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戯れの物語  作者: もち
第一章~絶対なる指導者~
9/19

六話~聖メリアーヌ~

その子供は独りだった。

似たような境遇を持つ孤児達が集められた研究所。

毎日のように繰り返される薬物による実験。

遺伝子配合を操作しての生物の進化や変化。

役に立たないと判断されれば容赦なく破棄される現実。

人を人と思わない所業であったが、そんな中でも孤児達は手を取り合って自分自身を見失わないよう生きていた。

その中にたった一人、溶け込むこともできずに膝を抱えうずくまるだけの毎日を送っている子供がいた。

望んでそうなったわけではないが周りが虐げる。

研究所へ集められた当初は皆と仲良くしたいと周りの子へと積極的に話しかけていたが、返ってきたのは視野にすら入れない完全な無視や時には子供らしからぬ暴力を振われる時もあった。

それでも負けじと子供たちの輪の中に入ろうとするが、誰にも相手にされない事実は徐々に心を蝕んでいく。

もしかしたら、他の子供たちが手を取り合って仲良くいられたのはこの子供が迫害の標的となっていたためかもしれない。

何故こんな目に合うのか考える日々が続くが、まだ幼いその思考ではわかるはずもなく、また、それを理解できたとしても納得はできないだろう。

結局は他の子供たちとの溝は深まるばかりであった。

そんな不安定な精神状態が長く続けば体調にも表れてしまったのは当然だと言えよう。

何の抵抗もできずに呆気なく倒れてしまった。

となれば待っているのは、破棄されるという結末のみ。

何人もの破棄される子供たちを見てきた為に知っている。

背中に大きく熱い焼き鏝を使って破棄の印をつけられることを。

まさしくゴミを捨てるかのように、研究所の外に放り出されることを。

外には凶暴な魔物が徘徊しており、間違いなく捕食されることを。

知っていたところで、どうすることもできはしない。

身体は動かないのだから。

動いても逃げられはしないのだから。

研究員の一人が嫌悪感を隠そうともせずに近づいてくる。

その手に持たれた焼き鏝は見たくはなかった。

もうすぐ訪れる未来を嫌でも考えてしまうから。

いつの間にか流れていた涙が視界を霞ませ、やがて瞼が閉じられる。

この瞼が二度と開かなくなるのはすぐにやってくるだろう。

焼き鏝が近づいてきたのか背中が徐々に熱くなってきた。

もうすぐ死ぬ。


(…リ)


もうすぐ…


(…ロエリさ)


死…


(アロエリさん!!)


「っ!?」


自身を呼ぶ大きな声により一気に眠りから覚醒すると、眼前には心配そうに眉を歪めるルルアがいた。


「うなされていましたけど大丈夫ですか?」


ルルアから心配の言葉と同時にタオルが手渡される。

状況が把握できていないものの、いつもパジャマ代わりに来ている大きなシャツが身体に張り付いてべったりしている。

どうやら相当な寝汗をかいていたようだ。

そのタオルを受け取り、顔全体をくしゃくしゃにしながら拭くと随分と目が冴えてきた。

だが、それ故に今現在の気恥ずかしさに気付く。

如何に幼いとはいえ、そして如何に成長が遅れているとはいえアロエリは女の子である。

汗で濡れたシャツは身体に張り付くと服としての役割を果たさず、随分と透けてしまっていた。


「~~~っ!るるあくんのえっち!!」


「ちょっ!?」


思いもしなかった言葉を受けてルルアも慌てふためき、それでも一部冷静に思考が働きアロエリを見ないように後ろを向いたのは最善の行動だといえるだろう。

そのおかげで、アロエリもすぐに落ち着きを取り戻して修道服へ着替え始めた。


「ところで、どうしてるるあくんがわたしのへやにいるの?」


「昨日書室で会った時に、朝から来てほしいって言われたから来たんですけど…覚えてないんですか?」


ここでアロエリに勘違いされれば、またいらぬ疑いをかけられると考えたルルアは、どこか責めるように先日交わした約束を告げる。

こういった際に必死になるのは仕方ないのかもしれないが、ルルアらしくないとも言える。


「え?あ…そういえばそうだったね。あはは…じゃあ、ついてきてくれる?」


「?ええ、かまいませんけど、もう振り向いても良いんです?」


「だいじょうぶだよ。」


アロエリの態度は明らかに忘れていたと示しているが、あえてそこは聞かなかったふりをし、振り向いてみる。

そこには普段通りのアロエリがいた。

髪はさすがにまだところどころはねているが、それでも先程までと比べればはるかに整えられており、外出する分にも十分だろう。

自然とアロエリから手を繋いできて、案内されるように歩を進めていく。

ようやく朝日が山の影から見え隠れしはじめた早朝ということもあって、特に誰ともすれ違うこともなかった。

少しばかり冷える外気や、歩く際に妙に響く木材で出来た廊下の軋む音が新鮮に感じられる。

そんな中をしばらく無言で歩き続けると慣れ親しんだ部屋が見えてきた。

どうやらここが目的の場所のようだ、アロエリは迷うことなく室内へと入っていく。


「聖メリアーヌ像の間ですか。ここに何かあるんですか?」


「うん。とってもたいせつなようじがあるの。」


この無駄に大きな造りをした部屋にあるのは、教会が信仰している対象である聖メリアーヌの像があるのみ。

非常に大きく掘られた石像だが、その顔はフードを被っているかのような造りになっており、完全に隠れている。

その身体つきから女性であることはうかがえるが、それ以上はわからず、そしてそれだけわかれば十分らしい。

その像がある以外は本当に何も置かれていない。

もっとも、それを不便に感じることはない。

この部屋で行うことは、祈りを捧げるだけなのだから。

以前のルルアならば、アロエリの障害が改善されないかと祈っていたこともあるが、今ならばそのようなことなどできない。

解決の糸口も見つかり、更には刻まれた知識の中に聖メリアーヌについてのものもあったのだが、その行動や思考はあまり好感を持てなかった。

しかし、この場所にいったい何の用事があるのだろうか?

確かに孤児院の人々も含め、毎日のようにお祈りで訪れる者が多数いるが、それでもこんな時間から祈ることなどシスターでもしていないはずなのだ。

いったい、どんな用事なのかとアロエリへ質問しようとすると、いつの間にか繋いでいた手を離し聖メリアーヌの傍に立ち、手招きしている。

色々と言いたいことはあるが、あまり待たせると機嫌が悪くなることは目に見えているので素直に従うことにする。


「るるあくん、このひとのことしってる?」


「えっ?聖メリアーヌって言ったら知らない人が少ないくらい有名ですよ。」


そう、ルルアの言う通り聖メリアーヌは非常に有名だ。

国や人種を超えて知れ渡っており、学園では歴史の勉強だけでなく武術や理術に関する際にも必ず名前があげられ、ルルアも当然知っている内容だ。

だが、アロエリの質問の意味合いは若干違ったようだ。


「そういういみじゃなくて、しりあいなのかきいてるの。」


「知り合い?もう何千年も前の人ですし、文献とか聖書とか…他にも色々とありますけど知っているだけですね…でもなんでですか?」


単純に言葉が足りていなかったのだろう、ルルアは完全に知識として知っているかと質問されたのかと勘違いしてしまっていた。

だが、勘違いしたのも無理はない。

言葉通り、聖メリアーヌは何千年も昔の人物だと言われており、誰がそんな人物と面識があろうか。

質問の意図を読み取れずにいると、アロエリからあまりにも信じられない言葉が続けられた。


「このひとがあいたいっていってるの。」


「この人って…聖メリアーヌが…ですか?」


「うん。ちょっとまっててね。」


さすがに、アロエリの障害を知っているルルアでもその発言は信じられるものではなかった。

もしかしたら、障害が悪化したのではないのか。

せっかく解決できる糸口が見つかったというのにまた手が出せない程の悪性なものへとなってしまったのかと不安に駆られ今にも泣きそうになる。

そんなルルアの思いなど一切知らないアロエリは聖メリアーヌの像へ額をつける。

ただ、それだけだというのに、辺りを包む空気が途端に変化した。

教会は元々がシスター達の手で特殊な陣が敷かれ、常に清められているのだが、それすらも穢れていたのではないかと思うほどに今は澄んだ空気が包んでいる。

何が起こったのか理解できなかったが、この部屋が外界と隔絶された一つの異空間であるかのようにも時が止まったかのようにも感じれらる。

どちらにせよ、尋常ではない出来事が今目の前で起こったのだ。

先日同じようなことが起こった為、ある程度は落ち着いていられたが、驚きはそこで終わらなかった。


「はじめまして、ルルアさん。」


その容姿も声色も間違いなくアロエリのものだ。

だというのに、それを真っ向から否定したくなるほどに、アロエリとは離れてもいる。

アロエリなのにアロエリではないという矛盾は、ルルアの平常心を更にかき乱す。

だが、一つだけわかったことがある。


「貴方は…聖メリアーヌなのですか?」


知らないのに知っている記憶の中でこの醸し出す雰囲気に該当する人物がいたのだ。


「はい。生前の名を名乗るならばメリア・エグゼーヌと申します。メリアーヌは愛称のようなものですね。今後は是非聖を抜いてメリアーヌとお呼びください。貴方にならばそう呼ばれても構いません。」


確信に満ちた質問であったが聞かずにはいられず、そしてやはり当たっていた。

この世界が一度崩壊した際に天界から遣わされた神子にして、人々を導く導師、更に最強と称される龍神すら降した、遥か古を生き人々の礎を築いた存在。

その力を後世に残すために、三つに分割しそれぞれを後継者に授けたとされるが、先日の記憶の持ち主が正にその後継者の内の一人なのだろう。

様々な文献に名を残し、そして語り継がれているその人物が今目の前にいることや、何故アロエリに宿っているのかという疑問が浮かぶがそれどころではない。

途方もない存在感を放ち、だというのに全てを包み込みそうな程に柔らかい空気を作り出し、それでも圧倒的な理力を宿していることが感じられ、恐怖とも安心感とも、はたまたその力に渇望しているともとれる複雑な心境へ陥り、もはやルルアは考えることすらできなくなっていた。


「色々とお話をしたいと思っておりますが、なにぶんあまり時間がありませんので一つ一つ簡潔にお話させていただきます。」


だが、次の瞬間には思考がクリアになり、先程までの感覚は全てきれいに消え去っていた。

おそらく、メリアーヌが何かをしたのだろう。

ここでもやはり好感は持てない。

その有り余る力で人の感情を操作したのだ。

良い気持ちになるわけもない。

だが、ルルアの思考は元々が落ち着いたものであり、その状況まで回復したのであれば優先順位を瞬時に選びだせる。

よって質問ではなく彼女の話を聞くことを選んだ。


「…わかりました。」


「ご理解いただきありがとうございます。まずはこの身体の持ち主、アロエリさんについてです。」


その言葉はいきなりルルアの心をわしずかみにした。

悪化したのではないかと不安に感じた言動は結局は、実際に目の前に聖メリアーヌが存在していることから現状のままであろうことが分かったものの、そんな存在が何故アロエリへとりついているのかが理解できなかったのだ。

恐らくはその事について触れるのだろうと予め予想を立て、その上で話の先を求める。


「お願いします。」


「はい、彼女は…」


メリアーヌより語られた真実。

それはルルアの周りで惹き起こる異変についてであった。

言葉通り異常な事態が惹かれたことで起こった確定していた事象だったのだという。

今また運命はルルアをより絡め取ったのだった。

読んでいいただきありがとうございます。

次話も読んでいただければ嬉しいです。

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