第十五話
付いて行った先には、昔、偶然開いていた扉から産まれて始めて外に飛び出す前までの安全な暮らしがあった
付いて行った人はアズールと言うらしい、今は学校と言うものに行っているらしい
窓から入る日差しに丸くなって目を閉じると、初めてひとりになった日のことを思いかえした
あの日は、初めて出た外で目に入るもの全てが珍しくて走り回っていた
自分が走り回っていた広い場所は、あの大きな音を立てて物凄い速さで走る物が通るための場所だったのだと、今なら分かる
でも、あの時は何も知らなかった
あんな大きな物も見たことがなかった
物珍しさに引かれて随分家から離れてしまっていたことにも気付いていなかった
母さんの呼ぶ声が聞こえて振り返ると、ホッとしたような顔をした母さんを見つけた
母さんに向って走り出した瞬間、母さんが叫んだ
「危ない!!」
血の匂いに目を覚ますと、もう母さんは動かなくなっていた
段々冷たくなる体にしがみつきながら必死に母さんを呼び続けた
「ちょっと兄さん、今度は何拾ってきたんだ?」
「小さいの・・・」
「はっ!?何考えてんだ!」
誰かの叫び声で目が覚めると、地面が遠くに見えた
「こ、怖い!!」
「悪い」
そっと地面に降ろされてプルプル震えていると、上から声が聞こえた
「可愛い!」
「だろ」
「って、そうじゃないだろ!!」
「騒がしいなー、今度は何拾ってきたんだ?」
それが、兄さんたちとの出会いだった
血が繋がっているわけでもないのに、自分たちのご飯を分けてくれて、遊んでくれた
言いつけをきちんと守らなかったから離れ離れになった兄さんたちを思い浮かべた
無口で拾い癖のある兄さん、口が悪いけど優しい兄さん、のんびりマイペースな兄さん
「楽しかったな・・・」
兄さんたちのことを思い出していると、首に巻かれた布からふわりとお日様の匂いがした
「会いたいな・・・」
居ても立っても居られなくなって、窓からするりと外に出た
久し振りに寝床に戻ると、荒れていたので綺麗に整えてからしっかりマーキングをしておいた
真っ直ぐ帰ろうと急いでいると、すれ違った人からふわりとお日様の匂いがした
「久し振りね」
しゃがんで優しく撫ぜてくれた
「あなた飼い猫だったのね」
「最近ね!」
塀に上って胸を張ると、それを見てその人はくすくす笑った
「あら、素敵ね、似合っているわよ」
「ありがと!」
「じゃあ、またね」
そのまま、帰れば良かったのに何故か後を付けた
もしかしたら、どうしてこの人からこんなにお日様の匂いがするのか知りたかったのかもしれない