箱庭の中で
今日も夕方になってから目が覚めた。
完全に夜型の生活が板についている。いつの頃からか、もう思い出せないけれど。
僕の体と比べるとやや手狭な部屋の中を見渡す。あるべきものがあるべき所に納まっている部屋。でもたったそれだけの、生活臭がない機能的な部屋。
起きぬけに、昨日食べ残したままほったらかしていたスイカの残りを齧る。当然のように生温かったけれど、お腹の弱い僕にはちょうどいい。
ふと、ガラス窓の向こうに視線を送る。
夏の夕陽が差し込み、もの悲しい雰囲気をまとったその景色を眺めながら、思った。
何のことはない、この世界は箱庭だったのだ。
いつかあの空を自由な翼で飛べると思っていた。僕にならそれが出来るって。
でも……そんな希望はあっという間に絶望へと変わっていった。
生まれた時から完全な愛護の元に育てられた僕には、この箱庭の中で生涯を終えるしかないのだと気が付いてしまったから。
そう悟ってからは、ただ日々を無為に過ごしている。夏の終わりには潰えるであろう、命の灯を自覚しながら。
そんな僕にも彼女ができた。
年下の彼女は、まだ自分の生きるこの世界が箱庭だという事に気付いていない。いや、その方が幸せなのかもしれない。
彼女は未来に胸を躍らせながら僕に話すのだ。
“いつかここを出て、見たことのない景色をゆっくりと眺めてみたい”と。
そんな幸せそうな彼女を守ることが、僕に出来る唯一の事だ。彼女にだけは決して僕のような絶望を味あわせない。
だから、今日も僕は小さな複眼で外に広がる広大な世界を見て彼女に語りかける。
“いつか二人であの見知らぬ世界に羽ばたこう”って。
外から声が聞こえてきた。その意味は分からないけれど。
「おい、直紀。二匹目のカブトの蛹が羽化したって本当か!?」
「ああ。今度のはメスだぜ。俺の部屋に来いよ。見せてやるから」
読了感謝!です。
人間⇔虫のミスリードものですね。
これが初っ端からバレバレだったのですww
特に指摘された冒頭のエサの部分を”ゼリー”から”スイカ”に変えてみたんですが…いかがでしたか??