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限定戦争

作者: 耕路

 車は、回路が路面に埋設された自動走行車線を走っていた。倉島亮太は、ハンドルから手を離していた。サングラスを外して、ダッシュボードのグローブボックスに仕舞っているとき、インパネに組み込まれたディスプレィ画面の文字が点滅した。

 

(注意! 交戦中)


『また局地戦かしら?』

 助手席に座った妻の梨香が前方を見て言った。

『国民武装戦線の連中が抵抗しているとはニュースで言っていた。連中も必死なんだろ』

 亮太はそう言って、ディスプレィ画面を指で触れ、ヘッドラインニュースに切り替えた。

 自動走行車線では、車は車間距離を保たれ、車輌は列車のようにひとかたまりになって、最適の速度で走行を維持される。四車線の高架道路は渋滞とは無縁に流動していた。

 気づくと、フロントガラスの正面の視界を、かなり低い高度で飛行しているヘリコプターが横切った。

 二重反転式ローターを持ったヘリコプターは、高架道路から百メートルほど離れた位置の軽量コンクリート製の倉庫の上空で静止すると、倉庫に向けて機銃を発砲した。

 外壁が砕けて飛び散る。

 と、倉庫から人影が散って、茂みに逃げ込む。茂みから携帯型の短射程のミサイルが発射される。

 ぼん、と鈍い爆発音がして、ヘリコプターのエンジン部分が吹き飛び、機体は墜落して炎上する。

 茂みの周辺では、歩兵戦闘装甲車から散開した兵士が辺りに銃弾を撃ち込んだ。


『前にうちに来たかおりを覚えてる?』

 梨香が言った。

『いや、覚えてないな』

 亮太はミネラルウォーターのペットボトルに口をつけると返答した。

『かおり、旦那さんと別れて十歳も年下の相手と再婚したんですって』

 亮太は笑って、

『羨ましそうな口振りじゃないか』

『そんなことないけど』

 梨香は否定した。


 車は、支柱の標識に本線、と表示された路面を走る。間もなく、車列が減速した。見ると、濃緑色に塗られた軍用トラックの一団が路肩に停車している。国防軍のトラックだった。

 梨香は、トラックに目をやりながら、 

『この戦闘はいつまで続くの?』

 と、亮太に訊いた。

『限定戦争は、国際機関も認めた紛争解決の合法手段だ。長引けばコミッショナーの判定で、勝敗が決着する。すべては大戦争を避けるための人類の知恵なんだよ。これは昔からみれば進歩さ』

 亮太は、そう言って、またペットボトルに口をつけた。

 路面を這うように黒煙がたなびいていた。車列は、再び速度を上げた。何機ものヘリコプターのシルエットがまるで昆虫のように茜色の空に映じていた。

読んでいただきありがとうございます!

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