第五話
またしても遅くなりました。(あまり多くないかもしれない)期待していただいている方々にお詫びと感謝を。
ネメアに聞きつつ、自分でも試行錯誤した結果、霊力を操れるようになった。できるようになってみれば簡単だが、それまでには血の滲む様な努力があった。……やっていることは体を動かすようなことじゃないから血が滲むなんてことはなかったけどね。まあ、アレだ。初めて自転車に乗れるようになった時の感じだ。
霊力が操れるようになって最初にやったのは、ネメアが望んだとおり夢の中でも意識をはっきりとさせる事だった。
霊力を操れるようになるほどではないけど、これも時間がかかった。何せ明晰夢を見るまでできることがないのだ。ようは、明晰夢を見たときに霊力を使って意識を固定するという方法で習得した、完全に運任せ。前世の俺はくじ運なかったし、明晰夢を見たこともなかった。
大丈夫かと不安になりかけたときに見れたのは幸いだったかもしれない。これも一度できるようになると後は寝る前に少し意識するだけで自由に使うことができた。
もしかしたら霊力を使った不思議現象(操霊術ってこういうのらしい)は全部、一度使えるようになることが大事なのかもしれない。
初めて『夢見』(習得したヤツね)を使ったとき、成功したと思ったら隣にネメアがいてびっくりした。これは『夢入り』という、魂霊にとってはわりと一般的な術で、その名のとおり他者の夢に入り込めるものだ。誰でもというわけではなく、気の置けない間柄か霊的な経路がつながった相手にしかできない。その上肉体持ちが行使するには数倍の霊力が必要で、さらに行使中は肉体が無防備になる。ってネメアが云ってた。解説乙と云ってみたらゴツイにくきゅうではたかれた。夢の中だから何の影響もなかったけどな。……結構怖かったのは秘密だ。そのあと、すごい剣幕で迫ってきたので小一時間ほど血管と血栓について俺が知る限りのことを説明した。そしたら何とかおとなしくなってくれた。
ネメアの操霊術講座は続いた。寝ているときも起きているときも食事しているときもお構いなしだ。その結果、霊力量は飛躍的に増えたし、簡単な操霊術やそれらに関する知識も教えてもらった。
教えてもらえた術は『霊視』と『霊聞』、『霊纏』の三つ。『霊視』は物理的に見ることができない霊体を見ることができるようにするもの。『霊聞』は『霊視』の聞く版。
『霊纏』は生物と霊体とで効果が異なり、生物なら霊力を纏うことで霊体に触れたりできるようになるもので、霊体の場合は霊力を使って存在を格上げし物理干渉できるようになるというもの。
もっとも、『霊纏』は霊力を放出するだけなので実際のところ操霊術とは異なる。が、『霊纏』ができなければ他の操霊術は使えないとされ、人族の間では操霊術の基礎的な扱いをされている。そうネメアが嘆いていた。
知識の方では俺が感じたように操霊術には初めて現象を操作したとき、その操作を術化し、手順を魂に格納する機能が元から備わっていると教わった。どうしてそんなことが起こるのかは判っていないらしい。
また、操霊術はイメージ、霊力、魂格の三つの条件を満たせばどのような現象でも操作できるのだそうだ。当然小規模なものより大規模なものの方が必要霊力や要求魂格も高くなるらしい。当然といえば当然だろう。ゲームでも単体魔法より集団魔法のほうが威力が低くて消費は大きいとかざらにあるからな。魂格は……レベルみたいなものか?
(そういえば、魂格魂格ってさらりと使われてたけど、俺魂格について何も知らないぞ。なんとなくだけど、高けりゃいいかなぐらいには判ったから、詳しく説明してくれよ)
(ぬ? 説明しておらなんだか? 魂格とは魂の持つ力の大きさを表す言葉じゃな。これが高いほど宿っている器、すなわち肉体のことじゃが、が強くなる。さらにはより難度の高い操霊術を使うこともできるゆえ、高ければ高いほどあらゆる方面に有利に働くといえるな)
(ふ~ん……。やっぱり高いほど良いんだな。俺の魂格も高くなるといいな)
(……主は化け物にでもなるつもりか? 主の魂格は今の時点でも十分高いぞ。何せ魂霊子で被祝の御子でもあるのじゃからな。それに魂格は基本的に生きておる間には上下せぬぞ)
(へえ~、そうなんだ。ところで、魂霊子とか被祝の御子って? この前の儀式の前にそんなようなことを言われてた気がするんだけど、それだと魂格が高くなるのか?)
(ふむ。魂霊子とは女人に魂霊が宿っておるうちに身ごもるか、身ごもっている間に魂霊が宿るかして生まれた子のことじゃ。前者を純魂霊子、後者を半魂霊子として分ける場合もあるが、いずれも魂霊の持つ魂格を流用しておるため普通の子に比べて魂格が高くなることが多い。もっとも、普通の生まれでも魂霊子より魂格が高いものはおるがの。
被祝の御子とは、出産の際に色とりどりの光の珠がその場を包み込むという現象が起こる。それを起こした子がそう呼ばれておる。これは人族が色とりどりの光の珠をみて魂霊の祝福を被ったと勘違いしておることからのようじゃ。実際には生まれた子がその場におるどの魂霊よりも高い魂格を持っているだけに過ぎぬのじゃがな。何でも人族の赤子は生まれたときに寒さを感じ、その旨を乗せた産声をあげるゆえ、魂霊がそれに応えたといわれておるが、如何なのじゃ?)
(確かに、俺のときは寒いって声を上げたつもりだったけど、結局産声にしかならなかったな。でも、そのときに空気がビクッってなって、光の珠が出たのがその後だったな)
俺はネメアに問い返されたことをそのときを思い出しながら答えた。そういえば産婆さんがなにか感嘆の声を上げたような気がしてたけど、被祝の御子とか言っていたのかな?
(……主はどれだけ規格外なのじゃ。その場の魂霊全てを脅かすほどの魂格と言霊とは……。言霊のほうは意思があるでわからぬでもないが、魂格のほうは魂霊子であっても異常じゃぞ。少し注意しておいたほうがよいかも知れぬな)
(……は? 俺って、そんなに規格外な魂格なの?)
(間違いない。魂霊が畏怖するほどの魂格など聞いたことが……、いや、一人だけ居ったな。魂霊を平伏させる者が。もっとも、大昔過ぎて実在かどうか怪しいがの)
俺のチートっぷりが伝説級の人物と同程度とは思わなかった。しかもさらにアドバンテージまでもらっているとか。問題に巻き込まれないほうが無理じゃないか? 王女様の許嫁だし。
波乱に満ちた人生の予感に不安とワクワクがぬぐえないでいたら、唐突にネメアが大口を開けた。
(ふわあぁぁあ。む、失礼をした)
……あくびだったらしい。正直食われるんじゃないかとかなり怖かった。
(魂霊でも眠くなったりするんだ?)
(うむ。霊力の使いすぎじゃな。魂霊の場合、霊力を消費しすぎると休眠状態に入る。眠くなるのはその前兆じゃ。
わしのように高い魂格を持つものならば生物に宿り安全に霊力回復を望めるが、ほとんどの魂霊では魂霊珠と呼ばれる宝珠に姿を変えて回復のときを待たねばならん。そうなると回復までに数百年の年月がかかるうえ、操霊術の媒体として加工されれば自らの意思がなくなるも同然じゃ。わしらにしてもどの様な相手にでも宿れるわけではないで、気をつけねばならぬのじゃ)
(……ふ~ん。で、宿れる相手の条件は?)
(『夢入り』の場合と同じじゃな。気の置けない間柄か霊的な経路のつながった相手、あとは霊的に相性の良い相手。そのくらいじゃな)
(じゃあ、ネメアは俺の中で眠れるんだね。ところで、前の二つはお互いに面識というかそういうものがあるからすぐにわかると思うんだけど、相性の良い相手ってわかるものなの?)
(近くに居れば、霊力が少なくなるにつれて体が引っ張られるようになる)
なんと、俺は幽体離脱してこの世界に来たとき、魂霊として取り扱われていたようだ。操霊術について聞いた今なら判る。世界間を転移してきたり、再度の使用を試みたりが今ある現状の原因だ。しかし、あのまま霊力が枯渇していたらと思うとゾッとしない。母さんにマジ感謝。トラウマ形成されても許せ……る、か?
(ふわあぁぁあ。すまぬ、そろそろ限界のようじゃ。なにか用があれば『夢見』を使って話しかけてもらえばおそらくは答えられるじゃろう)
(ああ。お休み、ネメア)
俺の『夢見』からネメアの気配が消えた。……今なにか問いかけたらどうなるのだろう? とも思ったけどそこまでの意地悪はしない。大切なお師匠さまだからな。
俺も、ネメアの操霊術講座の所為で、しばらくまともな睡眠を取っていない。体には何の問題もないが、精神的に疲れている気がする。この機にしっかり寝るのも悪くないかもしれない。鬼の居ぬ間に洗濯ならぬネメアの居ない間に睡眠だ。お休みなさ~い。
感想のほど是非お願いします。一言でも結構ですが、具体的に書かれていると大変ありがたいです。
あなたのその一言が次の話をつくる!? ……かも