第四話
遅くなりました。それでは説明回その一始まり始まり~
……ごめんなさい調子に乗りました。
先王の葬儀は見事なまでに滞りなく終わった。もともと、手順自体はしきたりで決まっているし、あらかじめ「魂霊継承の儀式」を行っていれば、ある程度本人の意思で死のタイミングを決めることができる。滞り無いのは当然かもしれない。
一週間(この世界では6日間)ほど全国民が喪に服し、それが明ければ何事もなかったかのように活気を取り戻す。日本のように一年もの間喪に服すような悠長なことを言っていられる世界ではないのだ。ちなみに、一週間と聞いていて後一日あるはずなのにとあわてたのは余談だ。……赤ん坊ゆえに誰も気にしなかったけど。
この一件で俺の生活は大きく変わった。とは言っても傍から見れば何も変わらない、寝る、起きる、ミルクの繰り返しだ。……おれも慣れたもんだなあ(遠い目)。
しかし、俺の中では大きく変わったのだ。
まず継承した魂霊とは正式に契約を結んだ。本来こんなことは起こらないらしい。そもそも、魂霊継承はほとんどの場合で一番年の若い血族が選ばれ、しっかりした自我があることはまず無い。そのため継承した魂霊と意思の疎通を行うことができず、魂霊の側から吸収されることを選択するほかないのだ。伯父さんのときも王様のときもそうだったらしい。
俺の場合は前世の自我がそのまま残っているので、継承時に意思の疎通を行うことができた。伯父さんの葬儀などで保留になっていた吸収か契約かの選択を今日ついに終わらせ、ネメアという名を与えて契約を果たした。
ネメアに、伯父さんとともに在ったときに得た知識や記憶は吸収されれば完全に消えてしまい、ネメア自身の個もなくなってしまうからやめてほしいと云われ、さらに俺の魂格(魂の強さらしい)が高すぎて吸収してもあまりメリットが無いと云われれば、よほどの馬鹿か天邪鬼でなければ契約を選択するだろう。
契約にしても対等な立場での盟約と上下をはっきりさせた支配とがあるが、俺は盟約を選択した。ネメアに、体が未発達ゆえ支配での契約は難しいと云われたのもあるが、伯父さんから受け継いだ魂霊を支配するというのが何か違うように思えたからだ。
契約に際して俺の境遇について一通りネメアに話しておいた。理由は契約した魂霊は契約相手を裏切るようなことはしないということと、これからずっと一緒にいる相手くらいには自分の境遇を知っていてもらいたいということの二つだ。知っていてもらえば何か変なことをしそうになってもサポートしてもらえるかもしれないし。……三つだった。
夜、ふと目を覚ますと、そこにネメアがいた。いつもは俺の中にいるのにどうしてかと思えば、昼間寝てばかりの俺に霊力の使い方を教えるためだそうだ。うまく使えるようになれば、夢の中でも意識をはっきり保つことができ、知識を教えるのに便利だからだそうだ。
夜を選んだのには、俺のような赤ん坊から魂霊が顕現するのを人に見られるのはまずいということらしい。
そもそも霊力とは、生物の魂や魂霊に力を発揮させるためのエネルギーで、これが枯渇すると生物なら死、魂霊は消滅へと至る。が、その前にリミッターが働いて枯渇によって死ぬことはまず無い。そう昼間に教えてもらった。
この霊力を使うためにはその流れを意識することが最低条件のようだ。
(盟約者同士では霊力の受け渡しができる。これを応用して霊力の流れに意識を向けるのが楽じゃろう)
ネメアにそう提案され、他にどんな手段があるのかわからない俺は了承するほかなかった。どのようにするのか疑問に思ったが、ネメアが俺の霊力に干渉して霊力の流れの強弱や速度を変えることで意識しやすくするのだそうだ。
ネメアが俺の左掌に鼻を近づけると、鼻先に生まれたときに見たような光の珠(のちっこい奴)が現れ、そこからひも状のものが伸びてきて俺の掌とつながった。中に入ったような感じはしないが、光の紐がしゃくとり虫の様にたわんでは張りたわんでは張りを繰り返すのを見て中へ入っているのだろうと推測する。入れる部位は違うが前世の医療ドラマで見たカテーテルを思い出した。
(なあ、ネメア。この光の紐がネメアの霊力なんだよな?)
(うむ。これの先から吾の霊力を流したり、主の霊力を吸い取ったりして強弱や早さに変化をつけようと思ったのじゃが……、思ったよりもうまく行かん)
(ならさ、その紐の先を袋に息を吹き込むみたいに膨らませたりしぼませたりできる? 膨らませれば霊力の流れる管を圧迫するからなにか刺激があるかもしれないし、そこから先の流れが滞る。霊力の流れに乗せながら膨張と収縮を繰り返していけば、流れ自体も感じられるんじゃないかな)
(ふむ……。よいかも知れぬな。吾の霊力で主の霊力を操るのは至難じゃがそれなら吾の霊力を操作するだけですむ。それにしても奇怪な発想よの。それも前世の知識とやらか?)
(ああ。カテーテルといって、本来は詰まった血管の治療とかに使われる)
(血管とは何じゃ? それは詰まるものなのか?)
(血管は血液を体中に運ぶために張り巡らされた管で……。ってその説明は後回し。霊力がうまく使えるようになれば時間の余裕ができるんだろ? そのほうが効率がいい)
(むう、納得はいかんがそのとおりだ。なるべく早く覚えるのじゃぞ)
脱線しかける思考を修正し、霊力の感知を続ける。
ネメアのとった方法がうまくいっていなかったからなのか、俺の提案した方法が思いのほかうまくいったのか、三十分もしたら俺にも霊力の流れが感じられるようになった。
感じられるようになって初めてわかったのだが、一つは霊力の流れが血流に同期していること。鼓動にあわせて流動し、心臓の付近に大きな塊がある。これについては生物の血液には霊素(霊力を形作る素)を蓄える性質があるのだとネメアが教えてくれた。
もう一つは流れとは別に体からもれ出る霊力があるということだ。実際にはこれは霊力ではなく魂が使った霊力の残滓を霊素として放出している排泄のようなものらしい。
この二点に関してはまたいずれ詳しく教えてくれるそうだ。
霊力を感知することはすんなりできたが、操作するとなるとかなり難しかった。ネメア曰く、感知もそんなに簡単なものではないらしいが、よいサポーターが付いてくれたのと奇怪な発想のおかげですんなりいった。
一方で操作に関しては人それぞれ感覚が違うため、説明もサポートも難しいのだそうだ。これに関しては自分で何とかするしかない。それでも感知がすんなりいったのはかなりのアドバンテージなのだとか。そりゃそうか。成人しても感知できない人もいるぐらいの世界らしいし。エリート確定じゃん。
とか思っていたらそんなレベルじゃなかった。何でも、霊力は筋肉のように使えば使うほど強くなるものなのだ。今の時点で感知ができて、操作できるのも時間の問題。さらに、大人よりも子供のほうが伸びがいいとくれば、もはやチートだ。実際前世の記憶がある時点でチートだとは思っていたけどね。そこにさらに重なるとか、どうなっちゃうの?
(へえ、赤ん坊のほうが霊力の再生って早いんだ。なんで?)
(生物の乳は霊素が豊富に含まれているらしいぞ)
orz。俺のトラウマ、どこに落とし穴があるかわかんねえな……。気をつけなきゃ。
うん、復活。知識だと思えばいいんだ。そう考えるとなんとなくその理論も判る気がする。母乳は血液が原料になっているって聞いたことがある。たぶん変化したときに霊素を蓄える成分は変化しなかったのだろう。
つまり、赤ん坊は霊力を鍛えるのに最適な環境にあるというわけだ。まる。
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