第十話
寝床の上をごろごろ転がっていると、入口付近でまだ乾いていないまま、こちらに背を向けて伏せているのが目に入った
帰って来た後から、ずっとああしているのだ
何となく近寄りがたくてごろごろしていたのだが、小さく聞こえたくしゃみに思わず駆け寄った
「大丈夫?」
「ああ」
「乾かさないの?」
「ああ」
「ずっと、ここにいるの?」
「ああ」
話しかけてもそっぽを向いたまま短い返事だけよこした
居心地悪そうに体を動かすとふわりと血の匂いがして、さっき噛みついたことを思い出した
目の前の渇き始めた傷口をそっと舐めると、ビクッと体が揺れた
「大丈夫か?」
僅かに毛にこびりついていた血を舐め取ってから返事をした
「うん」
「すまなかった」
「何が?」
毛を乾かすために舐め始めると、耳がせわしなく動き、ふわりと風を感じて横を見ると尻尾が動いていた
「いや、謝ることでもないんだが、だが」
珍しくぼそぼそと呟くように話しているのを聞き流して、動いている耳にそっと噛みついた
そのまま、甘噛みをしているとピシリと鋭い音が聞こえた
「もういい」
さっと立ち上がりすたすた歩いて寝床の上で丸くなってしまった
後を追って舐めて乾かし終えるとそっと離れて丸くなったが、しばらくして小さなくしゃみが聞こえた
「大丈夫?」
「ああ、っ、くしゅん」
「むー」
その日は、ベッタリくっついて寝ても文句を言われなかった
朝、目が覚めると出会った頃に戻ったように抱え込まれていた
聞こえて来た穏やかな寝息に誘われて、もう一度丸くなった
後日、非常に大雑把に発情期について話を聞いたのだが、聞けば聞くほど複数の影が浮かび上がって来て苛々した
「っ、やっぱり!」
キッと睨みつけると、開き直ったように言いかえして来た
「俺だって、若かったんだ!」
「私だって、若い!」
苛々してそのまま言われたことを言いかえすと、何故かオロオロしだした
「なっ、あいつか!あいつなのか!?」
言われるまでスッカリ忘れていたのだが、あまりの必至さにニヤリと笑ってしまった
私の顔を見て我に返ったのか、目を細めて悔しそうに尻尾でピシリと地面を叩いてそっぽを向いてしまった
そのおかげで目の前にさらけ出された、すっかり乾いてフワフワになった胸元に飛び込んだ
すりすりと額をこすりつけるとフワフワの尻尾がそっと体に巻きついて来た