第五話
狩りから帰ると、いつもならすぐに顔を上げて獲物の小ささをからかうのに今日はぐっすり眠っているようだった
見せびらかすように口に銜えていた獲物を一旦地面下ろし、静かさに物足りなさを感じて耳が後ろに倒れた
「つまんないな、折角今日は大きなのを仕留められたのに」
今日こそは絶対褒めてもらえると、あの馬鹿にするような、楽しそうな声でも構わなかった
苛立ちから尻尾を地面に打ち付けるとぴしりと鋭い音がした
「教えて貰った狩りの仕方でこんなに大きな獲物捕れたんだから、尻尾だって音が鳴るようになったのに、何で寝てるの!」
足音を消して丸まって寝ている背後に忍び寄った
耳がピクリと動いたのを見て、何故だか分からないけれどフワッと心が穏やかになった
「ねーねー、起きて!」
鼻先をぺろりと撫でてから耳を甘噛みすると、邪魔そうに耳を動かして払われた
これ以上すると機嫌が悪くなるのは、あれからずっと一緒にいたので流石に分かっている
渋々添い寝することにして、ぴったり寄り添って丸くなった
意外とすぐに眠くなって来て欠伸をすると、ふわりとお日様の匂いがしたので目の前にあるフワフワの毛に鼻を潜りこませて思いっ切り匂いを吸い込んでから目を閉じた
遠くでぴしりと尻尾が地面を打つ音が聞こえた
「全く、毛並はいつも綺麗にしておけと言っているのに」
穏やかな低い声と共に始まった毛繕いが気持ち良くて寝たふりをしていると、頭をペシッと叩かれた
「耳がこっち向いているし、尻尾が動いてるぞ」
呆れたような低い声が聞こえて来て、慌てて飛び起きた
「あのね!」
獲物を見せて褒めてもらおうとすると、目の前に大きな獲物が置かれた
悔しさで耳が倒れて、尻尾が地面に落ちた
「ふっ」
馬鹿にするような、楽しそうな声が聞こえて来て顔を上げると、ゆっくりと大きく尻尾を動かしながらこちらを見ていた
「何だ?」
「次は、負けないんだから!」
「聞き飽きた」
即、低い声で返された
食べろと鼻先で押しやられた獲物から顔を背けると、隅の方へ行き小さく丸まった
「まあ、今回のは良くやった」
背後から小さく聞こえた言葉に飛び起き、突進してフワフワの毛に頭を擦り付け思う存分お日様の匂いを吸い込んだ