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戯れの物語  作者: もち
第一章~絶対なる指導者~
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十二話~記憶と知識の使い方~

一週空いてしまいました。

はたして今の自身の力はどの程度のものなのだろうか。

盗賊団を悲惨な幻を見せて撃退したルルアだったが、それ以降その考えがずっと頭に張り付いていた。

導師の知識や記憶、それら全てを扱いきれれば頭での認識と体の動きに相違がある現在でもそれなりの実力者として数えられるだろうことは予想できるが、当然今のルルアはそこまでには至っていない。

膨大な書物が収められた図書館が頭に存在しているかのように、一つ一つの知識を探し出してはその内容を熟読する。

その過程を終えてようやく理解できる程度であり、戦闘技術そのものは言ってしまえば素人の枠を出ない駆け出しでしかないのだ。

それでも膨大な知識とメリアーヌのサポートがある為、常人の何百倍もの速さで成長しており、あっという間に熟練の域に達することはできるだろう。

だが、それはまだもう少し先の話となる。

問題なのは今現在の実力だ。

旅に出た当初、つまり一日目のことになるが、液体を膜で覆って丸く形を整えたような外見をした魔物と遭遇した際、軽く炎を発生させ撃退するつもりだったのだが発生した炎は十数メートルもの火柱を形成してしまった。

ほぼ害のない可愛らしさすら感じられるミニマムグミと呼ばれる魔物は自身に何が起こったのか理解することもできずに蒸発し命を失ってしまったのだ。

炎を形成する為に用いた理力の量を単純に注ぎすぎた為に起きてしまった事故のようなものだが、これが実戦で起こってしまえばどういった事態へ発展するかわかったものではない。

確かに成長している実感があり、既にそのような失敗はしない程度には理力のコントロールもできるようになった。

精密な理力操作により行使した理術により盗賊団を撃退したのだからそれは確かなものだろう。

だが、本格的な戦闘を行ったことのない身としてはそれが如何ほどの実力なのかがわからない。

導師の記憶を探ってみても、桁違いの実力者が浮かぶばかりで目安にできないのだ。


「ルルアさん?大丈夫ですか?」


「えっ?何がですか?」


「ひどく難しい顔をされていましたよ?何かお困りであればうかがいますよ。」


「いえ、それほど困り事というわけではないんです。それよりも…貴方はメリアーヌさんで間違いありませんよね?」


「そうですよ。それ以外の誰に見えますか?」


日が落ち、現在の明かりは焚き木のみ。

突然メリアーヌから声をかけられることにも慣れてきたが、そんな暗闇の中だと少しばかり驚いてしまう。

だが今回はそれだけではなかった。

今までは話しかけられてもルルアの深層心理から直接や、湖などの溜まった水分を媒介として等が主であったが、何故か現実に具現化された彼女が目の前にいたのだ。

ただ、その姿は随分と可愛らしいものであった。


「…妖精ですか?」


「はい、私の体は存在しないのでこのような姿をとらせていただきました。」


夢で見たメリアーヌをそのまま小さくして背中に半透明の羽を二対付けたその姿は確かに妖精そのものであった。


「そんなことができるんですね。」


「はい、ルルアさんの頭の中にもこの方法は記されていると思いますよ。」


「え?…あ、確かにありました。なるほど理力の塊だからこそできる芸当ということですか。」


「その通りです。」


ルルアの知識として妖精とは、理力そのものに意思が宿りその意思に伴い形成される肉体に変化が表れる自然的に発生した超常の生命体なのだと記憶されていた。

現在のメリアーヌは既に意識を宿した理力の塊である。

それも膨大な理力だ。

その一部を外部へ放出し、自らの意思をそこへ宿すぐらい容易なことなのだろう。


「妖精への成り方はわかりましたが、その理由がわかりません。どうして外へ出てきたんですか?また暇だからとかですか?それともまた食べることもできないのにお腹が空いたなんて言うんですか?もしかしてその姿なら食事もできるんですか?だとしてもメリアーヌさんが満足できそうな食材なんて今持ち合わせていませんよ。」


「ルルアさんが私をどういった目で見ているかよ~くわかりました。」


「わかっていただけてよかったです。」


「ですので、修行なんてつけてあげないことにします!」


「っ!?修行ですか?」


「そうです。大きな街ではいつ問題に巻き込まれるかわかったものではありませんので、着く前にできるだけ力をつけていただきたかったのです。そのために妖精の姿をとって具現化したのですが…まあルルアさんがそういう態度ならもう気にしないことにします。」


ルルアの容赦のない批判的な発言に拗ねていますよ、と表情と身体の動きを最大限活用してルルアへ訴えかけるメリアーヌだが本人が思っていた以上にルルアへの効果は高かったようだ。


「申し訳ありませんでした。誠心誠意謝罪させていただきます。ご教授お願い致します。」


なんと、小さな妖精に対して膝をつき土下座をしたのである。

今まではただ語り掛けてくる知識のみを教わっていたが、現実に具現化された存在であれば教えてもらえる幅が大きく広がるのだからこれを逃す手はない。

急ぐ旅とはいえ、強さがなくては危険もまた多く目的を果たす前に力尽きることとなるのだから何よりも重要なこととなるだろう。

ロクシスに教わるという手もあったが、導師であることを悟られる可能性があるためにできなかった。

旅立ちを伸ばしてメリアーヌが目覚めるのを待ち、安全に実力を付ける案もあったが、やはり神の言いなりになっているように感じて実行できなかった。

そもそもが、日に日に身体を形成する理力の量が増え続けている現状ではロクシスに修行をつけてもらわなくとも疑問に思われていただろう。

結局は、ルルアにとって現状の選択が最善だったのだと考えているわけだ。


「都合の良い人ですね…まあ私も冗談なので土下座までしなくても大丈夫ですよ。」


メリアーヌもまさか土下座までしてくるとは思っていなかったのか驚いたものの、力をつけてもらわなくては困る立場であるために初めから冗談だったようだ。

その言葉を聞いて、頭を上げるルルアだが安堵の色が見て取れるぐらいには表情に出ている。

その顔を見て仕返しができたとばかりに笑うメリアーヌだがさすがに今回はルルアも言い返したりはしないようだ

それからしばらくして修行が開始されたのだが、もしかしたら修行とは言えないかもしれない。


「まず、ルルアさんには勘違いを正していただきます。」


「勘違いですか?」


「はい、貴方は前任の導師の記憶を継ぎました。ですが、今現在頭の中にある記憶はひどく断片的なもので要所要所が抜けているはずです。そして理術や理法については頭で考えなくてはその記憶が出てこない状態ですね。」


「その通りですが、それのどこが勘違いなのかがわからないのですが。」


「勘違いというよりも思い込みに近いかもしれませんね。この知識は自分のものではない、と。」


「実際にそうです。私は戦争なんて体験したことありませんし、満足に戦ったこともありません。」


「その通りです。実際にルルアさんが体験したことではありません。ですが、今その記憶を持っているのは貴方だけです。これはつまりルルアさんこそが導師の前任者であると言えませんか?」


「無理やりで良ければそう捉えられなくもないかとは思います。」


「無理やりにでも良いんです。それに全ての記憶が自分のものだと思わなくても良いんです。例えば…そうですね、はっきりとした効果が期待できる理術を考えてみましょうか。こういった効力を発生させるならどういった術が最適なのかと、自身の記憶であるかのように思い出そうとするんです。きっと大きな違いがありますよ。」


「…よくわかりませんが、やってみましょうか。」


いまいち納得はできないが、せっかくメリアーヌが助言してくれているのだからと術の行使を試みようと意識を切り替えるルルア。

その際、あたかも初めからその理術を知っていたかのように思い出そうとすることを忘れない。


「ぼやけた知識が少しずつ明確に見えてくるはずです。」


「…。」


集中している為かルルアからの返事はないが、メリアーヌから見て成功していることは間違いなかった。


「ルルアさんの好きなタイミングで行使してみてください。」


「はい…ダイヤモンドダスト。」


ルルアが理術を行使した瞬間、周囲の景色は大きくその様子を変えた。

一つとして同じ形の存在しない氷の結晶が空から降り注ぎ、そこに月の光が照らされそれはまるですぐ近くで星が踊っているように見える幻想的なものであった。


「ダイヤモンドダストですか…美しいものですね。」


「はい、昔一度だけこのような光景を見たことがあったので、どうせならと思って想像してみたんです。」


メリアーヌは初めて見るその光景に、ルルアはかつての記憶を懐かしみながら、ただただ空から舞い降りてくる星のような氷の結晶を眺め続けた。

だが、どういった時間にも終わりは訪れる。


「…終わりましたね。」


名残惜しそうに呟くのはどちらだったのか。

それが互いにわからない程にに見とれていたようだ。


「私の言ったやり方はどうでしたか?」


「確かにやりやすかったです。なんというんでしょうか…頭の中を検索するようにすっとその知識が出てきたんです。これなら今まで以上に効率が上がりそうです。」


「それはよかった。では後は術の修得となりますが、突然いくつもの力を得るとうまく活用できなくなりますので、一日四つまでとして今日は残り三つで抑えてくださいね。」


「わかりました。」


返事しながらも既に次の理術の行使を試みようと集中しているルルアの姿はメリアーヌに既視感を覚えさせる。

そう、かつての導師もこのように新たな術との対面はひどく心を震わせ喜んでいた。

懐かしくも寂しげに見つめてくるメリアーヌの視線に気づくこともなく着実に理術を身に着けていくルルアはきっかり三つ目の理術まで修得すると、残る時間は反復練習を始めた。

どのような力を手に入れようと、何時如何なる場面にでも活用できなくては意味がない。

今回ルルアが修得した理術はダイヤモンドダストを除くと全て自身の能力そのものの向上を促すものであった。

一見すればただ理力を消費しているようにしか見えないが、その行いは確実に実践で役に立つであろうものであった。

やがて、理術の出来栄えに満足したのか、そのまま倒れるようにして寝入ってしまった。

心地よい疲労だったのだろう、慌てて駆け寄るメリアーヌが見たルルアの表情はとても穏やかなものであった。


「…あの子との時に私に少しでも余裕があればこうやって穏やかな時を過ごせたかもしれませんね…いえ、今更言ってもどうしようもないことです。私がしたことと言えばただ戦いを強要しただけでしたね…リフィーア。」


後悔とは先に立たない。

かつての自身を過ちであったと感じるメリアーヌは、もし人の姿であったならば大粒の涙を流していただろう。

導師の先任者、リフィーアに対しての罪悪感は消えることなく心に深く残っている。

ルルアが全ての記憶を正真正銘全て受け入れた時にはどうなるのだろうか。

恐ろしく、けれど決して避けては通れない未来は間違いなく存在している。

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