第十二話
助けられてから一緒にいてこれからも一緒にいるのだと思っていたのに、信じられないくらい呆気無く、まるで眠るように死んでしまった
あの日、望んだ通りに、冷たく固くなった体を川に流した
流れて行く体が見えなくなっても、ずっと、川の中で立ちすくんでいた
キラキラ光る水面をぼんやり見ながら、引き寄せられるようにふらりと川の中央に向った
じんわりと冷たい水が毛の隙間から滲みこんで来るが、不思議と溺れた日のような怖さは感じなかった
顔が水に触れた瞬間、頭の中に声が響いて慌てて岸に駆け戻った
( きっちり生きろよ )
体についた水を払い、寝床の乾いた草の上で震えながら丸くなった
寝床からは、ふわりとお日様の匂いがした
思い切り匂いを吸い込むと、ぽつりと水滴が落ちる音が聞こえた
「どうしたらいいの・・・」
大好きな匂いを嗅ぎながらいつの間にか眠りについた
眠りから覚めても視界にフワフワの毛が映らないことが嫌で、目を開けずに呟いた
「何で?まだ、ちょっとしか一緒じゃないよ」
( もうながくないって先に言っておいた )
「立派なおじいちゃんだもんね!」
( きっちり生きろよ )
「一緒にって言ったのに・・・」
( 楽しいことは一杯あるぞ )
「たとえば?」
( ・・・ )
「ねえ、たとえば?」
返って来ない返事に、閉じていた目を開け、無意識に姿を求めて周りを見渡した
やはり、自分以外誰もいないことに打ちのめされ、目を開けてしまった自分に苛立って尻尾を地面に打ち付けた
「一杯あるなら、何で教えておいてくれないの!」
尻尾を地面に打ち付ける度に砂埃が上がった
「教えておいてくれたら、毎日楽しい!楽しい・・・楽しい?」
苛立ちから何度も何度も尻尾を地面に打ち付けた
どんなに打ち付けても、いつものように尻尾を傷めないよう、フワフワの前足が優しく押さえてくれることはなかった
体はもうすっかり乾いているはずなのに、ぽつりぽつりと地面に水滴が落ちた