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戯れの物語  作者: もち
第一章~絶対なる指導者~
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十六話~暴食獣ブッピーナちゃん~

暴食獣ブッピーナ。

豚によく似た姿形をしているが豚にしてはけた外れに大きく、人間一人ならば軽く飲み込める程の口を持つ雑食の動物である。

そんな巨体を持つというのに後ろ姿から見える小さな尻尾がなにやら可愛らしくも見えるが、では正面から見ればどうだろうか。

まさしく豚としか言いようのない顔が出迎えてくれる。

だが、その瞳は食物にしか目が向いておらず、畑で栽培されている大量の穀物を粗食している最中であった。


「どんな育て方したらこんなにでかくなるんだ?」


「餌のやりすぎとか?」


「運動不足という点も考えられますね。」


「貴方達!そんな話をする暇があるのなら一刻も早く私のプッピーナちゃんを捕まえるのです!!」


ブッピーナに対して馬鹿にした口調で話す三者だが、その横から甲高い声で捕獲の命令が下った。

アルテアとレムの仕事の協力者として共に行動することとなったルルアだが、それぞれの実力の確認の為に比較的簡単な依頼を受けるよう提案したところ簡単に話がついた。

その腕試しに選ばれたのが、逃げたペットの捕獲である。

ブッピーナは三人の横でただただうるさく捕獲の命令だけしてくる貴族である妙齢の女性のペットなのだが、その大きさはあまりにも常識から外れているように思える。

ブッピーナを新調したゲージへ移動しようとしたところ、突然暴れ出し逃走したらしく、彼女が所有している森へと逃げ込んだそうだ。

本来害のない大人しい品種であり、更にブッピーナという種族名などではなくペットとしての名前でしかないのだが、空腹に耐えかねては暴れ腹が満たされればストレス解消とでも言うかのごとく暴れ、とにかく気性が荒く自然と暴食獣ブッピーナと、いかにもそういった品種なのだと思わせるような呼ばれ方をされるようになったらしい。

周囲の人間からすれば迷惑この上ない、ある意味魔物よりも厄介な存在だが、そんな世間からの目は彼女には全く気にならないもののようだ。

ただただ逃げだしたペットを早く取り戻したい一心で、けれど近づくのが怖いのか遠く離れた位置からルルア達へ尚もうるさく捕獲命令を出すだけである。

ゴテゴテの装飾品を付け身なりを気にするその姿は嫌みたらしい印象しか感じられず、依頼人である女性が貴族であることを踏まえても敬意を持って接することができずにいた。

基本的に礼儀正しく振る舞おうとしているルルアですらだ。


「なんつうか、やる気なくなっちまった。」


「その気持ちはわかるけど一応依頼なんだからしっかり仕事しようよ。」


「ですね、早く終わらせて化粧の濃い臭いから離れたいです。」


「まあそうだな。実力の確認には向いてない仕事だったかもしれんな。レムは右から追いこめ。ルルアは理術で逃げ道を意図的に作って誘導。んで、俺が捕まえる。」


「はいは~い。」


「了解しました。」


遠まわしに依頼人に対しての悪態をつくルルアだが、もちろんそれは内輪だけにしか聞こえない程度の声量に抑えてある。

依頼人が貴族であればそれなりに報酬も高く、そんな相手をわざわざ怒らせる必要もない為当たり前の配慮なのだが、その悪態を直接言ってしまいたいこともまた事実である。

もちろん、それを実行するつもりはないが、何にせよ早く仕事を終わらせようと三人揃って速やかに捕獲作業へと移る。

まずは、ブッピーナの特性を頭の中で改めて確認する。

ブッピーナは一度食事を始めると周りが見えなくなりただただ食べ続けるらしいのだが、誰かが近づけばそれを敏感に察知し巨体を生かした体当たりを仕掛けてくるらしい。

ただの体当たりと甘く見てはいけない。

質量が大きければそれだけ威力を伴うのが体当たりであり、過去に捕獲を試みた依頼人の使用人を一撃で葬ったという事実がある。

傷害、或いは殺害を引き起こした動物は例外なく魔物として認定され討伐対象となるのだがそこは貴族の力を利用したのだろう、未だにブッピーナは捕獲対象でしかない。

そのことに異議を申したようにも、貴族を怒らせれば今後の生活に影響を及ぼす可能性がある以上行動に移す者もいないのが現状だ。

話を戻して、ブッピーナの体当たりは十分に脅威に成り得る。

それを理解した上で、追いこみ役のレムは何の恐れもなく近づいていく。


「ちょっ!?ちょっとあの子は何を考えているんですの!!」


ペットの力を理解しているからこそ、依頼人である女性はレムの行動に慌ててしまう。

依頼する人物を間違えたのではないかと、早くも後悔の色を見せる女性だが、アルテアはもちろんルルアも微動だにせずただそれを眺めているだけであった。


「ブヒー!!」


明らかに豚だとわかるような鳴き声を響かせるブッピーナ。

どうやらレムの接近に気付いたようで、その身体を振り向かせ態勢を前傾姿勢へと移行する。

事前情報と合わせると当然体当たりが来るのだろうが、それでもレムはゆっくりと近づいていく。

血走った瞳をレムへと向け、ステップを踏むように四肢を動かし砂煙を上げるブッピーナはこの瞬間レムを完全に敵と定めたようだ。

即座に強く強く大地を蹴り上げ全身全霊の体当たりを放つ。

誰が見てもレムの死を疑わないだろう光景に依頼人を含め、同席していた使用人達が手で目を覆うようにしていた。

そんな中、アルテアとルルアに関しては変わらず眺めているだけだが、それも当然だと言えよう。


「ほいっと。」


わざわざ驚く必要もない程当たり前に、そして華麗に体当たりを避けるレム

その身のこなしは信頼に足るものであり、それを知るアルテアとある程度予想できていたルルアとしては如何にブッピーナの体当たりに威力があろうと当たることなどないと確信していたのだ。

そもそもが、アルテアもレムも普段は魔物の討伐を専門としており、魔物と認定されていないブッピーナに遅れをとるはずもないのだ。

当たっていようとも耐えうるぐらいには鍛えてある。

ルルアにしても、旅に出てから今まで魔物と出会わなかったわけもなく、盗賊の件もありそれなりに戦いの経験はある。

もっともその全てを理術を用いた遠距離からのものであり、やはり接近戦については心配が尽きないが、今回に限ってはそれもないだろう。

ルルアの隣でやる気の無さそうにしているアルテアは、その態度こそ適当に見えるが、背中に背負っている大剣を振う剣士であり非常に実力の高い人物なのだ。

実際に戦闘の様子を見たわけではないが、ルルアの卓越した人を視る目がそう訴えてくる。

とはいえ、先日二日酔いをしていたアルテアに対して抱く印象は情けないの一言でしかなく、どうしてもそれが頭から離れない。

それら両方合わせてアルテアなのだろうが、その違いを見比べるように顔を覗き見ると目が合ってしまった。


「ん?どうした。俺の顔に何かついてるか?」


「いえ、何となく見ていただけです。」


「何となく見てんじゃねえよ。金とるぞ?」


「逆にその顔を見せらているこちらがいただきたいくらいです。」


「随分とトゲのある言い方だな、おい。」


「私は男と女どちらでしょう?」


「うっ!?」


「勘違いしてましたよね?そんな方にはそれ相応の態度を取らせていただきます。」


指へほんの少しの理力を宿らせると、アルテアへピッと向ける。

そこには脅しのようなものが含まれている。

ここで改めての認識だがルルアは正真正銘の男性である。

今現在もフードをかぶり続け素顔を見せていないにも関わらずレムは直感でわかったのか、しっかりと男として対応してくれた。

だが、肝心のアルテアは完全に女性と思い込んでいた為その態度は女性に対してのものであった。

不愛想なりに女性にはある程度紳士的な対応をするようだが、それが裏目に出てしまったのだ。


「…そんなに気にしてるのか?」


「当然です。二日酔いを疑似的に引き起こして差し上げましょうか?」


「俺が悪かったから勘弁してくれ…。」


「では、先程の話に戻りましょう。その顔を見せてられていることで私が受ける精神的な苦痛による慰謝料をいただけますか?」


「それマジだったのかよ!」


「ええ、元はと言えばアルテアさんが先に請求してきたのでしょう?」


「いやいやいや、それをまともに受け止めんなよ!俺のは冗談だ冗談。」


「では、実際に精神的な苦痛を受けているということにして、慰謝料をいただきましょう。」


「お前…結構腹黒いのな。」


「そうですか?私は当然のことをしているだけなのですが。」


「口も悪いし容赦ねえ。」


「随分な言い草ですね。まあ自覚はしてますが。」


確かによく考えれば何時から自身はこんなに容赦がなくなったのだろうかと思い返してみる

だが、孤児院を出るまでは問題なかったことぐらいしかわからない。

もちろん、今のこの状況は冗談の類でしかないのだが、以前はその冗談すら言えなかった。

良くも悪くも生真面目すぎたルルアだからこそなのだが、では何が原因なのかと考えればメリアーヌが深層心理へ定着したことで会話ができるようになったことぐらいしか思い浮かばない。

だからと言って、メリアーヌが原因だとはまだ確信が持てない上に、そもそもその可能性は極端に低いのではないかとも考える。

どちらかと言えば、ルルアよりも礼儀正しく、けれどどこか子供らしさも併せ持ったメリアーヌと現状を紐付けようにもうまくいかないのだ。

そんなことを考えているとブッピーナが真っ直ぐにこちらへ向かって突進してくる姿が見えた。


「ほら、ブッピーナちゃんがこちらに向かってきますよ?」


「んあ?げっ!ストライクコースじゃねえか。」


横を見てみると自身の仕事はこれで終わりだと示すように大きく手を振っているレムが見える。

確かにアルテアの指示はブッピーナを追い込むことだったが、次の過程でアルテアが捕えやすいようルルアによる意図的な逃げ道の調整が入るはずだった。


「おいルルア、お前まさか…。」


「そのまさかです。しっかりと誘導しましたよ。アルテアさんの正面に来るように。」


「何時の間にやったんだお前。」


「話している間にです。先ほど指に理力を宿らせたでしょ?幻を見せるだけの簡単な理術なので気付かれないようにするのは簡単でした。」


「お前が優秀だってことはわかったが、後で説教だ。」


「では、もう一度二日酔いの苦しみを…。」


「説教ってのは何の話だ?俺は知らないが。」


「利口な判断かと思います。では後はよろしくお願いしますね。」


「あ~…なんか調子狂うが、任せとけ。」


頭を無造作にかきむしり、全身を使って面倒なのだと表現しつつブッピーナを迎え撃つアルテア。

理性を失ってしまったかのような瞳と、口から涎を溢れ出しながら

見てアルテアがあからさまに嫌悪感を露わにするが、勢いのままに突撃してくるブッピーナ。

だが、アルテアの前では巨体等意味のないものであった。


「ブヒッブヒッブヒー!!?」


何が起こったのかわかっていないブッピーナ。

それは当然だろう。

過去に一度とて止めることのできた者などいない体当たりを止められたのだから。

それも背負った大剣は使用せずただ右手だけを前に出しているだけでだ。

当然、どういった形で止められたのかまで理解できるわけもないが、ここにきてようやくアルテアの力の一端をブッピーナも理解ができ、だからこそ生まれて初めて恐怖を感じることとなった。


「なあ子豚さんよ、大人しく俺に捕まってくれねえか?」


威圧も何も発していないただの言葉。

自身の巨体を理解しているというのに、それ以上にアルテアが大きく見えるこの現象を理解できないながらも、本能は絶対的強者から発せられた命令なのだと思考する暇もなく認識したようだ。

込められていた全身の力を解くと頭を地につけ大人しくなったのだ。


「よしよしえらいぞ。」


「…ぶひ。」


服従。

それは野生の世界においてはそれほど珍しくもない上下関係である。

周囲の人間が唖然とする中、ブッピーナの捕獲依頼はあっけなく幕を閉じることとなった。


「楽な仕事だね。」


「全くです。」


アルテアが服従したブッピーナの頭を撫でている光景を眺めながらそう呟くレムとルルア、その光景はある意味で平和にも見えた。

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