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戯れの物語  作者: もち
第一章~絶対なる指導者~
16/19

十三話~勧誘~

晴れ渡る空と爽やかな風が吹き抜ける中、港街ノイアスへ向かうルルアは大きな欠伸をしていた。

目の下に隈ができており、どこからどう見ても寝不足だとわかる。


「眠い…」


「そのセリフは先ほども聞きました。もう…今日で何度目ですか。」


「十四回目です。」


「数えていたんですか?」


「実は適当です。」


「…私の事馬鹿にしていませんか?」


「まさか。尊敬していますよ、普段以外は。」


「私はルルアさんの事、よくできた弟子だと思ってますよ。授業の時だけは。」


子供の口喧嘩のような争いをしているが、互いに本当に喧嘩しているわけではない。

ここ最近はどうにも言い争いをしてしまう傾向にあるだけなのだが、ルルアが挑発じみた発言をするのが発端となることが多かった。

ルルア自身、不思議に思うところであったがおおよその予想はできている為に特別気にもしていはない。

メリアーヌもそれは同じなのだろう、特に何か言ってくることはなかった。


「…眠い。」


「またですか…。」


呆れたかのような仕草をとるメリアーヌは、その小さな妖精の姿がルルアの視界全てを遮るようふわふわと浮きルルアへと説教を開始する。


「連日遅くまで起きていればそうなります、それぐらいわかっているでしょう。だいたいあと三日程度で着く距離をどうして五日もかかるんですか。ええ、ええわかってます。術の開発をしていたことは十分に知っています、それが原因ですよね。確かに術の修得は大事ですが四つで留めるように言いましたよね。そこから派生術を開発するのはどうかと思いますよ。そもそも派生させた術だって修得したことになるんですから四つを超えてしまっていると言えます。これは私との約束を破ったということになりますよね?ルルアさん?ちょっと聞いてますか?」


身体全体を使った演説のような説教をしていたメリアーヌだが、ルルアの視線が自身を見ていないことに気付きすぐに注意しようとする。

だが、ルルアはメリアーヌの後ろを見ながら指を指していた。


「見えてきましたよ。」


「えっ?…あぁ、なるほど。」


まだもう少し距離はあるが、間違いなく港街ノイアスが見えていた。


「なんだか話を逸らされた気がしますが、まぁいいです。私はあまり人の目に触れるべきではないので、またルルアさんの中に失礼しますね。」


「わかりました。今度出てくる時は負けないよう努力しておきますのでまたお相手お願いしますね。」


負けないよう、そういったルルアは悔しそうにしてはいるが、その瞳は真っ直ぐに前を向いていた。

ここまでの道のりをゆっくりと進み確実に力をつけていたルルアだったが、昨日の夜にメリアーヌとの模擬戦を行い惨敗、それを心にしかと受け止めた故の言葉のようだ。

妖精の姿と言えどさすがは崇拝される存在だと心から賛辞した瞬間でもある。


「どちらかと言えばルルアさんは休むことを覚えるべきだと思いますが…。なんにせよ、私もそうそう負けられないので真剣にやらせていただきますね。」


そんなルルアの言葉を苦笑しながら受け入れたメリアーヌは、そのまま妖精の姿を四散させ、再びルルアの深層心理内へと意識を戻した。

それを確認したルルアは、街の入口に設置された遠くからでも確認できる門を目指し、そして到着したのだがルルアの最初の感想は見渡す限り人ばかりであった。

門の外から見てもそう思えるのだから相当な住民がいるのだろう。

照り付ける太陽の光の下での仕事は大変なのか、ぐったりとした門番の隙を見つけ街の中へと無断で侵入すると違う世界へ迷いこんだような錯覚を覚える。

孤児院や教会の中だけで生活してきた為にそう感じたのも仕方ないのだが、実際にここノイアスの人口密度は非常に高い。

港は外部との交流の玄関口の一つであり、流通の主軸でもあるのだ。

船乗りやその乗客がその場に留まるのも当然なのだから、人口密度が低ければそれはそれで、この街の将来が不安になる。

なんにせよ、今までに感じたことのない活気に圧倒されるルルアは、しきりに周囲をキョロキョロと見渡し、行ってしまえば田舎から出てきたばかりのような行動をとっていた。

事実そうなのだから間違いではない。

だが、その動きは一部の人間にとっては格好の得物となることが問題であった。


「一人でお買いものかい?」


話しかけてきたのは、にこやかな笑顔を浮かべた長身の優男。

見た目だけで言えば好印象を与えそうなその笑顔だが、ルルアには何か張りつけたような無理矢理取り繕った仮面のようにも感じた。


「よかったら、お兄さんが手伝ってあげようか?」


手伝うという単語が出た瞬間に一瞬だけ顔を見せたおぞましい程に醜い笑顔は、やはりこの人物が何かしらの悪意を持って接触してきたのだと理解させるには十分なものであった。


「結構です。」


「ええ~、そんな細腕じゃ荷物持つのもつらいでしょ?お兄さん暇だから気にしなくて良いんだよ。あっ、もしかして僕のこと疑ってる?大丈夫、お兄さん変な事なんてしないからさ。」


そもそも買い物が目的でもない為、その申し出を断り早々とその場を去ろうと試みるが、相手は飄々とした雰囲気を出しつつおどけてみせ会話を続けようと粘る。

だが、その瞳に映る獣のように獰猛な意志は隠せていない。


「必要ありません。」


「おいおい~、せっかくお兄さんが手伝ってあげるって言ってるのにさぁ…ふざけてんの?俺と一緒に買い物行くぞ?」


中々思い通りにならない展開をもどかしく思ったのか、はたまた子供相手だからと甘く見たのか、瞳に宿る獰猛な本性を表に出し脅迫じみた言動を始めた優男。

周囲の人々が少しばかり騒ぎ始めるが、そんなことはもはやこの男には関係なかった。

脅しさえすれば、後は素直に従うだろうという考えがあったことと、目的がルルアが持っている金目の物を盗ることだけというシンプルな理由がその行動を引き起こしたのだが、それは間違っていた。


「ふざけているのは貴方でしょう?必要のない行為を押し付けられるのは迷惑です。そもそも貴方のおっしゃる手伝いは善意ではなく悪意しか感じられません。」


「なっ!?このガキ!!」


しっかりとした意志で返されたその言葉は、予想とはかけ離れたものであり、悪意だと馬鹿にされたのだ。

もちろん、優男にとって物を盗むことそのものは悪意からきたものだが、甘く見ていた子供からの正論は何故か非常に苛立ちを感じさせた。

だが、続くルルアの言葉でその苛立ちを遥かに超える程の恐怖と驚きを感じてしまった。


「それに先程の発言は脅迫ですよね?もし違うというのなら、衛兵を呼びますので証明してください。本当に買い物の手伝いをしようとしただけなんだと。脅迫したことに関しては今ここにいる方々が皆見ていますし、果たしてどういった証明をしてくれるのか楽しみです。あ、そういえば先程私に怒鳴っていた時に誰かが貴方の財布を取っていましたよ?」


咄嗟に自身の衣服のポケットというポケットを全てまさぐる優男だが、徐々に顔が青くなっていくのがわかる。


「…無い!俺の財布が無くなってる!!」


「あちらの方へ小走りして去って行きましたが。」


「クソが!!」


未だルルアへ苛立ちを感じるものの、このままでは逮捕されかねないことと財布を天秤にかけると圧倒的に財布に傾いた為に急ぎルルアが指し示した方向へ駆けていく優男。

なんとも情けないその後ろ姿を眺めていると、周囲の視線も徐々に離れていく。

完全に注目を浴びなくなったのを見計らうと、改めて歩を進めるが先程までのように挙動不審を感じさせる様子はなく、何か目的があるような歩き方であった。


「…随分と手慣れてますね。」


人通りの少ない寂れた民家へ背中を預けると、相手がいるかのように話しかけるルルア。

だが、返事はなく大きな独り言を言ってしまったようになってしまった。


「何故あの方からしか盗まなかったんです?」


それでもめげずに話しかけるが、やはり返事はない。

少ないながらも当然通行人はいるのだが、皆がルルアの頭を疑うかのように嫌悪感を露わにした表情で歩いて行くのが見える。

特にエルフであることがばれたわけではない為、全く気にする様子はないのだが、これが原因で衛兵を呼ばれるのはいただけない。

先ほどの優男への衛兵を呼ぶ旨の発言も実はルルア自身もまずいことなのだ。

よって、不本意ながら少しばかり脅しをかけることとする。

それも正当な脅しを。


「出てこられないのであれば貴方を縛り上げて衛兵へへ叩き出しますよ?」


「それは勘弁して!」


その理力が込められた脅しを聞いて民家の屋根から即座に飛び降り姿を現したのは、ショートカットでやや釣り目の女の子であった。

かなり露出の激しい服装を着ているが、それは動きやすさを重視したものなのだろう。

実際に、先程屋根から現れた動きは非常に身軽なものであった。


「どうして無視したんですか?」


「いや~…普通はこういう時はやり過ごそうとするもんじゃない?」


「そういうものですか?」


「そういうものだと思うよ。」


気軽な雰囲気でルルアと会話する女の子だが、やはり衛兵を呼ばれるかもしれないことを警戒しているように見える。

だが、当のルルアにはそのような考えなど、彼女が姿を現した時点で掻き消えている。

よって、彼女の行動原理を理解しようと何を質問しようかと思案しているところだった。


「…どうして屋根にいたんですか?」


「えっ!?今度はそこなの!!?」


最初の質問はどこへ行ったのか、続く疑問はどこか斜めの方向を向いていた。

こういった際には、何故盗んだのかと聞かれると考えていた女の子も思わず質問で返してしまった。


「おかしいですか?」


「…君って天然?」


「意味がわかりません。」


「私が悪かったからそんなに頭を捻らないでよ。」


先程の優男の財布を盗んだ張本人がこの女の子なのは間違いない。

なにせ盗むその瞬間を見ていたのだから。

相手へ気付かせないその技術は正しくプロそのものであった。

尚、優男へ指し示した方向は全くのでたらめなのだが彼がそれを知るのはもう少し先のこととなる。

なにはともあれ、彼女は罪を犯したこととなるのだが今回の件はルルアにとって悪としては認識できそうにない。

自身や身近な者が被害に遭うのならばまた別だが、先程のような輩が被害に遭おうがそれは自業自得ではないだろうか。


「え~っと、屋根にいたのはさっき盗んだ容疑で捕まらないよう隠れてたからかな。」


「ふむ…であれば何故早く逃げないのです?身のこなしは相当軽いようですし、すぐに安全な場所まで行けたでしょう。」


「う~ん、それは君の事を見てたからかな。」


「何故です?」


「だって挙動不審な行動してると思ったらすごい正論言い出すし、なんだかちぐはぐで面白かったんだもん。どんな人なのかもう少し知りたいなぁって思ってたら、今のこの状態というわけ。」


「妙な視線が向けられてるのはわかっていましたが、そんなにおかしく見えたんですね…。」


第三者から見た自身の行動のおかしさに少し恥ずかしさを感じるが、初めての活気溢れる場所に興奮したことは事実であり、これから徐々に慣れていくだろうと前向きに捉えることとした。


「ねえねぇ、君の名前を教えてくれない?」


「随分突然ですね。」


「だってこうやって知り合えたんだからさ。これでお別れじゃもったいないよ。」


「ああ、一期一会という考えですね。」


「いちごいちえ?」


「そのニュアンスは絶対に意味わかってませんよね?簡単に言えば一生の内この一回だけの出会いかもしれないから大切にしようという考えですよ。」


「なるほどなるほど、だったらそのいちごいちえの考えってことで、自己紹介だよ。」


一期一会だけが片言のような話し方だが、ある程度の内容は理解できたのだろう。

彼女からすれば自己紹介の理由がうまくできたぐらいにしか思っていないとしても、人に何かを教えること自体はルルアとしては望むところなので特に気にすることもなかった。


「別にそういう意味ではなかったんですね…まあいいです。まずは私からいきましょうか。旅人初心者のルルアです。よろしくお願いします。」


「初心者か…通りでキョロキョロしてると思った。」


「街自体が初めてだったもので。」


「あはは、じゃあ仕方ないよね。」


「そう、仕方ない…仕方ないんです。」


よっぽど恥ずかしいのか、ルルアの言葉には妙に力が込められていた。

深層心理にいるメリアーヌがその様子を面白そうに眺めているが、何も口出しはしてこない。

妙な気遣いを感じた気がして余計に精神的なダメージを受けたようにも感じる。


「じゃあ、次は私ね。本名は長いからレムって呼んでくれて良いよ。」


そんなルルアの様子に気付くこともなく女の子は自身の名を語る。

だが、本名ではなく愛称だ。


「では、私もルルと呼んでいただいて結構ですよ。ところで本名は何と言うんです?」


「もっと仲良くなったら教えてあげる~。」


当然本名について質問するルルアだが飄々と流され、それでも良いと思えるのはレムの人柄なのか。

たった、数分の会話の中でも滲み出る裏表のない純粋さがレムから感じられたからか。

何にせよ、名前について特に怒ることもない為これ以上の追求はやめておこうと判断するルルア。


「一応私は本名を言ったんですけどね…まあいいです。ところで仲良くとは具体的にはどういうことですか?一緒に遊べばいいんですか?」


「う~ん、惜しいかな。一緒に遊ぶというよりも仕事しない?ってことになるの。というわけで…ギルドに入るつもりはない?」


「ギルドというと国のお抱え以外の人達が集まったあのギルドの事ですか?」


「なんだか言い方が悪い気もするけどそうだよ。私と兄ちゃんで魔物の討伐チーム組んでるんだけど、二人とも理術はからっきしの剣士でさ~。ルルは理術使えるよね?」


「確かに私は理術士ですけど、出会ったばかりの私を誘うのはどうかと思いますが。」


「そこは大丈夫!ルルってかなり強いでしょ?」


「私の主観になるのでそこは何とも言えません。」


「さっき脅された時にすんごい理力を向けられたからわかるよ、絶対に強い。だから問題なし!」


「私が言っているのは人間関係であって強さでは…。」


「それじゃあ、さっそく兄ちゃんに紹介するから着いてきて!」


「人の話を聞いてください。まだ私は…」


「ほら行くよ!!」


ルルアの手を取ると凄まじい速さで駆けだすレム。

次々と変わる景色からその速さがどれだけ常識外れか理解できるが、その頭の中も常識外れのようだ。

内心溜息をつきながら、非常に鬱陶しい風圧や緊急停止した時の衝撃に備えて自身の周囲に薄く理力の膜を展開する。

あくまでも自身の周囲だけというのが、この状況を生み出したレムに対しての嫌がらせのようにも感じる。


「ちなみに、さっきの盗みは副業でやってるんだけど盗賊からしか盗まないから一応罪にはならないと思うよ。」


「盗賊からだろうと何だろうと盗みは盗みでしかないと思いますが。」


「硬い事言わないの!」


ルルアからの正論にふてくされたように頬を膨らませ手をぶんぶんと反論してますという意志を示すように行動するが、その手はルルアを掴んでる手であり当然ルルアも上下に揺られてしまった。

それでも即座に姿勢制御が可能なよう理術をこっそり使い、特に問題なく引っ張られ続ける。

こんなところで修行の成果を実感するルルアであった。

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