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戯れの物語  作者: もち
第一章~絶対なる指導者~
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八話~夢での対話~

何も存在しない、空虚な空間。

見渡す限り真っ白であり、ふと見てみれば真っ黒にもなる不可思議な場所。

目が覚めた時には既にここにいた。

またもや不思議な場所だが予想はできていた。


「ようこそお出で下さいました。」


後ろから声をかけられる。

ルルアが聞いたことがあるのはアロエリを介した声であったが、それでも声の主が誰なのかははっきりとわかる。


「聖…はつけないんでしたね、メリアーヌさん。また会いましたね…でいいんですよね?」


「はい。」


白と黒を基調とした司祭のような服に、真っ黒な髪と真っ白な肌、目じりは下がって優しそうな印象を与えるというのに凛としているようにも見受けられる。

容姿は美人の一言で表せることができるであろう。

そして、先程発せられた声は何か理力が込められているのではと疑う程に耳に沁み込み安心感を与えるものであった。

彼女こそ、正真正銘メリアーヌ本人である。



「こうやって会えたということはアロエリさんから貴方の力は摘出されたということで間違いはないでしょうか。」


「間違いはありません。ですが、あの時と違って今回は十分に時間が取れますので慌てないでいただけますか?急いては事を仕損じる、そういうことわざがありますでしょ?」


「それもそうですね。」


「では、落ち着けるよう場所を変えましょうか。」


パチンとメリアーヌが指を鳴らすと、白と黒だけの世界が徐々に色鮮やかに彩られていく。

青が塗られ、その上から白が重ねられ空へ。

茶が塗られ、その上から緑が重ねられ草原へ。

同じように幾重にも重ねられていき現実と比べても損傷ないような光景が完成した。

木材の机と椅子まで用意されている。


「夢とはいえここまでできるものなんですね。」


「要は想像力の問題です。こうなんだ、と強く念じそれを疑わなければ結構簡単にできますよ。理法もこの発想の延長線上にありますしね。」


「理法ですか?理術の上位互換の。」


「はい、その理法です。ですが、それについては後々お教えします。時間があるとは言いましたが、まずは必要な事項を済ませてからです。」


再びメリアーヌが指を鳴らすと、今度はルルアの手元に複数枚の紙がパラパラと集まりだした。

どうやら、メリアーヌが伝えたいことがまとめられているようだ。


「実は私は説明が苦手なんです。現実で説明した内容も改めて書いてありますので目を通していただいてもよろしいですか?」


「わかりました。」


確かに以前の説明はわかりにくかったなと、伝説の存在であるメリアーヌが少しだけ近く感じられた瞬間であった。


「では、拝見しますね。」


とにかくメリアーヌがまとめた書類を確認しないことには先に進まないので、普段からよく読書をすることで取得した並行思考で読み進めながらそれをかみ砕き理解し、それをしっかりと覚えていく。

途中で何度もメリアーヌへ質問をしようかと考えるものの、別の用紙にその回答が載っていたりと、どうやら書き残すことも苦手としているようだ。

それでもアロエリに関する記述は非常にありがたかった。

詳細を理解したつもりでいたが、やはりあの時の心身では完全には頭に入っていなかったようだ。

ごちゃごちゃとした表記なので、断片的でしか捉えられないのだがそれらを繋ぎ紡いで理解はできた。

言ってしまえばアロエリは戦争の被害者である。

大元を辿れば実のところメリアーヌが原因としてあげられるが、それでも最大の要因は戦争と言えるだろう。

まず、メリアーヌは再びこの世界で命を得られるよう全人類から自身の魂と波長があった人物を選出したのだが、それこそがアロエリであった。

未だ母体の中で眠り続けるアロエリに意識などあるはずもなく、幼い年代の間は母となるであろう女性の元で過ごし、ある程度肉体が成長すれば転生の目的を果たす為に旅立とうと考えていたのだが、それは大きく狂うこととなる。

今となってはある程度の平和が約束された共和国であるが、その当時は戦争の傷跡が癒えぬ危険が日常にありふれた国であった。

飢餓による餓死、それを回避しようと食糧の奪い合いが殺し合いへと発展し毎日のように物言わぬ死体は増えていく。

その日、メリアーヌが宿ったアロエリの母は食糧の奪い合いに巻き込まれあっさりと命を落としてしまった。

その時、同時にメリアーヌも体外へ排出されたのだ。

これが少なくとも成熟した幼子であればメリアーヌの意識宿っているので動きようもあったのかもしれないが、まだまだ出産予定は先であった事がまずかった。

言ってしまえば未熟児の状態だった為に如何に意識があろうと、下手な行動ができなかったのだ。

このままでは間違いなく死を迎えるだろうことは簡単に予想ができた。

そこでメリアーヌのとった行動とは、肉体へ完全に定着していない理力を用いて生命維持を永続的に図ったのだ。

もうすぐで死神の鎌が喉元へ届こうかというところだったが、なんとか理力の展開が間に合い一命は取り留めた。

だが、今度は慣れない肉体とほぼ定着していない理力の使用によりメリアーヌの意識の維持が困難となり、深層意識として潜むことでこれもまたギリギリのところで現状維持することができた。

意識を失った肉体だが、脳がそれを良しとせず後付けで誕生した意識こそがアロエリだったのだ。

だからこそ、そこに障害が発生したのだという。

なにせメリアーヌという明確な、それも非常に意志の強い意識が存在してるというのに、また別の意識が生まれそれらが混濁されたのだ。

脳内に強いストレスが発生し、一部の機能が破損したのだろう。

その障害を取り除こうとしたロクシスやルルアが手が出せなかったのは、メリアーヌの永続的な生命維持の処置が原因で障害もまた維持されてしまったのだ。

成る程、確かに伝説の存在であるメリアーヌの施した処置であれば、改善できなかったことも肯ける。

口惜しく感じながら、アロエリの中で外部の様子を確認していたメリアーヌであったが、ある日ルルアと出会ったことで自身を生み出した神へと感謝した。

転生までして果たそうとした目的。

自身の力を新たに継承できる人物を見つけることができたのだ。

もっとも、肉体も理力の保有量もまだまだ未熟である為に、急遽肉体改造を行うこととなった。

これこそが、ルルアの外傷の原因である。

肉体的には残念ながら急激な成長はできない為さほど変わっていないが、理力の保有量は圧倒的に増えていった。

その最終段階として前任の導師がその記憶を継承する為にルルアの前へと現れたのだという。

後は、メリアーヌ自身がルルアとの接触を試み、導師の力そのものを渡すだけという段階となったらしい。

この頃、何故かアロエリとのリンクがより向上し、脳内での会話ができるようになり、意識の交代ができるようになったのだが、これもまた仕組まれたことなのだろうか?

蓋を開けてみればルルアもアロエリもその原因不明の病は共にメリアーヌによるものであったのだが、それも導師の力の継承と共にメリアーヌがルルアを触媒とすることで互いに症状は改善されていくだろう。

ここまでの内容が色々な書類へ飛んで書かれており十数枚の用紙からまとめたアロエリに関する記載である。

だが、当然内容はそれだけではない。

再び書類を読み始め、そこから一時間は互いに会話もなく静寂な時間が流れた。

やや疲れたように一息つき、再度思案する。

アロエリに関する記載以外は、おそらくこの世界で今現在生きている者で知っているのは自身だけであろうものがほとんどであった。

世界へ公表すれば教会の存在そのものが不要となる、それほどまでに危険なものも含まれていた。


「メリアーヌさん。」


「はい。」


「アロエリさんを助けていただきありがとうございます。」


「助けた…ですか?」


だが、そういった危険な情報よりも大切なのはアロエリについてであった。

メリアーヌからすれば何故自身は感謝されているのだろうかと疑問しか浮かばないが、それを理解しているかのようにルルアはその理由を語る。


「ええ、もしもメリアーヌさんがアロエリさんを選んでいなければ今ここに彼女はいなかったかもしれませんから。」


それは確かにあり得た話だ。

仮にメリアーヌがアロエリの肉体を転生の器として選ばなかった場合、誕生した意識は果たして今のアロエリと同一人物となったのだろうか?

そもそもが、流産となった経緯から見ればここに居ることすら怪しい。

だが、それはもしもの内容でありアロエリは生きており障害を持ってしまったことこそが現実だ。

恨まれはすれど、感謝されるなどとは思ってはいなかった為に少し呆けたが、すぐに意識をルルアへ戻すとクスッと微笑んだ。


「そういっていただけるのなら私も救われます。」


心からの笑顔を浮かべるメリアーヌは美しく、この場にいたのがルルアだけであった為にその事実が作用することはなかったが、一種の魅了の効果でもあるかのような、そんな笑顔であった。

それに応えるようにルルアもまた微笑む。

ここに来て、導師としての記憶にあったメリアーヌの印象があるというのに好感を感じられた。

それは大切な人物の命の恩人なのだと考えれば当然なのかもしれないが、ここまで印象とは簡単に変わるものなのだろうか?

そんな自身の気持ちに疑問を感じながらもしばらくは、アロエリについての記載以外について談笑するかのような会話を繰り返し、お茶を飲み、菓子を摘み、何ともほのぼのとした時間を過ごす。

当然、夢の中でとった食事など現実に一切影響しないが、それでも感じる味は確かなものとして舌を喜ばせてくれる。

何とも素晴らしい環境である。

だが楽しい時間というものはあっという間に過ぎるものだ。


「あら…そろそろ夜が明けるようですね。」


ふと気付いたようにメリアーヌが現実での時間を教えてくれた。

ついつい話し込んでしまったらしく、外では日が昇りかけつつあるようだ。


「次は会えるの何時ぐらいなのでしょうか?」


「まだ、ルルアさんの身体に私の意識も導師の力も定着しきれていませんので、しばらくは難しいでしょう。ですが、数日程度のことです。それまでに皆さんとの別れを済ませてください。そこから先、貴方には…」


先程までの緩やかな雰囲気ではない真剣な、それこそ現実で出会った時のように張り詰めたものへと変化させるとメリアーヌは重く語る。


「導師としての責を果たしていただきます。」


導師、その責を果たすということは、はたしていかなるものなのであろうか。

何にせよルルアが導師という大きな存在を受け入れたのは間違いないのだろう。


「わかっています。ですが、ここに…人として戻ってこれなくなるわけじゃない。なら別れじゃありませんよね。」


「…そうあることを願います。」


「そうなるようにするんです。」


強くはっきりと、しっかりとメリアーヌの瞳を見つめながら言い放つルルア。

その周辺にはメリアーヌが作りだした張り詰めた場と拮抗するように魔力が溢れ出ている。

先程のメリアーヌの談では力はまだルルアへは定着しきっていないらしいが、ルルアを包む理力は間違いなく導師としてのものであった。

完全な力の発現ではないが、それでもメリアーヌは驚愕し、そして期待する。


「貴方なら…本当に。」


「どうしました?」


「いえ、そうですね。そうなるように共に頑張りましょう。」


「はい。」


再び穏やかな雰囲気が二人を包むと、程なくして世界がぶれてきた。


「そろそろ目が覚めるようですね。では、また数日後にお会いしましょう。」


「ええ、それでは起きるとしましょう。…でいいんでしょうか?何かおかしな気分ですけど、失礼しますね。」


「ふふっ、はい。あっ、アロエリさんは私の事について徐々に忘れていくでしょうから気にしなくて良いですからね。」


「わかりました。」


彩られた空は落ちるように、草原は枯れるように徐々に崩壊していき、やがて元の白と黒の世界へと戻っていく夢の世界。

そこでぽつんと先程までと変わらず存在しているメリアーヌであったが、ひどく悲しげに上を見上げている、かと思えば非常に凛々しい雰囲気へと変わった。


「リフィーヤ、フェイル、ツィグリス。貴方達は私を怨んでいますか?私はまた人の思考を誘導して戦地へと送るのです。何と言われようと構いませんが必ず…必ず鵺を!」


おそらく決意を言葉に表したのだろう。

それは誰にも聞かれることなく、夢の世界へ吸い込まれ消えていった。

だが、メリアーヌの瞳には消えることのない光が宿っていた。

ルルアの一言でより輝きを増した光が。

例え、その一言がメリアーヌにより誘導されて出た言葉なのだとしても。

読んでいただきありがとうございます。

次話も読んでいただければ嬉しいです。

ストックが無くなったので、ここからは一週間ごとになると思います。

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