第十三話
何日か、何もせずに寝床で丸くなって目を閉じていた
けれども、鈍い痛みに目を開けて尻尾を見下ろすと、所々血が滲んで腫れていた
ボーっと眺めた後、また丸くなって目を閉じていると、かすかに水の跳ねるような音が聞こえた
勢い良く体を起こすと、音の聞こえた方へ駆けだした
川に辿りついて水面を目を凝らして見つめていると、魚が跳ねて音を立てた
解ってはいたが、望んでいたものと違っていた苛立ちを魚にぶつけた
岸に跳ね飛ばされて苦しそうに動いている魚を見て、何故だかスーッと頭が冷えた
耳が後ろに倒れ、尻尾が音を立てて水の中に落ちた
川の水の冷たさが腫れている尻尾に心地良くて、しばらく浸していると尻尾が重くなった
不思議に思って尻尾を持ち上げてみると毛に噛みついていた魚が一緒に持ち上がった
持ち上げられた魚が激しく体を動かしたので、口に絡みついていた毛が外れて川に戻っていった
不意に声が聞こえた
( 楽しいことは一杯あるぞ )
「今のとか?」
岸に目を向けると、先ほど跳ね飛ばした魚が目に入った
川から上がって水を払って、夢中で食べた
川の水を飲むと冷たさが喉にしみた
食後の毛繕いをしていると、また、声が聞こえた
( きっちり生きろよ )
「・・・、わかった!」
しっかり返事をすると、頭を優しく舐められたような気がした
寝床に帰って丸くなったが、もう水滴は落ちなかった
次の日、目が覚めると心地よい風が吹いていた
欠伸をした後、大きく伸びをして毛繕いをしたが、中々上手く仕上がらない
「むー、あ、そうだ!」
フワフワの毛のお日様の匂いを思い出して日光浴をすることにした
大通りの塀の上はすでに空いている場所がなかったので、日当りの良い塀を探してウロウロすると案外近くに見つかった
日当りが良い上に、静かで心地良い場所に耳がピンと立った
十分に日光浴をした毛はフワフワで良い仕上がりだった
気分良く辺りを散歩していると、突然聞こえた声に毛が逆立つような寒気を感じた
慌てて体勢を低くして、声の主を威嚇すると楽しそうに冷たく光る目と視線が合った
「嫌だな、動物は嫌いじゃないよ?」
出そうになった悲鳴を何とか堪えて、出来る限り速く走った
少し走ると向こうから人が歩いて来た
「あら、どうしたの?」
先ほどとは違う優しい声に体から力が抜けた
微笑みながら近づいて来た人から、ふわりとお日様の匂いがした