表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
36/38

35. ザ・セカンド・ティタノマキア その⑲

「くっ……なかなかやりマスね!」

「そっち、こそ……はあ、はあ」


 新たな軍勢と戦う英雄たちの上空。紫苑とルシファーは、実に二十分にもわたる空中戦を展開していた。


 はじめ、ルシファーは得意の精神支配で紫苑に攻撃したが、残念ながら紫苑の前世での恋人・アルテミスの加護によりそれは無効化され、以来こうしてずっと、シンプルな殴り合いが続いている。ルシファーの方は黒魔導のような遠距離攻撃も具えており、紫苑にとってはなかなかに厄介だ。


 美女の姿で登場したルシファーだったが、途中から紫苑が思いのほか強敵だと察し、今は痩せた男の姿に戻っている。


「ハァ……いつまでもやっていても埒が明きまセン……!そろそろ、終わりにしまショウか!」


 ルシファーが両手を掲げ、紫色のオーラの球を生成する。先ほどから何度も見せられた攻撃。だが、今度のものは段違いに大きい。


「若き勇者ヨ! ココがアナタの墓場DEATH!」

「っ……!」


 紫苑の身体の十倍近いサイズのそれが放たれる。距離は十メートルほど。恐るべきスピードで迫りくる魔弾から、逃げる術は無い。


 ……なら、逃げなければいい。


「は あ あ あ あ あ」


 紫苑は腰に拳を溜め、エネルギー弾を迎え撃つ。


「オオオオラアアアアアアアアアアアアア!!!!!!!」


 ぶつかり合う拳と魔弾。全ての力を右手に集める。


「ク……!」


 ルシファーも負けてはいない。両手を紫苑の方にかざし、闇のエネルギーを送り続ける。


「オ オ オ オ オ オ オ オ オ オ オ オ !」

「ア ア ア ア ア ア ア ア ア ア ア ア !」


 全神経を、この一撃に込める。天装・聖拳リゲルは擦り切れ、今にも砕け散りそうだ。


 だが、


(まだ……終われない! こいつを倒して、リサと会うんだっ!)


「〝記憶解放(メモリー・リベレイト)〟!!」

「ナッ⁉」


 紫苑の籠手に、銀色の紋章が浮かび上がったかと思うと、魔弾にかかる抵抗が突然増加した。


「こ……コレハッ⁉」


 ただ増したのではない。まるで拳そのものが増えたかのように、いくつもの箇所から、魔弾が押し戻されている。


「バカなッ! ワタクシの全力ヲ⁉」

「これはっ……あたしの、今までの、攻撃だっ……」


 驚くルシファーに、紫苑は魔弾に力をかけながらも言い放つ。


「今まで打ってきたあたしの拳は……そのエネルギーは……ひとつ残らず、この聖拳が『覚えて』いる! それを、一度だけ再現できるのがっ……あたしの、天装の、能力っ!」


 右のリゲル。左のベテルギウス。これらは紫苑のパンチの「エネルギー」と「軌道」を記録し、一度限り再現する力を持っている。日々の鍛錬の時から、この戦いまでに打った全ての拳による攻撃の「記録」を、紫苑は一度として使わず残していた。


「オオ……ラァッ!」


 ついに、魔弾はその進行方向を変え、ルシファーへと向かって弾かれる。


「がふう⁉」


 直撃。上空へと吹き飛ばされるルシファー。


 それを、紫苑は逃がさない。


「オオオラアアアアア!!!!」


 両の拳を構え、矢の如くルシファーに突進する。


「ちょ、待ちナサイ! か弱いレディにこんなことしていいのDEATHカッ!」

「悪いけど、あたしも女なんだよっ! 潔くボコられろッ!」


 その籠手には、またしても古代の象形文字のような紋章が浮かび上がっている。


「……オラァ!」


 鮮烈な右フック。しかし、その拳は一発ではない。

 パンチが繰り出された瞬間に、紫苑の腕が何十本にも増えたような幻覚を、ルシファーは見た。


「がほあぁああああ!?」


 全身に衝撃。だが、拳の雨はまだ終わらない。


「オラァ! オラァ! オラァア!」

「げげぶがびぼばぼ!」


 数百発もの鉄拳が、ルシファーに炸裂する。モーションは一発ずつ。されど命中するのは無数。


「オオオオラアアアアアアアアアアアアア!!!!!!!」


 ついに、今まで見えていた紫苑の拳も目にも止まらぬスピードでルシファーの身体を穿ち始める。その分だけ、彼に浴びせかけられる衝撃の量も増していく。


「ばぐぶごぼげばああああああああああ!!!!」


 最後の一発、左ストレート×1000。全身の骨を砕かれたルシファーは、そのまま夜空の彼方へと吹っ飛ばされていく。


 だんだんと遠ざかり、その姿が確認できなくなったとき、


「おっと。オマケだぜ♪」


 紫苑が指を鳴らすと。


「びぎゃああああああああああああああああああああ!!」


 再び、ルシファーを襲う拳の嵐。

 実は、紫苑の左拳・ベテルギウスにはもうひとつ能力がある。パンチを命中させた相手をも記録し、その「再現」の能力を、これまた一度に限り、遠く離れた場所にいても命中させられるのである。


 悪魔の体の耐久力の大幅なオーバーに、元々丈夫な方ではないルシファーは耐えられるはずもなく――


 爆散。夜空にキラリと光る星となり、彼の身体は完全に消滅した。


「棒きれみたいな身体でよく戦ったな! 次からはもっと鍛えてきやがれ!」


 ガシン、と籠手を合わせる紫苑の両腕は、およそ女子高生とは思えぬほど引き締まっていた。





「紫苑!」

「リサ? ……えっ」


 戦いを終えた理里が駆け寄ると、紫苑は怪訝な顔をした。

 すでに、他の場所でも戦いは終わりつつある。ティターンは魔神の活躍で全て倒され、泥人形は全滅し、残るルシファーの部隊も、ここから遠くにいるあと数十名ほどとなった。


「あっ……ごめん。俺、進化しちゃった」

「あ、ああ。そういうこと」


 金色に輝く怪物の身体が、一瞬竜巻に包まれ、次の瞬間、それは紫苑が見慣れた、人間の姿に戻っていた。


「うん! やっぱり、リサはこっちのほうがいいな!」

「ハハ……そうかな」


 紫苑は無邪気に笑う。照れくさくて、目を逸らしてしまう。

 いかほどに待ち望んだこの再会。いかほどにもう一度見たいと願ったこの顔。この姿。なのに、直視できない――


『ちょっとー。おねえちゃんの見てる前でイチャつかないでもらえますかー』

「「ひゃっ⁉」」


 悶々としていると、いきなり(珠飛亜)が喋った。


「珠飛亜……当分どっか行っててくれ。邪魔だ」

『やだ……りーくん、おねえちゃんをのけ者にするの? おねえちゃんさみしい……しくしく……』

「姉貴を夜空のムコウにシュゥゥゥ――――ッ!!!!」

『超ッエキサイティ――――――――――ン!!!!』


 天高く投げられた珠飛亜は、そのまま綺羅星となって消えていった。


「お、おい……あれ、大丈夫なの」

「問題ねえよ。翼があるから適当に飛んで帰るだろ……。そ、それより」


 困惑する紫苑に、理里は顔を赤らめて、声をかけた。


「その……伝えたいことが、あるんだ」

「……?」


 突然の申し出に、紫苑は首をかしげる。


「あ、あの……その……」


 しかし。切り出しておいて、理里は詰まってしまう。


(何を恥ずかしがってるんだ俺は! あれほど、今日こそ言わなきゃって、決意してたじゃないか! いや、目の前にして言う事になるとは思ってなくて……いざ顔を見たらっ)


「リサ?」


 ほら、紫苑も困っている。はやく言わないと、彼女を待たせるのはダメだ。ああ、でも、なんか照れくさくって……


 ……あれ。


「リサ、どうしたんだ?」


 眉をハの字型にして、困ったふうにしている紫苑。その口元は、少し歪んでいる。こらえきれない笑いが、漏れだしているように。


「お、お前! 演技してるだろ! 実は全部分かってんだろ!」

「さあ……なんのこと? あたしバカだからぜんぜん分かんないなぁ……ちゃんとリサの口から言ってもらわないと」


 しらじらしい言葉を並べながら、ついに紫苑はニヤニヤを隠そうともしなくなった。

 その態度に理里が憤慨していると、後ろから肩を叩かれる。


「あきらめろ。男は口では女に勝てん」

「なっ……邪眼地獄⁉」


 うんざりとした顔の地獄が、いつのまにか後ろに立っていた。その隣にいる妙齢の女性は……誰だ?


「あら~、あなたが紫苑ちゃんの好きな人です? けっこうカワイイ顔してるじゃないですか~♪」


 女性がニコニコ笑いながら言うと、今度は紫苑が茹で上がった。


「ちょっ、餡子さん⁉」

「あら、違うんですか? めちゃくちゃ良い雰囲気ですけど……だったら、お母さんの子にしちゃおうかな~♪」

「そ、それはダメですっ! リサはあたしの! ……あっ」


 先ほどの自分と同じような笑みを浮かべられ、墓穴を掘ったことに気付いた紫苑はその場に崩れ落ちる。

 その様子を見てほくそ笑んだ地獄が、理里を促す。


「……ほら。何を言うつもりか知らんが、さっさとしろ」

「っ……」


 かつて負けた恨みをここで晴らしに来ているのか、地獄の顔は見た覚えがないほど愉悦に満ちていた。


「あーもう! わかったよ! 言います! 言いますから、ほっといてくれ!」

「おお、そうか。じゃあどうぞー」

「リサくん、がんばって!」


 地獄たちに見守られ、理里は深呼吸をひとつ。


「……はやくしろよ」


 調子を崩されていじけた紫苑は、人差し指でグラウンドの砂をいじくっている。


 もひとつ深呼吸。そして、大きく息を吸って。


「好きです! あなたのことが、好きですっ! 今まで会った誰よりも、これから出会う誰よりも、大好きですっ!」


 ……はは。一回も言ってなかった分、一気に三回も言ってしまった。


「……ふふ」


 悶々としていた紫苑は、一瞬呆れたような顔になって、でも最後には、全てを慈しむ女神のような微笑みを浮かべた。


「あたしもだよ、リサ。あなたのことが、大好きです」

「紫苑……!」


 もう、理里は我慢できなかった。


「ひゃんっ⁉」


 飛び込み前転のようにして、座っていた紫苑に抱きつく。

「好きだ……シオン、だいすきだっ!」

「ちょ、お前、何やって⁉」


 倒れ込んだ紫苑に、理里は頬ずりをする。そのあまりに積極的な行動に、紫苑は顔を真っ赤にしていたが、どこか、嬉しそうだった。


「フン、くだらん。『好きだ』しか言ってねえじゃねえか」

「そうですかー? 私は初々しくて微笑ましいと思いますけど……あーっ、見てたらお母さんも抱きつきたくなってきちゃいました! えいっ♪」

「やめろババア! 加齢臭が移るわ!」


 かつて同じ日に引き裂かれた二組の男女は、今、奇遇なことに、またしても同じ日・同じ場所で結ばれるのだった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ