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あいまいっ!  作者: 遠山竜児
第2章
35/36

3月29日(火)再会、そして……

☆☆☆


「ちょっと早過ぎたな……」

 人波に飲まれながら、俺はB駅の西口出口に向かって歩いていた。待ち合わせの時間にはあと30分近くもある。おそらくまだ誰も来ていないだろう。

 主催者の大介によると、今日の集まりは合コンと言うよりも、個人開催の新入生歓迎会みたいなものらしい。

 俺と大介が通っている高校にこの春入学予定の新1年生と、俺達新2年生の男女が集まって、お好み焼きを焼きながら交流する、という内容みたいだ。

 ――というか、入学式もやっていないのによく歓迎会なんてやろうと思ったな。

 大介のことだからきっと、いち早く新入生の女子にアピールしようとかそういう魂胆だろうけど。


 駅の構内から外へ出たところで、待ち合わせ場所に指定された犬の銅像の方を見てみた。予想通り、待ち合わせらしい若い男女は誰も――

「……って、あの人は……」

 銅像の横に、見覚えのある人が立っていた。

 ほんの数時間前に出会った、名前も知らない女性。

 貧血で倒れそうなところを助けてあげ

た、あの大人っぽいおしとやかなセミロングの彼女。ふちなし眼鏡が知的で似合っていた。

 彼女は俺に気付いたのか、俺のほうを向いて少し驚いたような顔を見せると――

 笑顔で小さく、手を振ってきた。

 ――まさかこんなにすぐに、しかも別の場所で再開するなんて……

 チャンスの神様は、なかなかに寛容だったようだ。

 ――今度は、後悔しない選択肢を選ぶしかないだろ。

 笑顔で手を振り返し、彼女の元へ小走りで近づいていく。

 彼女は軽く会釈をすると、

「またお会いしましたね。あの時はどうも、ありがとうございました」

「いえいえ! 当然のことをしたまでですから」

 にこやかな笑顔を浮かべ丁寧なお辞儀をしてきた彼女に、俺も思わず頭を下げた。ただし俺のは、緊張のせいかロボットみたいにカクカクだったが。

「ふふっ。やっぱり謙虚なんですね。……そういうところ、素敵だと思います」

 ――す、素敵!?

 いきなり何を言い出すんだこの人は!?

 これが俗に言う、脈ありってやつなのか!?

「そそそ、そんな! そんなことないですって!」

「そんなことありますよ」

 優しく教え諭すようにそう言うと、彼女は俺のほうへ一歩前に出て、

「本当にありがとうございます」

 ニコッとほほ笑んだ。

「ど、ど、ど、どうも……」

 ――やばい。いまさらだけどこの人……

 可愛すぎるぞおい。

 しかもなんか良い感じだし、もしかしてフラグ立ってる? 立ってんのかコレ?

 年上の女性はハードル高そうだが、彼女を助けた俺の第一印象は悪くなかったはずだ。多分。

 ……よし。ここは攻める。

 さりげなく攻める。

 俺だって、いつまでも年齢=彼女いない歴の情けない男でいるつもりはないんだ。

「あ、そ、しょういえば、良かったらお名前聞いてもよろしいですか?」

 ……噛んだ。

 見事に噛んだ。

 童貞故の情けなさが露呈しちまった……

「はい。海橋みはし夕凪ゆうなぎと申します。海の橋って書いて、みはしって読みます」

 夕凪……

 珍しい名前だな。風の止んだ夕暮れの海、か……

 でも確かに、穏やかな海のような人だ。静かで、優しげな。

「海橋夕凪さんですか。――良いお名前ですね」

「ふふっ。ありがとうございます。良かったら貴方様のお名前もお聞かせ下さい」

「俺ですか? お、俺は鳴沢タカトシと言います。春から高校2年生の、16歳です」

「鳴沢タカトシさん、ですね。よろしくお願いします」

 そう言って海橋さんは、軽くお辞儀をした。それに釣られて俺も、「こ、こちらこそよろしくお願いします」と深々と頭を下げた。

 ――よろしくってことは、これから先何らかの関係が続いていくってことで良いんだよな? そうだよな?

「高校2年生ってことは……私の一つ先輩ですね」

「…………はい?」

「私、4月から高校1年生になります」

 ――そうなの?

 高校生、年下、後輩?

 え、だって、こんなに大人びているのに……

 スタイルもなかなか良くて、少なく見積もっても大学生くらいにしか見えなかったのに……

「鳴沢さん、今、私のこと老けてるなって思いませんでした?」

 海橋さんはぷくっと頬を膨らませて、若干不機嫌そうな顔をした。

「あ、いや、その……」

「ふふっ、冗談ですよ。慣れてますから」

 と思ったら、一転してやんわりとした笑顔になった。

「違うんです!」

「え?」

 俺は思わず声を張り上げて、

「大人っぽくて素敵だな、この魅力を出せるのは年上に違いない、と思ってたんです!」

「え? 鳴沢さん……」

 はっ、しまっ……

 俺は何を言ってるんだ!?

 ついさっきまで互いの名前も知らなかった間柄なのに……

「ありがとうございます。こんな嬉しいことを言って頂いて……光栄です」

 彼女は俺の顔を真っ直ぐ見て――

 ニコッ。

 周りの人波が静まり、穏やかな海に変わったかのように錯覚させるほどの、慈愛に溢れた笑みをしてみせた。

最近鬱気味で、何も手につきませんでした…

今日から執筆活動を再開させたいと思います。

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