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蒼月のソルシエル  作者: 雨枷みら
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1,出立

 小鳥のさえずりが、すぐ耳元で聞こえる。

 まだ眠い目を擦りながら視線を真横へ持っていくと、美しい色を帯びた鳥が、彼の服を啄ばんでいた。

 青年は小さく溜め息を吐いて、指先で小鳥の頭を撫でてやる。


「わかったわかった。起きるって」


 チュンッ、と返事のように高く鳴いた小鳥は、満足したのかパタパタと羽を広げて空へと飛んでいった。

 後頭部を掻きながら、仕方なしに上体を起こした青年は、んーっと伸びると、辺りをきょろきょろと見回した。

 すると、突然に赤い果実がこちらに向かって飛んでくる。眼前でそれを受け止めると、再び青年は小さな溜め息を吐いて、実が飛んできた方向に視線を向ける。

 

「おはようございます、レイ」


 にっこりと笑みながら挨拶を告げた少女の手には、籠いっぱいに赤い果実が摘まれていた。

 なるほど、起きてすぐに見当たらなかったのは、食料を調達しに行っていたから、というわけのようで。

 青年は、赤い果実を一口齧ると、少し呆れたような、困ったような笑みを浮かべて、彼女に返事をする。


「おはよう、アンヌ」


 ここは、グラジニアからアルデン大国の丁度境目。国境付近に位置する清き森、ティエール。

 精霊の加護を受けるべく旅をするアンヌとレイは、グラジニアで情報収集をした後、水の精霊ウンディーネが守る遺跡の在り処を突き止めた。

 水の地エルミーユ。

 旧ノーム大国から南へ三日程歩いたところに位置する、ウンディーネの加護熱き国であり、かつてはセイレーンと呼ばれる人魚の一族が守ったと伝えられている。

 他者の侵入を激しく拒むと言われているため、遺跡に入る以前に、まず国に入ることが困難らしい。


「それで、どうするんですか?」

「うーん、どうしよっかねぇ」


 しかし、彼は何一つ考えていなかった。

 いや、そもそもレイが入念に考えて考えるなんてこと自体殆どなく、そうやって考えたときほど、失敗するケースが多いことを、アンヌは知っていた。

 なので、もはや何かを言う気は起きない。

 何はともあれ、まずはエルミーユまでなんとか歩かねばならないわけで。


 ――考えるのは、後回しにしよう。

 

 と、アンヌは自分を諭すように心の中で呟いた。


「では、今日の目的地は?」

「うーん。とりあえずしばらく歩いてみるけど、できればアルデンの中心部にある村を目指したいかな」

「ん?」

「んー?」


 首を傾げると、呆けたような返事が帰ってきたので、アンヌは若干イラッとする。しかし、彼に怒っても埒の明かない、一方的な討論になるだけなので、なんとか苛立ちを押さえ込む。

 この人はこういう人間なのだと、もう五年くらいは自分に言い聞かせて生きている。

 そうだ、と。思い出したようにポケットから地図を取り出したアンヌは、アルデンの中心部をなぞりながら、彼の言う村を探す。

 中心部、とは言えないが、しかし、それらしき村はいくつか発見できた。中心部とは、間違っても言えないが。


「明らかに中心から逸れていますが、この辺りの村ですか?」

「ううん、違うよ」


 そう言って地図を覗き込んだレイは、同じく地図をなぞりながら、どの辺りに目的地があっただろうかと探す。

 彼の指が止まったのは、丁度森の辺りであった。

 しかも、名も無い森である。

 アンヌは、怪訝な顔をしてレイを見つめた。


「からかってます?」

「はっはー、僕がアンヌをからかうことなんて今まで一度も」

「ありますけどね」


 彼の言葉を遮るように、そして食い気味に、アンヌは否定の言葉を突きつける。

 レイの笑顔が段々と崩れていき、次第に真顔になった彼は、アンヌの前で手を合わせて頭を下げた。


「ごめん」

「やっぱりからかったんですか!!」

「あ、いや違う違う」


 今の謝罪は、今までの行いに対してであったにも関わらず、先程のやり取りは含まれて居なかったのだが。しかし、彼の日ごろの行いが悪いのだろう。

 アンヌは再び怪訝な顔をして、半ば睨み付けるような視線をレイへと送る。

 彼は、困ったような笑みを浮かべながら、否定の意を込めて、両手を左右に振った。


「村は本当にこの辺りにあるんだよ」

「でも、森じゃないですか」

「う、うん。そうなんだけど……えーっと……」


 説明の仕様がなかった。

 と、言うか恐らく、今のアンヌにはどう説明しても言い訳にしか聞こえないのだと思う。

 どうするべきか、と悩み頭を掻くレイだったが、しかし、小さな溜め息を吐くと、アンヌから地図を取り上げて、歩き出した。


「え? え? なんですかレイ」

「とりあえず、行ってみれば分かるからさ」


 むっ、と。少しばかり口を尖らせながらも、アンヌはそれ以上何か反論するわけでもなく、レイの後を追って歩き出した。



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