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産んで増えてそのあとは?

 喜多川信隆が総理に着任して1年が過ぎた。ブライダル法の成立により、平成のベビーブームが起きており、人口増加率も20年程ぶりに改善した。

 性の乱れを懸念する向きもあったが、その対策として、まず配偶者を増やす場合においては婚姻の関係者全員の承諾が必要とした。夫もしくは妻、さらに子供全員である。子供が判断が使いない年齢の場合は祖父母などの承諾が必要ともされた。また、身寄りのない女性に対して強引に結婚を迫ることは不法行為とされた。複数の配偶者を持つ場合にはすべての家族を養えるだけの収入などの規制を設け、同時に離婚のハードルを上げたことと不貞行為について厳しい罰則を設けた。財産没収の上、被害を受けた配偶者への移譲や、場合によっては収監、および前科のついたものについては婚姻の際に規制を設ける。

 ほか、女性シェルターやDV被害の対策も厚くした。実際のところ、もめごとも増えたのである。裁判や訴訟の際に、国選弁護人を付けられるように法整備も行われていた。法曹界はこれにより、離婚案件を扱えないと商売あがったりになりかねないと、法律事務所の求人が増えたのは副次効果と言うべきだろうか。

 結婚詐欺などにも重い罰則を付けた。最高刑は死刑である。これはやりすぎと言う声も上がったが、被害者が出てからでは遅いと信隆が強引に押し切った。モラルに反する行動について、厳罰で臨んだのは一部から批判が上がったが、結果として犯罪発生率の低下につながったのである。


 さて、信隆がもっとも積極的に行ったのは、実はマスコミ対策であった。あらゆる意見を述べててよいと報道、言論の自由は保障した。しかしながら、不確かな記事を書いて全く責任を取らないことは言論の自由の濫用であるとし、ある新聞社Aを相手取り裁判に持ち込んだ。

 言論の自由への挑戦だと各社はキャンペーンを組んで対抗しようとしたが、記事の矛盾点を突き、さらに言論の誘導を指摘し、その指摘で誰が得をするのか? 日本政府の批判を行うのは良い。だがそれで外国、むしろ敵国を利するのはどうなのか? といった反論を行い、要するにコテンパンにしてしまったのだ。

 国会答弁で信孝が述べた内容は以下となる。


「私も人間故、間違うことも失策を犯すこともある。それを批判するのは良い。むしろ間違いを正してもらうのはありがたい事であり、そのような目線があるということは身が引き締まる思いである。

 しかし、相手が権力者だからと言って一から十まですべてにケチをつけ、批判するのはまともな人間のやることか?

 それは相手が気に食わないからとパワハラ、モラハラを仕掛けることと同様であり、そのような者がこの国の言論を代表しているというのは国益の損失である。というか、貴様らいくつだ? 小学生レベルの嫌がらせが仕事とは片腹痛い!

 先日の記事において、わたしは事実無根であると反証を示した。それにおいて新聞社の回答は、権力者は嘘をつくものだから相手を信じてはいけないという意味不明のものであった。さらに一部野党はねつ造だと言い放った。ならばねつ造である証拠を示していただきたい。

 新聞記事を信じる信じないについては、読む方の判断もあるであろうし、人の内面にまで踏み込むことはしない。だが、まず物証において私の言が間違いであることを示し、それをもって反証とすることが法治国家において当然のことではないか?

 それもできない貴殿らは法治国家の国民ではないのか? であるならば、今すぐ我が国を出ていけばよろしい。っとこれは言いすぎですな」

 野党席からはまともな言葉は出てこない。物証を示している総理サイドに対し、その物証の確実性を証明しろと言うだけで、まともな反証はなかった。

「さて、わめくのはもう良い、赤ん坊でもできる。選良たる国会議員の諸君はまっとうな大人の対応ができると信じている。それともそれすらできないのであれば、貴様らその椅子の意味、分かっておるのか?

 一億二千万の代表者たる自覚がなく、打ち出の小づちの類だと思っているのであれば今すぐ腹を切って国民に詫びよ! それは貴様らのおもちゃではない!」

 信隆の大喝に議会は静まり返る。そしてある方向を向いてニヤリと笑って見せた。その奉公には国会中継のカメラがあり、偶然総理の表情を追っていたのである。

 その野性的な笑みのもたらすカリスマに国民が打たれた。そして総崩れの野党を見て、支持率の趨勢は一気に傾いた。


 あの衝撃的なホトトギス演説から、1年というわずかな期間で、支持率は逆転したのである。

 ちなみに、喜多川信隆内閣の支持率は一度7%まで落ち込んだ。それは恣意的な報道もあり、野党に乗せられたマスコミが、世襲であるとの批判をフルコーラスで行った結果であるが、そのネガティブキャンペーンを地道な反論で覆し、さらに打った政策で結果を出した。野党は反対のための反対で、政府サイドの反論に一切答えることができず、ある法案への対案を求められた時、そんなことはそちらが考えることだと、野党の存在意義を一切否定する反論が出てきた時、支持率は反転したのである。


 祝日、都内のイベントに総理がお忍びで参加していた。それはプロ、アマ問わず参加可能な囲碁のイベントである。

 生前の信長は初代本因坊を呼んで碁を打っていたり、教授を受けていた。現代でもプロとして通用する腕前であった。本人自覚なしであったが。

 そしてプロ棋士への挑戦の順番が回ってきており、対局が始まる。パチリ、パチリと碁石を置く音が響く。プロ期待の若手である今川吉基であったが、だんだん顔色が悪くなる。信隆の石を包囲するかのように手を広げていたが、一気にその包囲網の基点を突破され一気に形勢が逆転したのである。

「負けました……」

「うむ、よき対局であった。おぬし、相手を舐めすぎじゃ。鶴翼に備えるときは首を最も厚くせねばならぬ。なればこそ、一度突破されれば後は一気に陣列が崩壊するのじゃ」

「ってあなた……総理?!」

「おお、面白そうなことをやっておると思うての。だが儂をここまで追い詰めたのは桶狭間での今川治部大輔以来じゃのう」


 翌日の新聞で一面は、喜多川総理、先祖に倣って桶狭間で今川を破る! 今川吉基は先祖の仇を討とうとして返り討ち! であった。

「兄上えええええええええええええええええ!」

 秀隆の絶叫が総理官邸で響き渡り、その日信隆はずっと正座させられていたという。

同じく、乾坤一擲に掲載された内容の加筆修正版です。

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