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戯れの物語  作者: もち
第一章~絶対なる指導者~
12/19

九話~一夜明けて~

ルルアが奇跡の生還を果たした翌日。

その昼頃にロクシスは教会へと帰り着いていた。

大人の足で一週間はかかる道のりをそんな短時間で、と皆は驚いたが導師として覚醒したルルアの感受性は非常に向上しており、ロクシスの高い理力操作の技術による高速移動によるものだと理解できたために対して驚きはしなかった。

それよりも驚いたのは、帰って早々ロクシスから抱きしめられたことであった。


「ルルア君!無事でよかった!!」


傷は外見上で言えば完全に癒えていたルルアだが、実はまだふさがり切れておらず、そんな中で思いっきり抱きしめられた為その痛みで気絶してしまった。

ここから先はルルアは気絶中につき知らない話だが、あまりに落ち着きのないロクシスにシスターエレンが落ち着くよう説き伏せ、シスターリップルが普段の優しげな雰囲気とは正反対の鬼のような威圧を浴びせつつ説教、そしてアロエリが幼さ故か直接手を出しながら怒っていた。

この際、アロエリの一言はロクシスの胸を抉る。


「おとうさんなんかきらい!!」


ルルアを心配して急いで帰ってきたロクシスであったが、その結果残ったのはアロエリから拒絶されたことでできた大きな傷跡だけであった。

そんなこともあったが、今現在はルルアとロクシスはテーブルを挟み互いに向き合っていた。


「あの…お父さん?」


「どうしました?」


「いえ、何だか元気がないようでしたので。急いで帰ってきてくださったということですし、やはりお疲れなのではないですか?」


これは聞かずにはいられなかった。

異様に暗い雰囲気を醸し出しており、何やら疲れているとも言えないように感じるがそれ以外に思い当たる節がなかった為に質問してみたのだ。


「それを言うならルルア君も同じでしょう、病み上がりだというのにもう動きまわっているのですから。」


だが、それは自身も同じであった。

ロクシスからすれば、傷がある程度癒えているとはいえまだ十分に休息をとってほしいと思うのだが、ルルアから直接話し合いの場を設けてほしいと頼まれれば断ることもできず、今のこの状況に至るわけだ。

よって、この質問はお互い様ということで深くは聞かないこととなった。

尚、ロクシスの雰囲気はアロエリからの一言による影響であることは間違いのないことである。


「ところで…わざわざこういった形をとるということは何か大切なことなのですね?」


場を切り替えるようにロクシスが優しく問いかける。

重要な話をするにしてはやや雰囲気がほのぼのとしていた為に、必要なことではあるが、早くこの話題から抜けたいようにも感じられる。

そう感じはするが、それは置いておきその問いにしっかりとした口調で返答するルルア。


「はい。旅に出ようと思いその許可を頂きたいのです。」


「…何故?と聞いてもよろしいかな?」


「やらなくてはいけないことができました。その為にここを出ていく必要があるんです。」


ひどく抽象的な回答であった。

いや、回答とするにもあまりにも情報が不足していた。

意図的に淡々と言ったようにも感じられ、これ以上聞いても教えてはくれないだろうと早々に判断したロクシスはその意志を確認しようとルルアの瞳を見つめる。

髪の色と同様に薄い金色の瞳には一切の揺らぎがない。

長く生きている分、何となくではあるが人の感情を読み取れると自負しているロクシスであったが、これにはお手上げである。

なにしろ、一切感情が読み取れないのだ。


「そのやらなくてはいけないことが何なのかは教えてはもらえないのでしょうね…。ですがそれがどういった理由なのだろうと肯定しかねますね。賢いルルア君のことですから旅に出るという意味をしっかりと理解しているとは思っていますが、想像以上に険しいものなのです。父としてはやはりここに居てほしいと思います。」


父として。

その言葉はルルアにとって非常に大切な言葉だ。

だからこそ、導師としての責を果たすと誓ってもまたここへ戻ってこようと思える意志が出来た。

だが、既にルルアの中では旅に出ることは決定したことであり、あまり問答しても意味がないとも考えている。

それでも、ロクシスにはしっかりと理解してほしい。

そこで、導師について触れずに旅に出ることを許してもらえないだろうかと新たに習得した超高速での並行思考で答えを出す。


「お父さん、僕は…私は貴方の息子です。」


「その通りです。血がつながっていなくともルルア君は私の息子です。」


「そう言っていただけてありがたく思っています。ですが、私は同時に男でもあります。」


「むっ…。」


「男としてどうか私を信じ送りだしていただけないでしょうか?」


嘘をつくわけでもなく、誤魔化すわけでもなく真正面からの男としてのお願い。

以前までのルルアであればここまでの発言はできなかっただろう。

更に自身の呼び方を私としたことで、より自身は子供ではなく男なのだとロクシスへ示そうとしているようだ。

これら全て合わせて導師としての決意を固めたその意志の表れなのだろう。


「…男として…ですか。ふぅ、そう言われて止めようものなら私の男が廃るというものですね。わかりました。ルルア君、いやルルア。私は君を信じましょう。」


「ありがとうございます!」


「ですが!一つだけ約束してください。」


「何でしょうか?」


「必ず帰ってくるように。それが守れないというのなら旅に出ることは許可しません。」


「もちろんです。私の家はここだけですから。」


一時の間を置いたかと思うと、二人して笑いだした。


「よろしい、では旅に出ることを許可します。」


「はい!」


何にせよ体調が完全ではないということで、旅立つのは体調も周りへの挨拶も万全に終わらせてからとなったのだが、真剣な話が終わり日常的な意識へ戻したロクシスはアロエリからの一言を思い出し再び暗い雰囲気を纏ってしまい、ルルアに心配されたのであった。

その後は解散し、眠るわけでもなく医療用のベッドへ横になる。

確かに傷は癒えているがまだルルアは病人であることは間違いないのだ。

先程ロクシスとの話しも、治療を担当しているシスターエレンにとっては許しがたいものであったが、時間制限付きで許可を貰えた。

逆に言えばその時間以外はベッドで安静にしていろと言われているのだが、確かに身体がまだ本調子ではない為に悪くはないが如何せん暇である。

今まではアロエリの原因不明の障害について調べるために常に何かしら本を読み漁っていた。

だが、それも不要となった今ではこの有り余った時間をどのように使えば良いのかがわからなくなってしまった。

自身の精神に住まうこととなったメリアーヌとは、まだ言葉を交わせる程の同調ができずにいる。

アロエリと出会う前はどう時間を潰していただろうかと考えるものの、あの頃と今ではメリアーヌの干渉の影響もあり性格も思考も随分と異なっている為にあまり参考にならない。

こんなことなら、適当に本を見繕って持ってくるべきであったと後悔し、では今から取りに行くかと言われればそれも億劫に感じてしまい、結局は何もせずに意味のあることを考えるわけでもなく、ただ本当にぼんやりとした時間を過ごす。

ある意味ではこういった時間は貴重なのだろう。

今までは調べ物で時間に追われ、これからも調べ物ではないにしても時間が貴重であることは変わらない日々が続くのだろうから、いまこの時ぐらいはそれを十分に噛みしめようではないか。

そう考えに至ったところで、それは思いっきり砕かれた。


「るるあく~ん!」


「ゴフッ!」


勢いよく扉を開け、そのままベッドへダイブしてきた小さな物体。

確認せずとも分かるがそれはアロエリであった。

腹部へアロエリの全体重がかかったプレスを受け、思わずおかしな声が出てしまった。


「いたた…どうしたんですか?」


「ん~?おきたってきいたからあそびにきたんだよ。」


さすがに痛かった為に少し怒ってもいいだろうと思うものの、とりあえずはやってきた理由を聞いてみると何ともアロエリらしいものであった。

ニコニコと本当に楽しそうにしているその姿を見ると、怒ろうとしていた気持ちもどこかへ行ってしまう。


「ね~ね~、なにしてあそぶ?」


「あれ?遊ぶのは確定ですか?」


「…あそんでくれないの?」


「いえいえ、遊びますからそんな泣きそうにならないで!」


「やった~!あっ、でもるるあくんまだびょうにんだからうごいちゃだめだからね。あろえりがごほんよんであげるからね。」


何やら流れで遊ぶこととなってしまったが、アロエリもルルアの体調を気遣い普段やるような身体を動かすものではないものを選んでくれたようだ。

だが、だとすれば最初のダイブは何だったのだろうか。

まあそれは思わずやってしまったと考えれば済む話しではある。

何にせよアロエリはベッドに腰掛けるようにして座っているルルアの足の間に入り込む形で拙い朗読を始める。

途中、漢字の記載がありそこで頭を捻り、それをルルアが読み方を教える場面が何度も出てきたのだが、ここで既に以前との違いが出始めた。

なんと一度ルルアが教えただけでそれをもう完全に覚えてしまったのだ。

何度も何度も教えなくては理解できなかったのが嘘のように次々と知識を吸収していく。

メリアーヌがルルアへ乗り移ってからわずか一日だというのにこれほどまで劇的に変化するとはさすがに思わなかったようだ。

アロエリ本人はと言えば、自身の理解力の向上など気付くはずもなく読めるようになった喜びを全身で表現しながら朗読を続けていく。

アロエリを包み込むようにして座っているルルアは、思わず涙を流してその姿を眺めていた。

それは当然喜びのものである。

これから先はアロエリはどんどん成長していく。

身体も心も大人となり、好きな人が出来、そして幸せになるのだ。

できることなら、自身が幸せにしてあげたい。

そう思える程にルルアの中でのアロエリに対する感情は確実なものとして今ここにあった。

だが、それは叶わない。

ルルアは早ければ明日にでも孤児院を、そして教会を離れ旅に出るのだ。

それも途方もなく大きな責を抱えてだ。

そんな自身がアロエリを幸せにできるわけがないと、決めつけではないがその事実に、よりルルアの涙は流れる。

ふと気付けばアロエリが朗読をやめルルアをじっと見つめていた。

よくよく確認してみればアロエリの頬に何かが伝った痕がある。

ルルア自身の涙が落ちてしまい、そこで異常に気付いたのだろう。


「…るるあくん、なにかかくしてる。」


思わず胸を鷲掴みにされたような感覚に陥る。

できることならこういった姿は見せたくなかった。

だからというわけではないが、ルルアはアロエリを抱きしめる。

決して大きいとは言えない、逆に小柄なルルアではあるが、それよりも更に小柄なアロエリはすっぽりとルルアへ包まれてしまい、顔を見れなくなっていた。


「るるあくん?」


どうしたのだろうかと、本当に純粋にそれだけの意図が込められた言葉であったが返事はない。

顔を見ようともがくが、ルルアの抱きしめる力が強まり一向に成果はあがらない。

よくわからないが、こんなにも強く抱きしめてくれていることを嬉しく感じるアロエリはこれ以上の動きをせずにルルアの温かさを感じながらまどろみの中へとおちていく。

特に寝かしつけようとしていたわけではないルルアだったが、アロエリが寝入ったのを見計らい自身が寝ているベッドへ移動させる。

寝る場所がなくなったが、寝るつもりもなかった為に特に問題はない。

眠っているアロエリの横に座り髪を撫でながら起きるのを待つことにする。

それまでにこの憎らしい涙が枯れていたら良いな、と止まることない涙に悪態をつきながら何時の間にか自身も寝てしまっていた。

読んでいただきありがとうございます。

次話も読んでいただければ嬉しいです。

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