3月22日(火)ツンデレな妹
『お、おい、ユキ…… 俺達、兄妹だろ!』
『そんなのどうでもいいの! 私は……アンタのことが……』
ガバっとヘッドフォンを外し、俺はゲームを中断した。……限界だった。
「で、き、る、かっつーの!! 無理だから! マジ無理!!」
穂波が作ってくれた朝飯を食べ終わり、俺は『ディストピア』のユキルートをプレイし始めたのだが―― 10分と経たずに、頭が沸騰した。
昨日は穂波のせいで非常に良いところでゲームを中断せざるを得なかったから、実を言うと続きをやりたくてしかたなかったのだ。
しかし昨夜は色々と疲れてたうえに、穂波の部屋に散らばったガラスの破片を片付け終わったら夜中の1時を回ってしまっていた。
まあそれでなくとも、あんなことがあった後じゃギャルゲーなんてする気になれなかったのだが……
「昨日の俺…… 無駄にカッコつけすぎだろ……」
「ううぅ……」と肘を机につき頭を抱え、昨日の自分を猛省してみる。
――穂波を追い掛けたのは、間違っていない。あそこで行動できないやつは、兄失格だ。問題はその後であって……
――お、思い出すだけでも恥ずかしい! ……確かにあれは、口説き文句と取られても仕方ないのかもしれん……
何が、『俺がいるだろ!』だ。
なんであんな臭い台詞、妹に向けて堂々と叫んだりしちゃったんだよおい……
いや、妹だから、だろうか。現実の女の子には奥手の俺が、たとえ自分に彼女がいたとしても、その彼女に向けてあんな台詞を言えるとは思えない。妹だから、あくまで兄として安心させる台詞を言いたかったのであって、決して他意はなかったのだ。それを、穂波ときたら……
『ア、ア、アンタどーゆーのつもりなの!? ししし失恋の弱みに付け込んで、く、く、……口説こうとするなんて!』
はぁあああ!? ふざけんなバッッカ野郎!!
どこの世界に好き好んで妹口説こうとする奴がいるよ!
それなんてエロゲですか!? ええ!?
俺は怒りをぶつけるかのように「ガンガンッ!」と額を机に打ち付けた。
――さらに次の日お礼に朝飯!? 普段料理なんてしないあいつが!? それなんてエ……
打ち付けていた頭が、ふいにピタリと止まった。
――新たに知った、料理上手という、穂波の良い一面。
久しぶりに俺に向けてくれた、眩しい笑顔。
素直になりきれないけど、俺のこと感謝してくれているみたいで…… そこが逆に、可愛く感じてしまうポイントなのか?
「……これが、リアルツンデレの破壊力なのか…… 実に恐ろしい…… 」
俺はシスコンじゃない。
大事なことなので2回言うが、俺はシスコンじゃない。
……そう、ツンデレが好きなだけなんだ。だから穂波が見せてくれた『デレ』に、過剰に反応しているだけであって……
うん、きっとそうだ。そうに違いない。そうでなくてはおかしい。
穂波が見せてくれた『デレ』も、あくまで『“妹として”兄貴には感謝してるよ』的な兄妹愛から生まれたもののはずだ。俺と同じようにブラコンに目覚めかけてるとかそういうことは……
ない! 絶対にない!
むしろあってたまるかってんだ!
もしそうだったら、俺がシスコンへ墜ちる確率急上昇だぞ!? 残念なことに!
――いや、穂波がブラコンだったら嫌というわけじゃなくて…… むしろ嬉しくないわけじゃないのだが……
――常識的に考えて、ありえんだろ。兄妹がどうのこうのとかいう以前に――
あれだけ俺のことを、嫌っていたんだから。
ゲームの続行を諦めた俺は、今日のノルマ分の勉強に取り掛かることにした。
……まあ、穂波のことやらシスコン疑惑のことやらが頭をぐるぐるまわり、結局勉強も集中できずじまいだったのだが。
☆☆☆
驚いたことに、穂波は昼飯も作ってくれていた。朝食のときに穂波が言った、「毎日ご飯作ってあげる」は、てっきり朝飯だけだと思っていたのだが、本人は春休み中毎日三食作るつもりだったらしい。俺はなんだか申し訳ない気持ちになり、
「さすがに毎日三食は大変じゃないか? 嬉しいけど、あんま無理しないでも……」
と遠慮したのだが、穂波に
「だ、だから! 別にアンタのためじゃなくて、私の趣味よ! 料理の面白さに目覚めただけなんだからって言ってるでしょ!」
と怒鳴られたので、とりあえずお言葉に甘えることにした。照れ隠しだったのか、本当に料理の面白さに目覚めたのかは、俺には難しい問題だ。
……いやまあ、穂波が料理作ってくれるなら俺も嬉しいけど。
シスコンだから嬉しく感じてるわけではないということは、ご理解頂きたい。
食卓には、これまた俺の好物の―― タラコスパゲティーが、大皿に盛りつけてあった。俺がいつも座っている席には、スパゲティーとサラダが、それぞれ小皿に盛りつけてある。
朝飯のアジの開きといい、昼飯のタラコスパゲティーといい、もしかして俺の好物を選んで作ってくれているのかもしれない。だとしたら……
余計に、嬉しく感じてしまう。
「す、すげえな…… お前、本当にこれ1人で作ったのか?」
「あ、当たり前でしょ! 私とアンタ以外に誰がこの家にいるってゆーのよ!」
怒っているような口調でも、俺のリアクションに満足しているのか穂波の口元は笑っているみたいだ。
「そんなことよりさ、早く、食べてみてよ」
「お、おう」
今度はうきうきとした顔で急かしてきたので、俺は席に座り穂波の手料理を頂くことにした。
「いただきます――」
フォークで麺を絡みとり、口へと運ぶ。「ごくり……」と、俺の横で突っ立ったままの穂波から唾を飲む音が聞こえた。ような気がした。それほどまでに、コイツは真剣な顔をしている。
「穂波……」
「はいっ!」
はい! って…… そんな返事、穂波から初めて聞いたぞ。どんだけ緊張してるんだこいつは。
「……お前、料理の才能ありすぎだろ。店で喰ったやつよりも、全然美味いぞ、これ……」
俺は感じたことを率直に伝えた。
嘘偽りのない、100パーセントの本心を。
すると、花が開くようにパーっと、穂波の顔が綻んでいった。
「ホント!? 嘘じゃない!? ……てか嘘だったら殺すわよ!?」
「う、嘘じゃねえよ! ……本当に、美味しい」
チラリと隣を見ると……
穂波が――
今まで見たどんな女の子のそれよりも明るく――
それこそ太陽のように、キラキラと――
満面の笑みを、浮かべていた。
俺に向けて。
……アウト。
一発でアウト。
うぉおおおおおお!!
違う違う違う!!
俺はシスコンなんかじゃないっ!!!
こいつに惚れているとかそんなこと有り得ない!!!
ガツガツガツと、俺はスパゲティーをどんどん口のなかへと放り込んでいった。とにかく何かして気を紛らわせないと、シスコンという谷底へ紐無しバンジージャンプしてしまう。そんな恐怖感に駆り立てられ、無我夢中の猛スピードでタラコスパを喰らい上げる。
「おかわりっ!」
30秒ほどで空になった小皿を、直ぐさま穂波に差し出す。
「もう、そんなにがっついちゃって…… よ、よっぽど美味しかったんだ…… ありがと……」
ウニウニクネクネと、何やらモジモジしている穂波。その女の子っぽい仕草もまた……
――ああもう、料理はめちゃめちゃ美味かったさ!
ただそれよりも、お前の笑顔がかわ……
だー!!!
な、に、考えてるんだ俺はー!!!
アイツはただの!
……妹だぞ!!!!!