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茶髪に軽い天然パーマ、瞳の色はオレンジ

 拙いところなども多々あるかと思いますが、生ぬるい目で見て頂けると幸いです。

「雇われたからには仕事はこなす。だが、こんな似非吟遊詩人がついてくるとは聞いてねぇぞ。」

「似非じゃないもーん。それにさぁ、俺もあのブレスレットが欲しいんだって。立場的には雇われた君と変わんないんだからさぁ。仲良くしようよ。」

「ふざけんなよ女たらしクソ野郎。おい、勇者、お前どうにかしろ。」

「…あの、もしかしてその勇者っての、僕のことですか…?」

「お前以外に誰がいるんだよ。」

「…。」


 天国のお母さん、お父さん。

 聞いてください。

 僕は、勇者になりました。




【Heroes after the legend.】




「ロルバ、お前は選ばれた。」

「…?何にですか?」

「"伝説の勇者"、にだよ。」

「…はい?」


 目の前の豪華な椅子に座っているのはこの町、アリーストの町長、トニー様だ。

 僕はその町長様の屋敷で働く使用人で、今はその町長様に呼ばれたがために、豪華な部屋の豪華な机の前に突っ立っている。

 「話がある」そう言われて、まさかクビの宣告か、と怯えながら部屋まで出向き、暗い面持ちでうつむく町長の頭を見つめること数分。

 突然顔を上げたと思えば先のセリフだ。

 正直言って訳が分からない。

 財政難とは聞いていたが、まさか過労と心労で気でも触れたのか。


「あの、町長様、」

「ロルバ、お前もこの地方に伝わる"勇者伝説"は知っているな?」

「…はい。」

 言葉をぶった切られながら無理やり話を進められる。

 勇者伝説とはここら一帯で語り継がれるお伽話だ。

 ありきたりに勇者と魔王が出てきて、戦う、そんな話だったはず。

 ふと、幼い頃に母が聞かせてくれた伝説を思い出す。

 残念ながら古い記憶であるために、肝心のラストが思い出せない。

 多分、勇者伝説というからには、魔王を倒したんだろう。

 というか、そんなことはどうでもいい。

 思考を現実に戻す。

「その伝説、実はこの町が発祥なのだ。」

 もちろん、そんなこともどうでもいい。というか、だから何なのだ。

「…。」

「そんな顔をするな。先祖代々伝承として、語り継がれてきたものだ。嘘ではない。」

 しまった。疑いの念が顔に出ていたらしい。

「で、だ。お前はその"勇者"に選ばれた。」

「あの、町長様、ちょっと待ってください。」

「なんだね?」

 いや、なんだね?じゃねぇよ。

 突然呼び出されてお前は勇者だ!って昔話にもそこまで唐突なものはないだろう。

 雇われ使用人の身から今までは大抵のことは断らずにやってきた。

 そのおかげでこの財政難、不況、就職難と三拍子揃ったこの町でここまでやってこられたのだ。

 しかし今回はそうも言っていられない。

 意を決して口を開く。

「選ばれたって、誰にですか?なんで僕なんですか?」

「選んだのは私だ。」

 お前かよ。

「選んだ理由だが、伝承で語られていたのだ。」

「…何がでしょう?」

「百年に一度、茶髪にふわふわとした軽い天然パーマ、オレンジ色の瞳をした、伝説の勇者が現れる、と。」

「…。」

「…。」

「え?」

 何だその基準。何だよそれ。オレンジ色の瞳、はまぁいいだろう。なんか勇者感なくもないし。

 がしかし、茶髪にふわふわとした軽い天然パーマってなんだ。あまりになんとなくすぎる。

 仮にも伝説の勇者なんだろ。

 そんなどこにでもいる特徴で選ぶとか、どうかしてるんじゃないのか。

 しかもふわふわとした軽いって何だ。ものすごい天然パーマならともかく、軽いって。

 しかもあれだ、ものすごくカッコがつかない。

 勇者って言ったらあれだ、ほら、屈強な体のイケメンだろ。

 小さい頃から周りの人間に何故か慕われてる怪力とか、なんかそういう特殊能力が標準装備の奴がなるやつだろ。

 いや、そもそも伝説の勇者って"なる"ものなのか? 

「あの、町長様。」

「何だね?」

 いやだから何だね?って何だよ。

「…その特徴でいきますと、僕以外にも世界中、どこにでもたくさん勇者候補がいる事になると思うんですが。」

「この町から、選出する決まりでな。」 

「この町にだって、他にも、」

 言いかけたところで町長が軽く手を上げる。

「まぁ聞け。まだ続きがある。」

 黙って視線で続きを促した。

「その伝説の勇者は、突然生まれるのだそうだ。」

 なんの前振りもなく、本当に、突然。

 そう町長は言った。

 何だそれ。やっぱり勇者感ゼロじゃないか。

「突然、と言い伝えられるからには、突然、なのだろうと、代々私の家系は茶髪に天然パーマの子供に目を光らせて来た。」

 やばい。ここだけ聞くと変態だ。

「時にロルバ。お前の両親の髪と目の色は、何色だった?」

「…黒髪に、茶色の目でした。」

「天然パーマだったか?」

「…いいえ。」

「ほら、突然だろう。」

「…僕は、母さん達の子供ではなかったんでしょうか。」

 むしろこの場合実子出ないほうがいいのか?

「いいや。お前はちゃんと、あの二人の子供だ。」

 はっきりと言い切られる。

 もしかして、これは。マズイ流れか?

「いや、しかし町長様。僕の目は、確かに、オレンジ色と言えばオレンジ色ですが、茶色といえば茶色と言えるような微妙な色ですよ。」

「近年に近づくにつれ、瞳の色は茶に近くなっているらしい。」

「…。それどこかで勇者選定間違えたんじゃあ…。」

 思わず言葉が溢れる。

「かもしれん。」

 認めちゃったよこの人。

「しかしな、勇者を送り出さなかった時は、何かしらの異常気象が百年に渡って立て続けに起こったらしいのだ。」

「百年もの間であれば異常気象くらい起こるのでは?」

「頻度の問題だ。まぁ、偶然といえば偶然かもしれん。しかしだ、もしも、本当だとしたら…。」

 そこも認めるのか。しかも、僕はそんな"たられば"で勇者に選ばれるのか。

 というかちょっと待て。

「あの、町長様。先ほど、勇者を送り出す、とおっしゃいましたか?」

「ああ、言ったな。」

「どこにでしょうか?」

「伝承で魔王が住むと語られている城、いや、今は山と言ったほうが正しいか。そこへ行って、魔王に会わなければならないらしい。お前も、お伽話で聞かされているだろう?」

「…魔王なんて、本当にいるんですか?」

「魔物がいるのだ。その長がいてもおかしくはあるまい。」

「もしいたとしたら僕、死にません?」

「ロルバ、安心しなさい。伝承によると、歴代の勇者はきちんと帰ってきている。」

 だからこそ、この伝承だ。

 町長は言い切った。

「…。」

 もう何も言えない。まさかこの人、本当にそんな理由で僕を送り出すのではないだろうな。

「ロルバ、お前の疑う気持ちもわかる。しかし、ないとも言い切れぬのだ。」

「いやでも、」

「無茶は承知だ。そこでだ、」

 町長は一度言葉を切ってから、机から巻物を取り出す。

 開いて中の文字を僕に見せながら言った。

「帰ってきてから、褒美を与えよう。一生食っていくのに困らない額だ。旅には護衛もつける。そう遠くはない。一、二年で帰ってこられる。」

 その金額を見て驚く。やばい、この人本気だ。

「行っては、くれまいか。」

 落ち着いて考えるんだ、僕。

 ここで断ればおそらくクビ。このご時世職なしには冷たいし、世間は就職難。

 逆に旅に出たのなら。

 いるかわからない魔王の元に旅をする。魔王なんておそらくいないだろう。 魔物に対抗するすべを得て以来、世界は平和だ。先程も行ったが、魔王なんて見るどころか聞いたこともない。

 道中の魔物は心配だが、護衛をつけると言った。

 そして、帰ってきたらこの金額。


「…。ひとつ、お願いがあります。」

「何でも言い給え。」

「護衛の人は、強い人にしてください。」


 かくして、僕は伝説の勇者になった。



第一話・茶髪に軽い天然パーマ。瞳の色はオレンジ。


次回・勇者、仲間に出会う。といいなぁ。

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