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戯れの物語  作者: もち
第一章~絶対なる指導者~
7/19

四話~楽しいひととき~

いつもと同じように部屋にこもり、同年代が読むにしては少しばかり難しい本とにらめっこをしているルルア。

先日のあまりにも常識はずれな出来事の翌日。

気が付けばルルアは、医療用のベッドに横になっていた。

聞けば、ロクシスが外で倒れているルルアを見つけるや否や急ぎベッドへ寝かしつけ、術による怪我の治療を懸命に施してくれたらしい。

怪我等全くしていないというのにだ。

それでも、やはり精神的な癒しの効果もあったのか、目が覚めた時にはいつも以上に調子が良く、倒れていたということが自身でも信じられなかった。

だが、考えてみればあの寒い夜空の下でロクシスを待ち続けて結構な時間が経っていたのだから精神的にも体調的にも崩れてもしかたなかったのかもしれない。

そう考えればロクシスに原因があるのだろうか?

などと面白可笑しく考えていたが、そのロクシスから念のために一日ゆっくりするように言いつけられ現在に至るわけだ。

ルルアとしては、刻み込まれた知識の中に今最も試してみたい事柄があるのだが、父から休むよう言われたのでは従わざるを得ない。

そこで、もはや趣味となってしまった読書をしているのだが、既に読んだことのある本である為にやや飽きてきた。

だが、これからの時間をどう過ごそうかと悩んでいると、ルルアの了承など無く大きな音を立てながら扉を開けて部屋へと入ってきた二人により退屈などしそうにない時間が訪れる。

活発な男の子のリグロ。

おしゃまな女の子のカズハ。

あまり友達らしい友達がいないルルアにとっては、自信を持って仲が良いと言えるこの二人の存在は常日頃から非常にありがたかった。


「おっす!元気にしてたかルルア?」


「ちょっと、まだルルアくんはかぜが治りきってないのよ!あんまりさわがしくしちゃダメよ!」


「もう大丈夫ですよ。というよりも風邪ではなかったんですけどね。それよりも二人とも遊びに来てくれたんですか?」


二人が来てくれたことに関して嬉しく感じるのか、普段の言葉にはあまり見られない感情が込められていた。


「おおぅ…あのルルアがうれしそうにしてるよ。そんなに寂しかったのか?」


「えっ?…そんなんじゃ…ないです。」


「ん~?本当にそうか?」


「…本当です。」


それを敏感に感じ取ったのかリグロが、ニヤニヤしながらルルアを茶化してくる。

何故か照れくさくなってそっぽ向いてしまいそうになるのだが、確かに二人が来てくれたことに関して喜んでおり否定ができない、更に言えばこのままリグロと問答していてはいつも通りカズハから手痛い一発を喰らうことになる。

先程、リグロの行動について注意したカズハだが、実は仲裁の為ならば相手が怪我をしていようが病気にかかっていようが遠慮なく拳が出る。

そんな女の子なのだ。

それを考えれば素直に寂しかったと認めるべきだと考え、それを伝えようと口を開こうとするものの遅かったようだ。


「けんか両成敗!」


「おぶぁ!?」


「いたっ!?」


凛とした声が響いたかと思うと頭に思いっきり殴られた衝撃が走り思わず痛みの元を抑えて悶える。

涙目になりながら視線を上げればリグロも頭を抱えていた。

随分と大きなタンコブができているが、自身の頭にも同じものがあるのだろうか?と、ある種どうでも良い疑問が浮かぶがリグロの痛がり方は自身の比ではないことを悟り、怪我人ということでやや手加減されたのだろうことが窺えた。

何にせよ、やたら悶え苦しんでいるリグロを助けようといつも通りに術で治療を開始するルルア。


「いきます、ヒールウォーター。」


すると、リグロのタンコブ周辺にいくつもの水滴が落ちてきた。


「…?あうぁ…まじで助かる。」


みるみる小さくなっていくタンコブ。

どういった構造で縮んでいくのかはわからないが、何かしら水に関する作用を利用した治療なのだろう。

しばらくしていると何事もなかったかのようにタンコブは引いていた。


「サンキュー!」


「あいかわらずすごい効果よね。わたしもがんばって覚えたけどそんなにすぐに治らなかったわよ。何かコツでもあるの?」


「人それぞれに適正があって、どれだけ術を覚えても苦手な種類のものは効果が期待できないって聞いたことがありますよ。カズハは水の術の適正が低いだけの可能性もあります。」


「そうなのかなぁ?」


どこか納得いかないとでも言うように首を捻るカズハ。

その姿を見ながらリグロとルルアはお互いに共通の思いを持っていた。

カズハの得意分野は属性はともかくとして間違いなく攻撃系なのだと。

当然、それを口に出すことは自殺するようなものなので言葉にはしないが、互いに交わした視線で通じ合えた。


「よければどういった適正があるか調べてみましょうか?」


「そんなことできるの?」


「お父さんの書斎で見つけた本に書いてありました。まだやったことはないですけど、確実なものだと思いますよ。」


「なら、お願いするわ。」


「あっ、なら俺も俺も。」


「わかりました。」


まさか本に書いてあったのではなく、昨日偶然知りえたなどとは口が裂けても言えない。

だが、自身の知識を二人の興味を予想以上に惹けたようでなかなかご満悦の様子だ。

さっそく適正の検査に取りかかろうと、必要な準備を始める。

道具はナイフと瓶の二つだけだ。

これでどうやって調べるのだろうかと、リグロもカズハも注意深くルルアを見ていると、さも当たり前のようにナイフで自身の指を傷つけた。


「っ!?ルルア!」


「大丈夫です。」


反射的にルルアの腕を抑えナイフを奪おうとするリグロだが、ルルアのはっきりとした返事により未遂に終わる。

カズハはといえば、血を見るのが怖いのか口元を抑えながらおろおろしているだけであった。

普段の行動からは考えられないその姿に思わず、血を流しているルルアもそのルルアを心配して行動に移そうとしたリグロも笑みがこぼれる。

何にせよ指につけた傷自体はさして深いものではない為、心配は不要だとルルアが告げるとカズハも落ち着きを取り戻してくれた。

それを確認すると、手元の小さな瓶に自身の血液を一滴垂らす。


「おどろかせてしまってすいません。少量でも良いのでこうやって血液が必要なんです。」


「全くだ、冷や汗かいちまったよ。まあ、よかったよかった。」


「でも…ちょっと待って、私たちもそれやらなきゃいけないのよね?」


「え?はい、そうですけど。」


ごくごく当たり前の事だと言うように返ってきた言葉にカズハは先程までの意欲はどこかにいってしまったようだ。

何せ、彼女はうら若き乙女、例え指であろうと傷を負うことなど避けれるならばそれにこしたことはない。

他に方法がないのかとルルアへ問いかけると、あるというではないか。


「その方法は!」


ルルアの胸倉をつかみ揺さぶりながらまるで脅すような態勢で問い詰める。

ただまあ、普通に考えてみて揺さぶられながら答えれるはずもなく、リグロが仲裁に入ってようやく脅迫は終わった。

その際に、柄にもなく止めに入ったことを少しだけ気恥ずかしい気持ちになったリグロだが、確かに普段行う内容ではないことを記しておく。

結果的に言えば、他に方法はあるにはあるが、今はその方法をとれないのだと言う。

一つは、大がかりな機械を利用した身体能力の測定。

当然孤児院であるこの場所にそのような機械など置いているわけはない。

あるとすれば、国が保有する騎士団や研究機関、そして富豪の元ぐらいだろう。

もう一つだが、これは至って単純な理由だ。

理術で解析することで機械の代替として測定するのだが、実のところこの理術の利用は極めて難しい。

人体の構造と理力の循環の知識、さしあたっては行使する際の莫大な集中力。

それら全てが揃わないとはっきりとした結果が得られないのだ。

本の虫であり、更に知識が詰め込まれたルルアにしてみれば人体の構造や理力の循環についての知識は十二分に頭に入っているものの、それを行使するための集中力は理力を扱いなれていない者にはどうやっても備わるものではない。

ここまで条件が厳しいとなれば血を流すしか方法がないのかと頭を悩ませるカズハを尻目に、ルルアは作業を再開する。

といっても瓶に入った血液に理力を照射するだけなのだが。

だが、その変化は劇的であった。

血液はあっという間に青白く光る球体となり、瓶の中をふよふよと浮かんでいるのだ。

そして、その周囲を小さな光を放つ赤と緑と黄の三つの光も確認できる。


「すっげ~!」


「…きれいね。」


いつの間にかカズハも瓶の中を覗き込んでいたが、吹っ切れたのだろうか?

とりあえずは二人に今回の適正結果について述べる為に属性についての説明を始める。

属性の種類は全部で六つ。

炎水風土光闇の自然を司る六種類となる。

光が大きければそれだけ適正があり、尚且つ色が濃ければ攻撃に、逆に薄ければ癒しに特化していることになる。

例外として、その中間に位置する場合は濃くなったり薄くなったり点滅するかのような反応を示す。

そして、球体の色はそれぞれの属性の象徴となる色と繋がっている。

順に言えば、赤青緑黄白黒である。

これもまた例外があり、透明であったり全く関係のない色が出たりすることもあるのだが、これはどの属性かの適正はあるがはっきりとはわからない場合や、はたまた特殊な属性であるとも言われいる。

当然ながら、現れなかった色は適正がなく、その属性は現段階では天地をひっくり返しても扱うことはできない。

つまりは、努力しだいということになるわけだ。

この説明で言えば、ルルアには水の適正が最も高く、その中でも癒しに特化していることになるのだろう。

そして、適正は決して高くはないようだが水だけでなく炎や風、土の属性も併せ持つこととなる。

この結果からカズハの踏ん切りがついたようだ。


「次は私をお願い!」


ルルアに負けられない、そういった対抗意識が芽生えたようだ。

その強引さにリグロが横から文句を言ってくるものの、こういったものは早い者勝ちだと勝ち誇った顔で返していたが、ナイフで指を切る時に少しだけビクッと反応してしまった顔も一緒に見られてしまい恥ずかしい思いをすることとなった。

以前、感染症対策の注射を打つ機会があったのだが、その時にはあまりの恐さにロクシスに泣きつき、抱きしめてもらいながら打ってもらったことがある。

当然、随分と前の話ではあるがそれを今リグロは再び持ち出してカズハを弄りだした。

口頭での喧嘩が始まり、お互いに額をくっつけあって睨み合っていたが、ルルアがその間に瓶が見えるような位置に差し出す。


「これって…」


「えっと…全色?」


そこに見えたのは六つ全ての小さな光であった。

それも、全てにおいて濃い。

そのことに喜びを隠さずにいられないカズハであったが、ルルアから手痛い言葉を受けることとなる。


「全色っていうのは珍しいことなんですが、逆にいえば器用貧乏になりやすい傾向にあります。先程ヒールウォーターを覚えたっていってましたけど、まず適正が攻撃よりなのであまり効果が期待できません。それにこの前はファイアボールとかウィンドカッターを覚えてましたよね。確かに鍛錬すればどの属性でも扱えるようにはなりますけど、それだけなんです。熟練の域に達することが非常に難しいのが多属性持ちの難点なんです。しっかりとした鍛錬をしないと全属性扱えるけれど基礎的な理術しか…ってことになりかねません。」


「じゃあ、どうしたいいの?」


「いえ…それは鍛錬しかないと。」


先程の喜びから一転、カズハが妙にふてくされて見えるが気のせいだろうか?

ルルアにしてみれば、そうなってほしくないから言っただけなのだがなにやら癇に障ったようだ。

触らぬ神に祟りなしということわざがあるが、その意味が本当の意味で理解できた気がしたルルアであった。

というわけで、何やら恐ろしく暗い雰囲気を漂わせているカズハは置いておきリグロの適正を確認することにした。


「おっしゃ頼むぜ!」


「はい、チクッとする程度で済みますので我慢してくださいね。」


あれだけカズハを弄ったリグロなのだから、その程度で怯えるわけもなく早く結果が知りたいのか目がキラキラしている。

何やら急かされている気もするが、急ごうにも残る工程は一つなのだから急ぎようもなく、すぐに結果は出た。


「俺は風と光か!」


瓶の中にはそれなりの大きさをした濃い風と薄い白の光が輝いていた。


「ふん、二つだけじゃない。」


「俺の方がでかさは上だぜ!」


「どうせ、スカートめくりぐらいにしか使わないでしょうが!」


「誰がそんなことするか!」


再び始まった喧嘩をどこか楽しそうに眺めながら心穏やかに会話し、程なくして一日が終了したのだった。

この楽しい時間をもっと楽しめたら。

そう願うルルアだが、運命はどこまで行こうとルルアを離さないだろう。

覚悟なんてありはしないが、その時の為にも心を強く持とうとするルルアの弱くも逞しい在り方は誰にも見られることもなくただ真っ直ぐと前を見ていた。

読んでいただきありがとうございました。

次話も読んでいただけると嬉しいです。

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