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戯れの物語  作者: もち
第一章~絶対なる指導者~
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十四話~二日酔い~

レムに引っ張られながら案内され辿り着いた場所は何の変哲もない森に立てられた木造の家であった。

二階建てとなっており、更にその隣には見張り台らしきものまである。

もっとも、周囲の木々よりもやや低い位置までの高さしかなく見張り台の意味など全く成していないようだ。

おそらく建築された時と比べて周囲の木々が成長したのが原因なのだろうが、不要に思えてしょうがない。

だが、見張り台の下の部分は倉庫となっており、その造りも非常にしっかりている。

この家を建てた職人の技術の高さがうかがえる。


「ここが私の家だよ。結構良いとこでしょ?」


「そうですね、中々味のある造りをしています。」


頭の中では見張り台について酷評を下していたルルアだが、並行思考でレムとの会話もしっかりとこなす。

更に、今この場には関係のない夕飯についても同時に処理しているのだから並行思考とは本当に便利なものである。

このような使い方は宝の持ち腐れのようにも感じるが、普段から利用しておくことで自然と扱えるように慣れておく意味もあり実質修行をしているようなものだ。


「なんかすごい家を凝視してるよね。」


「失礼しました。興味のある事はついつい熱が入ってしまうんです。」


「この家の何処に興味持ったの?良いとこだとは言ったけど、確か四十年ぐらい前のだって聞いたよ。」


「それが本当なら余計に興味深いですね。」


「だからその興味深いところを教えてよ。」


「それは後々話すとして入らないんですか?」


「あっ、兄ちゃんにルルの事紹介するんだった。たっだいま~。」


「失礼します。」


当然レムが率先して家の扉を開ける。

扉とそれを支える枠を構成している乾いた木々が、こすれ合う音を響かせながらルルアを迎え入れてくれた。

ルルアが過ごしていた孤児院でも木材造りの箇所があったが、何年も前に火事に遭い燃え尽きてしまった。

その時の事を思い出させるものであった。


「兄ちゃ~ん。兄ちゃ~ん?」


「…珍しい棚ですね。」


「あれ~どこか行ったのかな?」


「これはまた面白い造りの時計ですね。」


「兄ちゃ~ん!お~い!!」


レムが兄を呼んでいるのをしり目に、ルルアは家の内装の珍しさに目がいき互いに別行動を取っていた。


「材質は一般的な木材ですね。ただ少しだけ理力が込められている。これは品質の保持の為のものでしょうか?いや、それだとあまりにも理力が少なすぎる。これは時計として以外にも何か用途が…?」


もはや、完全に自身の世界へ入ってしまったルルア。

一方レムは、何度兄を呼んでも返答がなく、一階にはいないのだと判断し二階での捜索活動へを行っていた。

特に遭難したわけではないが、レムの感覚で言えばこれは捜索であった。


「ここにもいない…。」


二階は寝室となっており、二人分のベットと衣服を収納するタンスが置いてあるだけの簡素な造りであり、隠れるスペースも無い。

だからこそ、一階にいないのであればすぐに見つかると思っていたレムだが、その予想は外れてしまった。

ベットの下や、タンスの中を探そうとするが当然いるはずもなく、ただただ溜息が出てしまった。

となれば残るは倉庫だけとなる。

基本不必要となった物の一時保管所としてしか利用していないのであまり立ち寄らないが、置いている何かが必要となったのかもしれない。

溜息を吐きつつ一階へ降りると、未だにルルアが部屋の中を物色していた。

具体的には最初手に取った時計を調べていた。


「ここ最近に造られたわけではないのにここまで複雑な構造をしているなんて…あまりにも無駄なギミックが搭載されすぎている上にその全てが稼働してようやく一つの時計としてできている。技術の無駄遣いですが遊び心満載ですし、何よりデザインが良い。」


「う…うぅ。」


何やらブツブツと呟いているルルアだがその詳細までは聞きとれず、逆にどこからかうめき声がしてきた。


「ん?今のは何でしょうか?」


ルルアもそれに気付いたのか、そのうめき声の正体を探ろうとする。

だが、探る必要などなかった。


「ルル…その踏んでる人が私の兄ちゃんだよ。」


「…初めましてお兄さん。」


ほんの少しの間だが、時間が止まったように誰も動けなかった。

唸っているのがレムの兄なのだとすれば今のルルアの行動は非常に失礼となる。

何しろ踏んでしまっているのだから。

だがその足をどけようとは思えなかった。

何故か?


「…兄ちゃんまたお酒飲んだね?」


「うぅ…レム、水を…くれ。」


どう見ても二日酔いとしか見えない情けない姿を晒しており、礼儀を持って接しなければいけないように思えなかったからだ。

それだけで、とも思えるが不思議とこの時は何の疑問も持たずにそう思えた。

事実、本人もルルアに踏まれていることを何とも思っていないのか、はたまた単純に二日酔いの苦しみにもがき苦しんでいるからなのか一向に気にする様子はない。

だが、レムは平気でいられなかった。


「この…馬鹿兄ちゃん!!」


顔をトマトのように真っ赤にし大声を上げると、一回り以上大きい兄の身体を抱え二階へ上がりベットへ叩きつける。


「レム…もっと優しく…。」


「馬鹿は黙ってて!!」


「もうちょっと静かに…。」


「あぁもう!水持ってくるから静かに寝てて!!」


レムにとっては、できるだけ聞いてほしくない会話だったのだろうが、生憎丸聞こえだったのだろう、一階へ降りるとルルアがクスクスと笑っていた。


「恥ずかしい所見せちゃったね。」


「いえいえ、ここ最近は笑うことが無かったので非常にありがたいです。表情が硬くなってしまって困ってたんですよ。そのお礼というのもおかしいですが、二日酔いに効く薬はいりませんか?」


「いいよいいよ、そんな高級品貰えないって。」


「いえ、調合するのでタダのようなものですよ。ここまでの道で必要な素材は十分とれるのがわかってますので。どうですか?」


「そっか~、ならお願いしようかな。」


「はい、お願いされました。」


実際に調合などしたことはないが、必要な素材としては二種類だけだ。

比較的な簡単な代物なので、導師の前任者の経験を生かせば問題なくできるだろう。


「何が必要なのか教えてくれれば私も動けるよ?」


「そうですね。では私はリムレアの根を取ってくるので、レムはムラサキチョウマイの鱗粉をお願いします。」


「どっちもそこらへんで取れるよね?そんなのでできるの?」


「そうです。そのムラサキチョウマイの鱗粉がアルコールに含まれる成分の分解を手助けしてくれんです。それと一緒にリムレアの根を服用すれば二日酔いの原因の成分を解毒してくれるんです。」


「へ~全然知らなかった。」


「もともとが一時的な症状なので、緊急性が低いこういった知識は広くは伝わっていませんし仕方ないですよ。それに市販品の薬は別の素材を使うんです。」


「何を使うの?」


「比較的過酷な環境で暮らす魔物の肝臓です。」


「うえ~、なんだか気持ち悪いね。」


「私もそう思いますが、何故かこちらの方が出回っているんですよ。おそらく調合の知識を持っている人が少ないと言うのもあるのでしょうが、価格の調整の為に出回らないよう規制されているのでしょう。」


「難しい話はわからないけど、ルルなら高い薬も作れるってことはわかったよ。」


「まあそこだけでも理解していただければ良いです。そろそろ行きましょうか?」


「そうだね。あっ、その前に兄ちゃんに水持っていくね。」


「では、私はここで待ってますね。」


「うん。」


急ぎコップに水を注ぐと二階へ上がっていくレムだが、あまり間を置かずに大きく鈍い音が聞こえてきた。

何事かと二階へ視線を向けるルルアだが、調合の説明をしている間にも絶えず聞こえ続けていた唸り声が止んでいることに気付いた。

同じような光景をどこかで見たような、そんな気もするがはっきりとは思いだせずにいるとレムが降りてきた。


「何か大きな音がしましたが大丈夫ですか?」


「ん?大丈夫大丈夫、ちょっと兄ちゃんを寝かしてきただけだから。」


そこで何故一仕事やり終えたような表情をしているのだろうか、という疑問が浮かぶがやはりこの考えもどこかで経験している。

と、ここまで考えた末に浮かんだ光景が、親友を殴り倒していたまた別の親友の姿であった。

当然殴られているのがリグロで殴っているのがカズハだ。


「ルル?どうして顔が青いの?」


レムとカズハは性格も体型も顔も全く似ていないが、行動がそっくりなのだ。

まさか、親友の姿と被るとは思っていなかったルルアは、表情が硬くなったと言っていたのが嘘のように感情が表に出ていた。


「いえ、ちょっと嫌なことを思い出しただけです。そんなことより行きましょう、早く行きましょう!」


「何でそんなに急いでるの?」


「早くお兄さんを助けてあげたいからです。」


「ん~?なんか怪しい。」


「そんなことありませんよ。」


「そう?ならいいや。」


深くは追求してこなかったことは救いだった。

やはり人は似ていても違うものなのだ、カズハならどこまでも追及してきただろう。

そのことを感謝しつつ、ようやく二日酔いに必要な素材探しへと向かう二人。

だが、レムの言葉通りどちらも簡単に採集が可能な為さして時間はかからなかった。

ムラサキチョウマイの鱗粉は、外敵から逃げようとする際に目くらましとして噴出する為、捕まえようとすればいくらでも手に入る。

リムレアの根にいたっては、リムレアの花を引っこ抜けば手に入るのだから本当に簡単な素材だ。

数分もしないで二人は戻り、そのまま調合へと取り掛かった。

まずは、リムレアの根をすりつぶしていく。

徐々に粘り気が出てくるが、やがては弾力を持ってくるのでそこへ鱗粉を投与。

後は水を少しずつ加えながら練っていき感触がサラサラになるまで続ける。

たったこれだけの行程なのだが、実は最後が難しい。


「ねぇ…これっていつになったらサラサラになるの?」


「わかりません。ただ魔物の肝臓を使った薬しか出回っていない理由がわかりました。」


「あ、やっぱりこれが原因っぽい?」


「ええ、ほぼ間違いないかと。」


「「臭い。」」


少しずつ完成に向かっている二日酔いの薬だが、その発する臭いはなんとも言えないものであった。

腐肉と言われたら思わず信じてしまいそうだ。

逆に魔物の肝臓を用いた薬はどうなのかと知識を検索するルルアだが、わかったことは若干血生臭さは残るものの植物製の薬と比べて圧倒的に落ち着いたもののようだ。

魔物製よりも臭いことに抗議したい気持ちにかられるが、抗議するべき場所などあるはずもなく、そもそも抗議したところでこの臭いが改善させるわけでもない。

いっそのこと新しい調合レシピでも開発しようかと決意してしまうなどとは、当初全く予想できなかった。


「ふんふ~ん。」


そんな臭い中でも鼻歌を口ずさみながら薬を練っているレムは神経が太いように思えてくる。

負けじとルルアも手を休めずに作業を進めていくと、全体的に触り心地の良いサラサラ感が生じてきたことがわかる。

するとどうだろうか、先ほどまでの悪臭が嘘のように消えていきリムレアの根独特の漢方のような香りのみが残ったではないか。


「どうやら品質そのものはこちらの方が上のようですね。」


「売ったらどれぐらいするのかなぁ?」


「悪い意味で目立ちそうなので売るのはやめておいたほうがいいと思いますよ。」


「お金が絡むと商売人って人が変わるもんね。」


「もしかして既に経験あるんですか?」


「あはは、兄ちゃんがドラゴンを討伐したことあるんだけどその鱗を売って儲けようとしたら色々とね…。」


「ドラゴンを…ですか。」


「言いたいことはわかってるよ。確かにあんなとこ見たらそうは見えないだろうけど、兄ちゃんは凄腕だってことは本当だからね。」


「いえ、強いというのは一目見てわかりました。ただ驚いているんです。」


活発な印象の強かったレムの優しげな表情とその言葉は、意外ではあるが、確かに事実であった。

生物の強さという点でおいては間違いなく最強だと言われているドラゴンは、そのどれもが災害だと言われており、倒せることはそれだけで誇れることなのだ。

どう考えてもただの酔っ払いにしか見えなかったレムの兄がそれを成したことはルルアにとって非常に大きかった。

先ほど踏んでしまった際、現状では勝てそうにないと思わされる程の協力な力の波動が感じ取れたのだが、ようやく目標とする強さを感じ取れたのだ。

メリアーヌを目標とするのもよかったが、まだまだ先の見えない目標を立てるよりも背中が見えるぐらいがちょうど良いと判断してのものであった。


「えへへ、信じてくれるんだね。」


何度も言うが、酔っ払いにしか見えないのだがその強さは感じとらえたのだ、疑う余地などない。

だからこそ、レムの言葉をそのまま信じることができるというものだ。

と、ここで気が付いたことがありルルアがレムへと質問する。


「ところでお兄さんの名前は何と言うのですか?」


本当に今更ながらの質問なのだが、レムも今気付いたとでも言うような表情をしていた。


「アルテアだよ。兄ちゃんも本当はもう少し長い名前みたいだけど私も知らないの。」


「また愛称ですか?まあいいですけどね。」


何故本名を名乗りたがらないのか、不思議に思うものの詮索はやめておく。

ルルア自身にも隠しておきたいことはあるのだからと、いう配慮だ。

結局のところ、レムの兄であるアルテアを訪ねた初日は酔い覚ましの薬の調合だけで終わることになるのであった。

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