説明を受け、今日事態を把握してもうすぐ始まるのかなと思っていた矢先に、こんな事を聞かれるのだろう。
「無取、お前はまだだろうが俺は発現したぞ。そして俺はこの勝負、勝ってやる!」
うーむ、なぜ今日説明を受けてもうすぐ...この話はさっきもしたな。だが、もうすぐ始まると言っていたのに何故、今日の今日なのだ?もうすぐって本当にすぐって事だったのだろうか、そして勝負?何言ってるんだこいつは能力が発動するから気をつけろってだけじゃないのか?
「なあ、竹下。勝負ってなんだ?何に勝ち負けがあるんだ?」
と質問をした瞬間に竹下の携帯が特撮ヒーローものの音楽を鳴らした。ちょっと呆気にとられていると。
「ちょっとまってろ!」
と言った途端に、携帯を取り出し電話に出た。てかそれ、電話の着信音だったのか、なかなか恥ずかしい奴だな。とか思っていると、竹下の顔がみるみる青ざめ、ペコペコしはじめた。
「すみません。先輩。勝手な行動をしてしまって、先に殺ったら後が楽だと思ったんです。すみません。すみません。」
某芸人みたいに同じ事を繰り返している。ん、やったら?やったらって殺ったら?なに物騒なこと言ってんだこいつは、こんな校舎で学校で殺しなんてやったらダメだろう。
「今日はここまでにしといてやるよ!俺は風紀部に用事ができたんでここまでだ!」
なんか、ガキ大将みたいな事を捨て台詞にしながら走っていった。というか、他の生徒も能力が発動するんだったら校舎中が大パニックになるんじゃないのか?全員発言するって事だろうから、大変な事になると思うんだが。階段の途中で物思いに耽っていると携帯の通知がなった。胸ポケットから携帯を取り出し確認する。生徒部長からだ。生徒部長はなぜ俺の携帯のメールアドレスを知っているのか疑問に思いながらもステータスバーを表示させる。
【あ、言い忘れてたけど他の部活動も能力が発言するぞ。ただ、それは文化部の中でも他の学校でいう いわゆる《生徒委員会》って奴らだけだけどな!】
なるほど、生徒全員ではなく生徒委員会限定の話ってことか、納得しながらスクロールしていくと。最後の文に
【追伸、能力については他言無用な!他の奴らに話したら速攻退学だそ♡】
なるほど、ふざけているな、大事な事なら先に言っておいて欲しかったものだが、まあ、言葉もさほど交わしたことの無い会計に無口な副部長、なんにせよテキトーな部長の事だから、まあ仕方が無いのかもしれないと思いながら帰路についた。