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戯れの物語  作者: もち
第一章~絶対なる指導者~
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五話~教会~

「ルルアく~ん、今度はこっちお願いできる?」


「わかりました。」


「ルルア、それが終わったらこっち来てくれる?」


「いいですよ。」


「ルルアさん、嫌だったら嫌だって言ってくださいね。でも私の傍からは離しませんからね。」


「えっと、僕にどうしろと?」


いったいこの状況は何なのだろうかと、本当にわからないルルアだが、第三者の立場で見ているロクシスからすれば微笑ましい光景に見える。

ここは教会の礼拝堂の近くにある、シスター達が寝泊まりする部屋の一つなのだがその場所にほぼ全てのシスターが集まり、そしてその中心にルルアがいる。

シスターが皆好き勝手にルルアと触れあったりその長い髪を無断で整えたり、やれもっとこちらに来てほしいだの本当にやられまくりなのだ。

ようは、皆でルルアを愛でるという名の弄りを行っているのだがルルアも嫌がっているわけでもなく、ならばとロクシスは放置している次第だ。

周りに群れているシスターもロクシスの子供と形容することのできる程の年齢でしかなく、だからだろうか姉と弟のじゃれあいにも見えてくる。

事実、教会と孤児院は深く繋がっておりシスター達が孤児院のお母さん代わりとなっており大きな輪で家族となっている。

それでは姉と弟ではないではないか、と自身で不自然なことに気がつくが、見た目がそれなのだからまあいいかとよくわからない思考を終える。

そうこうしている内にルルアが、何か自身に訴えかけるような視線を向けていることに気付き、シスターの群れを右に左にかき分けながらルルアのもとへ向かいひょいと抱え上げる。


「どうやらルルア君も疲れているようです。そろそろお開きとしましょう。」


まだルルアと触れあっていないと言う者や、まだまだ触れ合い足りない等不満不平が出るが、ルルアが疲れているのならとしぶしぶではあるが皆引いてくれた。

周りに誰もいなくなると、妙に冷たい視線がロクシスへ注がれていた。

当然、その視線はルルアのものであり怒っていることをありありと示しているようにも見える。

抱え上げていた態勢から、ルルアを降ろすとコホンと咳払いを一つして口を開く。


「ルルア君は人気者ですね。」


やや、気まずそうにとりあえずの話題を出すロクシスの神経はこの場合は図太いと言っても良いかもしれない。


「…ああなることを知っていてわざわざ連れてきたんですか?」


「ふふふ、彼女達が相手ではルルア君も難しいことは考えれなくなるでしょう?」


「…気付いていたんですか?」


「わかるものなんですよ。何を考えているかまでは当然わかりませんが、顔が険しくなったり何かを決意しているようにも見えたりで、中々心配していたのですよ。そこで、あの子たちの中に投下です!」


「心配していただいた事には感謝しますが…文句は言わせていただきます。何なんですかあの状況は!餓えた魔物がいる檻の中に放りこまれた気分でしたよ!死ぬかと思いました!!」


「ははは、彼女らは魔物扱いですか。」


生憎、あそこまで複数の女性からあっちこっちと呼び声かかることは経験したことのないロクシスにはいまいち認識できないが、ルルアにしてみればシスターも魔物も大差ないようだ。

当然、シスターとのやりとりに命をかける必要などないが、とにかく疲れる。

元々が読書好きということもあり、多種多様な書物に目を通していたのだが、その中に聖書があったことが彼女らとの接点となり、そして彼女らの厄介な行動が開始された。

信仰としてではなくただ、可能性の一つを解釈した書物としての認識でしか興味がなかった聖書だが、その量が膨大であった為に頻繁に教会に通っており、それだけ通えば当然名前も顔も覚えられるというものだ。

それでも、その頃はたまに声を掛けられてもちょっとした世間話ですんでいた為に今と比べるとよかった。

変わったのは、気まぐれに聖書の整頓の手伝いをしてからだ。

実のところ、聖書がまとめられた書物は百にも及ぶ。

そして、それらはシスターが教えを学ぶ為にと貸出されており、気が付けば聖書が収められている棚は結構な穴あきであることが多い。

その穴あきの聖書を読みたかった為に手伝った、というのがルルアの行動の真実なのだが、彼女らはそれを勘違いした。

ルルアは、やや内向的であるが非常に素直な良い子であると。

それからというもの、エルフであることを気にすることもなく色々と教会内での仕事の手伝いをお願いされた。

あくまでも強要ではない辺りにシスターとしての良心が残っているのかもしれないが、ルルアにしてみればそんなこと知ったことではない。

色々な人と触れあうことにより少しずつ社交性を身につけることが出来たのは喜ばしいことであるが、肝心の読書の時間がごっそりと奪われたのだ。

その上、女性的な容姿をしている為か修道服を強制的に着用させられある意味で女装をさせられたり、あげくにはそのままの姿で迷える子羊への助言をさせられるなど、もはや渇いた笑いしかでてこないようなこともさせられた。

一番の後悔は、その姿をリグロに見られたことであろう。

笑ってくれればまだよかった。

だが、あろうことかルルアの修道服姿を見て頬を染めたのだ。

ルルアが男だと分かっていると言うのにだ。

だが、ここからリグロとの友人関係が始まったのだから何が幸いするかわからない。

ただ、色々と思い返していた為か今もまた渇いた笑いが出てきてしまった。


「では、私は残っている仕事を片付けに戻りますけど、ルルア君は仲の良いシスターさん達と会ってきたらどうですか?さっきのは皆で押しかけられて大変だったでしょうけど少人数ずつなら大丈夫でしょう?」


「もちろんそのつもりです。ただ、既にふらふらなので少し休憩してからいきます。」


「それで構いませんよ。体力も彼女らと行動していれば自ずとついてくるでしょう。」


「先にストレスで胃に穴が開きそうです。」


「大丈夫です、薬は完備していますよ。」


「…お父さん、もしかして既に?」


「私にもね…色々とストレスはあるんですよ。」


思わずルルアの視線はロクシスの頭頂部に向いてしまった。

非常に薄くなってきているその寂しげな様子を見てしまうと、何故か自身のストレスなどまだまだ軽い方なのではないかとすら思えてくる。


「ふふ…ふふふ。」


さすがに本人を目の前にして、ストレスによる症状を口に出すことは控えようとこの話はここまでとし、不気味な笑みを浮かべるロクシスを見送ることにする。

哀愁を感じさせるものがその背中にはあり、同時にやけに小さく見えた。

自身ができることと言えば、どういったことがストレスとなっているのかはわからないものの、その原因が取り除かれることを祈ることだけであった。

と、ここで先日の花畑が枯れていた件について詳しく聞くのを忘れていた。

もっとも、既に予想は既にできているのだがやはりそこは実際に確かめたであろうロクシスから聞くべきなのだと思っているのだが、聞こうにも会話することそのものが楽しく、すぐに聞き忘れてしまう。

もう少ししっかりとした意識を持つべきだろうかと一人悩んでいると、後で会いに行くつもりだったシスターの一人が向かい側の通路から歩いてくる。


「あれ?ルルア君じゃない。久しぶり、もう怪我は良いの?」


「リップルさんでしたか、お久しぶりです。ただ倒れただけで怪我はしてないんですよ。」


「あら?そうなんだ。ロクシスさんがすごい慌てて治療してたからてっきり怪我したのかと思ってたよ。」


「皆さんそう思ってるみたいです。」


まだまだ、二十代前半で通じる容姿を持っているが実際には三十路を越えて数年のシスター、リップル。

そんな彼女とクスクス笑いあうと不思議と温かな気持ちになれる。

リップルの人柄によるものなのだろうが、シスターの中でも良識を持った人物であり、ルルアのことも節度を持って接してくれる非常に頼れる味方である。

だからこそ、ちょっとしたお願いをすることにした。

自身が教会に居る理由と今からの行動予定を伝え、他のシスター達から護ってくれないかと。

快く了承を貰えたことで、ルルアにとっての魔の巣窟である教会はようやく自由に歩けるような環境へとなった。


「ところで、リップルさんは先程までどちらにいらしたんですか?」


「今日は国の偉い人が来る予定だからお部屋の掃除をしてきたんだよ。ロクシスさんと何かお話があるみたい。」


「そういえば、今度首都に行かなきゃいけないって言ってました。もしかしたらそれが関係しているんですか?」


「そこまでは私もわかんないなぁ…っと着いたよ、ここがアロエリの部屋だから。帰りたい時はアロエリに頼むか、また私を頼ってね。」


どうやら目的地に着いたようだ。

扉の前には「あろえりのへや」と書いてある。

リップルへ感謝を告げると、微笑みながら手を振ってくれたのでルルアも同様に手を振って返す。

ゆっくりと歩いて去っていくリップルの背中は何でも包み込んでくれそうな包容力が感じられ、先程哀愁の漂っていたロクシスと比べてしまう。

ややロクシスに対しての残念な気持ちを抱きながら、アロエリの部屋の扉をノックする。


「はーい、あれ?どしたの?さっきおとうさんとかえったんじゃないの?」


「親しい人達と会ってきたらどうかと言われたので、来てみました。さっきはアロエリさんと話す間もなかったですから。」


扉を開けたのは、ルルアよりも更に幼い女の子であった。

ロクシスを父と呼ぶ彼女は、一応はシスターとして教会に在籍しているもののあくまでもそれは側面でありルルアと同じく孤児に近いものがある。

まだまだ幼い子供であるからか、あまり表だっての活動は行っておらずまだ勉強ばかりの毎日である。

そんなアロエリの潤いとして、同年代のルルアの訪問は非常に役に立っていた。

非常に落ち着きを持つルルアは、ある意味でアロエリのお手本として大人たちに認識され、ルルア自身も少し捻くれた意味合いではあるものの、それを意識してのものでの行動であった。

もっとも、アロエリとの触れ合いは自身にも楽しいことであるため、特に気に留めることでもないのだが。


「じゃあ、あろえりにあいにきてくれたんだね?なにしてあそぶの?」


「今日は遊びに来たんじゃなくて…」


「…あそばないの?」


「いや…あの…。わかりました。遊びましょう。」


うるうると大きな瞳に涙を溜めながら見つめられるとルルアもあまり強く出れなかったのか遊ぶことが決定された。

しかし、精神的に成熟しているルルアと比べるのも酷ではあるものの、アロエリの喋り方は同年代の中でも特に拙く感じられる。

というのも、彼女はやや脳に障害を抱えていることが判明しており、それが影響しているのだろうという。

実は、シスターとしての教育を受けている要因がこれに当たる。

アロエリも初めは孤児院での生活を送っていたのだが、他の子供たちと成長の違いが見られ、それは徐々に深刻なレベルにまで広がっていった。

そこから彼女は孤立していったのだが、それをそのまま放っておくロクシスではない。

その状況に気付くとすぐに、アロエリの成長を阻害している原因を突き止めようと動き、その間の安全策として教会での生活を行わせたのだ。

一時的な措置としての教会内での生活であったが、アロエリはその中で異常なまでに神の存在を信じるようになっていった。

成長阻害の原因自体は不明として終わったのだが、そのまま教会内で神への理解を深めたいと自身の意志をしっかりと示してきたのは、アロエリが初めて勇気を振り絞った行動であった。

それからしばらくの時が流れてルルアは彼女と出会うのだが、自身と同じように原因が不明とされている病状を持っていることへの同情なのか、或いはそれ以外のまだ認識したことのない感情なのかは知らないが、頻繁に彼女と触れあうようになっていった。

満面な笑顔を浮かべて遊ぶことを考えているアロエリ自身にもいつかは伝えられるのであろう障害だが、それを気付かれることなく取り除けるのだとしたらもはや告げることすら必要なくなる。

そう、先日得た知識でそれが可能かもしれないのだ。

あのシスター達にもみくちゃにされたのは予想外だったが、ロクシスに連れてこられずとも、その根拠を得るために今日ここへ来るつもりであった。

だが少しばかり早まったかと現在進行形で後悔している。

一方的に遊ぶことが決まってしまったのだが、アロエリが示してきた遊びの予定はほぼ一日中を占めており、ただでさえ体力のないルルアには中々に過酷であったからだ。

明日は一日中ベットの上で筋肉痛に苦しんでいるであろう自身が浮かぶ。

結局、その日はアロエリが遊び疲れて寝るまで付き合い、案の定次の日は一日中ベットの上で身体中の筋肉が軋むというつらいものとなったのであった。

読んでいただきありがとうございます。

次話も読んでいただければ嬉しいです。

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