第三話
目が覚めました。やはり寝すぎたようです。全方位から締め付けられるような圧迫感が頭を襲っています。……ハイ。絶賛生み出され中です。
圧迫感は次第に体にも襲い掛かってきた。かと思いきや頭の先から徐々に圧迫感が薄れてきた。たぶん頭が産道を通り抜けたのだろう。考えても見れば産道なんて十数センチそこそこしかないのだ。これならもうしばらくすれば外へ出られるかなとか考えていた。
そう、そう考えていた時代が俺にもありました、というやつだ。まさか、肩まで外に出た時点で思いっきり引っ張り出されるとは思っても見なかった。しばらくどころかすぐに出られてしまった。月単位で寝坊する俺では体感時間を計ることもできないが、これはかなりの安産だったのではないだろうか?
そんなことよりも、俺は今重大な危機に瀕している。とんでもなく寒いのだ。今まで胎内の暖かさに慣れきっていた所為もあるのだろうが、とにかく寒い。とっとと産湯に付けてくれよといいたいくらいなのだが、当然しゃべれるわけがない。
俺を引っ張り出してくれた人(たぶん産婆さん)は、そんな俺が寒がっていることなどまったく気づいていない様子で、俺のことを足を持って振りはじめた。
絶叫マシンもかくやというような状況でおもった。
(あ、そういえば俺、まだ声上げてねえや。てか、何で俺こんな冷静なの?)
実際、恐怖心のかけらもない。ないのだが、この後に待っているものを考えると、早いとこ声を上げた方が良いだろう。生まれて早々尻叩きは嫌過ぎる。
「ぎゃわああああぁ!!(寒いいぃ!!)」
俺としては寒いと叫んだつもりだったが、案の定ただの叫び声にしかならなかった。俺ですらびっくりするくらい大きな。なんだか、周りの空気(雰囲気にあらず)もビクッてなった気がする。……うん。気のせいじゃなかったみたいだ。突然何もないところから、やわらかく、暖かい光の珠が無数に現れた。
色とりどりで、赤、青、黄、緑、白、果ては黒の光まで明滅を繰り返す、さながらクリスマスのイルミネーションのようだった。生まれたばっかりの未発達な目でもこの光景は何故かはっきりと見えた。
「XX、XXXXXXX……。XXXXXXXX、XXXXXXXXXXXXXXX」
俺をぶら下げながら産婆さんが感嘆の声(推測)を上げた。……神秘的な光景に魅入られるのは判るけど、さっさとおろしてほしいな~。寒くはなくなったけど産湯もまだだし、体がベタベタするのは気持ち悪いよっ!
++++
さて、俺が第二の人生を始めてから1ヵ月が経った。この間に俺は前世で20年間生きてきた以上の成長を遂げた。なんと、意識を思考の奥底へと任意ですっ飛ばすことができるようになったのだ。何があったのかは聞かないでほしい。年下(精神年齢換算)の美女(母)に「ケイトちゃんはおっぱい大好きだもんね~」とほかの男(父)の前で言われたときのことはorzでは語りつくせない。あ、あれ? 目から汗が……。
だいぶ言葉も聴けるようになってきた。赤ん坊相手なので語彙はだいぶ少ないが、トラウマを形成するのに必要十分な言語理解は得ている。orz。一番最初に判るようになったのが自分の名前。奇しくも前世と同じケイトだった。女みたいな名前だがれっきとした男だ。でも日本だったらけいとは男の名前という不思議。まあ、混乱しなくていいのはありがたい。
さて、そろそろ着替えも終わった頃だろう。意識を浮上させようか。
周りに意識を向けると、そこにはお芝居くらいでしか見たことのないような服を着た家族がいた。俺も含めて。こんな赤ん坊に正装させる状況って……。とか思わないでもなかったが、何でも(今の)父さんのお兄さん、つまり俺の伯父さんに当たる人が危篤なのだとか。……そんな緊急事態ならとるものもとりあえず駆けつけるもんだろ! というのは現代日本の考えなのだろうか? カルチャーショックを受けるくらいには伯父さんも父さんも偉い人なのだろう。
……まさか先王とは思わなかった。母さんに抱かれて城の離宮へと進んでいく。
「殿下、よくおいでくださいました。先王陛下もお待ちしておられます」
離宮の警備をしている兵が父さんに声を掛ける。って! 殿下!? 父さん殿下? まあ、そうか。先の王弟にあたるんだから。
父さんはその兵士に頷きを返し離宮に入っていった。母さんも後に続く。
「おお、よくきた。リーネ殿、わしにも甥の顔を見せておくれ」
先王はめっちゃ元気そうだった。危篤だったんじゃねえのかよ!?
母さんはベット際にいる豪華な服装の男性(たぶん王様)に一礼しておじさんの枕元へ膝を付く。
「おお、おお。良い顔をしておる。魂霊子と聞いたが?」
「はい。その上被祝の御子でもございます」
「ほう! それなら国も安泰だな。わしも安心して逝くことができそうじゃ」
俺としては「何を気弱なことを」と引き止めるものだと思うが誰も一言も発さず、通夜か葬式かという雰囲気を発している。発していないのは俺ともう一人。王様の隣に立つ女性(たぶん王妃様)に手をつながれている女の子だけ。
王女様と思われる女の子はやたらと自信たっぷりな表情で堂々としている。
「さて、では儀式の締めといたそうか」
吹っ切れたような表情で先王がいった。
瞑目して何かをぶつぶつと呟いている。呪文か祝詞のような古臭い言葉なのだろう。ただでさえ小さい声なのに、そんな聞き馴染みのない言葉では到底聞き取れない。
言葉が終わったと思ったら、先王の胸元から、鬣から二本の角の生えたライオン状の霊体が出てきた。
「ふむ。わしの魂霊は双角獅子じゃったか。よい魂を得ておったのじゃな……」
双角獅子は辺りを一瞥し、俺のほうへと駆けてきた。俺から目を離さず飛び掛ってきたときはあまりの怖さに目を瞑ってしまったが、何の衝撃もないことに恐る恐る目を開ければ、そこにはすでに何もいなくなっていた。それどころか、俺の中に自分とは違う感覚があった。
(ほう? まだ生まれたばかりだが確固たる自分を持っておるか。珍しい。吾は吾として存在しておこう)
自分の中から重厚な雰囲気を持った“声”が聞こえた。この世界に生まれてから一度も感じられなかったはっきりと理解できる“言葉”。聞いたことはないが理解できる。それには経験があった。霊体でいたときの会話はすべてこうだった。
(あなたは? 私はケイト=アレイスターといいます。それに今のは?)
(ふむ。吾はそなたの伯父に当たる者の魂より生まれし霊体。人は吾らのような存在を魂霊と呼ぶ。しかし、名はない。
今行っておるのは生きながらにして魂霊を作り、血縁者に継がせる儀式。その最終段階じゃ。この儀式を終了したものは魂の力が足りなくなり、ほとんどの場合で死に至る)
(! それでは、伯父さんは死ぬことを判っていてこの儀式を行ったんですか?)
(うむ……。そうでなくてももう長くはなかったがな。もって後一月といったところか。それならば、ということだろう)
(そう……ですか)
俺が伯父さんの魂霊と会話をしている間にも状況は変わっていた。
「やはり、ケイトだったか。それにしても豪胆な子よ。双角獅子に駆け寄られても喚くどころか声一つあげぬとは。グッ!? もう時間がないか。遺言を残す! ケイト=アレイスターをわが孫娘、セレン=アルテミシアの婚約者とししかるべきときが来次第、結婚するものとする。では、さらばじゃ。皆のもの」
そう、言葉を遺して先王は息を引き取った。
皆が悲しみにくれる中、一人の侍女が離宮を出て行った。しばらくすると先程の兵士と思しき声が響き渡った。
「先王陛下、崩御ーー!!」
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