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如月姫  作者: ハヤマ
8/8

そして春はやってくる

最終話です。

ナツキとショウキの行く場所、如月の姫たちは・・・。




 魔物に出くわすのを、ナツキはすっかり忘れていた。いきなり背後から攻撃されたので、気配を察していなければ大怪我をしていたところだ。擦り傷ですんだのは幸運だった。



「ちょっと、待って、落ち着こう、ね?」



 宥めても魔物は待ってくれない。また飛び掛ってきた。



「きゃあ!」



 と言いながら避ける。一応運動神経はあるナツキだ。

 避けることができたので、いける、と思ったのもつかの間。

 もう一匹現れた。



「本当にこの頃出すぎだよ……」



 ナツキは一斉に襲い掛かってくる魔物を避けようと努力するが、一匹避けられなかった。



「……っ!」



 腕に太い牙が食い込んだ。感じたことのない凄絶な痛みに、叫びにならない声が上がる。

 視界の端に、反転して戻ってくる魔物の姿が映る。



(だめだ)



 倒れそうになった時、魔物の牙があっけなくナツキの腕から放れた。

 地面に転がった背中に氷の刃が突き立っている。


 二匹目も同様にナツキの手前で失速した。腹に氷が刺さっている。



(助、かった?)



 安堵したら抑えがきかず、そのまま倒れてしまった。腕も脈がどくどくして熱く、痛い。


 誰かの影がナツキに被さる。



「……ショウキ?」



 (たたず)んでいる。ゆっくりと掌に冷気が集まっていく過程を見終えた時、再びナツキの首元に透明な刃が向けられた。



「ショウキ……」



 死の恐怖を前に、今、変に落ち着いているのはなぜだろう。ナツキは何気なく思った。

 たぶん、無表情なりに苦しんでいるショウキの顔が見えたからだ。

 ショウキも今、苦しんでいる。


 ナツキは微笑んだ。



「誰も望んでないのは、本当だよ、ショウキ」


「違う!」



 叫ぶと、ショウキは倒れているナツキの胸倉を掴んで、頬に冷たい破片を突きつけた。



「そんなはずない! この六年間、俺はずっと復讐を誓ってきた。やっと念願を果たせるんだ。望んでないわけが……」


「じゃあ、どうして私を殺すことをためらってくれるの?」



 ナツキは震えるショウキの手首を優しく掴んだ。



「ここじゃないでしょ?」



 ナツキの手によって、氷の欠片が頬から首へと穂先を変える。



「殺したいならこっちだよ」



 穂先を向けても危害を加えられることのなかったナツキの首に、朱色が下方へと線を引いた。手元が狂って深く突かれれば、ナツキが死ぬのはショウキにも分かっている。命を奪うことになる。


 裏切り者に用はない。だから、自分を待ってくれていたマリとハンも容赦なく切り捨てた。殺すことなど、今さら躊躇う必要がどこにある。


 そう頭で繰り返しても、ショウキの身体はそれ以上動かなかった。動けばナツキを傷つける、殺してしまう。それが恐ろしい。


 キサラギに死の恐怖を打ち立てられてから、ショウキは痛覚に掛かったもやを晴らされたかのように、人に対する痛みを思い出してしまっていた。

 大切な人がいなくなることの辛さ、傷つくことの辛さは誰よりも知っていたから。



 ショウキは氷を引き、(うつむ)いた。何も言わない。ただ拳を強く握り締めている。皮膚が傷ついて、血がにじむ。




 ぽたり。




 その手に感情の滴が落ち、赤色を薄めた。ぽたりぽたりと指に、地面に落ちる。冴えた空気と朝日が、ショウキの目から流れる涙を照らし出した。


 ナツキは上半身を起き上がらせると、ショウキの首をゆっくりと抱きしめ、優しく微笑む。



「望んでなんてなかったんだよ、ショウキ」



 首を抱いてくれたナツキに支えられ、ショウキは俯いたままただ、そうしていた。ナツキの手を拒むことはしなかった。















「これで私の役目は終わり」



 木の上でキサラギは二人の様子をずっと見ていた。たぶんもう、大丈夫だろう。



「楽しかったわ」



 最後に万遍な笑みを浮かべると、キサラギは自分の命とも言うべき刀を、折った。折ってもなお、キサラギの表情に曇りはない。


 キサラギの姿が冷気の漂う空気の中に溶け込んでいった。刀の化身である以上、刀を折ればマリとハン同様に、消えることになる。



「またね」



 手を振る。すると、それを追うようにして小さな真っ白い綿が、空からふわふわと落ちてきた。



 雪。



 透けながら、それに触れようと手を出す。消えかけたキサラギの手にゆっくりと積もっていく雪が、宙に止まっているようで幻想を誘う。


 薄氷(うすらい)の結晶がとても綺麗だった。



「餞別か。私たちが生まれた季節を運んできてくれたのね」



 リュウキと顔を合わせた日にも雪が降っていた。だからこの名前をもらった。とても素敵な思い出。



「……ありがとう」



 笑顔が、完全に冷気へと溶け込んだ。積りかけた雪は何事もなかったかのようにはらはらと落ちていく。


 地面に着く前にそれを受け止めたのは小さな手。



「綺麗ですね」


「ああ。いい感じだ」



 キサラギの溶け込んだ空間から生まれたのは二人の少女だった。キサラギ同様、花のように笑う様が愛らしい。



「さ、行こうぜ、マリ」


「ええ」



 優雅に飛び、森の姫たちは軽やかなステップを踏みながら、自分たちの居場所へと帰っていく。


 五人の思いを、雪は労うように優しく包んでくれる。これからのためのひと時の、柔らかな薄氷(うすらい)の時間を贈るかのように。





 





最後まで読んでいただき、ありがとうございました!いかがでしたでしょうか?(汗)

この作品は2004年の冬に書いた初投稿作品です。見事に落ちましたけどね・・・。


「如月姫」の概要をちょっとまとめてみますと。

親の心子知らずで始まったショウキの「復讐」と、人外のものを受け入れない村人へのショウキの憤り。

人外を受け入れない村人にもどかしさや憤りを感じながら、好きな人への葛藤や父親に対しての複雑な思いもありましたが、姫たちを残したリュウキの「誠意」を悟り、復讐を否定し正しいと思うことを貫こうとするナツキ。


言わば、負の感情を軸にした強者と、力なき[正]のぶつかり合い、ですかね?

そして物語のカギを握るキサラギが、本来の主よりも正の方に力を貸す。


「薄氷」っていうのはショウキの弱い心、氷の刀、冬の雪氷、如月(2月)みたいな意味です。



どういうふうに設定が生まれたか、といえば、一枚のイラストから連想して書くお題だったので、そこから妄想・・・もとい、想像を膨らませて書きました。


最初に設定したときはショウキが主人公でナツキが村の者以外を拒む幼馴染で、ショウキが敵に追われるキサラギを助けて・・・みたいな話だったんですけど、書いていてもなんか心にくるものがなくて、現在の形になりました。


分かりやすく書けているんじゃないかな、と思っているのですが、どうでしょう?


是非、ご意見ご感想をお聞かせください!読者様の感想はどんなものでも有難いものです、物書きに限らず、なんでもそうだと思いますが。


統一原理、教会を知ってからも、この作品は相通ずるものがある、と思っています。元々そういうものが好きなんでしょうね。だから原理や教えに惹かれたのかな。



とにかく、何か心に残ったり、何かを感じてくれたら幸いです。




さて次はお笑いでも載せますか(笑)とりあえずいくつかまだ完成している作品があるので、順次投稿していこうと思います。

ハヤマの小説を気に入ってくださった方、興味のある方は次も是非、お越しくださいませ。


それでは、近いうちにまた。



 

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